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Public Star~目指せ若隠居への道~  作者: 黛紫水
第三章 成長期の章
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第六十一話 魔法構築式

俺達はエルトウェリオン領から帰ってくると、各々思うことあったからかすぐには迷宮には潜らず自分の鍛錬や研究に明け暮れた。


俺は現在ウィルさんから言われた魔法構築の勉強をし直している。

しかし俺は現在とてつもなく行き詰っていた。

威力が高く効率が良く使い勝手の良い魔法構築式を考えているのだが、なかなか形にならない。

威力を出すと魔力が異常なほど吸われ、効率を重視すると威力は全くでないのだ。

魔法構築式とは一種の数式である。

使用する魔法の構築式さえ理解していれば無詠唱で魔法を使う事が出来る。

ただし威力が高く効率の良い構築式ほど、その構成はとても複雑で理解するのが難しくなってくる。

しかも書かれている言語が現代アルゲア語だったらまだ良いが、古い文字のほうが効率が良い式もあり、様々な時代の言葉を組み合わせたり省いたりする場合もある。


余談だが俺はこのアルゲア語の文字がとても苦手だ。

過去や未来の文法だけでも数十個あり、はっきり言って欠陥言語ではないのだろうかと思うほどの難解さで、初等部入学前に聖育院じっかで先生に習った時点で白旗を揚げたかった位の苦手意識を持っている。

そんな俺がさらに難しい中世アルゲア語や古代アルゲア語、さらには古代精霊アルゲア語など完璧に習得できるわけねーだろうと言う話になってくる。

護符アミュレットの魔法構築式はシエルがやってくれたので特に問題は無かったが、今シエル先生は自分の武器作りに夢中で俺の相手をしてくれない状態だ。

これではいかんと気を振り絞って学園の言語学教諭に教えを請うたのだが、最近は言語学に興味がある学生が少ないらしく、先生の教員室でワンツーマン状態で講習を受ける破目になってしまった。

別に講習を受けるのは良いのだがその先生がスパルタマンの上に暑苦しいと言う弊害があり、ある程度は理解できたのだがそれ以上は頭が理解する事を拒否してしまい、結局現在全く講習を受けていない状態であった。


そんな俺は今のんびりとお茶を飲んでいる。


「ふぅ。今日もお茶が美味いですなぁ」


そう。完璧なる現実逃避だ。

俺はコレを気分転換や戦略的撤退と呼ぶが、他の人からしてみたら完全なるサボりである。

そんなのほほん気分の俺に襲い掛かるモノがあった。


「ぐぉ!クソ!またお前か!!」


商会事務所の窓から見える景色の中に存在するアルゲア語の羅列。

しかもむかつく事に態々古めかしい文字で書かれている看板や、広告の数々。

その文字がサボる俺の苦手意識を倍増させ、恐怖させていた。


「アルゲア語が俺を襲ってくる…アルゲア語怖いよアルゲア語怖いよぉ…」


そんな俺の姿を仲間達が憐れみと呆れの混じった目で見ている。


「確かに私もアルゲア語を覚えるのは大変でしたよ」

「ユーリもか、私も苦労した覚えがある」


ユーリとヤンがお互いに言語苦労あるあるを話をする。


ん?そういえばチャンドランディア藩王国連邦とガンテミア双王国も言語はアルゲア語ではなかったよな…

でもヤンは6歳の時から完璧にアルゲア語をしゃべっていたぞ。

っと言う事は学園都市に来る前に習得していたということか…なにその天才幼児…


「ヤンもユーリも母国語はアルゲア語じゃないものね」


ゴンドリア。俺も母国語はアルゲア語じゃないんですよ。

俺の母国語は日本語だ!

多言語なんて受験英語と第二言語で選択したスペイン語の挨拶程度しか出来ねーよ!!

え?今アルゲア語話してるって?

そりゃこの世界で意識が蘇ってからかれこれ7年以上なんだから喋れるわ!

でも専門的なことなんてわからねーよ!

あんたらは古文の言葉を日常生活でそのまま話せるか!?

話せねーだろ!!


「ああ、私の国では部族ごとに話す言葉が違うので少なくとも10言語は覚えておかないといけない。チャンドランディア藩王国連邦全体で言語の数が100近くあるから大変だぞ。公用語は3つだけどな」


心の中の怒りを爆発している最中も話は進んでいく。


「ガンテミア双王国は公用語が2つで部族言語が数個ありますが、流石に100個は無いですね」

「ちなみに公用語のひとつがアルゲア語だ。まぁ名ばかりの公用語だけどな。話せる者は知識人か貴族か王族だけだ」

「うちも公用語のひとつはアルゲア語ですよ。話せるのは同じく知識人か貴族か王族だけですけどね」


すんません、聞いてるだけでもお腹いっぱいなんですけど……

言語が100以上?なにそれ?美味しいの?

お腹もいっぱいで頭も痛くなってきました。

マジで食傷気味なんですけど。


「良くそんなに言葉覚えられるな……」


うんうん。ルピシーも食傷気味っぽい。

目茶苦茶嫌な顔してるし。


「元になった言葉が同じだから文法や固有名詞が似ているんだよ。だからそんなに苦労はしない」


ふむ、つまり方言の違いのようなものだろうか?

俺は前世で6ヶ国語を話す奴を知っているが、そいつが言うにはスペイン語とポルトガル語の違いは日本語の標準語と関西弁の違いくらいだと言われた事がある。

最初はそんな馬鹿なと思ったが元になった言葉が同じなので大体理解でき、少しニュアンスが違うところもあるが、発音を少し弄くれば現地でも普通に通じるのだと言っていた。

まさにそれと同じ事をヤンは言っているのだろう。


「一番苦労したのがアルゲア語だ。この言語は私の国の言語とは文法自体違うからな、しかもアルゲア語のほうが語量が多くて発音も難しい。話すのはまだ良いとして、昔は読み書きが不安でたまらなかった」

「私もそうでしたね。今でも読み書きで苦手意識がありますし」

「別に話せなくてもボディランゲージで通じないか?俺は勢いで喋って相手が離れていくのを待つぞ!」

「いや、それ確実に通じてないから…」

「相手が諦めて他の人を探すために離れているだけだろうな」


ルピシー…お前はそんな事をやっていたのか……

相手方の苦労が目に浮かぶわ!!


「魔法構築式は色々難しいからな。私も前にアルゲア語ではなく母国語で構築してみたが、簡単な物ならいざ知らず複雑な物になると全く発動しなかった」


ん?ヤンの母国語で魔法構築式が発動した?


「ちょいと待て!もしかしてアルゲア語以外でも魔法構築って出来るものなのか!!?」

「一応出来るが自分で一から組み上げないといけないから面倒だぞ」


俺の言葉に魔法を使う連中が「何を今更」と言いたげな目で見ているが、そんなの気になんてしていられない。


「それだ!!」


ヤンが光をくれましたよ!

アルゲア語が駄目なら日本語で組めば良いんじゃん!

何でそんな簡単な事を思いつかなかったんだろう。

そういえばプログラミングでも日本語で構成するプログラミング言語があったはずだ!

早速研究実験を行ってみよう!!


「ヤンありがとう!少し光が見えてきた!!」

「……ああ、良く分からんが良かったな」


俺は早速商会の自分にあてがわれた部屋へと直行し、日本語で魔法構築式を書き始めた。

まずは簡単なクリエイトアクアで試してみたところ見事に成功し、一度に作れる水の量が2倍に成り魔力の消費が6割も抑えられた。

しかし、先程ヤンが言った通り一から組み上げなければいけないために、こんな簡単な術式でも完成するのに半日も掛かってしまった。

さらにこの元になった日本語のクリエイトアクアの構築式を改良しようと文字を削ったり足したりしていると、発動されなくなると言う問題に直面した。

いつも使っていたクリエイトアクアの構築式を日本語に当てはめただけでは発動はするが微調整は出来ないのかもしれない。

そこで次の日は授業が無い事を良い事に、部屋に篭り夜更かしで構築式を書いていた。

先程の元になった構築式を流用する事はせずに、また一から組み上げる。

一回やった作業なので一回目よりは早くできるようになってきた。

最初クリエイトアクアの構築式の真ん中に『水』と言う漢字を入れて発動させたのだが、今回は『造水』と入れて書き込むと一回目の構築式よりも量が多くなり魔力も削減できた。

とても手間は掛かるが、古代アルゲア語を解読しながら組むよりは数段マシな作業である。


「出来た…」


空が白み始めてきた頃、俺は日本語版クリエイトアクアの式が封された水筒を完成させた。

式は完成し発動するのは分かったが、魔道具マジックアイテムにする事は出来ないかと思いつき一晩でやり遂げましたよ。

この水筒はもし水がなくなっても魔力を注げば自動的に水を作り出し補充してくれる優れものである。

水筒の中の水も飲んでみたが全く異常はなかった。


明日と言うか今日辺り皆に意見を聞いて製品化しようかな…


この日本語で書く魔法構築式のおかげで俺の魔法はより効率化することは間違いないだろう。

後は構築式を自分で作り上げるだけだ!!


その日、皆の前で例の水筒をプレゼンし、無事採用される事になる。

しかし俺等では作る暇が無いと言う事で外部委託するために、俺が走り回らなければならない破目になった事を記述しておく。

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