第七十話 制服三
俺は今、仲間たちといつぞや迷宮で拾った守護符について話し合っていた。
どうにかして劣化品でも作って発売できないかと言う話し合いだ。
思案顔のシエルがまず最初に口を開いた。
「やっぱりこれって識別でも解析は無理なのかい?」
「ああ。魔導陣の識別で調べても良く分からなかった。そもそも護符とは材料も作りも違う見たいだしな、完全にお手上げ状態だ」
「でも今のところは放置してても良いのではないか?セボリーの魔導陣で作った護符の効果はこの守護符とそう変わらないんだろ?」
「逆に魔導陣版護符のほうが性能が高いんだよな」
「じゃー良いじゃねーかそれで」
ルピシーが身も蓋も無いことを言う。
「元々俺達以外が作って市販している護符のほうが、俺達の護符より値段が高い分性能が良いんだよ。俺達の強みはその安さだ。それを『はい。新型の護符ですよ~他のより性能が良くて安いですよ~』で出したら他の業者から突き上げが来るに決まってるだろうが!その時は良いかもしれないが先々困ってくる可能性だってあるんだよ。それだったら劣化版でも良いから守護符を出して差別化を計りたいからこうやって話し合ってるの!っていうかこの説明最初にしただろうが!!」
「ふ~ん。良く分からんが色々考えてるんだな」
「お前が考えなさ過ぎるだけだっつーの!!」
「まぁルピシーだしね」
「そうだな。ルピシーだからな」
試作品魔導陣版護符の実験は試しの迷宮内で行った。
何故かと言うと迷宮は内装が自動的に再生するからである。
実験している途中に景観破壊や自然破壊、または近所迷惑で通報連行されるのは真っ平ごめんだ。
実験の結果、普通の護符よりも数段性能が良いものに仕上がって満足したのだが、俺がさっきルピシーが言ったようにそのまま出したら絶対に問題になることなど目に見えている。
今はまだシエルのネームバリューがあるから問題はないと思うが、シエルは卒業後実家へと戻ると公言している。
シエルが実家に戻った瞬間にパブリックスター商会は他の店から攻撃を食らうかもしれないのだ。
なので元からある護符の性能を上げる事は大事な事だが、世に出すなら迷宮で拾ったものからヒントを得て守護符を作りましたと言って出したほうが突き上げは少ないと考えた。
だから俺は魔導陣を使わない通常の守護符を作りたいのだ。
「まだまだ前途多難だ…」
「そんな直ぐにに上手く行くはずないって。今までこんな順調に来てたほうがおかしいくらいだもん」
「それもそうだな……ところでゴンドリアとフェディとユーリはあっちで何やってるんだ?」
先程仲間達と言ったが、正確にはそこにその3人は入っていなかった。
俺達が話し合っている間、フェディの部屋でなにやら話し合いをしていたのだ。
時折ゴンドリアの大きな声が漏れ聞こえてくる。
ぶっちゃけゴンドリアがこのような声で喋る時って悪い予感しかしないんだよなぁ。
「確かこの前私たちが試しの迷宮で採取してきた茨の研究論文が完成したと言っていたが」
「あー、あの茨ね。調べてみたら既に利用方法があったらしくて落ち込んでたけどね」
「でもその後直ぐにもっと違う利用方法を見つけ出すって燃え始めたもんな」
「食い物になる利用方法だったら嬉しいな!」
「お前はそればっかだな。行ってみるか…」
ノックをしてフェディの部屋に入るとそこにはカオスが広がっていた。
良く分からない植物や生物の残骸が部屋中に置かれており、色んな形の小瓶や論文の紙が所狭しと棚と机を占領している。
そして薬剤特有の香も部屋の中に充満していた。
「ここに入るの久しぶりだけど掃除したほうがいいと思うぞ」
「この前の洪水騒ぎで随分整理したんだけど、うん。そのときに貴重なサンプルも数点駄目になったんだ、うん」
「申し訳ございませんでした!」
「それで一体何が完成したんだ?」
「色落ち防止の薬剤よ!」
「ふーん」
「ふーん。じゃないわよ!!これは本当に素晴らしいものなのよ!!」
あ、ヤバイ。最初の受け答えを間違えたわ。
ゴンドリアはファッション関係に対する愛が半端無く、他人にはそこまでは求めないが俺達のような身内にファッション関係でいい加減な対応を取られるとヒートアップするんだった。
「元々色落ち防止のために薬剤はあったけど臭いがきつかったり肌が荒れたり大変だったんだから!色落ち防止の魔法もあるけど使える人は限られてるのよ!それが匂いも殆ど無くて肌が荒れるどころか美容液のように肌がすべすべになる薬剤を開発したのよ!これは大発見よ!さすがはフェディ様よ!!」
「いつからフェディは崇拝対象になったんだよ。それむしろ服より美容関係の方向に売り出したほうが売れるんじゃないか?」
「じゃあ両方に売り込めば良いだけでしょ。それはあんたの仕事なんだからちゃんとやってよね!」
「いや、俺は今水筒の……いえ、なんでもございません…快くやらせて頂きます…」
俺は現在研究と水筒の外部発注などで忙しいので他の誰かに任せてくださいと言おうと思ったが、ゴンドリアの無言の圧力に負けて結局俺がやる事になってしまった。
知り合いに美容関係者なんて一人もいないのにどうしよう…
「色落ち防止の件は分かった。でもゴンドリアはともかく何でユーリまでいるんだ?」
「それはあたし達の夏服の制服作りをするからに決まってるでしょうが、色落ち防止の薬剤もそこできちんと使うつもりよ」
「決まってるのかよ!!」
「前に言ったじゃない。ユーリにデザインを描き起こしてもらうって」
「夏服って必要か?ぶっちゃけ上の服脱いで半そでにすれば良いじゃん」
「あんたはファッション関係の全ての人達を敵に回したわ!どうせ暑くなるまでまだ数ヶ月あるじゃんとか思ってるでしょうけど、本来はそのシーズンの一年前から準備するのが普通なのよ!前に冬服しか作らなかったのはセボリーやルピシー辺りが絶対にそう言うと思ってたからよ!」
はい。思ってました……ぶっちゃけ暑くなれば脱げば良いじゃん。
実際汗をかいてもこの服は特別製の布で出来ていて、日光に当たれば汚れや臭いを分解してくれるんだからさ。
って言うか今喋ってるの俺とゴンドリアしかいなくない?
他の皆はどうした?何処に行ったの?
そう思って周りを見渡してみるとルピシー以外のメンバーはフェディと話していた。
そしてルピシーはいつの間にか何処かへいなくなっている。
………あいつ逃げたな!!
これだから野生の感が鋭い奴は嫌なんだ!
自分ひとり逃げやがって!!コンチクショー!!!
「分かった分かった。で、もうデザインは出来ているのか?」
「まだよ。一応あんた達の好みを聞いておかないとと思ってね。好みじゃない物作ったら絶対あんた達着ないでしょうが。それに今丁度制服についてる護符を作り直してるんだから良い機会じゃない、冬服のお直しもするわよ」
確かにそうだな。
いくらゴンドリアが俺達の好みを把握しているとはいえ、出されたものをそのまま着ないと思う。
聖育院にいた時は服は全て寄付された布から作られていたので相当やばいもの以外は好みを言わなかったし言える立場でもなかったが、今はちゃんと自分の好みの物を着たい。
冬服の護符の件は命に関わるから文句は無いがな。
「決定ね。それじゃー、ユーリちゃーん!ご指名よぉ!!」
「はぁーい」
「お前等はクラブのママとナンバーワンホステス嬢か!!」
「また訳の分からない事言ってるわ」
「でもセボリーさんですから」
「何でも俺だからで済むと思うな!あれ?そういえばユーリ、なんか髪の毛の色違くない?」
「はい。フェディさんが毛染め薬作ってくれたんです。ゴンドリアさんと同じ色の金髪にしたんですよ、似合ってますか?」
「うん。良いんじゃない?似合ってるよ」
ああ!いつの間にか嬢との会話みたいになってるし!!
こんな店あっても俺は絶対行かないぞ!どこのオカマバーだっつーの!!
それに今までツッコまなかったが今2人が着ている服はなんなんだよ!?
なんで色違いでお前等お揃いのチャイナ風ミニスカワンピースなんだよ!
見ててイライラするわ!!ガッデム!
ウキウキ顔の2人に他の仲間達は諦めモードで、拒否権は無いも同然なので誰も文句は言えなかった。
その後逃げたルピシーは追いかけられる事も無く放置されたが、制服受け渡しの際に超ド派手な服を制服ですと出されて呆然としていた。
うん、夏服なのに宝塚スターも真っ青になるくらいのスパンコールと羽とかが付いている服だもんな。
ぶっちゃけ冬でも着たくねーわ。
まぁでもその服は冗談で作成されたもので、普通に夏使用のミリタリー系制服を出された時の安堵した顔は、呆然とした顔も含めて他の仲間達の笑いの種になったから、逃げられたむかつきも少し溜飲は下がったわ。