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Public Star~目指せ若隠居への道~  作者: 黛紫水
第七章 根と源の章
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第二百九話 御三家

「おい公星。あんまり高速で飛び回るなよ」


公星が嬉しそうに俺の頭上を飛び回っている。

一見遠目からはかわいく見えるのだが、公星の大きさは既に130センチを超え、四捨五入をすれば140センチ程の大きさまで成長しているので、間違って激突された日には冗談では済まされない。


「モキュ!」

「まったく…返事だけは良いんだがなぁ。何回俺に激突したことか」

「モキュキュ!」

「人を選んでやってるじゃねーよ。俺はお前のタックルバッグじゃねーぞ」


あまり大きな声を出すと皆に他人の振りをされるため、普通の話口調でツッコんでる俺って出来る男だわ…とか思っていると前からルピシーらしき物体が歩いてくるのが見えた。


「なぁあれってルピシーだよな」

「え?…ああそうだね」

「時間に遅れてるのに走らないで普通に歩いてるのがルピシーらしいな」

「しかもすっごい良い笑顔でこっちに向かってきてるわよ」

「あ、手を振り出した、うん」

「ルピシーの事だからきっとさっきから私たちの事が見えてたんじゃないか?」

「ありえますね」

「よし。とりあえずドロップキックでも」

「「「「「しないでよろしい」」」」


良い笑顔で近づいてくるルピシーにイラっとしながら待っていると、ルピシーが誰かを連れて歩いているのが分かった。


「ねぇ、あいつ誰か連れて歩いてない?」

「ん?ああ本当だ」

「誰かしら?」

「知ってる人?」

「いや、知らん」


皆にも聞いてみるとやはり知らないらしい。


「あれ?隣で歩いている子って女の子だよね?」

「え?本当だ。スカートはいてるよ、うん」

「スカートなんてゴンドリアだってはいてるじゃん」

「私は特殊な例よ」

「自覚はあるんかい!」


畜生!ルピシーの奴待ち合わせ場所に遅れておいて、その理由が女の子とデートだと?

…良しボコろう…殺しはしない、ボコるだけだ。


「おう!みんな待たせたな!」

「…お前は何処の御大尽だよ。随分お楽しみなようで」

「なんだそのオダイジンって?美味いのか?」

「美味いとか美味くないとかの問題じゃねーから。というかお前が連れてるその人誰よ?もしかして彼女?彼女だったら今すぐ縁切りの祈祷してやるからそこに直れ」


俺が質問をするとルピシーの横にいた人が挨拶をしてくる。


「初めまして、私はシモーヌと申します。道に迷ってたところをルピセウスさんに助けていただいて、今ダルゴ大広場まで案内してもらってるんです」

「これはどうもご丁寧に…初めまして俺はセボリオンと申します」


ダルゴ大広場とは先程俺達が集合場所にしていた場所である。

この土地がまだサンティアス学園となる前、この場所ですごいことをして死後列聖されたダルゴと言う人の名前からとった広場で、歴史のある場所らしい。

一応列聖されているのでダルゴの前に『サンク』とつけなければいけないのだが、サンティアス学園都市以前にあった町の風習?の名残で、学園都市で生まれ育った人間は決して彼の名前の前に『サンク』をつけて呼ぶことはない。

何故なら彼は列聖を望んではいなかったかららしい。


「道に迷ったってことはここの人間じゃないの?」

「ええ。この服装を見てもらえばわかるように私はアクナシオニスの生徒でして、今卒業旅行の最中だったんです」

「ああ!そうか!」


そうだなんか見たことあるなと思ったら、シモーヌが着ている服はアクナシオニスの制服だ。

それとさっき大広場で見たもう一つの制服は帝立第一学校エルカイザーの制服だ。

学園都市内ではそうそう見かけることがないからパッと出てこなかったわ。


アクナシオニスと帝立第一学校エルカイザーとは、聖帝国の中で教育機関御三家と言われる学校のうちの2校で、残るはこのサンティアス学園なのだが、この3校が世界でトップの教育機関と言われている。

この中で最も歴史が古いのがアクナシオニス、次がサンティアス学園、そして帝立第一学校エルカイザーと続き、帝立第一学校エルカイザーが3校の中では一番新しいのだが、新しいと言っても既に開校1万年以上の歴史を誇っており、他の学校の追随を許さない程の差がある。


アクナシオニスは歴史上判明している中では最古の学校・・とされているので古いのは当たり前で、エルトウェリオン王国が今のエルドラドの場所に遷都する前、古都のアクナシオンにあった寺子屋的なものがその前身と言われている。

全寮制でガッチガチに伝統と言う名の鎖で縛られたお堅い校風であり、生徒の殆どがエルトウェリオン公爵領の領民で、他領や他国から留学生が御三家の中では著しく少なく、そして生徒数も御三家の中では最小。

ついでに言うと『世界最古の学校・・』『エルトウェリオン王国時代の古都アクナシオン』と言う名の看板を持っているためか異常な程に矜持プライドが高く、その高さはエルファドラ山よりも高くそびえ立ち、性格も捻くれこんがらがった者が多いと有名である。

余談だか世界最古の学校・・はアクナシオニスだが、これが世界最古の教育機関・・・・とするのならばアルゲア教団のほうがもっと古く、まだアルゲア教が国教になる前の土着宗教だった頃、彼らが自身の子供たちや仲間たちに教えを説いた青空教室的なものが最古である。

これはエルトウェリオン王国が建国されるはるか昔の話で、超古代の伝承なのでいつ頃から始まったのか正確な記録はないが、あったことは確かのようだ。

なので世界最古の学校で、プライドだけは高いアクナシオニスと覚えておいてもらえればいい。



帝立第一学校、通称エルカイザー。

聖帝国帝都シルヴィエンノープル内に72ある帝立学校の中で一番の歴史を誇り、最も入学が難しいとされる学校だ。

校風はアクナシオニスよりかは緩目らしいがそれでもお堅く質実剛健、生徒の殆どが帝都の人間で自宅から通学するらしく、寮はあるが一部の越境組や他国からの留学生たちしか使っていないらしい。

政府の中で働く官僚や役人の出身校の比率ではサンティアス学園に続いて2番目に多く、優秀な人材も多数輩出されているため、『帝都で役人こうむいんになるのならばエルカイザー』とまで言われている。

だが如何せんサンティアス学園と比べてしまうとどうしても見劣りしてしまい、学校の規模や実績に至るまですべて中途半端とのように感じられる。

それは1年で発表される論文の数でも証明されており、サンティアス学園が100とするなら、エルカイザーはオマケして漸く1程度と約100倍以上の差がある。

またアクナシオニスは0.01で、論文の数や引用数、更には内容も圧倒的にサンティアス学園が上であり、サンティアス側が新発見をするたびにこの2校が臍を噛み地団駄を打つ姿が見られると、『学会の名物となっている』と前にロイズさんから聞いたことがあった。

そんな彼等も帝都シルヴィエンノープルの学校の中で一番という矜持プライドをお持ちなので、アクナシオニス生程ではないがかなり香ばしい生徒が多いようだ。

これも本当に余談なのだが、官僚や役人の出身校別で見ると、収賄や不正といった汚職事件での逮捕者の割合が一番高いのがエルカイザーである。

なので帝都で一番トップの学校で、それなりに有名なエルカイザーと覚えてもらえば支障はないだろう。


結構酷い事を書いたのだが、この2校だけがサンティアス学園と角を交えることが出来る世界でトップクラスの歴史と権威を持った学校がアクナシオニスとエルカイザーなのだ。


「?」


シモーヌが不思議そうな顔で俺を見ている。

まぁそりゃそうだよね。いきなり一人で納得してるんだから。


「ああ、ごめんね。実はさっきから見慣れない制服を着た人を見かけてたんだけど、それが何の制服なのかどうも思い出せなくて気持ち悪かったんだ。でもそれが解消されて一人で納得してたんだ」


アクナシオニス生であるシモーヌの制服を見てみよう。

赤茶色のブレザーに深緑のチェック柄スカート、白いシャツにスカートと同じ色柄のネクタイをしている。

スカートやシャツにはちゃんとアイロンが掛けられ、パリッとしていかにもお堅い感じがする。


「そうだったんですか。もしかしてアクナシオニス生だから気に障ったのかなと思ってました」

「流石に他校の人間に初対面で嫌いになれるほど嫌味な性格してないよ」

「……」


俺の言葉を聞きシモーヌが黙り込んでしまった。


「え?どうしたの?」

「ちょっとセボリー。あんた無意識にまた無神経なこと言ったんでしょ?」

「おいゴンドリア。お前今の会話聞いてただろうが。どこに無神経な発言があったんだよ」

「女の子は繊細なのよ。ねぇユーリそうでしょ?」

「人によるとは思いますが、概ねそうだとおもいますよ」


シモーヌの様子を見てみると、傷ついているというよりか何か考えにふけっているように見えた。


「ははは!」

「え!?何急に笑い始めた!?」

「どうした!?」


何がおかしかったのか、シモーヌはいきなり笑い始めた。


「ははは。いや急にごめんなさい。やっぱりそれが普通の感性持った人の反応だなと思ってしまって」

「?」


普通の感性を持った人?

うん。俺はいたって普通の人間だよ。


「もしかして学園都市で何か嫌な事でもあったのかい?」


心配そうにシエルがそう告げると、シモーヌは首がちぎれるんじゃないかと言うほど頭を横に動かした。


「いえ!学園都市に来てからは嫌な事なんて全く体験はしていませんよ。逆に伸び伸びとしてるので清々しいほど羽を伸ばせています」

「それは良かった」

「と言うことは、学園都市に来る前は嫌なことがあったということか」

「ん~~。まぁ慣れっこなんですけどね。実は…」


シモーヌは屈託のない清々しいほど満面の笑みでこう言った。


「私置いてけぼりにされたんです」

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