第三話 祝福と使い魔
公星を育て始めて気づいたことがある。
「うまいか?公星」
「モッキュ!」
「……………………………………」
「モキュ?」
普通ハムスターはあまり鳴かない、鳴くのは非常事態が起こった時くらいだ。
「お前普通に鳴く事できるのか?」
「モキュキュ」
公星は当たり前じゃん何言ってんのお前?と言いたげに鳴いている。
俺はそれを見てしばらく黙り込み、そして感情を爆発させた。
「……………かわいいぞぉぉおおおお!コンチキショぉぉぉおおおお!!!」
「モッキュー!!」
公星はびっくりしたと言いたげに抗議してきた。
「またやってるよセボリー」
「一見冷静でおとなしいけど変なところで暴走するのよねぇ」
「まぁ、コーセーも元気になって良かったけど、いつも静かなセボリーがこの頃逝っちゃってるね」
「人間好きなものに夢中になったらあんなものよ」
「そういえばゴンドリアもこの前服のデザインしてて『降りて来た!!』とか叫んでたしな」
「それは言わないでよ。こっちは全く記憶無いんだから」
「記憶無いこと自体がやばいんじゃないの?」
「…本当のことだから何も言い返せないわ」
そこ外野、うるさいぞ。俺は今ハムハムを愛でるのに夢中なんだ。静かにしてくれたまえよチミ達。
ルピシーとゴンドリアが雑音を奏でている合間に、俺は公星の毛並みをブラシで整えていた。
「そういえばそろそろ精霊の祝福っていうお祭りが始まるよな、先生達が準備してた」
「祭りじゃなくて儀式ね」
「あ~……そうそう儀式。あれって何やるんだっけか?」
「精霊にお願いして祝福をもらって個人の才能を見極めてもらうのよ」
気になる単語は出てきて、急ではあるがここで俺も話に加わろう。
「才能を見極めるって何だ?」
「何って見極めは見極めよ」
「何?なれる職業を見極めるの?」
「ちょっと違うよぉ」
その時ロベルトが大部屋の中に入ってきて説明を始める。
「あくまでも可能性のひとつだよぉ、何になれるかはその人の努力しだいだから」
「努力ねぇ…」
「たとえ才能が無くても努力すればそれなりのレベルになるらしいし」
「才能と言うかスキルを見るんじゃなかったっけ?」
「スキル?」
「そう、スキル」
「精霊に祝福してもらうと大体一個はスキルを貰えるらしいんだ」
「正確に言えば、潜在的に持っているスキルを見て使えることが出来るようになるのだよ」
50代位の男の先生ことセオドアール副院長が俺たちの話しに加わってきた。
いつの間に、来たんだこの人。
「人は皆1つはスキルを生まれ持っているんだ。それを我々が精霊にお願いして持ち主に気づかせるのだよ。色々なスキルがあるが、本来自分が持っているスキルだからレベルが上がりやすい。故に才能を生かした職業を選びやすいんだ」
まぁある一定のスキルレベルになったらスキルが変化して職業として表示されるがね……と先生は説明してくれた。
「いつその儀式をやるんですか?」
「予定では明々後日だよ、学園に入る半年前に行うのが慣例だ」
「何故です?」
「一口にスキルと言っても色々あるんだ、危険なものから無害なもの、使い方を間違えれば自分だけではなく周りにも被害が出る。入学半年前に行うのは力の使い方や無闇に乱用して被害が出ないように学ばすための準備期間だ」
確かこの世界は1ヶ月40日で一年は12ヶ月…
っということは240日後…
「所で先生のスキルは何ですか?」
俺たちの質問に先生はニヤリと笑って「空間把握だよ」と言った。
「空間把握?」
「なにそれぇ?」
「よくわからない」
「そうだな、セボリーのポケットの中でピケットがオイルシードを齧っているのが分ったりする」
「ッモキュ!?」
「え!?」
急に話題出された公星がポケットの中で一回跳ねた。
「おい公星、お前さっき一個食っただろう。そんなに食うと太るぞ」
「モキュキュキュ」
俺が注意を促すと、大丈夫だと言わんばかりに自分を擁護し始めた。
オイルシードとは地球で言うとひまわりの種のようなものだ。大きさは胡桃大で人間も食べれるし小動物も大好物だ。一年中栽培可能で種からは良質な食用油が取れる。
「食べすぎは駄目。そんなに頬袋にいっぱい貯めたんだからもう良いだろ!」
「モキュ…」
公星は残念という体で食べるのをやめた。
「はははっ物分りが良いな。所でセボリー」
「はい、なんでしょう?」
急に副院長が俺に話題を振ってきた。
「学園では生徒のペット持ち込みは禁止だぞ」
「っ!!なんだと…」
前に見学に行った時は動物がかなりいたぞ!どうことだ責任者出て来い!!
「前に学園に行った時にペットらしき動物がいっぱい歩いていたんですが…」
「ああ、あれは職員の家族や商売人のペットか迷宮冒険者の使い魔だ。学生はペット持ち込み禁止だよ」
「NOOOOOOOOOO!!!」
どうしよう、マジでどうしよう…俺のハムハムゲージがエンプティ状態になってしまう…コレじゃあ正に拷問だ。
絶望している俺に先生は意地悪そうな笑い顔をし、その顔が見たかったと言わんばかりの良い笑顔で解決方法を教えてくれる。
「あくまでも学生のペットの持ち込みは禁止だが、使い魔の持ち込みは禁止されていないぞ」
「ふへ?…ペットと使い魔の何が違うんですか?」
「ペットは文字通り愛玩動物だが、使い魔は主との契約で繋がり持っている動物のことだよ」
「契約ってどうすれば出来るんですか?」
よし、その顔に少しイラっときたが解決方法を教えてくれるのならば我慢しよう。
「方法はいくつかある。1つ目は契約の魔法陣を書き、その中で特別な石に主従となる者たちの血液を垂らし契約石にする。そして二つに砕いた後1ヶ月程お互い肌身離さず持っていれば契約は完了される。」
ふむふむ………
「契約石ってなんですか?」
「契約石とは魔力を使って契約魔法を水晶などの宝石類や精霊石に転写させたものだ」
「メリットとデメリットは存在しますか?」
「お前は5歳児にしては思慮深いな…まぁ当然ある。メリットはまず自分達だけで出来ることだ。そして契約解除も簡単に出来る、契約石を砕けば契約破棄になる」
ほぉ…
「デメリットは魔法の一種故に魔力自体がないと使えないし契約魔法自体が高等魔法の一種で、準備が大変かつ金も掛かる」
俺には金が無いから今すぐは無理だわ、それに魔力があるのかも分からない…
「2つ目は何ですか?」
「2つ目は精霊にお願いして魂の契約をしてもらうのだ。すぐに完了するし魔力もいらない、金もかからない」
「じゃあ2つ目のほうが圧倒的に良いですよね?」
「そうとも限らない」
副院長は苦笑しながら話を続けた。
「精霊が契約補助をしてくれるのは気に入った人間しかしないし、動物の了承を得る必要もある。1つ目は触媒が石だったのに比べて2つ目の触媒は主従の心臓、つまり魂そのものだ。故につながりは強固なものになり能力的な力も大幅に上がるが、一生契約破棄できない。精霊が主従の魂を用いて世界の記憶に直接書き込むんだ、どちらかが死ぬまで契約は一生続く」
俺はそれを聞いて唖然とした後身震いをした。
「3つ目はあるんですか?」
「あることはあるがお勧めはしない」
あるのか…
「使い魔にする動物を殺した後、複数の他の動物を生贄にして作る外道の技だ。動物の了承は当然ながら要らない。これは他人が作って他人の魔力で契約することが出来るが所詮は仮初の命、すぐに腐って動かなくなってしまう使い捨てのような物だし、見ているこちらも良い気分ではない」
なんだそれ!?絶対やらないし、公星を殺すなんて絶対に出来無い!!!
俺がその方法を聞いてドン引きしているのと同時に公星はおびえていた。
公星の了承と精霊に気に入られさえすれば良いのなら、まだ希望はある。
「俺は精霊に好かれているのかな?……精霊自体はっきり見たことないし、というか魔力自体あるのか分からない…」
「ああ、好かれているぞ」
っえ?好かれてるの?っていうか何で分かるの?
「精霊はたくさんいるが、嫌いな人間には近づかない。はっきり見た事は無いと言っていたが、嫌いな人間なら存在すら表す事自体しない。証拠にお前の周りには精霊がたくさんいるぞ」
マジかっ!!希望は繋がれたわ。っていうか見えるのかよ。
「見えてるのですか?」
「ああ、見えている」
そういえばサンティアスは学園を含めて先生たちはサンティアスの卒業生が異常なほど多い、それに聖育院の先生達って皆アルゲア教の聖職者だったな……
「魔力もお前は人並み以上はあると思うぞ。そもそも祝福を受けていない者が精霊の姿を確認できるのは、相当精霊と相性の良い者か潜在魔力が高い者だけだからな」
おーー!やった!!これで公星に意思の確認を取ろう。
「公星」
「モキュ?」
「お前は俺と使い魔の契約を結んでくれるか?」
公星は少し考えてから「モッキュー!」と返事をした。
喜んだもの束の間、公星は俺のポケットの中にあるオイルシードを叩きながら要求して来た。
「お前それで5個目だろうが!マジで脂肪の塊になるぞ!!」
「ごめん。さっきコーセーにオイルシード1個あげちった」
「あたしも」
「僕も」
「そういえば僕もあげたな」
「おいらも」
「じゃあお前これで10個目じゃねぇか!!絶対駄目ぇえええええ!!」
「モッキューーーーーーーー!!!」
セオドアールは子供達のやり取りを微笑みながら見つつ、この子達の将来に精霊の恩寵あれと祈るのであった。
2016.6.29修正