第五十八話 稽古
剣と剣がぶつかり合う音が聞こえる…
今、俺達迷宮組はウィルさんに稽古をつけてもらっている最中なのだが─
「ルピシー!お前は身体能力と勘に頼りすぎだ!力任せに剣を使うとそのうち剣もお前自身も壊れるぞ!!後もっと後先の事も考えて行動しろ!!それとお前の型は綺麗過ぎる!人間相手だったら良いがモンスターには通じねーぞ!」
「うっす!!!」
めっちゃ駄目だしされてます。
俺達の剣の型はラングニール先生から教わった型が原型になっている。
ラングニール先生は俺達に教える際、基本に忠実に教えていた。
下地の基本がしっかり出来ていないと後に苦労するからと、口を酸っぱくして言われた事を思い出す。
俺達も素直にその教えを守って反復して練習をしていたから、逆に型が固まってしまったのだろう。
前の資格試験で戦ったラングニール先生の剣捌きは、昔俺達に見せていた物とは全く違って少し驚いた記憶があるが、あれが本来のラングニール先生の型なのだろう。
しかしラングニール先生、ボコボコにされた恨みは今でも忘れんぞ!
「次、ヤン!お前は魔法に頼りすぎだ。その剣はお飾りか!?てかお前長剣より短剣のほうが得意だろう!そんな感じの剣捌きだぞ!お前は放出系の魔法を多用しすぎだ。おもいっきり初心者ですって言ってるようなもんだぞ!長距離中距離の敵には良いかもしれないが近距離の場合自分や仲間も被害にあう!!魔法には色々な使い方があるんだからそこも考えろ!」
「はい!」
ヤンは剣と魔法の両方使いでウィルさんと戦法が似ている。
しかしヤンはどちらかと言うと魔法に頼りすぎている面もあるらしく、魔法力を上げることより剣と魔法を生かした戦法をしろと注意されていた。
「シエル!お前は確かに後衛だがもっと体捌きを良くしろ!肉体的に強くなれとは言わないが、せめて攻撃を避けられる位には鍛えろ!余裕があるならば体術やそれに変わる物理的攻撃術も養っておけ!」
「分かりました」
シエルは完全に魔法タイプなので魔法以外の攻撃はやってこなかった。
今までは良かったかもしれないが、これからどんどんと敵の種類や戦法が多くなってくるのでそこも考えろとの事だ。
「セボリー、お前は全部中途半端だ!お前はどちらかと言うと攻守バランス型だが圧倒的に攻撃力に欠ける!物理的にも魔法的にもな!お前はまず魔法力を鍛えろ決定打は今は他のメンバーに任せてしまえ!今はその多彩な魔法の使い方を考えて鍛えていた方が絶対に良い!それとお前は逃げ足は速いが、ピンチになると頭で考えすぎて動けなくなっている傾向がある!ルピシー程頼りすぎるのは良くないが少しは勘に頼れ!」
「はい」
俺が気にしていた事をズバズバと言ってくる。事実だから何も言んがな。
確かに俺は物理的な攻撃はメンバーの中ではシエルと同じくらい最下級だ、それは認める。
一見非力に見えるフェディにさえ筋力で負けているからな。
それに攻撃を避けるのは得意だが、いざピンチになるとどうして良いのか分からなくなってしまう。
これはある意味前世からの後遺症と言うか、所謂平和ボケのせいだと思う。
そして俺の魔法は攻撃力がかなり低い。
元々攻撃タイプの魔法が少ない土属性が得意と言う理由もあるが、これも生まれもった質のようだ。
時間を掛けるばそれなりの攻撃力を持たせた魔法を打ち出せるのだが、実践では絶対にそんな時間は無いだろう。
それはラングニール先生も言っていたことだ。
「そういえばシエル、お前は武器を持たないのか?」
ウィルさんが俺達の中で唯一手ぶらで戦うシエルにそう問いかけた。
「今製作中なんですよ。でもどうにも行き詰ってしまって…」
「どんな武器にしようと思ってるんだ?」
「セボリーの精霊聖典のような本型を考えています」
「本人の勝手かもしれんが、お前唯でさえ防御力無いんだからそれ考慮に入れておいたほうが良いと思うぞ。例えば盾とかな。まぁ、攻撃は最大の防御とも言うがな」
「考慮します」
確かに攻撃は最大の防御だが、シエルは魔法攻撃力はあるが手数が少ない。
さらに一回全ての手数を放出してしまうと充填に時間が掛かる問題を抱えている。
俺のように手数があって充填にも時間が掛からないが攻撃力が乏しいのと、どちらが良いのかと聞かれればどちらも微妙である。
「逆に防御が最大の攻撃とかは無いんですかね?俺の場合はそっち方向が良いんですが」
「あ~ん?まぁ確かにお前は決定打が無いから防御しつつ隙を見て打ち込む戦法が良いかもしれないが、セボリーお前その隙が出来る前に持ちこたえる自信があるのか?ねーだろ?とりあえずお前はそのバリエーションを生かす戦法を磨け。発展はその後だ」
至極全うな事を言われて少し落ち込んだがまだ希望はある、俺達はまだまだ伸び代があるからな。
「ところでウィルさんの得意な魔法って火属性だけなんですか?」
そういえばこの人の元素系の属性魔法って火属製しか見たこと無いな。
まぁあの音を聞こえなくする魔法も一応風属性が入ってるっぽいが、どちらかと言うと空間魔法だったし。
「火と雷と光だ。後は構築式を弄くって他の属性に置き換えたりしているな」
「そんな事も出来るんですか?」
「本来の術より少し魔力を食うが火属性のモンスターに同属性や雷は効きずらいからな、水や土に書き換えて使う時もある」
おやおや、何か簡単だろって感じで言ってくれちゃってるけど、それって結構高等技術だよね?
この人中身は残念だが頭は頗る良いからそんな事言えるんですね。
確かに魔法構築式を知っていたら効率の良い置き換え方も出来る、ただし一つ間違えば良くて魔法が発動しないし悪くて暴走するだろうがな。
ちょっと試してみるか。
「え~~っと…『クリエイトウィンド』…うわっ寒!!」
俺はクリエイトアクアの水属性の構築式を風属性にそのまま置き換え、人のいない方向に放出してみた。
本来ならちょっと強い風が吹く程度に設定したはずなんだが、発動してみたら一瞬にして俺の周りが凍り付いてしまった。
「何やってんのお前」
「いや、ちょっと構築式を弄くってみたらこんな事に…」
「その式見せてみろ」
「これです」
俺は宙にその構築式を枝を使って地面に書き出すと、ウィルさんはおもいっきり顔を顰めた。
それは苦虫を口いっぱい詰め込んで噛んだ如くな。
「この構築式は形が汚い!それに属性の部分をそのまま書き換えるとか馬鹿じゃね?効果以前に全てが駄目だ!」
「ヒデー!!」
「この構築式を見る限り水を作り出す公式を弄くったな。で、風に置き換えたわけか。でもこれ水の属性が全く消えてねーぞ。風と合わさって氷属性になってる。暑い場所か雑草の多い所で使うんだったら良いかもな」
俺はクーラーか草刈機か!?
確かに失敗はしたがそれ以前の問題とか言われてマジでへこむんですけど。
「大体構築が雑すぎる。お前良くこれで魔道具作れたな」
「護符はシエルが魔法構築式を書き出してくれたから出来たんですよ」
「成る程な。さっき言った言葉少し撤回するわ。お前はまず魔法構築学から学び直せ。そうしたら他の魔法ももっと効率が良くなるし攻撃力も上がる。それに魔道具作成にも役に立つ」
「本当ですか!?」
「ああ、さっきも言ったがお前の強みは多彩な魔法バリエーションだ。だからそれを増やしつつ効率化していけ。幸いにしてお前は魔力が高いからな、色んなことが出来ると思うぞ。と言うか今までその高い魔力でごり押しだったんだろうがな。ところでお前は使い魔コーセーだけしかいないのか?折角テイマーのスキル持ってるんだからもっと増やせよ」
「それには深い事情がありまして…」
痛いところを突かれた。
俺は例のハムハムのスキルのせいでピケット種しか使い魔に出来ないんだよ。
俺だって出来る事ならもっといろんな種類の動物を侍らせたいわ!!
クッソ!他のメンバーがニヤニヤ笑ってるのが余計にイラつきを倍増させてる!!
「なんだそりゃ!ぶはははははは!!!」
事情を説明した途端にウィルさんが俺を指差し大爆笑をし始めた。
おい、人を指差すんじゃありませんよ、このインテリ馬鹿。
「ははは。いやぁ、まさかそんな事情があるとブハッ!!」
「いや、笑う気持ちは分かるんですがひどくないですか?」
「すまんすまん。あ~笑ったわ!しっかし、本当にお前は面白いな」
「よし、公星。今から休憩の時に出されるおやつでウィルさんの分はお前が食って良いぞ。俺が許す!」
「モッキュー!!」
「何でだよ!!」
「それではウィルブライン様はお茶だけでよろしいですね」
「おい、待てやぁ!!」
その時丁度休憩のために使用人のお姉さんが俺達のおやつを持ってきいて、お姉さんはかなり鍛えられた人らしく、素晴らしい笑顔で俺の発言に乗ってくれた。
流石はエルトウェリオン公爵家のメイドさんだ、仕事が出来ますこと。おほほほほ。
「じゃあ、ウィルさんのお茶は俺が貰って良いよな!!やったぜ!!!」
「よし!お前今から前よりボッコボコにしてやるから準備しろ!」
そこにルピシー素で乗っかってきた。
「モキュモキュ(はぐはぐ)」
「って!もう俺のおやつ食われてるんだけど!!」
「あら、コーセーちゃんは仕事がお早いですね」
「お早いですねじゃねー!俺のおやつ!!!」
おい、地面に膝を付き悔し泣きしているぞ。
三十路にもなっておやつで泣く大人って…
「ウィル兄さん大丈夫ですよ。厨房に行ったらきっとおやつ出してくれますって。今皆夕食の準備でそれどころじゃないと思いますけど」
「絶対に追い出されるに決まってんだろうが!!よし!お前等俺に分けろ!!」
「坊ちゃま達は育ち盛りで沢山の栄養を取らなければならないですから、ウィルブライン様は我慢してくださいませ」
「俺のおやつーーーーー!!!」
結局その後、メイドのお姉さんが新しいおやつを持ってきてくれたが、また公星に食べられて男泣きするウィルさんの姿があった。