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幕間 とあるもう一人の転生者(2017.9.23修正)

とある病院の中、一人の老婆が家族に囲まれつつその人生を終えようとしている。



……何よ。皆情けない顔をして…

……ああ…そうか。そうなのね…お迎えが来たようだわ…

こんな私を貰ってくれた旦那を見送って十何年も経つ、子供達も無事に皆巣立っていった…

孫が出来てひ孫の顔も見れた…

もう思い残す事はないわ………………ああ、でも一つあった…

あいつの…………■■の事が…





家族に見守られながら一人の老婆が天寿を全うした。

老婆が最後に瞼の裏で見たものは何十年も前に死んだある男の顔であった。























女は混乱していた。

ベッドの上で意識が無くなり気が付いたらむっさいおっさんに抱きかかえられていたからだ。


(え?誰よこの男…こんなおばあちゃんを抱きしめて何が楽しいのかしら?あれ?この人物凄く大きくない?もしかして巨人!?)


そんな事を考えていると、男は女が起きたに気付いたのか女の方を見て笑って話しかけてきた。


「やっと起きたか。ロゼは寝坊助だな。」

「そんなことないもん!」


何を言っているのかと怪訝に思い日本語で言い返そうとした瞬間、女は今まで話した事もない言葉が自然と自分の口から出て来て驚いた。


「お父さんだってお酒をいっぱい飲んだときにはいっつもねむってるよ!!」

「がはは!これは一本取られたな。ロゼは頭が良いな、まだ5歳なのに父さんを言い負かすとはな。お前さんは将来法律家か学者にでもなるか?」


なんで!?私知らない言葉を喋ってる!しかも知らないおっさんに!!!

それに良く見たら私小さくなってない!?

このおっさんが大きいんじゃなくて私が小さくなっただけなの!?

どうして!?


と驚愕する中、頭に様々な情報が流れんできて、女は再び気を失った。





「…………………ん?」

「っ!おい!!おい!!気が付いたか!大丈夫か!?」

「………大丈夫だよ、お父さん。ちょっと疲れて眠くなっただけだから」

「…そうか、この所歩き詰めだったからな……良かった!医者に診て貰おうとしてもここには医者なんていないからな、心配したぞ!」

「うん、心配かけてごめんね」

「腹は空いてないか?スープを作ったんだ。お前の好きな芋のスープだぞ。冷めなうちに食え」

「食べる!」


芋のスープはまずくは無かったが味が薄く味気なかった。



その日の夜、父と一緒に床に就いた私はこの体の記憶を反芻していた。

私はグスタフ・レンネルフォッシュの娘だ。

なにがどうだか分らないけど私はこの世界に住人になってしまったらしい。


私が記憶を覚醒させてから数年の月日が経ち、すっかりこの世界の住民として違和感がなくなった来た頃、様々な事が分ってきた。

精霊の事、魔法の事、フェスモデウス聖帝国と言うすごい国がある事などだ。


この世界は不思議だ。

精霊と魔法が存在し、まるで絵本の世界のようで最初はとてもウキウキしたものだ。

しかし、最初はウキウキしたのだが精霊と魔法を感じる事が出来ずにヤキモキする事になる。


「ねぇお父さん。本当に精霊っているの?」

「ああ、いるぞ。でもな、ここには殆どいないな。精霊の大半はフェスモデウス聖帝国にいるからな。しかも聖帝国人でも精霊を感じられる人は少ないときている」

「じゃあ魔法は?」

「父さんは使う事が出来ない。でもそうだな、お前なら使えるかもしれないな。」

「本当!?」

「ああ、お前の母さんは使えたからな」

「お母さんってどんな人だったの?」

「とても綺麗な人だったぞ。お前は母さん似だからな、将来は美人になるぞ」

「へぇ~。そうなんだ」


私はまだ自分の顔をはっきり見たことが無い。

だからお母さん似と言われても一度も見たことの無いお母さんの顔から自分の顔は想像する事すら出来なかった。


「そら、もう寝る時間だ。良い子は夜更かししていちゃいけないんだぞ」

「……うん。もう寝るね。お父さんおやすみ」

「ああ、お休み」


話を強制的に打ち切られた感が強かったが、ここは物分り良くお父さんの言葉に従おう。

横になるとまるで何かに誘われるかのように眠りに落ちていった。



その翌日から私は使えるかも分らない魔法の練習をする事にした。

どうやって魔法が出せるのか分らなかったので、とりあえず雰囲気だけで突っ走ってみた。


「えい!やぁ!ほい!へやぁ!」

「なんだ?何か面白い踊りでも考案したのか?」

「ちっがーう!魔法の練習をしていたの!」

「魔法とは精霊に手伝って貰って発動すると聞いた事があるが。あとは魔力のごり押しで発動させるかだな。まず自分の中の魔力が感じ取れるかが先決とも聞いたぞ」

「その魔力があるのかすら分らないんだけど…」

「がはははは!そう焦らずにゆっくりで良いんじゃないか?」


それから1年後、やっと私は自分の中の魔力を感じ取れるようになった。

魔力がなければ魔法が使えないと聞いて一回挫けそうになったが、どうやら私は魔力があったらしい。


「お!流石は母さんの子だな」

「うん、でもお父さんの子でもあるよ!」

「…ああ、そうだな」


それから数年が経った。

私はお父さんと一緒にいろんな国を渡り歩いた

そして私が12の時、夕食を食べている最中に父がある提案をしてきた。


「なぁ、ロゼ。お前さんフェスモデウス聖帝国のサンティアス学園都市の学校へ通ってみないか?」

「サンティアス学園都市?」

「ああ、この世界で一番豊かで技術も文化も発達しているところだ」

「お父さんは?」

「父さんはフェスモデウス聖帝国には足を踏み入れる事はもう叶わない…だからロゼがこの世界の最先端を見て学んできてくれ」


最初なんで父がこんな事を言うのか分らなかった。

確かに小さい時から父が話している母国語以外にフェスモデウス聖帝国の公用語であるアルゲア語を教わってはいたが、まさか周りから噂で恐ろしい国だと聞かされていたフェスモデウス聖帝国に行くとは夢にも思っていなかったのだ。


「お前にはその資格がある。それにお前の国籍は聖帝国籍だ」

「え!?ど、どうして?」

「俺はな………俺はお前の本当の父親ではないんだ」

「!!」

「俺は昔、サンティアス学園都市に留学生として過ごしていた。お前はその時に出来た俺の親友とその妻の子供なんだ…親友の妻が亡くなって、その数ヵ月後に親友も亡くなった時に俺がお前を聖帝国の外へと連れ出したんだ…」


確かに周りからは全く似ていない親子だと囃されていた事はあったが、まさか本当に血が繋がっていなかったとは思わなかった。

頭の中が真っ白になっていく。


「俺はお前が生まれた時、本当の父親の俺の親友と同じ位喜んだ。でもお前の母親は病弱でな…お前が生まれてから1年も持たなかった。親友も妻を亡くしたショックで病魔に犯されて後を追っていったよ。本当はお前の母親の実家か、父親の育った場所で聖帝国にあるサンク・ティオン・アゼルス聖育院と言う施設で他の子と一緒に健やかに育つはずだった。だが俺はお前を手放したくなかった!聖育院に入った子供は15歳の成人の日まで面会はおろか親の事さえ教えられずに育っていく!母親の実家で育っても俺はお前に会うことは出来なかっただろう!!俺は親友達の宝物のお前をどうしても手放したくなかった!!!」


父の懺悔の様な独白はまだ続く。


「聖帝国からしてみれば俺は聖帝国の子供を誘拐した犯罪人だ…聖帝国内に一歩でも入れば犯罪奴隷として服役する事になるだろう、そうなればお前とも会うことが更に儘なら無くなる…」

「待って!その犯罪奴隷になる事は確定なの!?」

「ああ…お前を連れ出す時に協力してくれた聖職者の人にそう言われたよ…その人はお前の母親の父親とは懇意らしいんだが、お前の祖父母を説得してくれたらしい。それに俺が出国した時も色々手を回してくれた」

「じゃあ私は行かない!お父さんの側にいるわ!それにその協力してくれた聖職者の人に」

「無理だ…あの人には多大な迷惑をかけている。それにお前が今だに聖帝国籍なのはその聖職者の人のおかげだ…1年に一回お前の生存と近状報告の手紙を出している…今回の学園に通う事もあの人の提案だ…多分お前の祖父母からもあるだろうがな…俺はそのために色んな国を回って金を集めていた。聖帝国の物価は他の国ではありえないほどに高いからな」


色んな事実が浮き彫りになって何がなんだか分らないが、私はお父さんを犠牲にしてそんな所に行きたいわけではない。


「その聖職者の人にはお前の入学をもう頼んである。サンティアス学園都市に着いたらまずはアルティア司教座大聖堂に向かえ、そこで俺の名前を出したら直ぐに通してくれる手筈になっている」

「勝手に決めないでよ!」

「その聖職者の名前はセオドアール・ディアマンテ・フォン・トリノ・ド・ラ・サンティアスだ。いや、少し前に名前が増えてセオドアール・ディアマンテ・フォン・トリノ・ド・ラ・オルブライト・サンティアスだったな」

「ごめん、名前が長すぎて覚えられない」

「確か今はオルブライト司教と名乗っている筈だ」

「それなら覚えられる………いや、っていうか私の入学はもう決定事項なの!?」

「そうだ」


いくら父親だからって何勝手に決めてるのよ!少しは私の意見も聞いてから行動して欲しいわ!


「でも!」

「もう決定事項だ。入学金も既に支払い済みだ」

「うぐぐぐぐ…」


お金を支払ったと聞いては後に引けないじゃないの…

お父さんは私の性格を熟知しているから、全ての準備が整ってから報告したのね…


「分った…行くわ」

「そうか、良かった」


嵌められた気がぷんぷんするけど、これも父の愛だと飲み込んだ。

その日の夜は久しぶりにお父さんと一緒の床に就いた。


「ねぇ、私の本当の両親の名前ってなんて言うの?」

「父親の名前は俺と同じでグスタフだ。グスタフ・サンティアス。母親はロレーナ・エルメリア・マリー・ローラ・フォン・ゴルドニアス・エルストライエ・サンティアス」

「……お母さんの名前とっても長いね」

「世襲貴族の出だからな、エルストライエ侯爵家の出だ」

「あの24家のひとつの?」

「ああ、そうだ」

「………良くおじいさんとおばあさんがお父さんの事許したね」

「オルブライト司教がかなり説得と手を回してくれたらしい。手紙でその時の愚痴が今でも届く」


と、苦笑するお父さんの顔を見ながら私は深い眠りについていった。


その一週間後、私は馬車に乗ってフェスモデウス聖帝国にあるサンティアス学園都市を目指す旅へ出かける。


「体には気をつけろよ。路銀は渡したが、聖帝国に入れば即効で無くなるほどの額だからな」

「え!?でもこれすっごい大金だよ!ここの物価だと楽に1年は暮らして行ける額じゃない」

「着いてみたら直ぐ分る事になる。楽しみにしておけ」

「ん。わかった!じゃあ行ってくるねお父さん!お酒は飲み過ぎないって約束だよ!」

「……ああ、分った。さぁ行って来い!ロザリア・エルローズ・サンティアス・レンネルフォッシュ!!」

「行ってきます!体には気をつけてね!」

「お前もな!」


その後、私は長い道のりを経て聖帝国へと足を踏み入れた。

そしてお父さんが言っていた事が直ぐに分る事になった。

うん、即効だったよお父さん………


「何この物価!高すぎる~~~~~~!!!」

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