幕間 とある被害者(2017.9.23修正)
俺は最近ある人に一目惚れしてしまった。
学園都市のテーラー通りをその人が歩いているのを偶然見つけ、まるで時が止まったかのように心打たれた。
服装から言って俺と同じ学園の生徒だろう。
あの太陽のような素敵な笑い顔、透き通る白い肌、エメラルドグリーンの瞳、そしてハニーブロンドの髪の毛…
完璧だ。そう何もかも完璧だ。
俺好みの妄想から出て来た女性ではないかと思うほどに完璧な女性だった。
俺は彼女の名前を知りたくて友達に頼んで暫く探りを入れてもらった。
俺は中等部からの留学生組だから知らなかったが、彼女はかなりの有名人らしい。
彼女の名前がゴンドリアと言う事はすぐ知れた。
ああ!ゴンドリア!なんて素敵な名前なんだ!
どうやら彼女は服作りが趣味らしい。
成る程、だからテーラー通りにいたんだな。
彼女と会って話がしたい、触れ合いたい、そう思うが最大の壁があるらしい。
彼女はとある商会に属していて、そこには6人の男達が騎士のように彼女を守っているようなのだ。
彼女とお近づきになりたければその6人を退けなければならない。
俺はまずその男達を退けるために情報収集から始めた。
友達も良い笑顔で「頑張れよ応援してるぜ!」と応援してくれている。
応援してくれた後、後ろを向いて震えていたがきっと俺を応援するために体を張ろうと武者震いをしているのだろう。嬉しい事だ。
その友達は初等部からの人間なので彼女とも何回か話したことがあり、優しくて仲間思いでちょっと世話焼きな人と教えてくれた。
ありがとな!持つべきものは良い友達だぜ。
その翌日から俺はその男達を調べまくった。
まずは一人目。
ヤンソンス・ラージャ
初等部からの人間でチャンドランディア藩王国連邦と言う国からの留学生らしい。
噂では王族と言うことだが、納得できる。
あの風格はそんじょそこらの奴には出せない風格だ。
奴はアクセサリーを作って俺のゴンドリアに取り入っているようだ。
クソ!物で釣るとは汚い奴!
俺が成敗してやりたいが、あちらは迷宮冒険者として活動しているらしく、俺のような文官型には絶対に勝てそうに無い。
二人目。
フェデリコ・エミリオス
こいつも初等部からの人間でこちらは聖帝国人のようだ。
薬と毒の調合が得意で良くゴンドリアとなにやら話しているらしい。
こいつは絶対怪しげな薬で俺のゴンドリアを操っているに違いない。
俺があいつを成敗して俺のゴンドリアを解放してやりたい!
そして感謝されつつ一緒に…
だがこいつは一見小さくてひ弱そうに見えるが、噂では体術は学年でもトップクラスらしく逆立ちしても勝てそうに無い。
三人目。
ルピセウス・サンティアス
こいつも初等部からの人間でサンティアスの養い子らしい。
そしてこいつは馬鹿だ。
いつも低空飛行でテストに受かっているらしく、こいつの低空飛行は恒例行事として認識されていると噂らしい。
こいつはその頭の弱さを売りにして俺のゴンドリアに勉強を教えてもらっているのだろう、そして優しい俺のゴンドリアはそんな馬鹿を見捨てられずに付き合っているんだな。
しかも最近本を出版してベストセラーになった関係で金も入ってくるようになったようだ。
こいつも成敗してやりたいが、如何せん。
こいつの体術剣術は学園でもかなり上のほうに来るらしく、俺では手も足も出ないだろう。
しかも迷宮冒険者もしているらしい、絶対に勝てない。
四人目。
ユールグント・ゲイン
こいつは俺と同じく中等部からの人間でガンテミア双王国と言う所からの留学生らしい。
こいつは絵を描くことが得意らしく、いつもスケッチブックを持ち歩いている。
きっとそのスケッチブックに俺のゴンドリアを描いてニヤニヤ笑っているに違いない。
けしからん!そのスケッチブックを俺によこせ!
そんなけしからんこいつも成敗したいが、こいつは見るからにヤバイ。
物凄くでかい、そしてなんだあの格好は!なんでひらひらなミニスカートを穿いているんだ!
戦闘で動きやすくするためなのか!?
見るからに筋骨隆々だ、絶対に勝てない。
五人目。
アルカンシエル・ランスロー
こいつは初等部からの人間で聖帝国人らしい。
なんだあのイケメンは!顔が光っているぞ!
あんな顔で迫られたら男だって落とせるだろう。
それに成績優秀者だとも聞いた。
あの甘いマスクと優秀な頭で俺のゴンドリアをたぶらかしているに違いない!
しかも俺のゴンドリアが所属している商会の会頭らしい。
クソ!金も頭も顔も揃い組かよ!いけ好かねー!!
成敗してやりたいが、こいつも迷宮冒険者らしく遠距離魔法が得意らしい。
近づく前に殺られるな、こいつも勝てそうに無い。
そして最後の六人目。
セボリオン・サンティアス
こいつも初等部からの人間でサンティアスの養い子らしい。
そして俺のゴンドリアとは幼馴染の関係なのだと聞いた。
アルカンシエルほどではないが、かなりの良い顔をしている。
こいつは俺のゴンドリアが所属している商会の副会頭のようだ。
しかも商会で発売する殆どの商品に関わっているヒットメーカーらしい。
きっとこいつは俺のゴンドリアを金と権力を使って脅しているのだろう。
なんと言う姑息な!
こいつも迷宮冒険者らしいがどう見ても弱そうだ。
なんだあのペットは。
でっかいピケットらしいが全く脅威に感じない。
やるならこいつだ、こいつなら勝てる。
俺の完璧な情報収集で敵のデータは大凡理解できたぞ。
攻撃を仕掛けるのならあのセボリオンが狙い目だ。
ある日、尾行をしているとなんとゴンドリアが男子寮へと入って行った。
何故だ!!女子は男子寮に入ることは出来ないのではなかったのか!?
は!そうか!あのバッチだな。
確かあれは1時間は過ごせるものだから、その1時間で一体どんなことをやらかすつもりなんだ!
俺も混ぜ…じゃなかった!けしからん!!!
最後まで張り込みをしていたかったが生憎俺には授業が入っており、出ないと単位が取れない。
泣く泣くその場から離れて授業を受けに行った。
次の日、相変わらず俺のゴンドリアはあの6人と行動を共にしていた。
しかし相変わらず美しいな、俺のゴンドリア。
ああ!話しかけたいがもどかしい!
何でいつもあの6人と一緒なんだ!
そう思っていると突然ゴンドリアが他の奴等と離れて一人で行動し始めた。
これは僥倖!きっと精霊がくれたチャンスだな!
ゴンドリアは一人人気の無い路地へと入って行き、俺もそれに続けと路地に入った。
ゴンドリアが細い路地の中を曲がり追いかけるように俺も曲がった瞬間、そこは行き止まりになっており俺のゴンドリアが俺のほうを見ていた。
「あんた、前からあたし達の事見て尾行してたけど何のつもりなの?」
「そ!それは…!」
「とにかく説明をしてもらおうか」
後ろから声が聞こえて振り返ってみると、あの6人の男が立っていた。
「な!お、俺はただゴンドリアと話がしたかっただけで…」
「あたしに何の用よ?」
「それは…!」
「「「「「「「それは?」」」」」」」
頭で思っていることが口に出ない。
ゴンドリアの前だからかこいつ等の前だからか、それとも両者だろうか。
「そ、そ、そ…」
「………もしかして……おい、皆耳を貸せ」
俺が勝てると見込んだセボリオンが沈痛な面持ちで呟き他の男達に何かを囁いた。
「あー、成る程…」
「そうかそうか。成る程な」
「成る程、うん」
「あはははは!マジか!」
「あららぁ…」
皆何かに納得したように俺を同情的な目で見つめた。
「そこのストーカーの君」
「ストーカー?」
「尾行趣味の変質者と言う意味だ」
「誰がストーカーだ!俺はただゴンドリアとお近づきになりたかっただけだ!あ…」
セボリオンのわけの分らない言葉で思わず計画を叫んでしまった。
なんと言うことだ!こいつは最初からそれが目的で誘導したんだな!
なんて恐ろしい…流石は商会でヒットを連発する男だ。
俺の計画など最初から見抜いていたに違いない。
そして俺を亡き者にするためにこうしてゴンドリアを囮に人気の無い所まで連れて来たんだな!
「なんかすごい妄想してると思うよ、うん」
「ひと時の安寧を邪魔してやるな、これから大変なんだからな」
「もしかしたら違う趣味に目覚める可能性だってあるかもね」
「もしそうなったらマジでゴンドリアに名札渡すわ」
「だからやらないって言ってるでしょ。なんでそんな野暮でダサいのつけなきゃいけないのよ」
「とりあえず話だけは聞きましょうよ」
「あー笑えるぜ!」
こいつらは何を言っているんだ?
俺が妄想をしている?
それに名札とは何だ?
「君君、これから衝撃の事実を打ち込んで差し上げよう、準備は良いか小僧」
「誰が小僧だ!お前のほうが小僧って感じだろうが!」
「ナイスツッコミだ。でも気分で言ってるんだから大目に見てスルーしろ」
駄目だ。話が通じないだと!?
いや、多分これもこいつ等の罠の一部に違いない。
きっと俺を混乱させてからじっくり料理するつもりだな!
「はい!ゴンドリア、お前のフルネームを言ってみよう」
「何よこのノリは?まぁいいけどね。あたしの名前はゴンドリック・リアード・サンティアスよ」
ああ!俺のゴンドリアのフルネームがやっと判明したぞ!
やった!…………え?ゴンドリック?
「ごんどりっく?」
「そう、ゴンドリックだ」
「そうか!男の名前を付けられたからゴンドリアと名乗っているんだな!何て不憫な!!」
そうだ!そうに決まっている!!
「なんかすっごいポジティブシンキングな人らしいね」
「きっと余りの事に現実が認められないんじゃない?うん」
「とりあえずもうトドメをさしてやれ、見ているほうが不憫に思えてきた」
何が不憫だ!不憫なのはゴンドリアだろうが!
ああ!やっぱりこんな男達に俺のゴンドリアは任せて置けない!!
さぁ!俺の下に来るんだゴンドリア!!
「まぁ、いっか。俺もかわいそうになってきたし。こいつ男だよ」
「俺の元にこ!………へ?」
「だ~か~ら、こいつは男」
「嘘だ!」
何を言っているんだ?こんなに可憐な女性が男な筈無いだろうが!
「またお前の被害者増えたじゃん。だから名札付けろって言ってるんだよ、男ですってな」
「嫌よ。あたしのこの格好は唯の趣味なんだから。別に騙そうと思って女装家やってるわけじゃないわよ。態々知らしめる理由は無いわ」
「被害者出してる時点で理由はありすぎるわ!!お前これで何人目だと思ってるんだよ!そろそろ3桁の大台上るぞ!それに何人かは退学していったじゃねーか!不憫だと思わないのか!!」
「そんなの向こうの勝手よ。だからあたしも勝手に女装するだけだわ」
「正論のように述べてるけど全く正論じゃねーから!」
嘘だよな、嘘といってくれ!!
ゴンドリア!君は女だろう!?
「違う君は女なんだ!」
「しょうがない、ここは荒療治をするか…」
そう言ってセボリオンはゴンドリアの後ろに回り、目にも留まらぬ速さでゴンドリアの制服のズボンを擦り下ろした。
そこには立派なふくらみが……
「キャーーー!!あんた何すんのよ!!!」
「こうでもしなきゃ目を覚まさねーだろうが!!」
「もっと簡単に証明できたでЯ#к………」
俺の耳が話を聞くことを放棄したらしい、何を言っているのか全く聞こえない…
「………あのぉ」
セボリオンがかわいそうな者を見る様な目で俺に何かを言っているが全く理解できない。
俺は………俺は………………
「おい、あの生徒結局どっかに行ったぞ。しかも心ここに非ずって顔で」
「察してやりなよ、また新たなる被害者の誕生なんだから…」
「哀れ、うん」
「ぶぁはははははっはははーーー!!」
「ルピシーさん笑いすぎですよ」
「とりあえず心のダメージからできるだけ回復できるように祈るしかないな」
「ちょっと、この件で一番の被害者のあたしに何か言う事ないの?」
「「「「「「無い」」」」」」
「セボリーお前ちょっと路地裏に来いや!」
「ゴンドリックさん口調戻ってる!戻ってるぅ!!それにもうここ路地裏ですよ!!」
「うるせーーーー!!!」
あれからどうやって帰ったか分らない。
ただ気が付いたらベッドに横たわっていた。
俺を応援していてくれた筈の友達も心配そうに俺の顔を見ている。
「ま、まさかここまでのダメージとは」
「おい、お前が最初に言わなかったからいけないんだぞ」
「お前だって乗ってきただろうが!」
何の話をしているんだ?
友達達はもめている。
「なぁ、ゴンドリアが男だってのはこの学園都市では有名な話だったんだよ」
「直ぐに気が付くかと思って放置してたんだけどな」
「いや、お前は逆に煽っていただろうが」
「………そうか………そういうことだったのか…………」
俺の初恋は苦すぎる思い出と共に崩れ去って行った。
「俺の純情を返せ!バッキャローーーーーーーー!!!」
その後、彼は何とか回復し学園生活を送る事が出来るようになった。
そして無事に中等部を卒業して母国へと帰り、家を継ぎ政治家として活躍した。
そして後に彼は母国の宰相として活躍することになる。
彼の活躍は周辺国へも伝わり、その国の名宰相として母国の歴史書に名前を刻んだ。
そんな彼には秘密があった。
夜な夜な家で女装をして過ごし、口調も女性風で暮らしていたらしい。
この秘密を知っていたのは彼の妻と一部の使用人だけだったという。
書いていて凄く楽しかった。