第七話 スキル二
怒られました。
ええ、がっつり怒られましたとも。
同室の兄弟たちからは鳴り止まないブーイング。
隣室の兄弟たちからは白い目で見られ。
先生からは拳骨と説教を貰い。
公星からは餌を催促された。
おい公星、お前マジふざけんな。なんで怒られた理由の諸悪の根源に詫びの餌やらなきゃいけないんだ。
「モキュキュー」
「モキュキューじゃねーよ。毛皮にするぞボケェ。それか縁日のひよこみたいになんとも言えない色に染め上げるぞコラァ」
結局朝起きた後また説教され、院内のお掃除一週間を命じられましたよ。とほほ…
お祈りと礼拝を終え朝食を食べた休憩時にまたステータスを開いてみる。
*******************************
セボリオン・サンティアスLV1 性別:男
年齢:5歳8ヶ月 状態:健康
体力: 2
筋力: 2
耐久: 2
速度: 2
器用: 9(7+2)
精神:11(10+1)
知力:10(8+2)
魔力:10(7+3)
スキル:土魔術LV1・毒耐性LV4・ハムハムLV7・雑食LV1
加護:精霊の祝福2・公星の信頼
契約:魂の使い魔契約
使い魔:公星
********************************
昨日の悪夢のようなステータスでは無くなっていた。
しかしまだ問題はある。ステータスの数字が増えているし、ハムハムのレベルも上がっている。
使い魔契約の恩恵か?
しかしこの雑食って……っは!あれか!副院長が言っていた使い魔のスキル。なんでエアライズじゃないんだよ!!ちょっと憧れてたんだぞ!!!いたいけな少年の純情を返せこのコノヤロー
まぁ、良い。何も期待はしていなかったが、ステータスが上がっただけでも儲けものだ。
「ステータスは上がっても肉体的なものは少ないから効果が今一わからないな…」
まぁ、そのうち確認出来るだろう…
俺は今縫い仕事をしています。精霊の祝福前より心なしか縫い目が前より綺麗な気がする。多分気のせいだろう。
「セボリー、前先生に教えてもらったレース編みでお花作ってみたんだけど。どうかしら?」
先生が用事で席を外して暫くしてから、ハンカチを縫って刺繍を施している俺にゴンドリアが話しかけてきた。
「おー!さすがゴンドリア、一回教えただけなのに花飾り完璧じゃん。装飾用のビーズあっただろ。あれで花冠の作り方教えてやるよ。ついでだしビーズで花の作り方も教えたるわ」
「本当!?やった!すぐに持ってくる!!皆、行くわよ!!ついてらっしゃい!!!」
ゴンドリアが数人の女子を伴って急いでビーズの在庫を探しに部屋を飛び出ていった。
あいつはどこぞの悪役令嬢か。
「しかし、懐かしいなぁ」
何故俺がこんなに手芸が出来るかと言うと、それは浅くそして深い理由がある。
俺の前世の実家が農家なのは話したが、農家の嫁は忙しい。それこそ冗談抜きで忙しい。そんな忙しい中、俺の母は趣味として手芸と花栽培が趣味だった。
俺も小さい時は可愛い姿をしていたらしく、妹が生まれるまで次男の俺が母の欲求解消の生贄になっていた。つまり女の子の格好をさせられていた訳だ。しかも物心付いた頃から手芸を一緒にさせられていたのだ。
母に『自分で着るんだからお手伝いしなくちゃね』と言われ、ある程度の年齢になるまで何の疑問を抱かなかった俺は、それなりの手芸の作法をマスターしていたという訳だ。
気づいたときは冗談抜きでorzとなったことは記述しておこう。
ついでに母のもうひとつの趣味である花栽培では、植物の栽培の知識を生かしハーブを作って地元や首都圏のイタ飯屋に卸していたらしい。何気に儲かっていたらしく、今思えば俺の女装の布代などはそこから出ていたと推測される。母は強し。
バタァァアアアン!!!
「持ってきたわよぉ!!さあ!教えなさい!さあ!さあ!!」
「「「教えてー」」」
おおぅ。俺が現実逃避をしていた間にゴンドリア達が大量のビーズと糸と布を持って帰ってきたようだ。
母さん今俺は人生で一番のモテ期かもしれません………が、間違えに気づいた時の絶望感の恨みは忘れません。
その後、結局ゴンドリアだけではなく用事から戻ってきた先生も交えて一緒に手芸教室やる羽目になりました。先生に教えることによって、俺達の下の代の弟妹にその技法は伝わっていくはずだ。
こうやって技術や知識を受け継がせることによってサンティアスは大きくなってきたのだから。
手芸教室が終わり、昼食を食べて畑仕事をしている最中に俺はスキルのひとつを思い出した。
そういえば、俺のスキルに土魔術があったな。何か出来るかもしれない。まて、でもどうやって使うんだ?
前先生が水の鞭を使っていたときは呪文らしきものを詠唱していた。と言う事は呪文が必要なんだろう…
「………試してみるか」
土の魔法の初期魔法と言えば穴掘りの術だよな。と思い実験をしてみる
「土よ我が願いに答えよ」
『………………………』
「モキュ」
「……うん、分かってた。発動しないの分かってた」
気を取り直してまた試すがなんの反応も無い。
「どうすれば発動するんだよ……そういえば前に魔法関連は現代アルゲア語だと発動しないものもあるっていってたな」
どうする、俺現代アルゲア語しか喋れないんだが。まさかこの段階で詰むのか。
「考えろ、魔法に必要なのは魔力と呪文。きっかけ作りは何だ」
俺はふと思い浮かんだことがあった。
「そういえばステータスの開示もある意味魔法だよな。魔力が減ってる感じはないが、分からない程度に減っている可能性もあるのか?でもそれでも見れたと言う事は……」
ステータスの表示で必要なのは精霊にお願いして見せてもらうこと。ならば普通の魔法の発動だってそうかもしれない。
「精霊さん土の精霊さん、俺の願いを聞いてくれ。目の前の地面の土を掘り起こしてく…」
呪文を唱え終わる前に俺の体から何かが大量に奪われた感じと共に、俺は公星の鳴き声を聞きつつ意識を手放した。
気が付くとベッドの上で寝ていた。
寝ぼけ眼を擦りふと横を見てみると、俺の横では公星のために作った専用の籠のベッドの中で公星が寝ていた。
「だりぃ…」
倦怠感が半端ない……体が重いし、頭もガンガンする。
例えるならまるで熱と二日酔いが同時に襲ってきた感じだ。
このまま急に起き上がったら確実にリバースする。
あれ?そう言えば俺寝た覚えないんだけど?何で?
…………ああ、そうだ。確か魔法の実験をしてたら意識が遠のいたんだ。と言う事は気絶したのか?どのくらいの時間気を失ってたんだろう。というか今何時だ。
ガチャ
「やっと起きたか」
今何時だろうと考えていた時、扉が開き副院長が姿を現した。
「どうも、今何時ですか?」
「最初の言葉がそれか。今は昼の1時だ」
ん?昼?おかしいぞ?俺が魔法の実験をしたときはおやつ前だったんだが。
「へ?昼ですか?夜ではなく?」
「魔光の明かりを灯していないのにこんな明るい夜があるものか」
「おぅ、確かにそうですね。じゃあ、一日近く寝てたわけだ。俺はどうして倒れたんでしょうか」
「魔力の使いすぎだな。慣れないのに魔力を使いすぎたから意識がなくなったんだ。お前一体どんな魔法を使おうとした。畑そばの土地が隕石が落ちてきたように抉られていたぞ」
「へ?」
「『へ』じゃない。畑自体に被害は無かったが、埋め直すこちらの手間を考えろ」
「ご迷惑をおかけしてすみませんでした」
「余り心配は掛けてくれるな。皆お前の心配をしていたんだぞ。」
副院長はもちろん私もなと言って溜息を吐き出した。
「お前のような者がいるから精霊の祝福後はゆっくり力の使い方を教えていくのだ。本来初心者は精霊や他の術者に手伝って貰わないと発動しづらいんだが……才能と行動力が優れているのも問題だな。」
おお!と言う事は俺には才能があるのか。よっしゃ!
「調子に乗ると痛い目にあうぞ」
おおぅ……心を読まれた!!
「で。何でお前は魔法を使おうと思ったんだ?」
「……土を掘ろうとしたんです。俺のスキルは土魔術らしいので」
「それは掘る範囲を指定していなかったな。だから魔力が切れるまで精霊が魔力を使ったんだ」
あちゃー。そう言う事か。範囲がわからないからとりあえず掘れるだけ掘ってみましょうって感じだったんだな。
「今度から気をつけます」
「いや、当分はスキル使用は禁止だ」
「え!?そんな!!」
「たくさん心配を掛けた罰だ、甘んじて受けろ」
「………はい。わかりました」
「よろしい、では私は用事があるので出るが、心配を掛けたものに挨拶しておけよ。特にコーセーにな。お前が倒れたと皆に知らせてくれたのはコーセーだ」
「っ!はい」
俺は副院長が部屋から出て行った後、公星にお詫びの餌をあげようと誓った。
「ありがとな、公星」
「スピー……モキュキュ…スピー」
寝息をたてながら寝言を漏らす公星を見て苦笑を零しながら、ベッドから起き上がり体を伸ばし─
「もっとがんばろう」
と決意した。
こうして俺の初めてのスキル使用は大失敗のうちに幕を閉じた。