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Public Star~目指せ若隠居への道~  作者: 黛紫水
第三章 成長期の章
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第二十二話 制服

「待ってた…待ってたぞ!!苦節6年!この日を待ち望んでいた!!!」

「…ああ、スカートの件ね。確かにあたしもコーディネイトが増えるから嬉しいわ。まぁ、でもどうせ寒くなると皆パンツスタイルに戻ると思うけどねぇ」

「それでもだ!!ゴンドリアのスカート姿は見たくないけど、可愛い子ちゃんのスカートは目の保養になるし心も癒されるからな」

「あらぁ、あたしも十分可愛い子ちゃんよ。今まで何十人も告白されたし」

「そして騙されて告白した男は砂と化したんですよね。5年生の時にお前に告白してきたミゲル君…可哀想にあれから学園を退学したって聞いたな…」

「人聞き悪いこと言わないで頂戴、向こうが勝手に勘違いしたんじゃない。あたしは性別を隠してるつもりは無いわよ、だってあたしの格好と口調は唯の趣味ですもの」

「どうでもいいからお前名札つけろよ『男です』って名札を」

「嫌よ、そんな野暮ったいのつけたくないわ」

「お前それ絶対ワザとだよな」


今日から俺達は中等部に入学する。

が、少し時は遡り…



「それで、俺を拉致ってきた理由はなんなんだよ!」


俺はゴンドリアに事務所へ拉致られ、身動きが出来ない状態にされていた。


「もうわかってる癖に。制服よ、せ・い・ふ・く」


中等部は制服はあるが基本は自由で、ある二点さえ守っていれば良いらしい。

それはブレザーやローブ、ジャケットなどについているサンティアス学園の校章を見える所に必ず1つは付け、尚且つ校章のマークを傷つけるような加工をせずに付けることだ。

例えばフード付きの茶色い白衣のようだった初等部のローブに襟や袖に羽を着けたり、長さをショートコートの長さにしたり色を変えたりするのはOKだが、校章を切り刻んで貼り付けるなどはNGということだ。

ただし校章の糸を染色して色を変えたりするのはOKらしい。


しかし初等部の時から思っていたが、中等部・高等部の人達の格好はフリーダム過ぎだ。

中には普通に初等部の時の格好をしている人もいるが、殆どが手を加えて着こなしている人が多い。

この制服の加工は自分でやっても良いし店に頼んでも良いらしく、毎年入学式シーズンになると服屋さんや染色屋さんが大忙しになる。

例に漏れずロディアスさんの店も凄いことになっているようだ。

昔俺達が副院長に連れられてロディアスさんの店を訪れた時も服で埋め尽くされていたが、理由はそのためらしい。

この時期は学園都市内の服業界からしたら書き入れ時のピークで、どこもかしこも大忙しのようだ。

勿論服屋に頼まず自分自身や裁縫の上手な友人に頼んでも良いので、初等部からエスカレーター式で入った中等部新入生は、初等部で培った人脈を使って頼むことが多い。

なのでゴンドリアもたくさんの同級生から頼まれていたりする。

そのため俺の制服は金もそれなりにあるし、外注しようかなと思っていた矢先にこの状況なわけである。


「制服ぅ!?でもなんで俺拉致られたの!?俺を無理やり拉致って縛り付けてる理由はなんなんだよ!!」

「セボリー水臭いわよ、一緒にやりましょ♪あたしの所にもたくさん注文がきてるけどセボリーが一緒なら速くできるわ。セボリーも一石二鳥でWin-Winでしょ?」

「んなわけあるかい!!!大体お前のほうがそういうの得意だろうが、しかも早いし!!」

「普通の服だったら問題は無いのよ。でもね、あたし達の制服って特別製って事忘れてない?」

「…そういえばそうだな。確かあの精霊石の粉を加工して作った糸で作ってるって…」

「そうなのよ、実は正式名称があるんだけど長いから精霊糸って呼んでるけどね。あたし達の制服って魔法構築の術式も組み込んでるらしくて、あたし一人じゃ無理なのよ。」

「あー、だからか。さっきから見て見ぬ振りしてたけど、シエルが椅子に縛り付けられてるのは…」


うん。実は俺が拉致られてこの事務所の部屋に来た時には、既にシエルが椅子に縛り付けられていたんだ。

必死で俺に無言の助けてサインを送っていたけどタッチすると俺が火傷しそうだし、俺は俺でこんな非常識な状況だったからスルーしていたってわけ。


「ええ。快く協力してくれるらしいわ」

「どう見てもそうは思えないんだけど、気のせいですか?」

「気のせいよ。ほらシエルだってやる気満々よ。ねぇ、シエル」

「セボリー僕はもういろいろあらがうのに疲れちゃったよ。人間諦めって大切だよね…あれ?何か楽しくなってきた…?」

「戻って来いシエーーーーール!!!」


俺はシエルがお花畑に行くことを阻止して工房で作業を始めた。

あ、そうそう。さっきから事務所事務所言ってるけど、実は俺達商会を立ち上げる関係で事務所を借りちゃったんだよ。

しかも4階建ての倉庫ビル一棟丸々だ。

不動産屋の社長さんが元々サンティアスの養い子で、俺達のようなサンティアスの弟妹達にそれなりの物件を少し勉強価格で貸してくれてるんだ。

マジで感謝です。


しかしこの商会、皆が個人の趣味で始めた事が大きくなりかなりの金を稼ぎ出すことになったとはいえ、俺達は学生の身なので本来は学勉第一が基本(一人除いてだけど)だ。

なので学業のためにと一時期ペーパーカンパニーと化し持て余し気味だった商会の建物を、いつでも改装できるような感じで放置状態が続いていたのだが、暫くして色々なことに余裕が出てくると各々暇を持て余しはじめ、ならば折角だからと自分達で内装を改装し、1階部分をウェルカムスペース兼店舗に、2階を共有スペース兼倉庫、3~4階を個人の部屋兼工房兼研究室として利用する形に収まったのだ。

あ。改装の事はちゃんとオーナーに許可は取ってるからな。


「さぁ。シエル、セボリー。一緒に楽しみましょう」

「「いぃやぁぁぁぁああああああああ!!!」」


楽しみましょうと言いつつ拳を鳴らしながら近づくんじゃねーよ!!

結局加工するのにルピシー以外全員の知恵が欲しいらしく、5人が集まったもとい集まらせられた。


「さて、まずはデザインからね。それから構築式や色んな事を話し合いましょ。みんなどんな制服にしたいの?そうだセボリー、デザイン描いてよ」

「何で俺が描かなきゃいけないんだよ!!お前が描けや!!」

「あんた、あたしがデッサン苦手なの知ってるでしょうが。頭に想像した形は作れるけど描けないのよ。あたしだけの制服だったら問題ないけど、皆好みの服にしたいんだから見なきゃ分からないでしょうが」

「確かにお前は画伯で絵の才能は壊滅的だけど、何で俺がお前の専属絵師みたいになってるんだよ!!」

「そういう運命だからよ!」

「お前交友関係俺らの中ではルピシーに次いで2番目に多いんだから、デッサン描ける奴いるだろうが!!スカウトしてこいやぁあーーーー!!!」


後にこの言葉を発した俺は後悔する破目になる。

ゴンドリアがスカウトしてきた人物があまりにも…

まぁ今はそれは置いておくとしよう。


どうやらゴンドリアは自分の制服をフリルの着いたチュニックとボレロ+パンツスタイル型で纏め、尚且つ護符アミュレットを縫い込み、ローブも薄紅色のハーフコート型にしてレースとアクセサリーと護符アミュレットをつけたいとの要望だった。

贅沢だなおい。

ゆるふわ系でも目指してるのか?想像したらむかついてきたわ。


シエルはどんな制服が良いか自分では全く分からなかったらしく、本人の希望も無かったので俺が適当に描いたいわゆる純白の詰襟学ランに装飾と護符アミュレットをつけ、ローブは護符アミュレット付きの蒼のトレンチコート風のものになった。

まるで乙女ゲーの生徒会の制服みたいだなと思った俺がいたが、シエルは気に入っているようだ。

シエル良いのか、お前はそれで。


フェディはシンプルなものが良いとのリクエストでYシャツにベストにネクタイ型リボン、パーカージャケットにダブルの白衣型のローブで、少しの装飾と護符アミュレットをつけたものにした。

あまり飾りが無いほうが良いとのリクエストに、ゴンドリアが見えないところに装飾を施すと張り切っている。

フェディ自身は服装に興味が無いのか任せきりだった。


ヤンは昔俺がデッサンした伝統的燕尾乗馬服のようなものをリクエストしていて、白いシャツに白いパンツ、真紅の燕尾服にシャーロック・ホームズが着ていたようなインバネスコートで黒をチョイスし、護符アミュレットと装飾をつけて欲しいとの要望だった。

護符アミュレットデザインはヤンがやってくれるらしい。


俺はYシャツに灰色のベスト、紺のショートジャケットに黒のフード付きロングPコートで護符アミュレットと装飾をさり気なく散りばめられているスタイルになった。


ルピシーは呼んでもいないのに何故か来ており、動きやすいのが良いと叫んでいたのでミリタリー系にしておいた。

ローブもショートの襟無しコート風にして護符アミュレットをつけたら興奮して叫びだしたのでゴンドリアが(以下省略


このスタイルで、前6人で色違いで買った懐中時計を身につけられる形にするらしい。

徐々にスタイルやデザインについての記述が短くなったのは察してくれ。

ぶっちゃけシエルの服のデザインの段階から億劫になってきて、ルピシーのデザインにいたっては完全に投げやり状態だった。

だが投げやり状態の俺を尻目にゴンドリアは俺の描いたデザイン画を元に凄い勢いで型紙を製作していた。


「改めて解体してみて思ったけど、やっぱりこの初等部の制服ってすごいね。こんなにたくさんの魔法構築陣を組み込んでるのに全く違和感がない。しかも構築公式の形が綺麗でまるで芸術みたいだ」

「この糸を染色してる染色剤も凄いよ、うん。調べてみて分かったけど、採取するのは簡単だし量も多いけど物凄く複雑かつ丁寧に加工しないと綺麗な色が出ない植物の染料と、迷宮のモンスターの一部を加工して作る染料が混ぜられてるよ。実はこれ混ぜ合わせると反発して魔法がうまく掛からないんだ、でも見事に調和してるよ。すごいね、うん」

「この金具のデザインも素晴らしいな。護符アミュレットを作り始めてわかったことだがデザインで魔法の威力が変わってくる事があるのに、これは本来よりも上乗せできるような形になっているぞ」

「この縫い方も凄いわ。普通に引っ張ったり力をかけても破れもしないのに、一定の場所の数本の糸を外すだけでこんなに簡単に解体できるんなんて!!流石ロディアス師匠!!!」

「ZZZZZ」


うわぁ……皆目が血走ってるよ。

ルピシーはとある事情があって寝てるけど。

ねぇ。確か倒れて鼾って危なくなかったっけ?


「さて公星、俺達はそろそろお暇しましょうか」

「モキュ」

「皆さん服作りがんばってください。それではみなさまごきげんよう」

「モキュっキュ(はぐはぐ)」

「お前今度は何を食ってるんだよ…」


大きくなった公星は俺の影響か毒物を食っても影響がなく、何でもバクバク食っている。

『大食い』と『雑食』のスキルが融合して『悪食』になりより一層ひどいことになり、食費も馬鹿にならない状態だ。

しかしエアライズのレベルが上がり自由度が増えたからか俺が授業を受けている最中、外に出て誰とも知らない人に餌付けされているらしい。


さてこの『悪食』と言うスキル。実は取得したときにちょっとした事件があった。

初等部2年次にとある留学生が動物が嫌いと言う理由で公星に毒団子を食べさせた事件があったのだ。

その留学生に貰った団子のようなお菓子を公星は一旦は食べてはいたが、あまり食が進まなかったらしく残してしまっていた。

それを不審に思ったフェディが団子の成分を調べてくれて発覚したのだが、どうやらその団子には毒が混じっていたらしい。

俺はその時パニック状態だった。

公星に申し訳ない気持ちと自分の不甲斐なさで頭がいっぱいだったからだ。

結局その留学生はシエルたちの告発により退学後逮捕され、親が莫大な賠償金と保釈金を払い国に帰っていった。

後日談としては退学になった留学生の親は、賠償金と保釈金を払うため莫大な借金をして納金したらしく、その借金が返せなくなり前から問題も多かったため自国から貴族の称号を剥奪されたらしい。

まぁ俺としてはどうでも良い話だが。


そして俺には慰謝料として賠償金の一部が入ってくることになったのだが、俺はそれを辞退した。

いや、正確には寄付をしたのだ。

ぶっちゃけそれなりの大金だったが、俺が1年に稼ぐ金よりもかなり少ないし、公星を殺そうとした奴の金なんて受け取りたくなかった。

なのでその金は聖育院じっかの弟妹達のおやつ代や服代、備品代として寄付をさせてもらったというわけ。


で、先ほど出た『悪食』なのだが。

事件が一件落着して暫くして、俺は公星が以前は食べなかった物をバクバク食べていることに気づいた。

俺は疑問に思い、改めて公星のステータスを確認したら『大食い』と『雑食』のスキルが無くなっており『悪食』が追加されていたのだ。

つまり毒を食べてスキルが進化し、今まで以上になんでも食うようになったと言うわけ。

怪我の功名というかなんというか…


まぁそんなわけで、公星を眺めつつ逃げるように工房を出た俺は、公星におやつを買って寮の部屋へと帰っていった。

そして今現在、俺達は新しく作り直した自分だけの制服で中等部の門をくぐっていく。


「中等科って部屋の人数どうなるんだっけ?うん」

「たしか2人部屋だったよ。部屋は初等部の3人部屋より少し小さくなるらしいけど個室があるらしいよ。後は4人部屋もあったと思う」

「なぁ皆、毎朝俺を起こしに来てくれ。バラバラになってから3・4年次はルームメイトがいい奴で起こしてくれてたんだが、5・6年次は最初は起こしてくれてたんだが段々と起こしてくれなくなってさ…」

「それはルピシーのルームメイトが諦めただけだと思うぞ、実際私はもう諦めてる」

「ぼくも諦めてるよ、うん」

「僕もだね」

「あたしも」

「俺もだ」

「見捨てないでくれぇぇえーーー!!!」」

「うるせーー!お前いい加減にしろよ!?一体いつまでねんねちゃん気分なんだコノヤロォ!!!」

「あんた本当に自分で起きなさいよ。最初はセボリーもがんばって起こしてたけど、結局例の魔法の言葉も通用しなくなってきたんだからしょうがないじゃないの」

「だって…」

「「「「「だってじゃねーよ」」」」」

「でも」

「「「「「じゃ、がんばってください、ごきげんよう」」」」」

「待ってくれぇぇぇええええええ!!!」


ルピシーの俺達を泣きながら追いかけていた姿は、すでに顔知りの同級生から上級生にまでに見られていて、まるで三行半を突きつけられ妻に逃げられた男のようだと噂になり、当分の間ルピシーのあだ名は『ヤモメ』となるのだった。

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