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Public Star~目指せ若隠居への道~  作者: 黛紫水
第六章 萌える芽の章
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第百七十五話 デビュエタン四

「うおぅ!!」


広間から出た瞬間、突然の寒気が走り思わず大声を出してしまった。

なんだこのそこはかとない悪寒は。

何か俺の知らないところで凄い嫌な方向に物事が進んでいるような気がする。


「ああ。スマン。なんか分らないけど寒気が走ったんだよ」


周りの人が微妙な目で俺を見ているのはもう慣れてしまったので気にならない。

いや、本当は心が傷つくんだけど気にしてしまったら負けなのでスルーしてるんだが、流石にこの前倒れた関係で仲間や兄弟達が少し心配そうな顔をしている。


「ちょっとあんたやめてよ。お目出度い事が続いてる時に。唯でさえあんたの悪寒って結構洒落にならない時もあるんだから。それに長いこと意識不明だった人間の口から出た発言としてはかなり危ないんだけど」

「え?じゃあ帰って良い?」

「駄目に決まってるでしょ」


そこはどうぞと笑って返してくれるのが筋ってもんだろうが!!


「ん?今目出度いことが続いてるって言ったけど、何かあったのか?」


ゴンドリアの「あんたねぇ」と言いたげな視線は無視無視。


「まずはみんなの卒業決定に、高等部の内部試験合格。あんたの快気にユーリの半永住権取得とデビュエタン。それに」

「ちょっちょいまて!俺内部試験受けてないんですけど!?それにユーリいつ半永住権取れたの!?」


おいおいおい!俺試験なんて受けてねーぞ!どういうことだ!

確かに高等部に進学するつもりだったけど、そう言えば俺意識不明で内部試験受けられなかったんだよ!!

なのになんで既に合格扱いになってるの!?


「あんた一応成績優秀者だったから内部試験受けなくても普通に合格してたわよ。高等部に行く気が無かったら合格通知でないけど、あんたの場合高等部進学希望出してたでしょうが」

「ああ。そうなんだ。え?でも俺どこの科を選択するかまだ希望出してなかったんだけど?」

「そこんところは知らないわよ。でも中等部は魔科だったんだから魔科でしょ?」

「だといいんだけど…」

「内部進学だと成績優秀者の希望から通るから大丈夫よ。それに科異動届けを出せばそれなりに受け入れてもらえるしね。あんたこんなでも入学から今まで学年総合成績優秀者50人の中には必ず入ってたんだから心配するんじゃないわよ」

「こんな言うなし!」

「しかもロイゼルハイドさんに師事するようになってから絶対に5本の指には入ってたでしょ。確か最高は2位だっけ?」

「1位とっちゃるって張り切ってただけにあれは落胆したなぁ」


かなり前に出た話だが、俺達のメンバーの中で成績優秀者じゃないのはルピシーだけだったりする。

ルピシーは体術や剣術などの実技は学年トップなんだが、筆記試験の成績が悲しい事になっているため総合では成績優秀者に選ばれてはいない。

前は実技試験の順位は上からルピシー>>>フェディ>>ヤン>ユーリ>>俺>シエル>ゴンドリアで、筆記試験の順位は上からシエル>フェディ>>俺>ユーリ>ヤン>ゴンドリア>>>>>>>>>>ルピシーだったのだが、この一年ほどロイズさんに扱かれているため実技と筆記も伸びており、実技はフェディとヤンの間まで、筆記はシエルと同じ程度まで上がっていた。

そのため総合単独1位まであと3点の2位が最高位である。

聖帝国史のテストでケアレスミスさえしなければトップに立っていたと知った時は悔しい思いをしたぜ。

その後ロイズさんから「何で2位なの?原因は?」と聞かれ、素直にケアレスミスですと答えて答案用紙を見せたら、まるで虫けらを見るような目で見られた。

マジであの目は無いわ。

あとゴンドリア!お前実技いつも手を抜いてただろ!!お前体術じゃないマジ喧嘩だとフェディより強いだろうが!!

俺はお前の実力をこの体で体験してるから知ってるんだぞ!


「ユーリの半永住権は成人するにあたって認定されたのよ。ほら、商会で働いてて収入もあるから実績はあるじゃない。それに後見人も付いてるし」

「ああ。まぁあの人に勝る後見人はそうはいないわな」


ユーリは一月遅れで留学してきて直ぐに俺達の商会に入り、そしてガンテミア双王国の実家に勘当願いと絶縁状を送りつけていた。

普通なら中学1年生くらいの子供がそんな事出来るはずないと思うがユーリの決心は堅く、収入もあり学費や生活費も自分で賄える為、本当の自分を認めない国と家族を断ち切るようにして親子の縁を切ったのだ。

だがここで大きな問題が出てくる。

ユーリは留学生、つまり外国人でしかも未成年だ。

そのため聖帝国内で生活するためには後見人が必要になってくる。

俺達は未成年なので後見人にはなれず、最初皆で学園に掛け合って後見人になってくれる人を探したのだが、拒否されてしまった。

他国人にはあまり情けをかけない聖帝国のお国柄をあらわしているよな。

次に頼ったのが聖育院で、アルゲア教に改宗していて親との縁を切っているので孤児のようなものだし、未成年だからサンティアスの養い子の認定を受けさせてもらえないかと掛け合ったのだが、こちらはやんわり断られてしまった。

一人くらい増えても別に良いじゃんとは思ったのだが、どうやら駄目だったらしい。

そんな途方にくれていた時にシエルが自分の祖母に口利きをしてくれたのだ。

そう、エルドラド大公夫人のアンナ様だ。

公爵や大公だと色々問題があるのだが、夫人の場合そのあたりは緩いらしく、ユーリの人柄も知っていたので快諾してくれた。

シエル曰くエルトウェリオン家で一番の発言権と力を持っているのはアンナ様らしい。

それを聞いたとき何処の世界でもカカア天下ってあるんだなと思ってしまった。

こうしてユーリは問題なく聖帝国で生活できるようになったわけである。


そんな話をしていると辺りから「なんで大広間から出たんだろう」と言う疑問が聞こえてくる。

確かに踊るのならば大広間が一番適していると思うのに何故出たのだろう。

俺がその事を考え始めた時、先程から黙って俺達の話を聞いていたシエルが話しに加わってきた。


「何で大広間から出たんだろうって話だよね?僕も良く分らないけど、恐らく今大広間にある一番大きな扉に向かってるんじゃないかな?」

「ん?どう言う事だ?」

「つまり男女揃って再入場するんじゃないの?ペアになってさ」

「あ~、なるほど。確かにそれが一番しっくり来るな。と言う事は何だ?扉を出ると同時に一緒に男女ペアになって踊って入場するの?」

「さぁ?そこまでは流石にわからないよ。だって僕もはじめてだもん」

「そりゃそうだ」


それから5分ほど並んで歩いていると、どうも先程の大広間から離れていっているような気がした。

しかもちょっと前のほうを見てみると階段を上がっているのが見える。


「なぁ、これ本当に行き先あの大広間なのか?列の先にいる奴等が階段上がってるんだけど」

「どうだろうな。だが確かにあそこに行くのに階段を上がる必要は無かったように思うが」

「もしかしてさっきの中二階に行くためかな?」

「どうだろうね、うん」


何で中二階?確かにあそこはそれなりにスペースはあるが、踊るには適していないぞ。

それともやっぱり違うところに向かっているのだろうか?


そんな事を思っている間に階段に辿り着いてしまった。

見上げれば階段は上へ上へと伸びており、かなりの段数を登らなければと覚悟して足階段へとつける。

階段の手すりは床や壁と同じくやはり最高級の白大理石のように綺麗な石で出来ており、触ってみるとヒンヤリ冷たく思ったよりも滑らかな肌触りだ。


この時、俺は気付いていなかった。

いや、恐らく誰も気付いていなかったと思う。

俺達の胸に刺さっているムーンローズがまるで鼓動するようにうっすら光っていたと言う事に。

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