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Public Star~目指せ若隠居への道~  作者: 黛紫水
第三章 成長期の章
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外話 マルコとドリエッタ

これはセボリー達がエルドラドへ花祭りを見に行っていた時の話である。



「クソ!何で俺様がこんな目にあわなければいけないんだ!!俺様にはもっと派手な生活がお似合いなのに!!」

「同感ですわ!なんであたくしがこんな生活しければいけないの!?もっと優雅で刺激に溢れた楽しい生活が出来ると聞いて留学してきたのに!!」


マルコとドリエッタは現在、病院でベッドを二つ並べて横たわっていた。

2人が入院している部屋には他の患者もおり、彼等の大きな声に眉をひそめている。


「なんで一階層の迷宮であんな化け物が出てくるんだ!」

「知りませんわ!大体周りの冒険者達もただ見ているだけとは…普通こんな可憐な少女が困っていたら手を差し伸べるのが紳士の決まりごとでしょうが!!」

「あの時俺様の必殺技が決まっていれば…」

「ああ…国に帰りたい…夜な夜な華麗な舞踏会にくりだして、昼過ぎまで寝た後に夕方までお友達とお茶会、そしてまた夜会の生活に戻りたいわ…」

「しかしなんで俺様の下僕達は入国を許可されなかったんだ!もしあいつ等がいればもっと楽に生活できたのに!!聖帝国は他国人に冷たすぎるぞ!!」

「お父様からの仕送りが無くなるなんて…お父様はあたくしのことが可愛くないの!?子供が快適に生活できるようにするのが親の勤めというものでしょう!!」


大声で自分の主張を叫ぶ2人に同室の人たちはそろそろ堪忍袋の尾が切れ掛かっていた。

しかし2人は口滑らかにしゃべるのをやめない。


「それにしてもまさかパラディゾ大公公子が在籍していたなんて…」

「俺様もそれは驚いた。だが貴族たる者いつ何時も輝いていなければいけないのに、何故あの方はあんな地味な格好をしているんだ?」

「きっと趣味が悪いのね。それなら納得が行きますわ」

「だが金は持っているぞ、なんせあのパラディゾ大公家の嫡男なんだからな!」

「出来るならあれ位の大金持ちの家に嫁ぎたいですわ」

「金金金!世の中全て金だ!だがその金も今は心もとない」

「確かにお金も大事ですわ。でも顔も大事ですわ!いくらお金持ちでも不細工はごめんですもの!!」


2人のいる部屋の患者の殆どは他国から来た冒険者だ。彼等は幼い時から貧しく苦労して生活してきた人間なので、2人の主張を聞いているだけで腹が立つのはもっともな話である。

中には青筋を立て怒りを抑えている者や、何か投げる物はないかと探している者も見受けられた。


「しかし病院食は味が薄いな!美味いんだがどうにも物足りん!!もっと脂ぎったものが食いたいぞ!」

「でもそんなお金ありませんことよ。この病院に入る時にへそくりは全て出し切ってしまいましたもの」

「金欠か。世の中世知辛いな…」

「そうですわ!あたくし良い考えが思い浮かびました!パラディゾ大公公子に借金の申し込みに行きましょう!きっと貸していただけるわ!もしかしたら仲良くなってお金を返さなくても良いって言ってくださるかも!」

「そうかもな!あの方は何かと俺様達同国人には弱いからな!!」

「我ながら名案ですわ!」

「怪我が治ったら早速行こう!!」

「「もうこんな生活は嫌だ!!」」


その時2人へ向かってゴミ箱が飛んできた。


「うお!!」

「なんですの!?」

「お前等聞いていれば馬鹿な事言いやがって!これだから貴族は嫌いなんだ!大体自分の欲望を満たすためだけに借金するだぁ?馬鹿も休み休み言え!」

「この国じゃお前等貴族も平民と同じなんだよ!そこをわきまえろ!」


ついに同室の患者達の堪忍袋の緒が切れた。

投げられたゴミ箱の中にはちり紙やら埃などが入っていて2人はゴミ塗れになりつつも文句を垂れ流す。


「無礼な!」

「お前等のような貧乏人と一緒にするな!俺様はトリノ王国伯爵家の出だぞ!お前達なんて父上に言いつければいつでも殺せるんだ!!」

「やってみろ!」

「この国でそんな事をしてみろ!お前も含めて親も皆犯罪奴隷になるぞ」

「「う!!」」


そこで騒ぎを聞きつけた看護師が部屋に姿を現し患者達に注意する。


「病院内では静かにしてください。あまりにもひどい場合即出て行ってもらいますよ」

「心配するな、俺達は弁えてる。問題はこいつ等だ。なぁ?」

「ああ。そうだな」

「余りはしゃぎすぎると直るモノも直りませんからね」

「お!心配してくれるのか?流石は看護師研修生の鏡だ、ミリア結婚してくれ」

「おい!抜け駆けするなよ!」

「皆退院してからって決まりだろうが!入院した時から決めてました!!」

「お断りいたします、皆絶対に無理です」

「「「ひでぇ!!」」」

「良いですか?皆さん入院中なんですから安静にしてくださいね」

「「「おう!」」」


入院患者たちの息のあった受け答えに、看護師は呆れながら部屋から出て行く。

それを見届けてからまた入院している患者兼冒険者は馬鹿2人に話しかける。


「おい、お前等。迷宮に潜ったって言っていたが1階層でリタイアするってどういうことだ?」

「大方試しの迷宮をすっ飛ばして直接潜ったんだろ?良く聞く話だぜ」

「まぁ、普通は聖帝国外で鍛えてから冒険者になる奴が多いから滅多な事で1階層では躓きはしないんだがな」

「話の流れからして、どうせ学園で問題起こして父親に怒られた挙句に仕送りが止まったから迷宮に潜りました、みたいな流れだろ?」

「毎年いるよなそんな奴等」

「いるいる、恒例行事だ」


馬鹿2人に話しかけていた筈の患者兼冒険者達は、馬鹿2人の存在を忘れたかのように内輪で盛り上がっていく。


「お前等黙っていれば好き勝手に!!」

「無礼千万も程がありましてよ!!」

「俺様たちはそんな奴等とは違うんだ!確かに仕送りは止められたがこれから迷宮で稼ぐんだ!!」

「そうですわ!この前は運が悪かっただけですわ!きっと最下層のボスが1階層に出てきたのよ!!」


馬鹿2人の抗議に患者兼冒険者達は「あ、そう言えばいたんだっけ」といわんばかりの表情をした後、さも興味なさげに馬鹿2人を見る。


「で、どんなモンスターだったんだ?」

「教えてみろよ」

「俺達だって迷宮に潜ってんだ。それなりにモンスターの事ならわかる」


患者兼冒険者達は鼻で笑いながら2人に問うた。


「気持ちが悪い小人よ!何ですのあれ!臭くてたまらなかったわ!あたくしの余りにも美しい姿をみて騒いでましたけど!!」

「あれはきっと最下層のボスの用心棒か何かだな!!」

「そのモンスターはどんな色をしていた?」

「「緑」」


馬鹿2人の回答に鼻の穴が膨らむ患者兼冒険者達。


「で服装は?」

「腰布一枚でしたわ!!何ですの!あの不埒で野蛮な格好は!!」

「流石の俺様もアレには顔を顰めたぞ!しかしあの腰布から垂れ下がるあの大きなモノ…な!何を見ている!羨ましくなんてないぞ!!!」


患者兼冒険者達が震えだす。

が、寒いからではないらしい。


「武器は?」

「木の棍棒でしたわね」

「アレはきっと見た目は木だが物凄い攻撃力のある金属に決まっている!!」


終に噴出す患者兼冒険者達。


「思いっきり唯のゴブリンじゃねーか」

「一番弱いモンスターの一種だぞ」

「あいつらは男でも女でも関係ないからな。女だったら襲って子供生ませるが、男だったらただの処理機だ」

「そいつ等に負けるって…才能無いからもう諦めて国に帰れよ」

「どうせ国に帰るのも金が掛かるから帰らないんだろ?」

「帰らないんじゃなくて帰れないの間違いだろう」

「へそくりも使い果たしたって言ってたしな。多分移転陣の許可証も持ってないんだろな」

「うわ!悲惨」

「貴様らぁぁぁあああ!!!」

「許しませんわよぉぉぉおおおおお!!」

「静かにしてください、本当に出て行ってもらいますよ」


からかいが入った会話を聞きながらドリエッタとマルコは、先程自分達に投げられたゴミ箱を拾い患者達に投げつけようとしたが、先程の看護婦が病室へ入ってきて注意してきたので投げつける事ができなかった。


「クソ…」

「とにかく今は治療に専念しましょう…あたくし達の怪我が治ったら覚悟しておきなさい!」

「はいはい」

「だが冗談抜きで金のありがたみを知れ」

「俺は他国の田舎育ちだったから貧しかったんだ、でも迷宮冒険者になるために必死で鍛えたけどな」

「俺もだ。この国では他国人でも迷宮冒険者なら稼げると昔聞いてがんばった記憶があるぞ」

「まぁ迷宮冒険者になる前に聖帝国に入国するほうがいろいろ大変だったがな」

「初心者なんだからまずは試しの迷宮に潜ってみろや、金稼ぎはそれからだぞ」

「今すぐ金が欲しいんだ!ステーキが食いたい!!」

「あたくしは新しい服がほしいですわ!!」

「俺様にぴったりな豪華な靴も欲しいな!!!」

「あたくしは宝石ですわ!!!」

「「「駄目だこりゃ…」」」


この10分後、2人と同室の患者達は買い言葉に売り言葉になり、再び騒ぎを聞きつけた看護師が婦長を呼び婦長に本気で怒られた後、ある程度回復したところでこの部屋の患者達は全員無理やり退院させられるのであった。

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