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Public Star~目指せ若隠居への道~  作者: 黛紫水
第七章 根と源の章
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第二百五十六話 騒動の後にて

美味しそうな煙と共に魚介類が焼ける音がテーブルの中心から聞こえてくる。

貝の蓋が開くのを待ちつつ、先に焼けていた魚を突きながら俺は少し遅い昼食をみんなでとっていた。

学園都市は聖帝国の内陸部にあるが、移転陣による流通のおかげで新鮮な状態の海の魚介類を楽しむことが出来る。

更に迷宮の中に海があるのでそこからもおいしい魚介類が産出されることもあり、肉ほどではないが結構な頻度で聖育院の食事にも魚介類が出てきていた。


「シモーヌ大丈夫かしらね?」

「大丈夫だろ?シモーヌは何も悪いことをしてませんので罪には問わないでって嘆願書みんなで出したし、広場にいた皆もそれは証言してるから」

「でもあのアクナシオニスだよ?」

「おいおいシエル。お前自分の領地の学校なのに信用無いな」

「いやぁ…だってあれだよ?僕も今回の事で初めて認識したけど、あれはない。本当にない。一応お父様に今回の事とシモーヌの件について報告書を出したけど」

「エルトウェリオン公爵が出張ってくれるのならそれでもう大丈夫だと思うがな」


あの後少しして警備兵がきてエルカイザーとアクナシオニスの教員と生徒がしょっ引かれていったが、色々アクナシオニス生たちが大変だったんだよ。

ずっと震え五体投地をやめないし、アクナシオンの馬鹿長男以外の引率者が来てシエルの身分を明かすとその引率者も五体投地をするというカオス光景が出来上がり、終いにはシエルも諦めの境地に達したのかシモーヌ以外のアクナシオニスの関係者をガン無視するという光景が出来上がったんだ。

シモーヌもシモーヌで油断すると五体投地しそうになるし、それを阻止しようと俺も加われば『公子様』呼ばわりされてすごく背中が痒かったわ。

ジジの奴あの二人組から公子様呼ばわりされてるけど良く我慢できるな…



「ぼくも後でお父様にエルカイザーの教師の件で手紙を出すつもり、うん」

「あれ?フェディさんまだ出してなかったんですか?」

「うん。知ってるとは思うけどうちのお父様ってお母さま以外には結構厳しいんだよね、うん」

「「「「「「ああ…」」」」」」


フェディのお父さんの話はたまにフェディから聞くが、なかなかクレイジーなお父さんなんだよな…

妻限定で執着心が強く妻優先妻第一、自身と息子は二の次三の次で後の人はどうでも良く、自身に厳しく息子にも厳しいが妻には激甘で、妻に火の粉が降りかかろうものなら煙が立った瞬間に原因を消火しに行くような性格の人だったと記憶している。

結婚する前まで完全なるインドア文化系男子だったのが、妻と付き合いだしてからインドア格闘暗殺系男子に変化し、間接的物理的両方を駆使し並みいるライバルを蹴散らしていったという逸話を二人のキューピットであるアンナ様から聞いたこともある。

フェディ曰く普段は()()()()()に見えるが妻関係を噛ませたとたんおかしくなると言っており、実の息子の口から出るこの()()()()()と言う言葉で済ませている時点でフェディも感覚麻痺しているとは思うが、色々聞いてるこちらとしては妻のカイエターナ准伯爵も色々狂ってるから『似たもの家族じゃね?』とみんな思っていたりする。

フェディも自分の好きなことになると異常な探求心と執着心、他の物事を素で無視する強靭な心を持っているからな…

俺達もそれを聞いて『ああ』の一言で納得している時点で十分毒されているかもしれないが、そこは温かい目でスルーしてほしい。

まぁそんな訳で下手にカイエターナ准伯爵に関する報告をすれば、煙を立てたほうも、火の粉をかぶせたほうも、消火しようとしていたほうも、またそれを見ていたやじ馬のほうにも被害が及ぶ可能性があるため、下手に事を大きくさせないようにすべて解決してからの事後報告が一番穏便で有効的な伝え方らしい。


「しかしエルカイザーも下手を扱いたな」

「おそらくあの教師達はトカゲのしっぽ切りをされるだろうね、うん」


エルカイザーの留学生の伯爵子息に剣を突き付けていた40代ほどの男性が警備兵に事情を説明し、留学生たちがその場で暴れそうになったので簡易的な拘束魔法をかけられていたのを思い出す。

そしてその直後エルカイザーの引率の責任者が真っ赤な顔で登場し、警備兵に事情を説明され真っ青になって留学生と警備兵と共に連行されていった。

恐らく留学生たちは罰金を支払った後に退学と強制帰国のコンボになるだろうと予測している。



「あ、セボリーさん。貝が焼けましたよ」

「お、ユーリありがとう」

「ここのお店の魚介類美味しいですね」

「だろ?ここのおっちゃんが滅茶苦茶仕事丁寧でさ、俺実は魚介類苦手だったんだけどこの店の魚介類は全然臭くないからおすすめなんだぜ!でもセボリーがこの店に口出ししてからなかなか飛び込みで入れないくらいになっちまったのは残念だぜ!」

「口出しじゃなくてアドバイスな。今日はわざわざ個室に案内してもらえたんだからラッキーだったわぁ。つーかそもそもこの店の件はお前が原因じゃねーか」


そうこの店、何を隠そう俺がなんちゃってコンサルで売り上げを急成長させた店の一つなのだ。

ホタテに似た貝をハフハフと頬張りながら俺はあの日の出来事を思い返した。


はじめはルピシーに連れてこられた魚介料理が美味しい店だったが、如何せん歓楽街からはなれしかも住宅街でもない場所で、冴えない中年夫婦二人で切り盛りしている寂れた店だった。

それをルピシーが自分の本に載せたのにもかかわらず客がまばらにしか来ないため、最後の手段とばかりに無理やり俺を連れてきて、一人で放置され仕方なく夫婦と業務の改善を図った結果、せっかくこんな郊外で周りに住宅も少ないのだから盛大に煙でも出せよと思い炉端焼きを提案した次第であった。

無駄に店の面積が広かったため夫婦二人で調理して出すのは無理だと思ったのもあるが、学園都市では生食文化があまり一般的ではないため刺身を出すこともないし、素材だけ用意して各自客が焼けば面倒なのは下ごしらえと一品料理だけで済み、店屋で客自身が調理するという余興も聖帝国では珍しい為いけるのではないかと考えた結果、改装資金をパブリック商会から貸付け、ルピシーが宣伝した結果見事繁盛店になったのだ。

ルピシーから感謝され、夫婦からも感謝され、俺は美味い魚介類が食べれるというまさにWIN-WINなお仕事であった。

ついでに貸し付けていた改装資金は約半年後には利子付きで満額完済され、更に店が忙しくなったので別の場所で働いていた夫婦の子供たちがこの店で働くようになり、完全なる家族経営として成り立っていて、聞くところによれば子供たちが2号店を出す予定も組まれているらしく、もはやフランチャイズ化したほうが良いのではと思っていたりもする。


「この漁師風のスープも美味しいわ」

「うちの店もシーフードカリーを検討してみるか」

「よし!試食は俺に任せろ!」

「あ、試食なら俺も誘ってほしいわ。チャンドランディア藩王国連邦って海があるんだろ?」

「あることはあるがマハルトラジャ王国は内陸北部に位置するからな、私は聖帝国に来るまで川魚以外は食べたことがなかった」

「じゃあ寒い所なの?うん?」

「暑い所もあるぞ。我がマハルトラジャ王国はチャンドランディア藩王国連邦の中でも最大の王国で東西にも広いが南北に長い国土なんだ。ただ海に行くには連邦内の他の国を三つほど越えなければならないがな」

「へぇ大変だぁ」

「全然思ってないだろ」


俺が良い感じに焼けた中型のエビの殻を剝きながらよくわからない感心をしていると、ヤンが苦笑しながら軽く小突くような素振り見せる。


「…だがもうすぐ聖帝国の料理が食えなくなるのは寂しいな」

「ヤン…」

「もういっその事今いる料理人に聖帝国の料理覚えさせて連れて帰れば?」

「セボリー、料理が出来ても食材がなければできないのと同じだぜ?聖帝国みたいな飽食国家なんて他にはないだろ?」

「うわ!?ルピシーに正論言われた!なんか悔しいんですけど、ってオイ!!」

「モキュキュ~♪」


ルピシーに言われた正論を殻を剥いたエビと一緒に流してしまおうと口の中に入れようとした瞬間、どこからともなく公星が現れて俺のエビが消えてなくなった。


「おいこら!!これは俺のエビだぞ!!?」

「モギュギュゥ…」


この頃すっかり放し飼い的な感じになってきた公星は、他の場所でも餌をもらっているのになぜかいつも俺が食べている物だけを横取りし、散々騒ぎ食べ散らかすとまたどこかへ消えていくということを繰り返している。

他のメンバーの食べ物はあげると言われなければ食べないのに、なんで俺の食べ物だけをいつもピンポイントで食い散らかすのかが謎だ。

俺が色々忙しく構ってやれていないせいもあるのだろうが、急に表れてくるのは心臓に悪いからやめてほしい限りである。


「約10年…か。人生の半分以上を過ごした学園都市を去るのは寂しい限りだがな…」

「いっそのこと私みたいに弟に継承権を譲ってこのままここで暮らしたりは出来ないんでしょうかね…」

「ユーリ」

「ああ、それも考えたがな。でも母国の発展のために私を送り出してくれた父上のためにそれは出来ない」


俺が公星との攻防をしている最中にも話は進んでおり、こいつらにとっては俺と公星のこの光景は日常生活の一部と化しているのかもしれない。


「僕みたいに里帰りも出来なかったからね」


聖帝国は自国の国籍を持っていない者の入国審査がかなり厳しいらしく、いくらビザを持っていようとも留学生はそうおいそれと再入国することが出来ない。

カリーサロンを開く際にも、料理人を連れてくるのにかなり面倒な審査や書類提出があり大変だった記憶があるのだが、それでも公爵家の力添えで大分手続きが省略されたらしく、役所の人間に異例と驚かれたくらいなのだ。

なのでヤンは初等部入学から一度も母国に帰ったことがなく、ヴァン君が入学する際にお土産として持ってきたハガキくらいの大きさの両親の肖像画を食い入るように見つめ、冗談気に顔を忘れないように見ているんだと寂しそうに笑っていることもみんな知っている為、引き留めるのも忍びない気持ちになるのだ。


「モキュキュ~!」

「あ!こら!!消えるな卑怯者!!まったく公星の奴め!ヤン!商会に籍を残しておくからな。売り上げのお前の取り分もちゃんと口座に入れておくから、いつでも戻ってこい」

「ああ。ありがとう。その時は甘えさせてもらうよ」

「ちょっとあんたたち!まだちゃんとした送迎会もやってないんだから、そんなにしんみりしないでよ!!」

「そうだぜ!まだまだいっぱい遊んで思いで作ろうぜ!なんたって俺も学生時代最後の休みなんだからな!!」

「あんたはもっとしっかり働きなさい」

「ゴンドリア。俺はいつでも働いてるぜ!?食べ歩きでな!!」

「ん~~。ここは珍しくルピシーの勝かな?うん」

「確かに!!」


みんな一斉に笑った後の乾杯したジュースの味は少ししょっぱい味がした気がした。

あけましておめでとうございます。

本年も不定期更新ですが、どうぞよろしくお願いいたします。

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