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Public Star~目指せ若隠居への道~  作者: 黛紫水
第三章 成長期の章
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第七十一話 愛し子

夏服の制服を製作してから約2週間、俺は試しの迷宮に潜ったり水筒を作ってくれる工房を探し回ったり、美容関係に強い人を探し回ったりと大忙しであった。

フェディもゴンドリアと共同で学園に論文を提出し、特許をとるために動いているらしい。

ルピシーもあと少しで本が発売されるので毎日ソワソワしていた。


ある朝、まだ殆どの人が眠りについている朝方、俺は何かを感じて目が覚めた。


「なんだ?この雰囲気…空気が振動している?」


公星のほうを見ると公星も起きており、窓の外をジーっと見ている。


「公星、やっぱりお前も何か感じるのか?」

「モキュ。モキューキュキュ」


公星の反応を見る限りは悪い事では無いらしいが気になる。


「何か理由を知ってるのか?」

「モキューキュッキュキュモキュ」

「うん、成る程。分からない」

「モキュー…」


公星が駄目だこいつと言いたげに頭を下にした。


原因は分からないが気が付いたことはあった。

俺はこの空気を知っている。いや、2回ほど体験した事がある。

1回目は精霊の祝福の儀式で、2回目は使い魔契約の際に感じた雰囲気に似ていた。


「精霊達が喜んでいるのか?」

「モキュー!」

「…正解らしいな。でも一体何をやっているんだ…まだ祝福の時期でもないと言うのに。………まぁいっか、寝よう」


害は無いらしいので二度寝しようとするがなかなか寝付けない。

何故か俺の気持ちも昂ぶっているようだ。


「どうしよう、眠れない。まだ寝たいのに眠れない…ん?……え?嘘!?なんで!?」


ボーっとベッドに横たわっていると、急に俺の指に嵌められている例の指輪が光りだした。

まるで某ウルトラな男が帰らなければいけないと知らせるアラームのような間隔で光る指輪。


「おいおいおいおい!何がどうなってるんだよ!」


指輪は5分ほどで光が収まり、いつもの指輪に戻って行く。

結局それからまた寝る事は出来なかった。


「ひどい顔だね」

「朝の最初の挨拶がそれかよ。俺自身自覚してるから開口一番に言うなっつーの」


授業を受ける前シエルに朝の挨拶をして、シエルが俺に挨拶を返そうと振り向くと先程の言葉をかけられた。

俺の目の下には隈が出来ており、眉間にも皺が寄っている。

あれから気になって気になって眠る事ができなかったのだ。


「どうしたの?」

「実はな…」


事情を説明するとシエルは難しい顔をして黙り込んだ。


そりゃそうだよな。俺でもそうなるわ。

でも一体なんで突然光りだしたんだ?

ステータスを見ても全く以上は感じられなかったし、体も寝不足以外は問題ないように思える。


「精霊が騒いでた…か。僕も一応精霊を感じることは出来るけど、今朝の事はまったく気が付かなかったよ。もっと感覚の鋭い人なら感じられたかもしれないけど…」

「俺も偶然気が付いたようなものなんだよ。なんか胸騒ぎではないんだけど、体がゾワゾワする感じがあったんだ。それで起きてみたら公星がずっと窓の外を見て精霊の様子を伺っていたんだ」


公星が何も無い空や空間をじっと見ている時は大抵精霊と話しているか、精霊の様子を伺っている時で、最初はじっと彼方の方を見ているので心配していたが、理由が分かってからは放っておいている。


「コーセーが警戒していないんだから大丈夫じゃないかな?僕達の中で一番そういう事に鋭いのはコーセーでしょ?2番目はルピシーだけど」

「あいつはもう人類の範疇を超えているからな」

「いつから人間やめたんだろうね」

「さぁな。気が付いたらああなっていた。もう手遅れです」


今朝の事でルピシーの意見も聞きたいが、あいつは昨日の朝から出版関係者に挨拶回りをしているらしく、今日も授業にも出ずに何処かへ行っている。

ルピシーは本人は勉強しなくて良かったと喜んでいたが、それで良いのか本当に…


こういう時こそあいつの野生の感が当てになるのに、いざと言う時にいないなんて役に立たないったらありゃーしないわ。


「まぁ、いない奴のことを言っても仕方ない。話を進めるぞ」

「その言い方だと故人みたいに聞こえるけど…そうだね。話を進めようか」

「シエルの聖科の知り合いでそういった関係に強い人っていないのか?」

「残念ながらいないね。セボリー。君は自覚してないかもしれないけど、君ぐらい素で精霊を感じられる人って本当に稀なんだよ。君がもし何処の科に行こうか迷ってたのなら僕は真っ先に聖科を進めてたよ」

「へぇー。そうなのか。そういえば学園に入る前もアルゲア教に入れたほうが良いとか言われたことあったな、今その人はラングニール先生の奥さんになってるけど」


プラタリーサ先生は俺が精霊を感じることが出来るのを知っていたので誘ったんだとばかり思っていたが、精霊を感じられる事が出来る人が稀だったから誘ったんだな。

確か十分素質はあるからとか言ってたし。


「セボリー、君は楽観的に考えてるけどそれって結構紙一重なんだよ」

「紙一重?何が?」

「聖帝国の中だったらまだ良い、でも他国、それも精霊の恩恵を受けづらい国にとって君みたいな存在は垂涎物なんだよ。精霊に好かれている者の周囲には精霊が集まるのは知っているよね。精霊が集まればその土地も豊かになり、結果として国が繁栄するんだよ。かなり昔の事だけど、そういう人達を無理やり誘拐していたって事件だってあったんだ。君の周りには精霊を感じられる人がたくさんいるから特別に思っていないのかもしれないけどね」

「マジか…」


確かに精霊に好かれている人間の周りには精霊がたくさんいる。

副院長にしろラングニール先生にしろ帝佐さんにしろな。

俺の周りには『ラ』の称号持ちがたくさんいるから分らなかっただけだが、『ラ』の称号は本来精霊の祝福を仲介できる者に与えられた称号だと公爵様達が言っていた。

精霊は気に入った人間の前にしか姿を現さないし、気配も掴ませないと言う、つまり精霊と仲介できるほどの力を持っている者は好かれている人間しかいないという事なのだ。


「ウィル兄さんの件は別にして、初等部に入学する際に通過承認の門に拒否されて入れなくなった人が過去にいたって聞いたでしょ?あれは他国の留学生がスパイとしてセボリーのような人間を探しに来て、誘拐できないのなら暗殺しようと実行に移したから拒否されたって話もある。聖帝国の力を削ぐ為に精霊に好かれている者を消そうとしていたんだよ。今は簡単なスパイはいるみたいだけど、そんな事をすればどうなるのか分っているから実行しないらしいけど」

「………やった国はどうなったんだ」


そう質問した俺にシエルは満面の笑みを浮かべてこう言った。


「全て滅ぼされたよ」

「………………」

「滅ぼされた国は今、聖帝国の属国になってるけどね。元首も国の名前も全て消されたよ。今その属国を統治しているのは聖帝国に認められた当時の大貴族の家系が多いね。彼等は名ばかりの王として統治しているだけだけどね」

「モキュー…」


一気に血の気が引いた俺を心配してくれたのだろう、公星が俺の肩に乗って俺の頬を舐めてくれた。


「サンティアスが孤児を積極的に引き取るのもそう言った精霊に好かれる子を保護する意味もあるんだよ。まだ戦争が多かった時代、精霊の愛し子は運が強い子が多いから両親や親族が亡くなっても自分ひとり生き残るってことが多かったらしいんだ。サンティアスを創設した当時のアゼルシェード辺境伯は熱心なアルゲア教徒で精霊に好かれている子を見つけるために敵味方関係なく孤児を抱きこんだんだよ」


やっぱり俺は知らず知らず周りの人間に愛されてきたんだなとつくづく思い知らされた。


「だから大丈夫だとは思うけど気を付けてね、僕は大事な友達を失くしたくは無いから」

「ありがとな…」

「モキュー!!」

「うお!モガ!」


俺がお礼を言うと公星がいきなり俺の顔に張り付いてきた。


モフモフしたお腹は気持ち良いが息が出来ない!おいこら!離れろ!!


「モキューモッキュー!!」

「はははは!!」


シエルも笑ってないで助けてくれよ!


「モキュー!」


必死で公星を顔から引き剥がし、新鮮な空気を吸うために大きく息を吸って吐いた。

おい、公星…お前は今日のおやつ抜きだ!


「ははは!うん、やっぱりセボリーは辛気臭い顔よりそう言った顔のほうが似合うね」

「どんな顔だよ!」

「こんな顔さ」


シエルはそう言って懐から鏡を取り出して俺の顔を映した。


そこには先程と同じように隈が出来ていたが眉間の皺は無く、必死な形相の顔が映っていた。


「これの何処がお似合いなんじゃーーーー!!!」

「モッキューーーー!!」

「ははははは!!」


いつものように叫んだら今朝の気分は何処へやら、清清しい気持ちになれた気がした。

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