第七十三話 アルティア司教座大聖堂にて二
予期せぬピエトロ先生との再会に吃驚したがまずは挨拶だ。
「「「お久しぶりです!」」」
「元気そうで何よりです」
ゴンドリアとルピシーがピエトロ先生に挨拶をすると先生も挨拶をし返してくれる。
「あ!ピエトロ先生ってこの面子と会うの初めてだったよな!紹介するぜ!こっちがシエルであっちがヤン、んで白いのがフェディでデッケーのがユーリな!!」
「あんたもっとちゃんと紹介しなさいよ!」
「大体分るんだからいいだろうが!」
「うん。ルピシーらしい紹介の仕方だよね、うん。どうも、白いのことフェデリコです。はじめまして」
「でかいの気にしてるんですからやめてください…どうもはじめまして、ユールグントです」
「仕方ないよルピシーだし。はじめましてアルカンシエルと申します」
「ルピシーに紹介を任すと、こういう事になると分っただけでも収穫はあったな。はじめまして、ヤンソンスと言います」
「はい、はじめまして。ピエトロと申します」
各々が自己紹介をした後、俺もルピシーにツッコミを入れようと思ったが、それよりも気になる事があった。
どうしてピエトロ先生がここにいるんだよ。出張か?
「ピエトロ先生、何でここにいるんですか?」
「聖育院からアルティア司教座大聖堂に移動になったんですよ」
「成る程、ここって出世コースらしいのでもしかしたら昇進とかしたんですか?」
「ええ、おかげさまで」
「助祭にでもなったんですか?」
「はい、助祭になりましたよ。第二騎士にもなりましたけど」
「……へ?……ああ!そうか!確かピエトロ先生って武科出身でしたよね」
「はい、そうです」
そういえばピエトロ先生は第三騎士の称号を持っているって言ってたっけ。
たしか魔力が無いに等しいのでほぼ魔法が使えないとも言っていた。
無いのではなく無いに等しいというのは多分精霊の祝福で魔力を授かったからであろう。
精霊の祝福で魔力を得た人の中で、魔法が使えるまでの魔力になる人は稀なのだという、ゴンドリアは本当に極僅かだが魔力のコントロールが出来るらしいがルピシーは全く出来ないと言っていた。
ピエトロ先生言うには元々聖育院に勤めていたのは子供達を守る護衛官としてで、俺達の勉強を見てくれていたのはほぼボランティアとしてやってくれていたらしい。
「助祭になったという事は『ラ』の称号持ちになったんですね」
「ええ、普通の聖職者としてはこれ以上上には上がれませんけどね」
「え!?何でですか?」
「いくら魔力があろうと無かろうと精霊の祝福の仲介が出来なければ助祭止まりなんですよ。階級は下でも相談役としてなら上に上がれますけどね」
「相談役…ですか?」
「ええ。助祭の中には私のように精霊との相性が悪い人もいますが、その人が人格的に優れていたり適切なアドバイスを上司や部下に出来る人なら相談役といってご意見番みたいな役職があるんですよ」
「そんな役職があるんですね」
「なれる人は本当に稀ですけどね」
「じゃー、ピエトロ先生は相談役を目指すんですか?」
「いいえ、私は聖騎士を目指しています。ここにも聖堂付き騎士として赴任したんですよ」
聖騎士とは騎士爵位の最高爵位で、宰相や帝佐さんの法衣爵位である子爵と同位の騎士爵位である。
現在、帝佐さんも入れて3人しか持っていない爵位らしい。
そう思うと帝佐さんメッチャチートじゃん。
普通の法衣爵位の子爵の称号と騎士爵位の聖騎士の称号持っているんだからな。
「聖騎士かぁ。どれだけ強いのか想像もつきませんよ」
「ひとりで戦争を左右できるほどの力を持っていなければ聖騎士に叙任されないですよ。力だけではなく知識や指揮する能力も必要ですから、軍人としては憧れですね」
「ピエトロ先生って物腰が柔らかいから軍人って感じがしないんですけどね」
「そうですか?聖帝国の軍人の中でも私みたいな人はかなりいますよ。まぁ少数派なのは確かでしょうけどね」
それはそうだ。軍人ってある程度強く見えないと相手に舐められるから、強く見せる努力もしなきゃいけない。
まぁ、逆に敵の虚をつくために敢えて弱く見せようって考えもあるのかもしれないが、皆ピエトロ先生みたいに線が細くて物腰も柔らかい軍隊だったら全く敵もびびらないだろう。
ぶっちゃけ守られてるほうも不安だろうな。
全員がラングニール先生みたいなゴリラだとしてもある意味きついがな。
「なぁ!ピエトロ先生。今度手合わせしてくれよ!聖育院にいた時も指導してくれたけどまたやってくれ!」
「良いですよ」
え?ルピシーってピエトロ先生に剣を教えてもらってたの?初耳なんだけど。
俺はピエトロ先生にアルゲア語とかしか教えてもらってないのに、いつの間に手合わせしてたんだ?
「俺はお前が手合わせしていた事にびっくりだわ」
「ラングニール先生と試合をやってたところを見たことあったんだ!ピエトロ先生凄かったぞ!ラングニール先生に勝ってたし!」
「え!!?あのラングニール先生に勝ったの!?」
「ええ、グレンには負けたことはありませんね。グレンは本来聖職者としての気質が高いですから、剣や体術では負けた事がありません。それに後輩には負けたくはないですので」
え?ちょっと待って。今聞き捨てならない言葉が結構出てきたんだけど…
ラングニール先生って聖職者なのは知ってたけど武闘派じゃなかったの?
じゃー、あの身の丈ほどの大剣はなに?
あ!そういえばエルドラド大公がラングニール先生のフルネーム言ってたな、何だっけか…
確か………
『グレナダ・ゴルジュ・ド・ラ・ラングニールのことだ。儂の帝軍時代の部下でもある』
そうだ!グレナダ・ゴルジュ・ド・ラ・ラングニールだ!
見事に『ド』と『ラ』が入ってるじゃねーか!
っということはラングニール先生はピエトロ先生より早く助祭になってるってことか…
………似合わねぇ。
どうみてもバリバリの軍人だろうが!しかも大公が帝軍って言ってるじゃねーか!
じゃーなんであのナリで聖職者やってんの!?あの身の丈ほどの大剣はなに?ねぇ、何で?
それに後輩ってどういうことだ!?どう見ても見た目的にピエトロ先生のほうが年下だろうが!
しかも聖職者なのに結婚してていいわけ!?
「……もしかしてラングニール先生のほうがピエトロ先生より年下なんですか?」
「はい。グレンのほうが4つ下です」
「あのぉ、差し支えなければピエトロ先生の年齢を教えて頂けませんか?」
「36ですが」
嘘付けぇ!!どう見ても見た目年齢二十歳前後だろうが!
前世だったら美容液のCMのオファー来るよってレベルだぞ!!
ってか単純計算するとラングニール先生32なの!?
俺はあの人はとっくに四十路行ってるかと思ってたわ!!
「……ラングニール先生は結婚してますけど、聖職者でも結婚って出来るんですか?」
「?出来ますけど、それがどうしましたか?」
「……いえ、もう良いです。なんでもないです」
色々な事実が分って疲れたからもう帰っても良いですか?
多分ぐっすり眠れそうだわ。
「さて、話も区切れた事ですし、私が今君達の前に姿を現したのも理由があるんですよ。オルブライト司教様があなた達、正確に言うのならセボリーをお呼びですのでついてきてくれませんか?」
「………は?今なんて仰いました?」
「オルブライト司教様があなたをお呼びですと言いました」
「オルブライト司教様って誰ですか…?」
「はい。ここアルティア司教座大聖堂の司教様です」
「……………………」
「どうしました?」
「何でじゃーーーーーーーーーー!!!」
大聖堂に俺の叫び声が響き渡った。
流石は声が響くように計算されて作られている聖堂だ、声が物凄く響くこと。
いや!っていうかマジでありえんし!なんで司教様が俺を名指しで呼ぶんだよ!!おかしいだろ!!!
あのお方にしろ公爵達にしろ、なんか最近俺のことを名指しで呼び出すのが流行っているのか?
ふざけるのも大概にしろや!温厚な俺でもそのうちキレるぞ!!
「お断りいたします」
「オルブライト司教様からは引き摺ってでも連れて来いと言われていますので、悪いですが拒否権は無いですよ」
「セボリー!頑張ってこいよ!」
「あたしはここで大聖堂を見学してるわ。お土産お願いね」
「僕も見学してる、うん」
「私はここで絵を描いていますので、ご遠慮なく」
「良いなぁ。僕も大聖堂の奥に行ってみたい…」
「セボリー、良い経験だと思って行って来い」
こ、こいつら自分は関係ないと思って完全に他人事だな…
もう良いわ!こいつらにも同じ地獄を味合わせてやる!
逃げられると思うなよ!俺が全力を持って道ずれにしてやる!!
「もうこうなったら自棄だ!お前等も道ずれにしてやんよ!!一緒に来いやぁぁあーー!!!」
こうして俺達は大聖堂のプライベートゾーンへと足を踏み入れる事になるのであった。