第二十話 発展
指輪の事件から少し時が経過し、俺達は学園生活を満喫していた。
ルピシーが赤点ギリギリの点数で合格している事以外は順調に授業の単位を取っていったし、勉強面だけではなく剣や魔法の鍛錬もしていた。
意外だったのがフェディが魔法以外に体術も得意だったことだ。
本人曰く採取の時に崖や山などの危ないところに行くから、体力の他に身のこなしも良くないと効率的に集められないらしく、実家ではよく父親に訓練をさせられたと語っていた。
それとヤンも自分では気が付いていなかったらしいが、俺が指摘して火魔術の才能のスキルがあると教えると大喜びをしていた。
ヤン曰くチャンドランディア藩王国で魔法を使えるということはとても名誉なことであり、魔法の才能を持って生まれてくる人も聖帝国よりもずっと少ないようなのだ。
しかし授業を受けてから判明したのだが、純粋な体の力の順位では俺が一番下だったことにショックを受けた。
体力の順はルピシー>>ヤン>フェディ>ゴンドリア>シエル>>>俺で、魔法に関しては俺の他にシエルとフェディとヤンが魔法を使え、俺>>>シエル>>フェディ>>>>ヤンで魔力の差はこうなった。
やはり副院長が言っていた通り俺は相当魔力が多いらしく、シエルも平均以上らしいがその上を行っていたことに驚かれた。
しかし如何せん、体力が少なく組み手になるとどうしてもすぐバテてしまい、今まで体術で勝利を収めたことは一度としてなかった。
それは同級生の女の子とでも同じ結果になり、体術の授業に関しては鴨として認識されてしまいました…トホオ。
しかし収穫はあった。
土魔術の術の種類が識別で分かったことだ。
本来は魔術書などの本で調べたり、先輩達から教えて貰うのが一般的らしいが、今まで穴を掘ったり固めたり少しの突起を作り出す程度しかないと思っていたものが、他にもあったことを発見したんだ。
どうやら土の魔術は、土中にある一定の物質を抽出することが出来るようなのだ。
土魔術の段階では珪石や砂鉄などしか取れなかったが、土を固める魔術の応用で土中から抽出した珪石を固め、ヤンに手伝ってもらい熱を加えると透明で綺麗なガラスが出来上がったのだ。
普通は不純物が混じり色がついたりするのだが、純粋な珪石だけ抽出することで素晴らしく高品質なガラスが製作できるようになった。
そして一番うれしかったは土魔術がLV10になり、土魔法を覚えたのと同時に派生スキルが発生したのだ。
派生スキルとは本人の資質によって出ないこともありギャンブルのような代物なのだが、どうやら俺は見事に当てたらしい。
ステータスを見てみよう
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セボリオン・サンティアスLV1 性別:男
年齢:6歳10ヶ月 状態:健康
HP: 80/83
MP:178/180
体力:10(6+4)
筋力: 9(4+5)
耐久: 9(4+5)
速度:10(4+6)
器用:20(18+2)
精神:19(17+1)
知力:20(15+5)
魔力:21(18+3)
スキル:土魔術LV10・土魔法LV1・付与魔法LV1・毒耐性LV5・ハムハムLV7・雑食LV5・識別LV4
加護:精霊の祝福3・公星の信頼
契約:魂の使い魔契約
使い魔:公星
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土魔法は土魔術よりも出来る事の幅が増え、攻撃的な魔法も追加されており、土魔術では撒菱のような突起しか出なかったが、土魔法ではLV1でも50センチほどの土の錐が出てくるなどかなり強化されている。
これで迷宮でモンスターを倒す手段が一つ出来た。
そして付与魔法。
これが新しく派生したスキルで、名前の通り人や物を強化したり、また弊害を起こさせる魔法らしい。
前述で書いたガラスを加工してブローチを作り、出来たブローチに保護の付与魔法をかけて装備したら見事に装備者の耐久力が上がったのだ。ただし10分ほどで切れてしまったがな。
そこでフェディとシエルが知恵を出しあってくれた結果、付与魔法をかける時に紙に精霊石の粉を溶いたインクで保護の魔法陣を書き、ブローチに転写するという方法をとったら見事に保護の魔法が掛かり続けるようになった。
フェディはインクの調合、シエルは付与魔法の魔法構築式を頼りに保護の魔法陣を書き起こしてくれたのだ。あの時は二人に感謝しまくったわ。
そして皆を巻き込み色々な実験をした結果、まず分かったのは素材によって魔法の掛かり方が違うことだ。
余り小さい素材だと威力が落ちてしまうし、大きすぎても威力が弱く使い物にならなかった。
そこでがんばってくれたのがゴンドリアである。
俺が作った威力の弱い保護や加速や豪腕の小さいガラス玉を精霊石の粉を使って作った糸などで編みこみ、腕輪などの護符を作ってくれたのだ。
その糸はフェディとゴンドリアと俺で製作した物で、あとからロディアスさんに聞いてみた所俺達の制服や、高級な防具や服には使われているものだと聞いた。
ヤンは火魔術が使えることに気付き、ガラス作りをしながら護符のようなアクセサリーを作っていたら彫金に興味を持ち始めたらしく、凝った形の護符を固定する台座や鎖を作っているし、シエルも前から趣味だった魔法構築のより効率の良い構築式を日々試していた。
ゴンドリアも糸の原料から染め上げの過程、また精霊石を粉にする方法で違いが出るのかなどを検証し、フェディもどの植物性か動物性かのインクの原料が魔法と相性が良いのか研究をしているようだ。
さて、何もしない&役に立っていないように見えるルピシーだが、ちゃんと役に立ってくれていた。
主にモルモッ…じゃなくて使用実験をしてくれたのだ。
保護の魔法が掛かった護符は重ね付けしても効果は現れるのかや、どれだけ物理的魔法的に耐久力が変わるのかなどの実験にその体を貸してくれた。
一通り実験が終わった後、俺がステータス見て確認したほうが早いし安全だったのではないかと気付き、ルピシーがいないときに皆に話したら4人とも不敵な笑いをしていたが、こいつらワザと気付いていてやらせたな。
まぁ、ルピシー本人も楽しそうにやっていたから良い事にしましょう。ご苦労様。
そんな感じで一年の終わりに近づき進級前に一通り研究を終えた俺達は、同級生や学生達に護符やアクセサリーを売って小遣いを稼ぐことを覚え、皆ホクホク顔で過ごしていた。
護符とは通常かなり高価な物らしく学生では絶対に手が出せない代物らしいのだが、それを俺達が少し高いが手が届かないわけではない値段で売り出したらどうだ。
増産をせっつかれる程の売れ行きになってしまい税金のことを心配したが、小遣い稼ぎくらいの金儲けなら税金は掛からないらしく皆安心して小遣い稼ぎをしていった。
しかし将来この小遣いの稼ぎを元手に、俺達が後に学園都市内で商会を興すことになるとは皆露にも思わなかったのだがな。
「ねぇ。ヤンは飛び級するの?俺達って成績良いじゃん、一人除いてさ」
「はっきり俺のことだって言えよ!!」
「いや、私は飛び級をするつもりはないな、正確に言えばする必要性が無くなっただが」
「あら、なんで?あたし達サンティアスの養い子は飛び級しないのが慣例だけどね」
「そうだね、聖帝国籍のぼくもしないし、うん」
「ああ、前も話したが聖帝国では金が掛かる、だから実家の負担を減らすために飛び級しようと入学前は考えていたんだが、例の護符の販売や趣味で作ったアクセサリーが思った以上に売れていてな」
「だから飛び級する必要がなくなったと言うわけだね」
「そう言う訳だ。いや、末恐ろしいな。今まで売れた私が趣味で作ったアクセサリーの売り上げだけでも我が国の貴族が十数年暮らせるだけの売り上げだ。それに護符の分け前が上乗せされて凄いことになっている」
「確かに僕も分け前で貴重な薬草や毒草を買えるから助かっているよ、うん」
「あたしも欲しかった布や糸や染色剤、飾り付けのための材料が買えるから物凄く助かってるわ。卒業するまでコツコツと貯めて作ろうと思ったものが、まさか入学してこんな早くに試せるなんて思わなかったわよ」
「そうだね、僕も欲しかった本が買えて魔法構築の公式が売れたりして助かってる」
こいつらは自分の研究した成果を売ってまた金を稼いでいたらしい。
シエルは魔法構築式の公式を、フェディは薬や毒を学園や迷宮冒険者に売りつけて稼いでいるし、ゴンドリアは服などを学生に売りつけ、ヤンはアクセサリーを学生や迷宮冒険者に売り稼いでいた。
まさに一石二鳥どころか三鳥である。
ついでにルピシーは分け前で学園都市内の屋台や店を食べ歩き、後にサンティアス学園なんでも同好会出版とタッグ組んでグルメ本を出版し、学園都市のグルメの帝王と呼ばれることになろうとはこの時の俺達には誰も想像すらしていなかった話だ。
こうして俺達は着実に進級していった。
5年後の中等部入学と共に試しの迷宮へ潜る準備をしながら。
第二章終わり