第二百十一話 迷惑なアルピニスト
ルピシーの買ってきた串焼きの肉を頬張りつつ、皆でダルゴ大広場へ向かって歩いて行く。
流石と言うべきか、ルピシーが選んできただけあって肉はとても柔らかく、そしてジューシーで美味かった。
「美味しい!学園都市って屋台の食べ物でもこんなにおいしいんですか!?」
「全部ってわけじゃないよ。でも不味い店は自然淘汰されてるって感じかな」
「そうね。それにあの本が出版されるようになってからそれが顕著よね」
「あの本?」
「おう!そうだ!これもやるよ!!」
そういってルピシーが自分のマジックバッグから本を取り出し、裏表紙にペンで何かを書き込んだ後、シモーヌへと本を投げた。
「ぇえ?あ、ありがとうございます。えーっと…『真・学園都市グルメ旅~食べ歩きの貴公子が学園都市を食べつくす7~』?」
「新作だぜ!」
「あ!著者の中にルピシーさんの名前が入ってますね」
「あれ?その本見たことないんだけど。お前つい4か月くらい前に違う本出してなかった?」
「あれからすぐにロベルトから早く次の情報出せっていうから出したらもう出来てた!さっき見本受け取ってきたところだったんだよ!確か発売は1か月後だったっけか?」
「見本の本をあげて良いのかよ…」
「大丈夫だって!お前たちに配るように10冊くらい貰ってるからな!」
「お前今まで本配ってなかったじゃん」
「…え?……あーーー!!!配るの忘れてた!!!」
「今までもあったんかい!!!」
「ごめんごめん!今出すからやるよ!いままでのも!!」
「いらんわぃ!!!出た本は友達の本だからと思って全部買ってるつーの!!…読んでないけど」
「読めよ!!!」
そんな不毛なやり取りをしているうちにダルゴ大広場の入り口までたどりついた。
先程も大勢人がいたがやはりここは混雑してるな。
ん?なんかちょっとさっきよりも変な感じがするんだけど…
「だから田舎者は嫌いなんだ」
「おー怖っ。最先端ぶりたい寒い人間を久しぶりに見た気がする」
「頑なに古い物にしがみついている人間に言われたくないよ。それに何その服?古すぎてカビでも生えてるんじゃないのか?」
「一度眼医者に行くことをお勧めするね。ああ、頭の中も見てもらったほうが良いから総合病院のほうが良い」
「その言葉そのままそっくり君にお返しするよ」
「今度は人の真似事かい?やはりエルカイザーはその程度だんだね」
「そんな低俗な事しか言えないなんて、流石はアクナシオニス。お里が知れるぞ」
「「……ふふふふふ」」
何この殺伐とした雰囲気。
シモーヌと同じアクナシオニスの制服を着た6人組と、エルカイザーの制服を着た6人組が静かにマウントの取り合り合いをしてるんですけど。
いや正確にいうなれば2校のリーダー格っぽい奴らがだ。
正にマウンティングと言う名の喧嘩だわ。
これあれだよね?昔の前世の修学旅行先で、田舎のツッパリどもがこれまた他校の修学旅行生達と縄張り争いが如く喧嘩の売り買いしてたやつ…でも地元(修学旅行先)の学生はツッパリなんて絶滅危惧種扱いで殆ど存在なんてしないから、双方を珍獣でも見るような奇異な目で見ていて、それを喧嘩売ってるんだったら買うぞ的な感じでメンチ返しするという悪循環の所業だよね?
それよりかは大分マイルドだけど、やってることは同じだよね?
お前ら慣れない土地でハッチャケるのも大概にしなさいね?他の人の迷惑だから。
「うわぁ…最悪だぁ…」
「シモーヌ?」
いきなりシモーヌが猫背になり顔を両手で覆った。
「…もしかして?あれって?」
「…はい。あれの片割れがうちの学校の頭お花畑のアクナシオン家の跡取り息子です」
「…でも見事にもう一人の片割れもお花畑みたいなんだけど」
「エルカイザーも色々大変なんでしょうね…」
「大変は大変でも大変よろしくない方向に大変だよね」
「もう大変が多すぎて何が何だか分からないです」
「空しいよねマウンティングって。マウントの取り合いってやってるほうは必至だけど、見てるほうは逆に冷静になるよね。反面教師的な感じで」
「そのマウンティングが何かわかりませんが、概ね同意です」
そんな会話をしている最中も、お花畑の住人達はまだまだマウンティング合戦を繰り広げていた。
「サンティアス君溜まりに来たら、古臭くてホコリ臭いアクナシオニスがいるなんて思わなかったよ。ははは」
「こちらもサンティアス君溜まりに来てみれば、口だけは達者で犯罪者輩出数だけが誇りのエルカイザーがいるなんて夢にも思わなかったね。ははは」
「「……ははははは」」
おい。サンティアス君溜まりってなんだよ…
「サンティアス学園もいけ好かないけど、やはりアクナシオニスが一番だ」
「サンティアス学園も好きではないが、やはりエルカイザーが一番だ。良かったね、待望の一番という称号が貰えて」
いやお前ら、どうでもいいからサンティアス学園を巻き込むなよ。
と言うかさ、あいつら何処目指してるの?山頂?マウンティングしてもそこに山も頂もねーからな?
登頂というゴールもなければ休憩する小屋もねーから。
あるのは空しい自分を映し出す鏡だけだから。
アルピニスト気取ってんのもいいけど、お前ら最初から遭難してるからな?
救助隊に迷惑かける前に早く下山しろ。それか最初から登山なんかすんな、迷惑だから。
「一番?それならたくさん持ってるよ?それに固執してるのは君たちだろ?なんたって一番最初に開校したというだけしか矜持が無いんだから」
「やはり学校の品性がないと生徒の品性もたかが知れてるんだね。いや、呆けてるの間違えか?何せ全てが中途半端でたくさんの称号を持ってるなんてせん妄状態なんだから」
「呆けてる?それこそ君たちのほうだろ?なんたって古臭いことにずーっと固執してるんだからな。ああ、丁度いい。ここはサンティアスだから養老院がある。入居出来るように申し込みでもしてきたらどうだ?君たちにはお似合いさ」
「間に合ってるね。あんな所近づきたくもない。そちらこそ刑務所に入る予約はまだかい?せいぜい臭い飯でも食べていたまえ」
「「……ふんっ」」
だからサンティアス巻き込むんじゃねぇ!!
養老院は原則サンティアス出身の身寄りのない人限定だっつーの!!
それに養老院は介護施設じゃねぇよ!
確かに要介護の人もいるけど、昔の杵柄で手に職を持った人がたくさんいるから働いてる人もいるんだよ!
聖育院とも施設が近いから昔から俺達サンティアスの養い子は良く遊んでもらったり、色んなことを教えてもらったりしてんだよ!!
養老院のじーちゃんばーちゃん貶すと流石の俺も怒るぞ!!!
「…ねぇ。あいつらムカつくんだけど…」
「っヒィィ!?ゴゴゴゴンドリックサン?」
「…ああ、じーちゃんばーちゃん達の事を悪く言うのはいただけねーな」
「ルピシー」
俺もムカついてたがゴンドリアに鬼神が降り始めてるし、ルピシーは珍しく青筋立てて犬歯むき出しだ…
それに周りの空気が変わった。
周りの人たちの目が生暖かい目から剣呑と言うか、目が座り始めてる。
中には武器に手を伸ばし始めている人もいた。
そんな雰囲気を察したのか2校のお花畑以外の生徒の一部が初めて声を発した。
「まぁまぁおふたりさんそこまでにしてよ。ね?」
「そうだよ。せっかくの旅行なんだから楽しくいこうぜ?なぁ?」
「そうそう……あっ!バロスガロン!!お前いったい今までどこにいたんだよ!!」
いきなり取り巻きの中のポッチャリな男がこちらを向いて誰かを呼ぶと、シモーヌのコメカミがピクッと動き、とても小さな声で悪態を囁いたのを聞いてしまった。