第七十六話 アルティア司教座大聖堂にて五
おっさんによって強制的に聖職者に叙され、指輪の件も含めてピエトロ先生や他のメンバーに愚痴と言う名の説明をした。
あ、勿論聖下の事は抜いて話している。
「ぶはははははは!!!お前が聖職者ぁ!?マジかよ!似合わねー!!ヒーヒー…」
「…………なぁ、ルピシー…今から魔導陣の実験体になってみるか?良い感じにウェルダンにしてやるよ…」
皆かなり驚いていたが、ルピシーの反応が物凄くイラっとした。
これは撃って良いよね?こんがりやっちゃって良いよね?
俺だってなりたくてなった訳じゃないんだぞ。
それなのにあのおっさん……マジでいつか絞めてやる!
「精霊と相性が良い人間は、保護の意味も込めて教団が囲い込もうとしますからね。特例は稀ですがセボリーは捨てて置くには惜しい人材だと思われたんでしょうね」
本来正当にアルゲア教の聖職者になるためには、聖帝国内の学校に在籍してアルゲア教の歴史や教えなどの座学を最低限学び聖職者試験をパスするか、アルゲア教の聖職者の下で座学を学んでから聖職者試験をパスするか、直接アルゲア教の教会に直訴して出家するかのどちらかしかないらしい。
3番目の方法は聖帝国以外の出身の出家希望者が多いらしいが、殆どの者は生涯助祭にさえなれないのだと言う。
ピエトロ先生はこの本来の方法の2番目の方法で聖職者になったようで、学園の武科を卒業した後に帝軍に入り、帝軍付きの司祭に付いて座学を学んだ後聖職者試験を受けたらしい。
ついでにその司祭はあのおっさんと聞いてまたイラっとした。
ラングニール先生の場合は1番目なんだってさ。
しかも出身科が聖科!完全に逆だろお前等!!
「サンティアスの養い子は周りが聖職者だらけですので比較的聖職者になりやすいんですけどね。それに学園の聖科以外の他の科でも、必要最低限の事は必修で出てきますから普通よりも早く聖職者になれました」
そして問題の特例と言うのは、俺のように精霊と相性が良く精霊を感じられる者が試験無しの任意で出家する方法らしい。
これは本人の意思で入るか入らないかを決めるのだと言う。
そう!本人の意思でだ。
あのぉ、俺の場合強制だったんですけどぉ。しかも物理的に強制なんですがぁ?
任意ってのはどこに行ったの?ねぇ、どこぉ?
「あなたはオルブライト司教の秘蔵っ子と言われてますからね。あなたが学園に入学する前からオルブライト司教は周りに絶対に聖職者にさせると言い触らしていましたし」
「幼子の将来を潰すような事言い触らすんじゃねーよ!」
「まぁ、そのおかげもあってあなたはアルゲア教上部では有名ですよ。噂が漏れ伝わってくる位にはね」
「外堀固めるのもいい加減にせーや!!大体あのおっさん24家の人達にも俺の事を愚痴ってるのに、なんで他にも言い触らすの!?ねぇ!?マジで!!」
知りたくも無い事実がどんどん出てきてるよぉ…
本当にあのおっさんは俺に何させたいんだよ…
シエルは聖職者を目指しているから何か文句を言われるかなと思ったが、何故か同情の目で見られてしまった。
おい、俺をそんな目で見るな。
「大丈夫ですよ。アルゲア教の聖職者として属していても害は無いですよ。特に特例でなった人はアルゲア教と関係ない所で普通に生活している人もいますしね。それに聖職者と名乗らなくてもいいですし」
ん?名乗らなくても良いってどう言うこと?
「大昔にアルゲア教の聖職者を騙って金を騙し取ると言う事が他国であったんですよ。それで私は本当にアルゲア教の聖職者ですと証明するために世界記録に記帳するんです。その方法があの水晶玉なんですよ。聖職者だと騙ると精霊達がその者に酷い悪戯をするんです」
酷い悪戯?何それ、怖い。
「前に魂の使い魔契約の時に精霊を介して世界記録に記帳したんですが、あのおっさんが魔道具と言っていたあの水晶玉は精霊の仲介無しに記帳することが出来るものなんですか?」
「その通りです。ついでにセボリーが触れた水晶玉は何色でしたか?」
ん?色?確か青色に光っていたっけか。
妙に綺麗な色で逆に罠だと感づいたんだが…
「青く光っていましたね」
「ああ。魔道具ではなく精霊道具のほうでしたか。あれを使って記帳する人は皆最終的に枢機卿まで上がっていますから将来有望ですね」
「………へ?………え?精霊道具ってエルトウェリオン公爵家のヴァールカッサや、世界に5つしかない真実の宝玉とかですよね…?」
「はい。真実の宝玉のひとつはアルグムンの大主教座にありますよ。セボリーが使った水晶玉は『誠実なる聖玉』と言います。普段使うのはそれの劣化版『悪戯好きな経典』なんですがね。態々大主教座から持ってくるとは用意周到ですね」
「ちょっとあのおっさんに即死的攻撃魔法仕掛けてきます。大丈夫です。痛みも感じないほどに強力なのをぶちかましてきますから」
マジで殺る、絶対にだ…
「落ち着きなさい。別に実害は無いんですから。ただ犯罪を起こしたと時に即実刑にはなりますがね」
「やっぱり害があるじゃん!」
「犯罪を起こすつもりなんですか?」
「その犯罪とは例えば?」
「そうですね。横領や詐欺、謂われ無き殺人などでしょうか」
「はい!副院長は実刑だ!詐欺罪で実刑ですね!」
おい!精霊道具仕事しろ!
副院長のあれは詐欺だ!強要罪だろうが!!あと暴行罪も追加だこら!
大体俺如きになんで態々アルゲア教の大本山から秘宝を持ってくるんだよ!
まずそこからおかしいわ!しかもあんなさっと出すって有難味も全く無いっつーの!
「俺は絶対に聖職者なんかにならないぞ!あのおっさんの思惑になんて乗るかヴォケェ!!」
「でももう聖職者として名前が記録されてるんでしょ?諦めれば?あたしが法衣を作ってあげるからどんなデザインの法衣が良い?やっぱりピンクのフリフリが」
「いらねーよぉぉおーーーーー!!!」
おい!ゴンドリア!お前はさり気なく乗ってくるんじゃねーよ!
何でそんなに良い笑顔なの!?明らかに顔が楽しんでるじゃねーか!
ワクワク気分のわくわくさんですか?コノヤロー!!
「それじゃ、セボリーは僕にとって先輩になるんだね。宜し、くセンパイ」
「お前も乗っかるんじゃねーよぉ!!」
シエルも悪い顔しながら話すんじゃねーよ!!
何処の新世界の神だお前は!!
絶対お前のほうが出世するから放っておいてくれ!!
じゃなかった!何で今俺聖職者になる事が決定したような言い方したんだ!
ぜってー若隠居してやる!!
「とりあえずデザインはこんな感じで良かったですか?少し奇抜にしてみたんですが…」
「だから着ねーって言っておろうが!!」
こら!ユーリ!!お前この短い間でなに描いとるんじゃ!!
それにお前が描いたその法衣のデザイン、奇抜とかそんな問題じゃねーよ!!
なんでニーハイミニスカなんだよ!俺は男だぞ!
これだったら上半身裸サスペンダーのほうが幾分かマシだし!
いや、すんませんでした。自分で言って置いて全くマシじゃないです…
「セボリー、アルゲア教の伝で僕の薬を紹介してね。売り上げが上がれば研究費もアップするし、うん」
「地道に手売りしてろ!!」
フェディも何で普段は見せないような気さくな笑顔で乗っかってきてるんだよ!
大体お前の薬って大量生産できない代わりに品質が良いのが売りだろうが!
アルゲア教のお墨付きでも貰おうとしてるのか?
残念でしたー!アルゲア教は基本的には非営利だぞ!
「今計画しているカリー店にお前の名前使っても良いか?将来出世するのならネームバリューがあって丁度いいかもしれん」
「使わせねーよ!!自分の名前と顔を立体看板でバーン!っと出して置けや!!」
ヤンもふざけんな!大体お前の店ってもう名前決まってなかった!?
もし俺の名前出すのだとしてもロイヤリティとして利益の150%貰うぞコラァ!!
「どうでも良いけど腹減ったからどっか飯食いに行こうぜ、セボリーの奢りで。ぶっちゃけセボリーが坊さんになったってセボリーはセボリーだしな。変なのは変わりないって」
「ここまできたらお前も乗ってこいやぁーー!何で俺が奢らなきゃいけないんだよ!それに誰が変じゃ!馬鹿に言われたくはないわ!!お前よりかは遥かにマシだぞ!!!」
「「「「「「「それは無い」」」」」」」
ピエトロ先生も入れてハモるんじゃねーよ!!!
「モキュ、モキュキュゥ」
「こ、公星!慰めてくれるのか!俺の味方はお前だけだ!!我が友よ!!」
「モキュキュ(もぞもぞ)モキュ~♪(ペロペロ)」
「おい!お前!!人のポケットの中を勝手に漁って飴ちゃん食ってんじゃねーよ!!俺の感動を返せ!コノヤロォ!!!」
この謎の生物。俺を慰めるかと思いきや、俺のポケットに顔ごと突っ込んで中に入っているフルーツ飴貪り食ってやがる!
期待した俺が馬鹿だったわ!!
もう良い!なんか分らないけどもう良い!どうにでもなれ!!考える事も放棄してやる!!!
「とにかく皆ざっけんなぁああーーーーーーーー!!!」
俺の心からの叫びが精霊の声と共に司教座に木霊した。
『新たなる木の芽が芽吹く』
『実るまでまだ遠し』
『我等が愛し子』
『変わった大木の苗』
『健やかに育て』
第三章終わり