第三十一話 制服二
ユーリの歓迎会を開いた翌日、ゴンドリアが付き添いユーリは学園事務所へと赴き無事に女子寮への転寮と芸科への転科を果たした。
ユーリから聞いた話だが、トランスジェンダーに関してはテストが行われてすぐに認定され、転科に関してはその場で絵を描いたら即OKサインが出たらしく、書類の書き換えもスムーズだったらしい。
そして今俺はルピシーを抜いた6人で商会のフリースペースにいる。
「ねぇ、なんで俺呼ぶの?ユーリの制服作りだろ?もう俺お役御免じゃん。何のためのデザイナーだよ。そのためにユーリを商会に入れたんじゃないの?ねぇ?」
「そう思ったんだけど仲間はずれはかわいそうかなぁと思ってね」
「おい!ルピシーはかわいそうじゃないのか!!」
「あれは元からかわいそうだし今色々大変だから大丈夫よ、頭の中が」
「お前の趣味も頭の中も色々大変だよ」
「あら、分かってるじゃないの。あたしもどんな制服になるか楽しみで頭が大変よ」
「でも制服も一応魔道具の一つになるからセボリーがいないとお話にならないわ。GOサイン出すのはいつもセボリーじゃないの。しかも服って言うのは一番の広告の方法なのよ」
「あ~、確かにそうだね。僕もこの制服になってからどこで作ったのかって良く聞かれるしね」
「私も良く聞かれる。実際に注文をしたいと言ってきた奴もいたぞ」
「ぼくも良く聞かれて困ってる。だからゴンドリアに丸投げしてたし、うん」
「あたしも聞かれるわ。この前なんてリュピーに詰め寄られたもの。なんか怖かったからセボリーがデザインして作ったものだからセボリーに聞いてみたら?って横にそらしたけど」
「おい!それ絶対にリュピーが後で俺に詰め寄ってくるだろうが!!俺の命があぶねーだろ!確信犯だって分かるところが余計にむかつくわ!!」
久しぶりに名前だけは出てきたリュピーことリュパネアは中等部の聖科へ入学し、将来は聖育院の職員になるのだと夢を語っていたが、同じ科のシエルによると前に告白し強引に迫ってきた留学生をボコボコにして病院送りにしたと聞いたのはつい最近のことである。
もっと小さいときもかなりお転婆だったが、今は立派な格闘家だ。
もういっそのこと武科に転科したほうがいいのではないだろうか…
「で、ユーリはどんな制服がいいの?着るのはユーリなんだからちゃんと要望も言ったほうがいいわよ」
「そうですね…私はスカートが履きたいです。今まで履くことを許されてなかったので」
「あら、良かったわねセボリー。希望者がいたわよ」
「うっさいわ!!俺の希望は確かにスカートだけど…」
ここで俺は一瞬言い淀んだ、何故ならユーリはかなり繊細だ。
ここでもし俺が「俺の望みは可愛い女の子のスカートだ。ゴリマッチョなミニスカ男の娘って誰得なんだよ!そんなニッチな商売するつもりねーぞ!!」なんて言った日には泣かれるのは目に見えている。
ここは思い切ってロングスカートを勧めてみるかその方が目の毒に…いや、精神衛生的に安心安全だ。
「だったらロン」
「じゃー思い切ってミニスカートにしちゃう?フリルの着いたチェック柄の可愛いデザインで!」
「それが良いです!是非着てみたいです!」
「よし、下は決まったわ」
きっさまぁぁぁああああ!!!
おんどれは何をさらしてくれとんじゃゴラァ!
ゴリラがミニスカはいて誰が喜ぶんじゃヴォケが!
俺は自分の脳細胞をフル回転させた討論を開始した。
「異議あり!ミニスカートだと風が吹いたときや階段を上り下りするときにパンツが見えてしまう可能性が高いぞ!よってここはロングスカートかもしくはキュロットスカートまたパンツスタイルのほうがいいと思う!!」
「でも本人は着たいって言ってるのよ!しかも可愛いは大事よ!女子力は絶対なの!そうよ!絶対領域は絶対に必要よ!」
絶対領域の活用の仕方が間違ってるんだよ!!
女子力って言うけどそんな女子力誰も望んじゃいねーよ!!
「異議あり!確かに絶対領域は大切なのは分かる。だが!ここはサンティアス学園だ!四季があって暑い時はまだいいが寒いときは最悪だぞ!特にユーリはガンテミア双王国と言う暖かい国から来ているのだからな!!」
「あ、それなら大丈夫です。私かなり熱がりなんです。母国の山の雪が降り積もった中でも半そでとか平気でしたので」
「それに寒かったらタイツを履けば凌げるわ。最初からそうゆうデザインにすれば良いだけだもの。それにシーズンごとに着替えるんだからそれでもいいと思うわ」
部外者が入ってくんな!!!(注:部外者に非ず)
俺は学園全員のために言ってるんだ!!
それに無駄に健康優良児やってんじゃねーよ!!
「異議あり!一々季節ごとに制服を変えていたら切りがない。だったら春夏秋冬のフォーシーズンで使えるようなものにしたほうが経済的だ!それに俺達の制服は季節ごとに作ってないではないか!!」
「何言ってるの、服とはそうゆうものよ。ワンシーズンごとに新しいデザインを発表して皆に見せるのが商売の種になるのよ。あたしもシーズンごとに制服変えるつもりだったしね。あんた達は絶対にシーズンごとに着替えないのわかってたから最初から夏服と冬服だけなのよ。夏服のデザインはもう固まってるからユーリに描きおこしてもらうだけだし、それに商会名義で作るんだから材料も経費で落ちるわ」
お前シーズン毎どころか下手すると毎日制服やコサージュや髪留め変えてたじゃねーか!!
夏服と冬服があれば十分だろうが!!!
「異議あり!商会名義で服の注文を受けているところ俺は一度も見ていない!つまりお前の趣味で作っている服はお前名義になるわけだ!」
「何言ってるのよ。今あんたが着てるものだって商会名義で作ったものよ。しかもあんた達の日常の服もあたしが作ってるんだからね。あたしが作って売っているものは殆どがオートクチュールなのよ。プレタポルテは少しはあるけど殆ど作ってないんだから。今はまだ少ないけどリピーターのお得意様がついてるのよ。言っておくけどあんたこのパブリックスター商会は部門ごとに分かれているの理解してる?私はパブリックスター商会服飾部『メゾンドリアード』の部門長兼お針子を務めてるの。つまりあたしの店がお客さんから注文を受けた物を商会本部にやりましたって報告するって方法なんだから直接的に商会名義になるわけ無いでしょうが。税関系では経理会計事務でまとめて商会の利益ですって報告してるんだから。しかもこの商会の経理を仕切ってるのはこのあたしよ。この体制は商会が設立した時からだし、任命したのもあんたとシエルじゃないの」
…そうだった…俺達の中で何気に計算が速く正確だったのがゴンドリアだったのだ、だから「じゃ~よろしく~」ってノリで任せたのは俺だった…
敗訴決定しましたよ…
「納得いったようね。じゃ上はどうしましょうか」
「さっきも言いましたが私暑がりなんです。ですのですぐ脱げるようなタイプがいいですね」
全然納得いってねーよ。
マジでなんなの?こんな理不尽なことがあっていいのだろうか。
一体誰がゴリエ以上のゴリエをみたいと思うのか。
他の奴等もなんか言えや!!
さっきから話に加わっていないメンバーは、話がまとまるまで横のテーブルでお茶をしばいていらっしゃいますよ。
視線を合わせようにも合わせるなといわんばかりに無視してくるんですが?
あれ?俺泣いてよいの?マジで泣くよ?
結局必死の抵抗もむなしく俺もデザイン案を強制的に出させられ、またも必死の抵抗でロングスカートやパンツスタイルの絵を描いたが遂にはゴンドリアにぶち切れされた。
ぶち切れされて数分後、ルピシーが帰ってきて話を聞くなり俺が昔描いたデザイン集がなかったかと言い出し、しかもしまっている場所も何故か覚えていて持ってきやがったのだ。
その結果、昔描いた青白のミニスカセーラー服のデザインが2人の目に留まり、俺の前世青春時代の甘酸っぱい思い出のセーラー服を食道からあがってくる酸っぱい匂いに上書きされるのであった。
その後、ユーリの制服を見て女子学生が俺達の商会の服飾部門『メゾンドリアード』にて買い物をする姿が見受けられたと同時に、どこから聞きつけたか知らないが一部の変態男からセーラー服の注文が何件も届き、ディープな夜のお店からも注文が続々届いた。
顧客をたくさんゲットしてホクホク顔だったゴンドリアに対して、俺はこれから自分に降りかかるであろうダメージを考慮して涙ながらに絵筆を折ることを決めた。
しかし表向きはデザイナーであるユーリにその役目を譲っただけとなっていたため、コアな支持層からは俺のデザインでと激烈注文されることが多く、支持層達とゴンドリアからも突き上げと言う名の詰め寄りを食らい、デザイン画を強制的に描かされる羽目になったことを記述しておく。