第五十五話 手紙
静まり返る部屋の中で、エルドラド大公の声が発せられた。
「では言うぞ。おぬしにあのお方の事に関する情報制限を限定的にだが一部解除するとのお達しだ」
「………………へ?」
え?何?つまり別に知りたくも無い聖下の事を強制的に知らされるって事?
なんで?どうしてよ?
明らかに百面相している俺に向かってホーエンハイム公爵が語り掛ける。
「要するに、私達がお前に聖下の事に関して知っている事ならば話しても良いと言う事らしい。私達も一昨日の夜に出された伝令だったので少々面食らっているがな、だから4日目の劇の終わりにそれとなくあのお方の話をしたのだ」
アライアス公爵が笑いを堪えた声で話し始める。
「あの指輪は前も話したがある一定の条件でしか能力が発動されないようなのだ。我々はその条件を知らんがどうやらその条件を満たしたと言う事だな。この件にしろ、どうやらおぬしは聖下に気に入られたらしいわい」
あの嫌な予感はこれだったのか!!!
全ての間違いの始まりはどうやらこの指輪だったらしい。
すんませんがマジで外してくださいこの指輪…
この世の終わりのような顔をしている俺を見ながらウィルさんが心配そうにアライアス公爵へ質問する。
「なぁ、親父。なんか俺普通にこの場所にいるけどさ、この話聞いててもいいのか?」
「ああ、心配ない。次代アライアス公爵にはお前が花丸大本命だからな」
「はぁ!!?おい!マジかよ!嘘って言ってくれ!!」
ははは!ざまぁ!!
いやぁ、他人の不幸は美味しいですなぁ…
自分の不幸を隠すために他人の不幸を愛でて現実逃避をする俺に、ウィルさんは助けを求めてきたが俺にはそんな余裕はございません!
「おい!セボリー助けろ!」
「がんば☆」
「なんかわかんねーけどスッゲーむかつく!!!」
「学生時代の行いとかを考えると、どう見てもアライアス公爵就任に不安しか感じませんけど、俺には直接的に関係ないので頑張ってくださいって感じ?」
「お前後で覚えてろよ…」
あ、ヤバイ目がマジだわ。
この前のルピシーみたいにボッコボコにされそうだ。
三公爵と大公はそんな俺達を面白そうに眺めている。
アライアス公爵もそんな息子の姿を見ながら溜息をつき呟いた。
「まぁ、半分は冗談だがな」
「嘘なのか!やった!………って今半分って言ったか!?」
「ああ、言うたぞ」
「その半分って何だよ」
「アライアスの継承権を正式に持つ者は今はお前とウルフィラーナとウォルトレインだけだが、消去法でお前しかおらんのだ。ウォルトレイオンとウルフィラーナは完全にやる気がないのでな。この前会って話した時にお前に押し付ける気満々だったしの…」
「兄貴や姉貴は何考えてやがる!俺も継ぐ気なんてねーよ!だから無理だっつーの!!」
「まぁ実際本当に君が一番の候補者なんだがね」
「近いうちに聖下からお呼び出しがあるのではないか?」
そこでエルトウェリオン公爵とホーエンハイム公爵も話に加わる。
真剣な顔をしているがその目は確かに笑っていた。
うわぁ、すっごい悪い顔だな、The腹黒ってかんじだわ…
「他の24家の候補者達も継ぎたいと立候補する者が少ない。自分で言うのもなんだが24家はこの国の権威の象徴のはずなのにな」
「野心が無いのも困り者だな」
「野心があったとしても邪な野心の持ち主では当主に認められはせんわい。こいつの場合は頭は悪くない唯の馬鹿だからな、それなりに謀計もできる。まぁ本当に馬鹿だが」
「馬鹿馬鹿うっせーよ!!!」
あのぉ、俺は貴族漫才見るためにここに呼ばれてきたんでしょうか?
ぶっちゃけ世襲貴族に関する相続の話なんてこれっぽっちも興味ないんですけど。
さっき現実逃避してた俺が言うのもなんですが早く話を進めてもらえませんかね。
「ウルフィラーナ殿の性格からいって嫌なものはとことん嫌で、もし選出されても途中で投げ出すことは目に見えておるし、ウォルトレイン殿も優秀で悪くはないが気質的に重責に耐え切れず潰れてしまうだろうというのが我々の見解だ。ならば残ったのは君か他の傍系の者たちだが、突出して傍系の者が優秀でもない。それに君は学生時代からアレに鍛えられているだろう?」
「ホーエンハイム侯爵!!あいつのことは関係ないでしょうが!!俺だってそんな重責背負いきれねーよ!!」
『アレ』って誰のことだよ!?
勝手に話し進めるのはいいけど、せめて俺にわかるように話し進めてくれないかな?
「あの~ウィルさん弄りは楽しそうで何よりなんですが、先程の話の続きは何なんでしょうか?」
「おお!そうだった。忘れるところであったわい」
「結局俺で遊んでたのかよ!!」
おい、こちとら人生の中でもかなり重要な分岐点じゃないかと思われる話をされている最中なんですが。
もっと真面目に話し進めろや。
じゃねーとマジで切れるぞ。
「ほれ、そんな顔するでない。甘い菓子でも食うか?」
あんたは大阪のおばちゃんか!!
飴ちゃんは伝家の宝刀ではないぞ!!
この前俺もやったけど…
「それはそうと聖下からお前に手紙が届いておる。読んだらすぐに処分するように、ほれ」
「へ?あ、どうも」
思わず受け取ってしまったが何で俺に手紙なんて認めてんだよ!
暇なのか!?暇なんだよな!?国家元首仕事しろ!!
もう意味わかんねぇ!!
震える指で封筒を開けると手紙と何かが入っていた。
見るからに上等な紙で透かしが入っているのが見える。
折りたたまれた手紙を開き読んでみると、そこには当たり前のように文字が書かれていたのだが─
「……………………………」
「どうした?何を固まっている」
「あのぉ…」
「何だい?」
「…この文字なんて書いてあるんですか?」
そう、読めないのだ。
何語ですかこれ?俺が習ったどの文字でもないんですけど。
っていうか公爵様方と大公様メッチャ爆笑してるんですが…
ウィルさんまで笑ってるし!グレるぞ!!!
「セボリー見せてみろ」
「はい。大丈夫なんですか?これ読んだら次代アライアス公爵決定とかなりませんか?」
「え!?返すわ!!」
ウィルさんが笑いながら手紙を手に取り読もうとしてくれたが、俺の言葉で一瞬にして俺の手の中に戻ってくる。
「問題ない。いいから読み上げてやれ」
「本当だろうな!」
「良いからはよう読め」
「へいへい『前略セボリオンへ』…ってこれ古代精霊アルゲア語じゃねーか!これ使われなくなってから一万年位経つぞ!!」
「そんなの読めるかい!」
そんなの読めるはず無いじゃん。何考えてるの?
現代っ子に読めるはず無いじゃん、全くこれだから年寄りは…
あ、年寄り言ってすんません。
というかウィルさん読めるのかよ!!
一万年も使われていないような超古代文字を読めるのかよ!!
スゲーなあんた!!よし!次の公爵は君に決定だ!!
「『前略セボリオンへ、突然の手紙で驚いた事だろう。しかし夢枕で伝えても半分以上も伝わらないからこうして手紙を認めた。まず最初に指輪を拾ってくれてありがとう。その指輪には意思があり持ち主に呼応して一緒に成長していくものだ。邪な心を持つものには本来の姿を見せないが、指輪が君の指に嵌ったと言う事は選ばれた事になる。その指輪君にあげるよ、きっと役に立つから。それと同封した物も君にあげるよ。君に会える事を楽しみにしている、健やかに育て我等が養い子。 草々』だってさ。あと俺も読めない文字があったんだが、皆さんこれ読めますか?」
え?この指輪意思を持ってるの?マジ?貰っても困るんですが………
でもやっぱりあの夢の男の声はこの人だったんだな、本当になんて言ってたのか殆ど伝わってないし覚えてもいないんだけど。
っていうかこの手紙俺と会う事前提で書いてないか!!?
もうやだぁ!おうちかえる~~!!
俺宛の手紙でウィルさんでも読めなかったものがあったらしく、公爵様方や大公様が手紙を見たが全く見覚えがないと言う。
どんな文字かなと思い覗き込んで見て俺は驚愕した。
「っ!!これは…」
「知っているのかね?」
そこには前世で見慣れた文字が書かれていた。
『なお装着者の発動条件は転生者』