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Public Star~目指せ若隠居への道~  作者: 黛紫水
第六章 萌える芽の章
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第二百一話 深夜の懺悔四

なんか分からないけどすごく恥ずかしい気分だ。

良い齢したおっさんの告白めいた言葉にそう思ってしまった。

顔に熱が集まってくるのがわかる。


「…酷い顔だな」

「はぁ?何言ってんの?」


なにいきなり人の顔をディスってんだよこのおっさんは。


「俺の顔のどこが酷いんだよ」

「涙と鼻水で面白いことになっているぞ」

「っ!!?」


そう言われ思わず反射的に頬を触ると、俺の頬は濡れていた。

どうやら顔の熱の正体は涙だったようだ。


「人の事言えた立場かよ!おっさんだって酷い顔だぞ!!皺くちゃの濡れ鼠みたいな顔してんじゃねーか!!」

「ははは!そうか!じゃあ一緒だな!!」

「一緒じゃない!俺はそんな皺くちゃじゃないから!!」

「そうか」

「ああ、そうだ」

「………」

「………」


沈黙が痛い。

誰でも良いから助けてくれないかな?

とりあえず袖で顔を拭いて、いろいろと立て直そう。

おっさんも同じことを考えたのかハンカチを出して顔を拭いていた。


「おい。袖で拭くな。汚らしいぞ」

「お生憎様、誰かに育てられたから生来下品なんだよ俺は」

「そうか…」

「…おぅ」


全然話が続かない……何を話そう

…いや、別に話さなくても良いのかな?

でもとりあえず名前の話に戻そう。


「俺のセボリオンって名前についてはわかった。だけどなんだよ。あの馬鹿みたいに長ったらしい名前は?

「元々の名前にセボリオンとサンティアスを付け足しただけだぞ?」

「長すぎるだろ。セボリオンは残すとして他のを少し削ればよかったじゃねーか。ぶっちゃけ今までの名前でも良かったんだけどさ」

「それは出来ないな。もともとお前の名前を戻すことは、お前が預けられた時から決まっていた」

「いや、だから勝手に決めるなよ。俺が意識取り戻したって聞いたんならお伺いくらい立ててほしかったんだけど?」

「お前の母親の願いだ」

「…」


俺の長ったらしい名前について文句を言ってやろうと思ったのだが、母親の願いと言われてしまうと何も言い返せなくなってしまった。


「お前の母親が、健康に育って成人することが出来れば元の名前に戻してほしい、との要望だ。俺はその願いを違えることは出来なかった」

「…」

「お前の中に流れている血脈。数千年もの歴史を紡いできた高貴なる血脈の御名おんなは、決して闇に葬ってはいけない名前。名は人を表し血は体を表す。どれも欠かしてはいけない代物だ。それにお前の名前はまだまだ長くなるぞ」

「…へ?」

「お前は前デュセルバード侯爵の正統なる一人息子だ。貴族になる資格は生まれた時から持っている。低くとも准伯爵に叙爵されるから『フォン』の貴族称号が付く。更に言えばロイゼルハイドに師事しているということはそれなりの荒事を任されることもあるだろう。ならば騎士爵位の『ド』の称号も付くかもしれない」


……え?待って?そうなるとどうなるの?俺の名前。

ベリアルトゥエル・セボリオン・クリストフ・ヴェルナー・グレゴリオール・フォン・ド・ラ・サンティアス・レライエント・デュセルバード?

それとも、ベリアルトゥエル・セボリオン・クリストフ・ヴェルナー・グレゴリオール・ド・ラ・サンティアス・フォン・レライエント・デュセルバード?


え?嘘?マジで?何それー?ないわー。


「……ナゲェよ!!!覚えられるかそんなもん!!!」

「普段はセボリオン・ラ・サンティアスで通せば良いだろう」

「でも公式な場じゃこの名前言わなきゃいけないんだよね!?馬鹿なの!?死ぬの?まだ古代精霊アルゲア語の教科書に載ってる祝詞のほうが覚え安いわぁ!!ボケェ!!!」

「まぁヴェルナーは余計だったかもしれないが、良い名前だろ?それに俺の付けたセボリオンという名前も必ず入れたかったしな」

「それだよ!それ!!その傲慢かつ欲張りな思考が現在の捻じ曲がったあんたの性格に顕著に表れてんだよ!!あんたの恩人のそのセボリオンって人絶対に性格悪かっただろ!!?」

「何を言っていやがる。欲張りなところはお前にそっくりとアルフ兄さんから言われたんだぞ?つまりお前も傲慢で欲張りで性格が悪いってことだぜ」

「はぁ!!?何言っちゃってくれてんの!!?なんで俺が」

「似てるよ。いや、本当に似てきた。あの人にな。顔がとかではなく…言動や雰囲気がそっくりだ。いつも無気力なのに変なところで負けん気が強くて頑固。悪戯好きで酷く無茶なことをするし、事を大きくしたかと思えば無責任なことに飽きたからと途中で投げ出したりして、良くアルフ兄さんや先生たちに怒られていた」


え?何その超はた迷惑な人。

俺そんな人の名前貰ったの?マジで?

超絶嫌なんだけど。

話聞いてるとその人って躁うつ病かなにかの患者じゃねーの?

その人ヤバイ。マジで危ない人だって。

絶対に近寄りたくないタイプの人なんですけど。


「一緒になって怒ってくれた。泣いてくれた。そして笑ってくれた。卑屈だった俺を見て『なんかむかつく』という理由だけで拳骨を落としたり、『避けてみやがれ。そして泣き叫べ』と言いながら攻撃魔法の雨を俺に仕掛けてくるのは勘弁してほしかったが」


駄目!それ絶対駄目な人!!

心と体のバランスが乱れてるとかそんなレベルの人じゃないよ!!?

もう人格的にレッドゾーン通り越して、計測不可能なほど振り切ってる人だよ!!!

今からでも遅くないからセボリオンって名前削ろうかな…


「だけど、楽しかった。面白かった。あの人が本当に眩しく見えた…俺は生きてて良いんだ、必要なんだと言ってくれた!笑って自由に生きれば良いんだと言ってくれた!!『お前を差別する奴は俺がこの世から差別してやる』と頭を撫でてくれた!!涙の種類に嬉しいがあると言うことを教えてくれたのもあの人だった」


先ほどまで皺くちゃだったおっさんの顔が、昔のことを語るたびに若返っていく。

瞳は少年のように輝き、曲がっていた背筋も伸び、話す声も高く張りのある音になり、本当に楽しそうに見えた。


「…会いたい…また会いたいな…セボリオン兄ちゃんに」


さっきまであんなに楽しそうだったおっさんの目から涙が溢れ出した。

固く握られたこぶしに、ポタポタという音が聞こえそうなほど大粒の雫が落ちていく。


ああ…恐らく幼少時に戻っているんだろう。

本当に楽しかったこと、嬉しかったこと、悲しかったことが頭の中でごっちゃに映し出されているんだろうな。

俺にも経験がある。

前世で死ぬ直前、意識が暗転する瞬間に、昔子供の頃母ちゃんに抱かれながら寝かしつけられたことを思い出したんだ。

ずっと忘れていたのに何故その瞬間思い出したのか分からなかったが、とても幸せな気分になれたことは覚えていた。


「俺は…」

「…ん?」

「俺はあんたのことを祖父だなんて思わないからな」

「……ああ。それでいい。俺にお前から祖父と呼ばれる資格は無い」


俺の言葉に反応し現実へ戻ってきたようだ。

まだ涙が溢れ出ている瞳で俺を見てくる。


「…親父」

「え?」

「あんたは俺の父親だ」

「……」

「俺はあんたのことをずっと父親だと思ってた。いつも俺を褒めて叱って心配してくれた、心から愛してくれた。だからあんたは俺の親父、父ちゃんだ」


いや、父ちゃんというか兄ちゃんか?こんな親父嫌だわ。

と思った瞬間、外が少し騒がしくなり─


いきなり扉が勢いよく吹き飛んだ。

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