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Public Star~目指せ若隠居への道~  作者: 黛紫水
第六章 萌える芽の章
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第百九十六話 真名二

改めて言われても実感が沸かない。

確かに俺はベリアルトゥエルなのかもしれない。

だけど俺はセボリオンだ。


「シエル。俺はセボリオンだ。ベリアルトゥエルという名前も確かに俺の名前なのかもしれないが、俺はセボリオンで通す」

「それでいいと思うよ。僕も普段アルカンシエル・ランスローで通してるしね。ウィル兄さんも爵位を継ぐまではそうしてたらしいから」

「とろこでシエル。お前なんでそんなに楽しそうなんだよ?」

「え?道連れ候補ができたから?」

「なんだよ!その道連れって!!?」

「嫌だけど、もし僕が家を継ぐことになったら癪じゃないか。だからその時はセボリーも一緒に引きづりこもうかと思って」

「何その嫌な計画!!大体世襲貴族が爵位を継ぐ条件は、~~~~~」


ぬぉ!!?声が音にならない!?

そうか!情報漏洩防止の術が掛けられていたんだった!!


「すまんな。詳細を言うのは禁止されてて話せないようにされてるんだ」

「ああ、そういえばセボリーはウィル兄さんが公爵に選ばれる時に一緒の場所にいたって言ってたよね」

「正確に言えば公爵候補に選ばれた時だけどな」

「?」

「まぁいろいろ俺の口からは言えないことがあるんだよ。知りたければ爵位を継ぎやがれ!俺は候補になること自体拒否するけどな!!」


もし万が一苗木剪定の儀の候補に選定されても俺は絶対に出席しねーからな!!

というか苗木剪定と苗木選定ってややこしいわ!!

どうやら24家の当主陣や宰相さんや大司教の推薦を貰うことを苗木剪定の儀、それが終わってあの扉をくぐって聖下の承認を受けることを苗木選定の儀というらしいのだが、もっとわかりやすい名称付けろよ!


「僕も拒否するつもりだよ」

「いや、シエルは絶対に選ばれるだろ。だってシエルだし」

「どうして言い切るかなぁ」

「いろいろと条件があるんだよ。俺も知らないけど」

「知らないのに何で言うかなぁ。ふふふ」

「あはははは」


先程の張り付けた空気が霧散した。


「それで君の真名はなんていうんだい?」

「いや。だから長すぎて覚えられなかったって言ったじゃん」

「君は結構抜けてるところあるけど、記憶力はかなりいい筈だから覚えられないってことはないと思うんだけど、まぁ流石にこんなところじゃ言えないよね。あとで教えてくれないかな?」


いや、ごめん。俺を買ってくれてるのは嬉しいんだけど、本当に何となくしか覚えてないんだ。

全く聞き覚えもなかったし、知ったのすら昨日だ。

しかもそんな何回も聞いていないし、ぶっちゃけ覚えようって意欲も気力もなかったから曖昧にしか覚えてない。


「というかなんでそんなに知りたがるんだよ」

「僕の真名って今のフルネームになる筈だからね。自分だけ知られているのってなんか悔しいじゃないか。それに友達の名前を知らないなんて悲しいだろ?」


そうか『友達』か。

そうだよな。友達の名前を知らないなんて悲しいもんな。

まぁ俺は友達や聖育院の兄弟の名前もうろ覚えな時もあるけど…


「……ベリアルトゥエル・セボリオン……え~っとなんだっけ?確かクリストフ?ヴェルなんとかグレなんちゃらで、ラの聖職者称号にサンティアス・レライエント・デュセルバードだったと思う」

「「「「「………」」」」」

「……」


おい。だれかこの場の空気をどうにかしてくれ。

だって仕方ないじゃん。名前が長すぎるんだよ!!

むしろここまで思い出した俺を褒めろ。

俺は褒められて伸びるタイプなんだぞ!!?

お願いだから叱らないでね。


「やっぱりセボリーだね」

「そうだね。やっぱりセボリーだ、うん」

「セボリーだから仕方がないな」

「そうですね。セボリーさんだからですね」

「やっぱりあんたは名前が変わってもセボリーね。残念な事ひとつとっても何にも変わらないわ」


おい!!お前らいきなり硬直から解き放たれたと思ったら、何訳の分からないこと言ってやがるんだよ!!

俺は俺だろ!!?それにヤン!その俺だから仕方がないってなんだよ!!?

そういえばこの前も言われたことあったな。え?常套句になってるの!?マジで!?何それ!?

それにゴンドリア!!なんなの!?その残念って!!俺は残念じゃねー!!

というかお前らその哀れなものを見るような目で俺を見るんじゃない!!

俺が一体何をしたというんだ!!?


「だからあんたは今まで通りのあんたでいなさい」

「…え?」

「あんたはあんたなんだから、ずっとそのままでいいって言ってんのよ」


俺はそのゴンドリアの言葉に不覚にも涙腺が外れた。


「あ~っもう。泣くんじゃないわよ」

「泣いてなんかないやい!!」

「じゃあその目から流れてる水は何よ?」

「奇麗な心の持ち主しか出すことのできない聖なるお水です。集めて浴びるとご利益があります」

「何が聖なるお水よ。それに出る条件も最初の単語時点であんた失格じゃないの」

「ご利益もへったくれもないよね、うん」

「じゃあきっとフェディの作った魔力回復薬の副作用だぃ」

「ぼくの薬はそんな副作用ないよ、うん」


もしかしたら今までずっと心の底では言ってもらいたかったのかもしれない。

俺は俺のままでいいんだって。生きていていいんだって。

それを認めてほしかったんだ。ずっとずっと─


「そうだな。例え姿形変わった如きじゃセボリーのおかしい言動は変えられないしな」


ん?


「まぁね、うん。名前が変わったくらいじゃなんの希釈にもならないよね、うん」


え?ちょっと?


「逆に成分過多でもっと酷くなるんじゃないんですか?」


おい、そこ!


「混ぜるな危険を地で言ってる人生だものね」


なにこの仕打ち!


「逆に還元濃縮の還元だけを抜いた濃縮を素で体現してるからね」


ちょっと待てぇ!!

お前ら人が弱ってる時に多勢に無勢で攻撃してくるなんて武士の風上にも置けん!!!


「お前ら人が黙っていれば言いたい放題言いやがって!!確かに俺は変な体験とか結構してるよ!?でもそれは望んで体験してたわけじゃないから!!強制的にイベントが発生して自動的にクエストを失敗させられてるようなもんだからな!!?名前だって文字制限ってものがあるだろうが!!ファミコン時代のRPGを見習えって言いたくなるような名前出されたって覚えられねーよ!!!大体お前らは俺に優しくない!!もっと優しくしてくれてもいいじゃん!!!スーファミだっていきなり何かの衝撃を与えたらメモリーが飛ぶことだってあるんだぞ!?もっと優しく扱え!!!それにお前ら人のことをとやかく言ってるけど、お前らだって大概アレだからな!!?認めたくはないけど類は友を呼ぶだからな!!?わかってんのかコルゥァ!!!俺だって」


先の言葉を続けようとした瞬間、商会事務所の扉が勢いよく開かれた。


「おっす!みんな元気にしてたか!!?」


皆さん何となく誰だかお分かりだろう。

こんなタイミングで登場してくる奴なんてあいつしかいないだろうってな。

ご想像通りの馬鹿が帰って来ましたよ。


「なに久しぶりに会ったような挨拶してんのよ。昨日の夜に会ったばかりでしょうが」

「寒いから早く扉閉めくださいね」

「とりあえず早く中に入れ」

「おう!!」

「ねぇ。紙袋の中身はなに?うん」


ルピシーは両手に抱えきれないほど大きい紙袋を持っており、中からとても美味しそうな匂いを放っている。


「これか!?これは肉まんだ!蒸したてで美味いぞ。せっかくだから全部買ってきた。お前らも食うか!?」


匂いにつられたのか皆うなずく。

俺も先ほど鱈腹カリーを食ってきたのだが、暴力的な匂いに負けてひとつ貰ってしまった。


「やっぱり出来立てが一番美味いよな!!なぁ!?そう思うだろ!!?」


あ~なんだろ?この感じ。

なんかお約束が発動したというか、流れやネタも全部わかっているのに何回見ても面白いというようなこの安心感。

結局いつもこいつに美味しいところ全部持っていかれるんだが、不快に感じないのは別にもうそんなもんだって思ってるからかな?

余裕がないとイラつくけど。


「あ!そういえばさっき俺面白い光景見たぞ!?」

「どんなの?」

「変な爺さんが『ベリアルトゥエーール!!』とか『おのれ!!セオドアールめ!!』とか言いながら街中走り回ってたんだ!!見てて超面白かった!!」

「「「「「「…………」」」」」」

「それで時々呪文みたいな早口言葉を言ってたんだよな。えっと確か『ベリアルベリアルトゥエルクリストフヴェルナーグレゴリオールレライエントデュセルバードデテオイデベリアルトゥエルセボリオンクリストフヴェルナーグレゴリオールラサンティアスレライエントデュセルバードオジイサマダヨベリアル!!!』って言ってたな。舌噛みそうな早口言葉良く言えたよなあの爺さん。俺も思わず練習しちまったぜ!!」

「「「「「「…………」」」」」」

「でもこの早口言葉の中になんでセボリーの名前が入ってるんだ?セボリオンって確かに言ってたぞ?」

「「「「「「…………」」」」」」

「おい!みんな黙ってどうしちまったんだよ!!?」


超 迷 惑


マジで迷惑なんですけど…

なに勝手に人様の真名を街中で吹聴してくれやがってんの?


「…ベリアルトゥエル・セボリオン・クリストフ・ヴェルナー・グレゴリオール・ラ・サンティアス・レライエント・デュセルバード………これが俺の真名のようです…どうぞこれからもよろしく…」


俺の顔が引きつった半笑いでの自己紹介に、ルピシー以外のメンバーが何とも言えない顔で「ご愁傷様」と口を揃えて返してくれた。


この日、俺は結局おっさんの所へカチコミには行かなかった。

理由はとっても簡単で、デュセルバード侯爵がいるかもしれないからだ。

あのおっさん一人と話すだけでも疲れるのに、デュセルバード侯爵が混じるだけでダイナマイト並みの破壊力になるに決まっている。

なので俺は皆と今まで通り馬鹿話をしたり、それぞれの進路について話し合ったりした後、普通に寮へと帰り床に就いたのである。


だが俺はその時選択を誤ったことに気づいていなかった。

その日の深夜に核爆弾級のイベントが起こるなんて、予想すらできていなかったのだから。

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