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Public Star~目指せ若隠居への道~  作者: 黛紫水
第六章 萌える芽の章
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第百九十九話 深夜の懺悔二

「まず何から話せばいい」

「あんたが知ってることを最初からだ」

「…では私が初めてお前と会った時のことからで良いか?」

「ああ。そうしてくれ」


おっさんは俺の顔をまっすぐ見ながら語り始めた。


「私が聖育院に勤め始めて十数年経った時、お前の両親が乳飲み子だったお前を預けに来たのだ。その時にお前の元々の名前を私が奪い、そして新しい名前を付けた」

「俺の両親。それはつまり前デュセルバード侯爵夫妻が、ということか?」

「ああ。そうだ」

「なぜ侯爵家ともあろうものが、実の子供を聖育院に預けようとしたんだ?」

「私もはっきりとは聞かされていない。ただお前は生命の危機にさらされていたらしい」

「らしい?じゃあ連れてこられた時は大丈夫だったのか?」

「ああ、健康そのものだった」

「……」

「お前の件に関しては聖下がかかわっている。以前謁見させていただいたおりにこの件についてお尋ねしたが、詳しい話は何一つしていただけなかった。ただ明言されたのはご自分が関わっていることと、お前の両親とお前から対価を貰ったとだけだ」

「……俺の対価はなんだったんだ?」

「わからぬ。教えてはいただけなかった。前デュセルバード侯爵夫妻の対価もまた同じだ」


俺の両親が対価を払ったというのは夢見でなんとなく分かっていた。

だがどうやら俺自身も対価を払っていたようだ。

だが全く記憶がないし、心当たりもない。

一体俺は何を渡したというんだ?


「じゃあ次、なんであんたは俺の両親がデュセルバード侯爵夫妻だとわかった。あんたの交友関係ならおかしくはないが、普通なら子供を聖育院に預ける親は職員に会おうとはしないし、あったとしても自分から言わないかぎり素性は詮索されないはずだろう?」

「…前デュセルバード侯爵とは面識はなかった。だが夫君ふくんとは面識があったのだ」

「その面識とは?」

「……顔見知りだ」

「あんたすべてを語るって言ってたよな?それは嘘偽りなく語るってことだろう?あんたは今嘘はついてないが本当のことも言ってないよな?」

「……」

「いいか。俺は夢見の能力がある」

「っ!!!」

「だからなんとなくあんたと俺の父ちゃんの関係が推測できてるんだよ」

「……」

「だんまりか??じゃあもう話は終わりってことだよな?俺は帰るぞ」

「…お前の父親は………私の息子だ」


やっぱりな。

なんとなく予測していたけどいざ言われると、なんかな~ってかんじだ。

なんて言えばいいのかな?この気持ち。

良く言えば体に力が入らなくなる脱力、悪く言えばやる気が削がれてうんざりって気持ちに近いわ。


「お前の父親とは勘当に近いかたちで絶縁をしていたんだが、いきなり訪ねてきてお互い驚いた。あれは私が聖育院に勤めていることを知らなかったらしい」


あ、そうだった。話は続いてたんだった。


「私もよもや行方不明になって勘当したバカ息子が、前デュセルバード侯爵と結婚をしていようとは夢にも思わなんだ。ヴェルナスレイドはエイルが婿入りする時に調べていたらしいが、私になんの話も通していなかったしな」

「エイル?」

「お前の父親の名前だ。エイルクリストファと言う」

「もしかして俺の真名の中のひとつはそこからとられた?」

「そうであろうな」

「じゃあ母親の名前は?」

「バルシネイラだ」


初等部に在籍したてで祝福の指輪が指に寄生したときのことを思い出した。


そういえばあの時識別で俺自身のことを調べたら、サンティアスに預けられたって書いてあったな。

両親の名前が黒塗りになっててナニコレ?ってなったけど、やっぱり識別の内容は合ってたというわけか。


「両親は俺を預けた後どこに行ったんだ?」

「わからん」

「へ?」

「お前を預けた後すぐに聖育院から出て行った」

「…」

「これだけは言わせてもらうが、お前の両親は決してお前を厭うて捨てていったわけではない。逆に愛していればこそ聖育院に預けていったのだ」

「でも普通ならばそのまま生家のデュセルバードの家に残らすよな?」

「それが出来なかったのであろう。私はお前やお前の両親がどのような対価を払ったかはわからないが、お前の両親の決意だけは痛いほどよくわかった。何故ならお前のためにお前の母親は地位をなげうったのだからな。侯爵位を聖下に返上したと言われた時、これがどれだけ大変な事か、責められることか当時の私には分からなんだが、オルブライトの地位を頂いた今なら良くわかる」


世襲貴族が爵位を捨てる。

これがどれだけ罪なことか俺にはよく理解できなかった。

勿論無責任な事をやったのだとは思うが、そこまで責められるようなものなのだろうか?


「お前が預けられてからの数年はヴェルナスレイドにとっては地獄の日々であったろう。聖下から呼び出されレライエント大公からデュセルバード侯爵への再任、それから他の24家当主たちとの話し合い、混乱している家中家臣の鎮静と善からぬ事を企む親族への抑えなど、数えきれないほど湧き出てくる問題を虱潰しのように捌いていったらしい。しかも既に自分の権力や家臣たちを娘に譲った後だからな。家中を再び掌握するのにも時間がかかったことであろう。自分が自由に動かせる者が数人しか残ってはいなかったようだしな」


面倒くさ!!

娘が身を固めて自分の役目は終わり家を継がせて、これで安泰だと思った矢先に孫も娘夫婦も行方不明。

しかも取れたと思ってた重責をまた背負わされたと思ったら、前よりも大幅に少ない馬力と手札を使って混乱を収めなければならなかった。

しかもその混乱が自分の周りだけではなく国の中枢達にも広がって、どうなってるんだと責められたけど、どうなってるのかは自分でもよく把握できていないし、原因自体が高飛びでどこにいるか分からないと来てる。

例えるならば定年を迎えた人が熟年離婚後一家離散、だけどお前しかいないんだからまた働けと前の役席につかされるんだが、既に職場の体制とやり方が変わっているし超激務だから何をしたらいいのかわからないし、体も前のように良くは動かない。

しかも手伝ってくれる部下も少なく外注もできないし、新しい部下は信用できず働かないし逆に仕事を増やすだけ、でもその部下を育てていかなければならない、それなのに外部大手の取引先からは相談やクレームがどんどんと引っ切り無しに入ってきて、その対応に追われて身動きも取れないけど仕事をしろと言われ続ける。

そんでもってその問題の解決策が分かってる人もいるけど、絶対に自分から尋ねることも力を貸してくれと言うこともできず、その原因に手を貸している人間がいるのに気が付いたのは既に大方問題が解決した後だったけど、その手を貸した人間は結構のんびりと人生を楽しんでいた。

…うわぁ……そりゃ激怒するわ。

ドン引きである。


「想像しただけで可哀そうになってきた…」

「………まぁ大丈夫だ。あやつは未だに健康そのものだからな。苦労は買ってでもしろと聞いたことがある」

「それちょっと違うから!若い時の苦労の話だから!!それに苦労は買ってでもしたくねーから!!!」

「……」

「まぁいいや。話を戻すけど本当に俺の両親の行き先は知らないのか?」

「ああ。後になって調べさせたが、最後に目撃されたところがこの学園都市であった。それもお前を聖育院に預けてからすぐの話だ」


俺の両親は何処に行ったんだろうか…

生きているのか、それとも死んでいるのか…


「今もサンティアスや教団の情報網を使って調べさせておるが、全く情報が集まらんのだ」


サンティアスや教団の情報網ということは、聖帝国だけではなく他の国もカバーしている筈だ。

それなのに全く情報が集まらないとなると…


「私はまだ信じている」

「っ!!?」

「私はまだ息子夫婦が生きてることを信じている。だからお前も信じろ。お前の両親はお前に似てしぶといぞ。きっと今もどこかで元気にやっているだろう」

「……誰が俺に似てだ!!元々の大本はあんただろうが!!!ゴキブリ並みの生命力の塊が言うなし!!!」


先ほどの俺の感動を返してくれ。

改めて思ったんだけどさ。

すべての話をややこしくしてるのこのおっさんじゃね?

まさに諸悪の根源こいつだろ!!!

さっき回復させなければよかった!!!

絶対にいつか絞めてやるからな!!!


長い夜はまだ始まったばかりであった。

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