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Public Star~目指せ若隠居への道~  作者: 黛紫水
第三章 成長期の章
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外話 マルコとドリエッタ2

あれから強制的に退院させられたマルコとドリエッタは。まだ痛む体に鞭を打ってジジへ借金を申し込むために寮へと向かっていた。

その姿はまるで宝塚の演者の舞台衣装のようで、道行く人達も2人を好奇と呆れの混じった目で見ている。

しかしそんな事はお構い無しに2人はいそいそと肩で風を切って道中を歩く。

そして寮の前に2人はやってきた。


「ここは女子禁制じゃなくって?」

「大丈夫だろ?どうせ直ぐに終わる用なんだからな。駄目だったら大公公子に寮の外へ出てもらって話せばいいだけだ」

「それもそうですわね」

「行くぞ!」

「えェウゲェ!!」


その時、ガンッと鈍い音と一緒にドリエッタのくぐもった声が響いた。


「な!?どうしたんだ!!?」


男子寮に入ろうと扉を潜ろうとしたドリエッタは、入り口で見えない壁に阻まれ鼻を押さえながらうずくまった。

男子寮と女子寮は基本的に異性の入館は認めておらず、ユーリのような例以外は通り抜けられないようになっている。

もし異性が入り込もうとしても通過承認の門と同じく見えない壁に阻まれるように作られていた。

これは学園に寮が出来た時からの防犯装置であり、昔から女子寮へ忍び込もうとした幾人もの勇者達が犠牲になったシステムである。

ある者は諦め切れず何度も果敢に挑戦して屈服し、またある者は女子寮へ入ろうと躍起になり女装をした結果、その女装が趣味となってしまう者さえいたと言う。

実はこのシステムは入寮すると教えられるものなのだが、この2人はで遊び呆けていたので知りもせず、勢い良く潜った結果がこれであった。

しかもそれぞれ寮の部屋は割り当てられていたのだが、2人は他の生徒と同室ということに我慢できず、学園都市に個人部屋を借りそこで生活をしていたのでその説明も全く聞いていなかった結果がコレである。


「だ、大丈夫か?」

「ッ~~~!!!……コノコノコノ!!!」

「おい…鼻血が出ているぞ、これを使え」


ドリエッタは痛みと怒りをぶつけるかのように見えない壁を鼻血を流しながら何度も蹴りつけた。

流れる鼻血で服を汚さぬように蹴ると言う高等テクニックを使い見えない壁を蹴りつけるドリエッタに、ドン引きしながらも心配そうにハンカチを差し出す辺り、曲がりなりにも自国で貴族教育を受けてきたことを感じさせるマルコであった。


「………お前等何やってるんだ」


その時、そんな彼等の背後に見知った声が聞こえた。

心底呆れたと聞こえる声に振り向くと、そこには2人の目的人物が立っていた。


「おお!これはこれはパラディゾ大公公子!!ご機嫌麗しゅう!!」

「ご機嫌麗しゅうパラディゾ様」


これは好機と優雅にトリノ式礼を取る2人だが、片一方はまだ鼻血を流れ続けている。


「まず鼻血を拭け、地面を汚すな。そして去ね、いや逝ね」

「酷い言い草ですわね!同じトリノ王国の貴族の同胞ですのに!!」

「そうですぞ!」

「お前等がトリノ人を語るな、国の恥晒し共め。話はそれだけか?じゃあな」

「ちょ!ちょっと待ってくださいまし!!」

「お話がございまして!!」

「そうか、じゃあ300年後くらい後に来てくれ、俺は今忙しい」

「無理に決まってるでしょう!!死んでいますわ!!」

「買い物袋を抱えて帰ってくる辺りもう御用時はもう済んでいるのでしょう!!?さぁ!その荷物はお持ちしますのでどうかお話を聞いてください!!」

「触るな、馬鹿が移る」

「「ヒドイ!!」」


ジジは買い物をしてきたところなのか、袋を両手で抱えていた。

ジジはそれを持とうとした手を払いのけ寮へ入ろうとするが、マルコの必死のセーブに邪魔され寮へ入れずイライラが増してくる。

そのイライラはジジの中に押し込められていたが、確実に溜まっていった。


「ドリエッタ、とりあえず鼻血を拭け!そんな姿じゃ様にならんぞ!」

「そうですわね!でもなんであたくしが入れませんの!!?」

「男子寮には女子は入れないんだ。そんな事も知らないのか、逝ね」

「「だから話を聞いてください!!」」

「知るか」

「「そこを何とか!!!」」

「ハァ……で、話とは?」

「ここではドリエッタが入れませんので場所を移しませんか?」

「面倒くさい」

「「面倒くさがらないで!!」」

「何を騒いでるんだい?君は確か712号室のフェルディアーノ・ジョルジュ君と604号室のマルコ・マキシマム君だよね?マキシマム君のほうは全くここには帰ってこないけど」


ジジのやる気の無い受け答えに2人は必死に叫んでいたところに、騒ぎを聞きつけたのか寮長が扉から顔を覗かせた。


寮長とは寮の管理人の事であり、寮に関する全ての事を取り仕切っている者を言う。

勿論歴としたサンティアス学園の職員であり、男子寮女子寮それぞれ3人体制で勤務している。


「なんでもありません」

「少し話がありまして!部屋でお話をするはずだったのですがですが、あたくしが女ですので入れなかったんですの!!」

「ああ、それだったらこの紙に名前と生徒番号を書いて、この入館バッチつけたら入れますよ。このバッチをしていれば1時間だけこの寮に入ることが出来ます。もし1時間を過ぎたり外したりしたら強制退寮してもらいます。後は問題を起こしたのなら問題を起こした人と一緒にいた人は罰を受けてもらいますがね」

「俺はこいつらと話が無いので大丈夫です」

「「あたくし(俺様)はあります!!」」

「ん~、とにかく入り口の前で騒がれるのも困るから入れて話だけでもを聞いてあげなさい」

「「やった!!」」


寮長の言葉を聞いて明らかに喜ぶ2人と、逆に奈落の底まで行く事が決定したかのような表情のジジ。


「ハァ………」


意気揚々と寮の中へ入る2人とは打って変わり、ジジは憂鬱だと言わんばかりに歩いていく。

712号室の前に着くとジジは扉の前で待っていろと言い部屋の中へ入っていった。

待っている間2人は想像を膨らませていく。


「きっと俺様たちを歓待するための準備をしているんだな!」

「でしょうね!他の貴族が自分の家へ来た時に歓待しないなんてありえないですもの!」

「きっと豪華な食事と催し物が俺様達を待っているぞ!」

「ええ!楽しみにしてましょう!」


想像を膨らませていた2人の耳に扉の鍵が解除された音が聞こえてくる。

そしてドアが開き入ろうとした瞬間にジジが扉の外へ出てきてその扉を閉めた。


「で、話とは?」

「へ?歓待は?」

「そんなのやるか」

「え!?何でですの!?」

「やる必要性もやる気も無いからだ」


ジジが部屋から出て来てそのまま話をしようとするが2人は疑問を投げかける。

しかしジジは冷たく現実を投げ返す。


「何でお前等にそんな事をしなければならない」

「いや、だって貴族なら…」

「この国の貴族ならまだしもお前等と俺はトリノ王国の一留学生としてこの国に来ている。だから貴族だろうが貴族じゃなかろうが関係ない」

「ですが!」

「それにここは俺だけの部屋じゃない、他の同級生が一緒に暮らしているんだ。お前等がいるだけで迷惑が掛かる、扉の前ですら迷惑の境界線を2歩ほど出ているんだからそれをしっかり理解しろ」

「そんな!!」

「あんまりですわ!!」

「話が無いのなら帰ってくれ、俺はやりたい事があるから」

「いや!話はあります!」

「そうですわ!ありますの!!」

「…」


ジジは無言で腕を組み、顎でさぁ話せと促した。


2人は馬鹿正直に自分達の今までの生活を語りだす。

何も準備をせずに迷宮に潜り、返り討ちにあって入院したらへそくりも全て使い切って金が無くなり、借金を申し込むためにジジに会いにきたことを…

その話を聞いていたジジは始終無表情だがコメカミには青筋が見え、話を聞くごとに頬の筋肉がぴくぴくと動くのが見て取れた。

今までも産業廃棄物を見る目で見ていたが、それが産業廃棄物以下の何かを見る目をしている。


「と言うわけなんです!どうか金を貸してください!」

「手始めに100万Zほどお貸しくださいませ!」

「…………………………」

「…あの?大公公子?」

「どうなさいましたの?」


無表情で押し黙っているジジに困惑する2人だが、その瞬間ジジは地獄の底から上がってきたような声で話し始めた。


「…………その服は一体どうしたんだ?宝石がたくさんついているようだが」

「良くぞ聞いてくださいましたわ!!この服はあたくしがこの学園都市に来る時にお父様がこしらえてくださったものですの!!その価値はトリノ王国で平民の家が10軒も建つと聞きましたわ!!」

「この服もそうです!父上がこしらえてくれたんです!俺様にお似合いの服でしょう!?特にこの襟の所が…」

「…………………………」

「あのぉ…」

「……パラディゾ様?」

「お前等ざっけんなぁあーーーーーーーー!!!」

「ヒィィイイーーーーーーーーーーーー!!!」


その日、防音対策が張られていた筈の同じフロアの部屋にまでジジの声が響き渡った。

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