第二百五話 朝が来る。爺も来る
あれから俺の涙につられたのかおじい様も一緒になって泣いていた。
それから5分ほど経った頃、扉をノックする音が聞こえてくる。
俺はおじい様に入れても良いかと目で合図をすると、了解の確認が取れたので返事を返した。
「どうぞ」
扉が外れているため、扉を枠から外し出てきたのは予想通りおっさんだった。
「話は出来たか?」
「ふん、邪魔をするでないわ。儂はベリアルともっと話したいことがたくさんあるのじゃ。お前はずっとどこかへ行っておれ」
「ヴェルナスこそ領地の事で多忙だろう。そろそろ帰れ。今すぐ帰れ」
「なんじゃと!?」
「なにかな!?」
あ~~、駄目だ。
先程までの糞爺同士のデスマッチのような険悪さはないが、今度は糞爺同士のじゃれ合いのような感じになってきてる。
「それに私もお前の乱入で、セボリオンとの話を中断させられているのだがな」
「ハッ!どうせ下らん内容の話じゃろうて!それとその名を言うでないわ!あの子はベリアルトゥエルじゃ!」
「さて、本人はどう思っているのだろうかな?」
おい、おっさん俺を巻き込もうとするんじゃない!
俺は糞爺同士の戦いに参戦するつもりはねーから!!
「ベリアル!」
「セボリー!」
同時に呼ぶんじゃねーよ!!!
もう良いじゃん、どっちでも!!
というかさ、このやり取り見ててさっきまでの感動が退場したんだけど。
涙がピタリと止んだわ!!!
「あ、普段の時はセボリオンってことでよろしく。公式の場ではベリアルトゥエルって名乗るから」
「ベリアル!!?」
「ふふん。普段時のほうが多かろう。私の勝ちだな」
「阿呆が!ベリアルは世襲貴族になるのだぞ!?その時は必ず正式な名を名乗らねばならん!ならば儂の勝ちじゃ!!」
え?なんで勝ち負けの話に発展してんの?馬鹿なの?
それとさっき世襲貴族になるつもりないって言ったよね?ボケたの?
というか俺の名前で争うのやめてほしいんだけど。
さっきも言ったけど俺ヒロインじゃねーから。
「第一皆こいつの事をセボリオンと認識しているからな。ベリアルトゥエル?誰だそれは?となるのが目に見えているではないか」
「お前の付けた訳の分からん出自不明の名前より、出自も分かり格式も高い名前のほうがずっと良いに決まっておろう!」
「なんだと!!?」
「やるか!?受けて立つぞ!!」
あのさぁ。喧嘩するんだったらどっか他の場所でやってくれないかなぁ?
寝付いてからすぐ拉致された関係で、俺今日殆ど寝てないから眠いんだよ。
深夜時から今までいろいろ話したりなんやりで結構お疲れモードだし、今の時間って朝日が昇ってから結構経ってるからね?
正直長く起きてたからお腹も空いてるのよ。
昨日最後に食事取った時間6時半だからね?
それにね。実は最初から文句言おうと思ってたんだけど、着替え位させてくれよ。
さっきから感動のシーンとかやってるけどさ、今の俺の格好見てみ?パジャマだぞ、パジャマ。
通気性抜群で肌触り抜群の特製生地で作った、ゴンドリアお手製のピケット柄のマイパジャマ。
さっきのジークムントさんとのやり取りもこのパジャマ姿でだからね?わかる?
着替えようにも拉致った人が俺のマジックバック持ってきてくれてないから着替えもないし、起きたらそのままジェットストリームな話が始まるわで、急すぎてメタパニ状態だからね?
改めて冷静になって考えてみたけど、さっき部屋の外に出た時、息を飲まれたのってこの格好のせいじゃねーか?
なにその寝間着って思われてたよね?絶対そうだよね?
また俺の人生に黒歴史が記されちゃったじゃねーか!!
「ハイハイハイハイ!そこ喧嘩しない!!爺同士でイチャイチャしない!!もう朝だから。まごうことなく朝だから。徹夜明けの朝っぱらからそんなエグイもの見たくないから!!」
「「イチャイチャなどしておらん!!!」」
「はい!揃った!おめでとう!仲良きことは美しき哉!」
「仲など良くない!!!」
「そうじゃ!!こんな奴と仲が良いなんて考えただけでも悍ましい!!!」
「嫌い嫌いも好きのうち!!対極にあるこの感情は少しどちらかが傾けば同じ感情になりますから!」
「ベリアルがこんなことを言うなんて……お前の教育が悪いせいでこうなったのだぞ!!!」
「なんだと!?格式高きデュセルバードが聞いて呆れるわ!お前ら揃いも揃ってポンコツだろうが!!!」
「なにおう!!?デュセルバード家にこんな性格の奴はおらんわ!!これはお前の血が原因じゃろ!!!」
「あのさ。こっちから見てると二人とも同じくポンコツだからね?そのポンコツ2人が俺の祖父って時点でお話は終了だろうが」
あれ?自分で言っておいてなんだけど、そうなると俺ってポンコツのサラブレッドじゃね?
なにそれ~。ないわ~。
「何を言ってやがる!!?お前が一番ポンコツだろうが!!!」
「そうじゃ!!!それに人のせいにするでない!!!」
「はーい!反論しまーす!大司教や帝佐さんから言わせればおっさんが一番ポンコツでーす!あと侯爵自身さっきおっさんに責任擦り付けてましたー!あと俺が今まで会ってきたすべての24家の血筋、皆癖が強すぎるかポンコツでーす!」
「「このクソガキが!!!」」
爺二人が俺に向かって走ってくる。
寝不足と空腹のせいで少し言いすぎてしまったかもしれないが、全然後悔はしてない。
「コラ!セボリー!!待ちやがれ!!!」
「コレ!そこに直れ!!ベリアル!!!」
俺は捕まらないようにすかさず走って逃げるが、爺たちは俺を追いかける。
「ちょ!?くんなぁ!!」
「今日こそその捻じ曲がった性格を矯正してやる!!!」
「ここまで放っておいた儂がバカであった!!!ベリアル!一人前のデュセルバードの男として心を鬼にして其方に教育を施してやろう!!」
「良いから!遠慮するから!!間に合ってます!!!」
「「待たんかーー!!!」」
俺は逃げ回っていて全く気付かなかったのだが、この騒ぎを聞きつけてラングニール先生やピエトロ先生などの教団関係者、ジークムントさんたちデュセルバード家臣団が部屋を覗きに来ていたようだ。
最初はこの光景に唖然としていたようなのだが、そのうち皆楽しく笑い合っていたらしい。
「…ああ、またですか。セボリーはまだしも良い齢した大人が何をしているのやら」
「セボリーもだがあのおっさんも懲りねーな。おっ、惜しい」
「父上。我々は若様達をお止めしなくてもよろしいのですか?あ、あと少し!お屋形様!そこです!」
「…このようなお屋形様のお姿を見れる日が再び来ようとは思わなんだ…」
「ジークムント殿?」
「…お屋形様があのように屈託もなく笑う姿を見たのは15年ぶりでござる。まるで昔のお屋形様にお戻りになられたようだ………リッカルト…確と見るのだ。お前は記憶にないだろうが、あれが真のお屋形様だ」
「父上……これからいつでも見ることが出来ますよ。若様がお戻りになられたのだから」
「…ああ」
「でも父上、某は心配でございます。お屋形様はもう結構なお歳。お体に障らないでしょうか?」
「心配いらん。老いても24家当主。お屋形様が若い頃に残した武勇伝がたくさんあるのだぞ?騎士爵位もお持ちだ。あのような運動、鍛錬にもならん」
「…暫く放っておきましょう」
「ああ。そうだな」
その後教会関係者は通常通りの作務へ戻り、デュセルバード家臣団も大聖堂の中にある庭を借りて朝の鍛錬をしたようなのだが、鍛錬が終わって帰ってきてもまだ追いかけっこが終わってはおらず、教会関係者もしびれを切らした結果、俺たちは両陣営に強制的に拘束され3人仲良くお説教を受けることになった。