第七十四話 アルティア司教座大聖堂にて三
大聖堂の奥、普段一般公開されていない祈りの場や聖職者達が生活をする場所などがある場所に、今俺達は案内されて歩いている。
「あのぉ…なんで司教様が俺をご指名で呼んだんでしょうか?」
「さぁ?私には分りかねます。ご本人から直接聞いてください」
「すいません。帰っても良いですか?今すぐこの聖堂を出ないと死んでしまう奇病に掛かってしまったらしくて…」
「大丈夫ですよ。この聖堂には天井と壁が無い吹き抜けになっている場所もありますから、いっそのことそこでお会いになったらいかがです?」
俺に味方はいないのか!!
ピエトロ先生も分って言ってるのがわかるから性質が悪いわ!!
大体司教様が俺に何の用なの?俺何かしましたか?
心当たりが無いんだけど!……………いや、あったわ。
聖下関連か!それしか考えられない。
きっと帝佐さん→大司教→司教の順番で回ってきたんだろうな…
もう春も終わりに近づくのに廊下は肌寒く、足音だけが回廊に響く。
柱から漏れる光で照らされている内部は、先程の一般公開されているところより質素だった。
「ここです。この扉の奥が司教座です」
「え?先程の司教座は?」
「あそこは所謂偽物です。一般公開されている客見せの張子ような物です。さぁ、この中で司教様がお待ちですよ。では開けます」
コンコンコン
ピエトロ先生がドアをノックし、中から了承の声が聞こえてくると扉が開いた。
扉の中は先程の場所よりも狭く装飾も殆ど無く、質素だがなんと言うか心が落ち着く空間だった。
祭壇らしき場所には司教様であろう法衣を纏った人が俺達を背にして祈っていた。
「オルブライト司教様。セボリオン達を連れてまいりました」
「ああ、ご苦労」
俺は司教の声を聞いて無意識に体が動き、行動を起こす。
ガシィ!
「モキュ?」
ブンブンブン
「モキュ?モキュキュ!?」
「チョェエーーーーーーイ!!!」
「モッキューーーーーーー!!!」
俺の近くで浮遊していた公星を両手で掴み、ジャイアントスイングの要領で司教に向かって放り投げた。
公星は咄嗟の事に頭が追いついていないのか、されるがままであった。
「…モキュ~」
司教の背中に公星が当たると思った瞬間に司教が振り向き手をかざすと、公星はその手の前の何も無い空間で止まり安堵の鳴き声を上げた。
「何をするのかな?」
「それはこっちの台詞ですよ!!何のつもりですか!?」
「何のつもりとは?」
「そのままの意味ですよ!何で態々俺を名指しで呼ぶのかと思ったらあんたの声を見て得心したわ!!どういうつもりなのかちゃんと聞かせていただきますからね!!………副院長!!!」
声を聞いて即分ったわ!!このおっさんが諸悪の根源だったんだな!!
っていうか何で俺達がここに来る事わかったんだよ!!?
「私はもう副院長ではないぞ」
「じゃー元副院長!何で俺を呼び出したんですか!?」
「楽しそうだからに決まっている!」
「ざっけんなぁぁああーーーーーー!!!」
「っというのは冗談で」
「マジでざっけん「モキュ!」グフゥ!」
いつの間にか公星が俺の足元に戻って来ていたらしく、ジャンピング頭突きを食らわせてきた。
こいつの頭突きは冗談では無く痛い、この前もやられてから暫く痛かったし。
「おい!公星!今大事な話をしているところなんだから邪魔するな!」
「モキュキュ!」
「グフゥ!」
かなりご立腹らしい。
しょうがないと、ここはご機嫌を取るために無限収納鞄からコームハニーを取り出して空中へと放り投げた。
公星はコームハニーを追って飛び上がり、見事にキャッチして貪り食っている。
良し、これで話が進められる。
「…さて、話の続きをしましょうか」
「その前に久しぶりの者と初対面の者もいるので紹介しておこう、私はセオドアール・ディアマンテ・フォン・トリノ・ド・ラ・オルブライト・サンティアスだ。このアルティア司教座大聖堂の司教をしている。ルピシーとゴンドリアとシエル君以外ははじめましてとなるな」
「副院長先生お久しぶりね」
「先生も相変わらず元気そうだな!!」
「どうもはじめまして、ヤンソンスです。お噂はかねがね漏れ伝わって来ていますよ」
「はじめまして、うん。フェデリコです」
「はじめましてユールグントです」
「お久しぶりですセオドアール司祭。いや、オルブライト司教様」
シエルはどうやら初対面ではないらしい。
そうか!!副院長ってエルドラド大公と仲が良かったんだっけ。そりゃ顔見知りだわ。
だがそれよりも何なんだよ、オルブライトって!
これさえなければ直ぐに謎が解明出来たのに!!
「オルブライトって誰かと思いましたよ!なんで元副院長…ああ!もう面倒くさい!副院長の名前が変わってるんですか!?紛らわしいにも程がありますよ!!!」
「アルティア司教座大聖堂の司教は代々オルブライトと名乗るのが慣例なのだ。この大聖堂には学園都市を作った内のひとり、聖オルブライトが眠っている。今しがた言ったように聖オルブライトはアルゲア教の司教でこの学園都市の礎を築いたひとりだ。聖オルブライトはこの学園都市に邪な者が入り込まないように精霊の力を借りて守護の役目をしていたらしい。その聖オルブライトの名と共に守護の任を受け継ぐ者がこのアルティア司教座大聖堂の司教となるのだ」
「どっちにしても紛らわしいわ!あんた、あんなに司教枢機卿になるのを嫌がっていた割にはノリノリじゃねーか!!」
「折角昇進したのだからその力を使うのも悪くは無いだろう」
「悪いに決まっとるわ!職権乱用じゃねーか!!」
本当に何なの?いつかこのおっさん地獄に落ちるぞ。いや、マジで。
叫んだら少し落ち着いてきた。良し、気になっていた事をもう一つ質問してみよう。
「そういえば何で俺達が来る事分ったんですか?」
「お前は私のスキルを忘れてはいないか?」
「へ?…………………………………………………そうか!空間把握のスキル!!!」
「そうだ。お前達がこの大聖堂に近づいてきた事が分ったので、ピエトロに頼んでお前を呼んだんだ」
呼んだんだ、じゃねーよ。
そりゃ司教になったらおいそれと外出できないのは分るけどさぁ、それでも連れてくるんだったら事前に話を通しておけよ。
そんなサプライズいらないわ!
「それで、俺をおちょくる為に態々呼んだんですか?」
「いや、ちゃんと用事があって呼んだんだぞ。今呼ばなくても何れは呼ばれる事になったのだから、遅いか早いかの違いだけだぞ」
「その用事とは何でしょうか?」
「その前に立ち話もなんだ、皆こちらに来て座りなさい。ああ、セボリーはこちらだ。私と一緒に来て貰おう」
「だが断る!!」
「拒否権など無いぞ、さぁ来い」
駄目だ。どうしてもこの人と話していると自分のペースが掴めなくなる。
昔からこの人は俺のことを弄りまくっているからなのか、俺で遊ぶ事が趣味になってるんじゃないのか?
大体俺よりももっと面白い奴なんてたくさんいるだろうが、なんで俺で遊ぶの?ねぇ?
理不尽だと愚痴りつつも皆と別れて副院長と部屋を出て行く。
皆はピエトロ先生に案内されて部屋の片隅にあるテーブルと椅子のあるほうまで移動していった。
しかも計っていたかの如く皆が席に着くと近くの扉が開いてお茶と茶菓子が運ばれてきた。
おい、俺も今叫んで喉がカラカラだから飲み物欲しいんだけど…
俺は早く用事を済ませたい一心で、歩きながら副院長へと質問を投げつけた。
「それで用事とは何なんですか?」
「セボリー、セッカチは宜しくないぞ」
「モヤモヤしたまんま放置されてるほうが俺の心に宜しくないですよ!」
あー、もう!このおっさんマジでどうにかしてくれ!
「セボリー、あたし達は関係ないようだからゆっくり話してて良いわよ。ここでお茶を飲みながら談笑してるから」
「どうぞご遠慮なく、うん」
「丁度小腹が空いてきたところだったから助かったぜ!」
「私もここで建築様式をスケッチしてますからお気遣い無く」
「何があったか後で聞かせてくれ」
「セボリー頑張ってね」
お前等絶対良い死に方しないぞ。俺が呪ってやるからな、覚えてろ!!
「公星!おやつを追加でやるからこっちに来い!」
「モキュキュキュキュー♪」
お前と俺は運命共同体だろ?
もう誰でも良いから道連れにしてやんよ!