第二百七話 それから
あの深夜の拉致事件から3日ほど経ち、他人様が平和な生活を送っている中、俺は今でも忙しい生活を送っていた。
「ご迷惑をおかけして大変申し訳ございませんでした。つまらない物ですがこちらを」
「いやぁ。本当に驚きましたよ。いきなり不審者が部屋の扉をけ破ってきたんですから」
「まことに申し訳ございません」
「お知り合いなんですか?」
「……どうやらそうだったらしく…祖父です」
「また大変な方を祖父にお持ちで」
「重ね重ねご迷惑をおかけいたしました」
ボロボロのパジャマ姿で帰った後すぐに着替え、宣言通り菓子折りを持ってご近所の部屋に謝罪行脚をしたり。
「え?もうダメ!?なんでぇ!!?」
「もう締め切りも終わりましたし、受理されてしまっていますからね」
「学園ってそういうの臨機応変に対応してくれるんじゃないんですか!?」
「入学後は大丈夫なんですが、入学前のこの時期は色々と制約があり変えられないんですよ。受理が終わってなければ大丈夫だったのですが」
「制約?」
「ええ。特に新成人の方の入学における制約は少し特殊な事柄がありまして、おいそれと変更できないんです」
「それはいったいどういった理由で?」
「聖帝国国籍の方が成人していても、中等部を卒業するまではまだ未成年との括りなんです」
「はい。それは知っています」
「昔新成人の後見人と謀って、その方が入学前のこの時期に色々やって大問題になった、という事件が発生しまして。それから一度受理されたものを変更できなくなっているんです。変更を希望するなら入学後に申請を出していただく形になってしまいます。大変申し訳ないのですが、規則ですのでご容赦を」
「そんなぁぁあああ!!!」
謝罪行脚が終わったあと、俺はおっさんが勝手に決めた高等部の科について、学園事務所に相談しに行ったり。
「セボリー久しぶり」
「あ。ロイズさんどうもお久しぶりです」
「中等部卒業までに一度僕のところ来てね」
「え?あ、はい」
「デュセルバード侯爵から君の教育内容についての要望が届いてるから」
「…へ?いつですか!?」
「昨日だよ」
「昨日ってあの人がレライエントに帰ってから直ぐじゃん」
「朝っぱらから伝令の手紙が来て何かと思ったら、デュセルバード侯爵からの要望だからね。少し驚いた。まぁそんな手間じゃないし了承したけど」
「…それで、どういった教育内容で?」
「デュセルバードの地理や歴史を教えてくれって要望」
「……それでロイズさんはOKをだしたんですか?」
「OKを出すも何も覚えなきゃいけないことだからね。次期デュセルバード侯爵の候補は君しかいないんだから」
「………それも書かれてたんですか?」
「え?そんなこと書かれてないよ。なんとなく?」
「なんで分かるんですか!!…もしかして星見の能力?痛!!?痛い!!頭が割れちゃう!!」
「何で君が僕の能力知ってるのかなぁ?」
「お!おっさん!!おっさんが口走ってました!!!」
「オルブライト司教か…あの人一回絞めないといけないな」
「絞めるのは大賛成なんですけど!その手をはなして!!!絞めつけないで!!!」
「全くもう」
「ひ、ひどい目にあった」
「卒業前に来てって言ったけど、僕今日から一週間は店にいないから直ぐじゃなくてもいいよ」
「え?なんでですか?」
「なんでって。仕事だよ、仕事。依頼があってあるものを採取しに行かなきゃいけないから」
「あ、はい。わかりました」
「じゃあね。あ、そうだ。はい、これね」
「……あの…この紙の山はいったいなんでしょうか?」
「宿題だよ。期限は高等部入学前ね」
「ィイヤァァァァァァアアアアア!!!」
ロイズさんの物理攻撃と宿題攻撃に頭を痛めたり。
「さぁ!!採寸するわよ!!!」
「またかよ!!?」
「当たり前でしょ!!高等部の制服作らなきゃいけないんだから!!」
「高等部からは制服いらないだろうが!!!」
「いらなくはないわよ。一応指定の制服があるしね。ただ自由な服で授業受けていいってだけ」
「じゃあ制服いらねーじゃん!!!」
「あんたどうせズボラに過ごすつもりでしょうが!!あんたこんなのでもこの商会の会頭になるのよ!?変な格好でウロウロされちゃこまるのよ!!ついこの前だってボロッボロの寝間着姿で外出てたでしょ!!!噂になってたわよ!!あたしは恥をかきました!!!」
「あれは不可抗力と言う名の惨劇だ!!!」
「それにあんた!自分の身分も考えなさい!!あんたこんなのでも24家の一族なのよ!!?それなりの格好しないと恥かくわよ!!!」
「公には公表しないんだから別にいいだろうが!!!それにさっきから、こんなのこんなのって言うんじゃねー!!!」
「知ってる人は知ってるわよ!!こんなのでもあたしが作った服着るんだからちゃんとしなさい!!じゃないとあたしが恥をかく!!!」
「恥でも何でもかいてろよ!!!俺は採寸なんてやんねーから!!!」
「ウッセーー!!とにかく制服作るから!!決定してんだよ!!だから動くんじゃねーぞ!!!」
「鬼神ゴンドリックさんがご降臨なされた!!!」
ゴンドリアにお人形にされたりと、色々大変だったんだ。
結果高等部入学前や入学後にもやることが増えてしまい、てんてこ舞いな生活を送っている。
「中等部卒業まであと半月かぁ…」
「一人で黄昏てどうしたんですか?」
ここ数日の疲労もあり、商会事務所のオープンスペースで黄昏ていると、ユーリがお茶を持ってきてくれた。
「いや…見たらわかるでしょ、これ。それに中等部の間に色々あったなぁっと思って」
「ああ、なるほど。いよいよ卒業かぁ…私にとってはいい思い出だらけの中等部生活でした」
「ユーリは高等部にいったら芸科だろ?」
「はい。取りたい資格もありますし。それが一番いいと思って」
「なるほどね。俺はまず聖科から魔科に転科希望出さなきゃ…でも良かった…卒業間際に寮を追い出されなくて…高等部の寮はまだ入れなかったし」
「寮ですか……私、高等部は寮にしようか通いにしようかまだ決めかねていないんです」
「なんならもうここに住んじゃえば?」
「え?良いんですか?」
「おう。家賃もいらないし。今でも忙しい時は狭いながらも自分の部屋で寝てるだろ?シエルとヤンが実家に帰る予定だから部屋が空く。そこを使えばいいんじゃないの?」
「…じゃあご厚意に甘えますね」
「うん。そうしな」
あと半月で卒業。それから高等部入学までに約1か月。
つまり半月までにこの宿題をやらないと殺されるということですね…
俺がなんで黄昏ていたか、何となくわかっていただけただろうか。
俺の前には山となした答案用紙が積み重なっていた。
「これ絶対あれだよね?この宿題終わらせても、高等部入学前にもドカンとこれ以上の宿題が襲い掛かってくるパターンだよね…」
夢見の能力が発動しなくても、未来が読めてしまったよ。
今日は珍しく外出せずに俺の横の椅子で寝ている公星を撫でながら、俺は再び黄昏るのであった。
とある星空の下、一人の男の姿があった。
月と星の光に照らされた男は精悍な顔立ちをしており、黒い髪は月の光を受け神秘的に輝いていた。
男は星空のある一点を直視し、ため息をつく。
「もう少し…もう少しでお目覚めになられる……狂いお隠れになられた尊き闇の御方様の一欠をその身に窶し、お眠りになられる尊きお方………果たして聖上は我をお認めになられるだろうか………尊き闇の御方様よ。あなた様の苦しみと悲しみはまだ絶えはいたしませんか?どうか、どうか安らかであれ」
男の紫色の瞳から、一筋の涙が零れた。
第六章終了
第七章が始まる前に幕間がはいります。
連日の更新は厳しいですので、少しスローダウンさせていただきます。
9月26日の活動報告におまけの小話が載っていますので、よろしければ覗いてみてください。