第四十五話 祝福と魔力
今の劇はエルトウェリオン家の祖、エルトウェリオン生誕の話か。
エルトウェリオンって元々人の名前だったんだな、知らんかったわ。
劇が終わると共に青空に映し出されていた立体映像がスゥーっと消えいった。
『皆様、本日のお話はこれにて終了でございます。どうか明日もお楽しみください』
視界の言葉が終わると観客から盛大な拍手が贈られた。
劇が終わったのなら観客たちは帰るかなと思い見いていたが、誰も帰るそぶりを見せようとしない。
不思議に思った俺に気付いたシエルが「一般の観客達はVIP席の人達が先に席を立たないと帰れないんだよ」と教えてくれた。
「ズビッ…」
「うう……ううう…」
横を見るとルピシーとユーリが号泣している。
ぶっちゃけ不気味だ。
ユーリはともかくルピシーお前涙もろかったんかい!!
そういえば、聖育院にいた時もお涙頂戴者の絵本で号泣してたような…
俺が二人にドン引きしている中、三公爵が席を立ち扉の奥の廊下へと消えていく。
次に大公夫妻が席を立ち、そして俺達もそれに続いて控え室へと向かっていった。
控え室に戻ってからもまだルピシーとユーリは泣いていた。
「素晴らじがっだでず!!ごの劇を見られだだげでも聖帝国に来てよがっだど思いまじだ!!」
「そう言って貰えると光栄だね」
自分の話を褒められて嬉しいのか上機嫌なシエル。
「これは史実なのか?」
「ん~何しろ一万年以上前の話だからね。かなり脚色や想像は入っていると思うけど、大まかなあらすじは文献や資料に書かれている話どおりなんだよね。それを芝居風にアレンジしてるんだ」
シエルの言葉を引き継ぐように大公が話に入ってくる。
「初代エルトウェリオンの父母と伯父、そして父の育ての親の名前はしっかり文献に載っておる。これは我が家所蔵のエルトウェリオン文書にも載っておるし、首都の帝立ベルハランポリス大図書館や聖帝聖下の個人所蔵のコレクションにも載っておるようだ」
「ベルハランポリス大図書館って初代エルトウェリオンの母のベルハーラから来てたんですね」
「うむ、マタイオスの名前もエルドラドの近くの町につけれておる」
「そういえば劇中で出てきた『あの力』って魔法のことですか?」
「そうじゃ、元々魔法とは精霊の因子を受け継ぐ者たちが使うことを許された力が魔法だったと言われておる」
精霊の因子?なんだそれ?
俺の不思議そうな顔を見てエルトウェリオン公爵が説明をしてくれる。
「精霊の因子と言うのは精霊の系譜のことだよ。今の話よりもっと昔は人間も精霊も同じように生活していたらしいんだ。まるで友達のようにね。高位の精霊は体を実体化させる事ができて中には人間と交わる者もいたらしい。夫婦となり交わった人間と精霊の間には極稀に子供が授かる事があったと言う」
エルトウェリオン公爵の話をエルドラド大公が引き継ぐ。
「その子達は精霊人と呼ばれ大層大事に育てられた。精霊人は普通の人間より寿命が長く、また肉体的にも丈夫でもあった。が、しかし如何せん繁殖力が少なかったようでの。普通の人間とは時の過ぎ方が違うために心を病む者も多かったとされる」
ここでホーエンハイムも話しに参加する。
「その精霊人の血が入っている者が魔法を使えるといわれているのだ。精霊人は文献に残っている者や地方の伝承を含めても10もいないが、そこから広がっていったとされる。まぁ魔法が使えなくとも血が入っている者もいるがね。魔法が使えなくとも魔力があると言うことはその証らしい」
つまり精霊の血を通して魔力が発生するのか。
「それってもう殆どの人間がそうですよね」
「精霊人が最後に確認されたと言われているのは約一万と二千年前、つまり初代エルトウェリオンが生まれる約1000年以上前だ。それだけの時があれば広がるのも頷ける。しかし聖帝国から離れれば離れるほど魔法が使えない者が増えてくるのも事実だ」
「実際に私の国のチャンドランディアでは魔法を使えるものは極僅かです。王族でさえ使えない者の方が多い」
「精霊の因子が濃ければ濃いほど強力な魔法使いが生まれると信じられている。実際に魔力持ちは魔力が無いものに比べ体が丈夫で寿命も長い」
この世界の魔力持ちでない人間の平均寿命は60程だ。
だが魔力持ちは平均90歳程生きると言われており、長寿の人だと140を超える者もいると言う。
「魔力が無い者でも精霊の恩恵を受けられる方法はあるがな」
「え!?あるんですか!?」
アライアス公爵がその方法を教えてくれる。
「一代限りで次代には引き継がれんが、サンティアスの養い子なら全員その恩恵をうけておるわ」
へ?サンティアスの子供なら?
俺達が全員恩恵を受けてたもの…
俺達が聖育院でやっていた、もしくはしてもらった事とは?
…もしかして!!精霊の祝福か!!!
「それは精霊の祝福のことでしょうか?」
「そうじゃ、あれこそ正しくに精霊の恩寵の一部である」
「遡れば精霊の祝福とは文献の中で最後に出てくる精霊人アルグムンが、妻に加護を与えた事からきている。アルゲア教の名前の由来はそのアルグムンとその妻アディアだ」
「あれは本来アルゲア教の助祭以上の者しか出来ない。『ラ』の称号は本来精霊の祝福を仲介できるものに付けられた称号なのだ。今は出来なくとも助祭になれるが、それ以上階級は上がれん。そして特に精霊との結びつきが強い者の事を精霊の愛し子と呼ぶ。愛し子は精霊を感じ取れるだけではなく声を聞け、またその姿かたちを見ることが出来、精霊達に愛されている者達のことだ」
ふ~ん。精霊の愛しい子かぁ。俺の周りだと副院長とかかな?
でもアレが愛し子?なんかイメージが湧かないんですけどぉ?
しかし一気に新事実が判明しましたよ。
そういえばアルゲア教大本山の大聖堂の名前がアルグムンだったな。
それに確かにサンティアス出身者は健康で長寿の者が多い、つまり精霊の祝福を受けて魔力が発生したからだったのか。
「あの、精霊人とはその…長命化とは違うのですか?長命化も精霊に気に入られないとなれないって聞いたのですが」
ゴンドリアが疑問を口にする。
「長命化とは本来動物にしか使われなかったものだ。記録に残っている者ではアルグムンの騎獣の馬が精霊の力によって精霊化したのが最初だと言われておる。精霊人は少なくとも二千年以上の寿命があったとされ、一説には心を病まなければ寿命は無いと言われていたらしい。なので長命化とは根本的に意味合いが違う」
俺の頭の中に最近聞いた話が過ぎった。
「それでは…も…………えっ!?あぅ…」
思い浮かんだ言葉を言おうと思った言葉が出ず、無理やり言おうとした瞬間に頭に激痛が走った。
更に言おうとすると頭をハンマーで叩かれているのではないかと言う衝撃と共に、心臓が激しく動悸を上げた。
「ハァ、ハァ…ウゥ」
「言おうとしている事を止めろ。これ以上は危険だ」
ホーエンハイム公爵の言葉に従い言おうと思っていた考えを散らすと、不思議と痛みと気持ち悪さが収まってくる。
「はい。コレお水」
「…ありがとう」
シエルから渡された水に口をつけ、動悸が治まるのを待った。
「ヴァールカッサの魔法の影響じゃな。お主これ以上その言葉を言おうとすれば精神に関わるぞ」
「はい…気をつけます。公爵様方は聖帝聖下にお会いされたことがあるんですよね」
「「「「あるな」」」」
三公爵は重々しく頷く。
「ただし私達もあの方の事を詳しく話せないようにされておるがね」
「いつ思い出しても身震いがするわい」
「そうだ、これから儂等は役者達を労ってから町を視察するが、お前達はどうする」
公爵達はそこで話を打ち切った。
まるでこれ以上の詮索は許さないと言う様に。
「どうせだからこの辺りを探索でもして見るかい?今の時期だったら屋台通りが出来ているから楽しいと思うよ。」
シエルもそんな三公爵に合わせるように話を変えてくる。
「屋台だって!!?行く!行くぞ!食いまくってやる!!!」
そこにいつの間にか号泣から復活したルピシーが食べ物に食いつき騒ぎ始めた。
「そうだな、腹も減ったしそうするか。っていうか今何時?」
俺も又あの感覚を味わうのは嫌だったので話に乗っかった。
「もう2時を過ぎてるよ、うん」
「と言うことはあの劇4時間以上やってたのか…そう言えばトイレ休憩も無かったよな?」
「面白かったので短く感じました」
「ねぇねぇ屋台があるのならアクセサリーを売っている店とかもあるの?」
「あるよ、布やアクセサリーも売ってるよ」
「あたしも行くわ!」
「じゃあ屋台で軽食を取ってからお店を回ろうか」
「「「「「「さんせーい」」」」」」
三公爵と大公夫妻に挨拶をして俺達は特別口から会場を後にする。
町に出てみるとシエルが言ったように屋台が並び人がたくさん歩いていた。
あー、これって前世で見たフランスの街の(市場)マルシェみたいだな。
色んな野菜や果物に肉に魚、そして飲食のお店がひしめき合っている。
「うおーーー!美味そうな店がいっぱいだ!!良し食うぞ!!」
「ルピシーあんまり離れるなよ。迷子になっても見つけないからな」
「わかったー」
と言いながらルピシーは串焼きの店に並びにいく。
「あいつ全然分かってないな」
「まぁ、ルピシーだしね。ルピシー、好きなものを買ったら一回ここで集まろう。こっちに自由に使っていいテーブルがあるからそこで皆で食べようよ。皆も良いよね?」
「「「「「「賛成!」」」」」」
皆各々好きなものを買ってきてテーブルの上に乗せ席に着く。
「美味しそうね。学園都市とはまた違った料理が多いわね」
「領地ごとに特色があるからね。学園都市と首都のシルヴィエンノープルはるつぼになってるけど」
「美味いな!この肉!」
「もう食ってるのかよ!皆も食おうぜ、ボーっとしてたら全部こいつに食われちまう」
シエルの家の料理も美味かったが、町の料理も十分においしいな。
食べ終えて一息ついていると何かに気付いたのかヤンがルピシーに質問をしている。
「ルピシー。さっきから何をメモっているんだ?」
「ああ、これな!」
ノートにメモをしているルピシーはヤンの質問に満面の笑顔で答える。
「ロベルトの奴にさ、美味い料理や良い店を見つけたらメモって場所と名前と値段、あと味の感想を書けって言われたんだ。だから今書いてるってわけだ!」
「お前まだ第一版も出ていないのに続編やる気かよ」
「なんか前評判すごいんだってさ。まだ出てないのに何で皆知ってるんだか」
「恐るべしサンティアス学園なんでも同好会の話の輪…」
その後ルピシーとロベルトの本の第二弾が計画され、レポートを提出した瞬間に出版決定となった事を記述しておく。