第十九話 指輪
「こんなところにいたのか公星…」
「モッキュー」
最近公星が夜に寮から抜けて出していることに気が付いたのは、入学から2週間程たってからだ。
皆が寝静まったときにエアライズで浮き、物音を立てないようにひっそりと抜け出していたらしい。
そのことに気づいた俺は不審に思い後を追ってみた結果、公星はどうやら夜な夜な地面に穴を掘っているようであった。
元々ピケットは夜行性で地面に穴を掘って生活しているから疑問には思わないのだが、公星は聖育院にいた時にはそんな行為をしていなかったので疑問が残った。
そして必死になって穴を掘っている公星に声を掛けてみたのが前述の状況だ。
「お前なにやってるんだ?こんな夜中に抜け出して。ピケットの本能が騒いだとか?」
「モキュモッキュー」
「ん?違うのか?」
「モッキュ」
いつかのように地面に向けて地団太を踏んでいる。
ここを掘れと言うことだろうか?
「ここを掘ればいいんだな?」
「モキュ」
「また精霊石でもあるのか?」
土魔術で慎重に穴を掘っていく。
暫くすると公星が俺の掘った穴に入って、さらに穴を掘り進めて行き姿が見えなくなる。
公星が見えなくなってから5分ほど経過し不安に襲われていた時、ひょこっと公星は姿を現した。
「モッキューモッキュー!!」
「おお、やっと出てきた。ん?お前また何か食ってるのか?まさかお前、夜食を食べるために俺に穴を掘らせたのか?」
「モキュ!」
ブンブンと左右に頭を振って否定する公星。
どうやら違うらしい。
公星がエアライズで俺の手の上まで来ると口の中からあるものを吐き出してきた。
暗くて良く分からないが、目を凝らして見てみると指輪であることに気付く。
その指輪はいぶし銀の少しごついデザインで、裏のほうに見たことも無い文字が刻まれていた。
「指輪?何だこれ?」
「モキュ!」
公星は短い手を使い指輪を嵌めろと言う動作をしてくる。
「ん?嵌めろってか?でもなんか怖いんですけどぉ」
「モッキュー!!」
「わかったよ、嵌めりゃー良いんだろ。うっし、気合だぁ!」
勇気を出して左手の中指に指輪を嵌めてみたが何も起こらない。
つーかぶっかぶかだな。
っと思った瞬間ぶかぶかだった指輪が一瞬にして指にフィットし、突然の眩暈に襲われた。
「うお!?なんだこれ!!おい、どうなってんだ!!…あ…ヤバイ……目が………まわ………」
急な眩暈に襲われる中、聞いたことの無い声が聞こえてきた。
『ようこそ 我等が愛し子 歓迎するよ』
眩暈に耐え切れず一瞬だけ意識が飛んだ気がした。
足がふらつき倒れそうに鳴るのを必死で堪えつつ、気をしっかり保つために頭を振る。
「さっきの声はなんだったんだよ…」
少しの混乱に大きく深呼吸をすると、先程の眩暈が嘘のようにすっきりとしてくる。
先程の声を思い返し反芻してみよう。さっきの声は男の声だった、誰なんだ。
考えてみるが全く覚えが無く思考の波に浚われように悩んでいた時、公星が俺の目の前に浮かんできた。
「おい、お前。なんなんだよこの指輪は?」
「モキュ?」
「なんでお前が首傾げてんの!!?つか今気づいたけどこの指輪外れないんですけど!?何これ!?呪いの指輪!?リングだけに俺死ぬの!?ホラー映画みたいに死ぬの!!?」
「モキュ!モキュキュキュ」
「ん?何?それは、置いといて。って!お前は日本人のおっちゃんか!!!それに置いておける問題の範疇じゃねーわ!!」
「モッキュー!」
身振りで手振りのジェスチャーで意思を伝えようとするがいかんせん、ボキャブラリーが少ないらしく全く伝わらない。
公星はしゃーないといった感じで地面に降り足を使い体で地面に文字を書き始めた。
「えーっとステータスみろ…か。ってお前文字書けるんかい!俺はお前に教えた記憶無いぞ!?なんなのこのスーパーピケット!?」
「モキュ」
「あ~ステータスね、はいはい。精霊さんたちステータスを見せておくれ」
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セボリオン・サンティアスLV1 性別:男
年齢:6歳2ヶ月 状態:健康(寝不足)
HP: 54/55
MP:101/104
体力: 5 (4+1)
筋力: 4 (3+1)
耐久: 4 (3+1)
速度: 4 (3+1)
器用:15(13+2)
精神:13(12+1)
知力:12(10+2)
魔力:15(12+3)
スキル:土魔術LV6・毒耐性LV4・ハムハムLV7・雑食LV4・識別LV1
加護:精霊の祝福2・公星の信頼
契約:魂の使い魔契約
使い魔:公星
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おお!!HPとMPが見れるようになってる!!
約2ヶ月ステータスを見ていなかったけど数値がが上がってるな!
新しいスキルも増えてるし!
公星はどうだ。
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公星LV2 性別:雄
年齢:290日 状態:腹5分目
HP:34/35
MP:56/60
体力: 5
筋力: 1
耐久: 1
速度: 6
器用:11
精神: 9
知力:10
魔力:10
スキル:大喰いLV6・雑食LV6・エアライズLV4・捜索LV1
加護:セボリオンのハムハム愛
契約:魂の使い魔契約
主:セボリオン・サンティアス
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お~!公星もスキルが増えてる!
しかも、数値も見れるようになってるぞ!!
喜びつつもう一回俺のステータスを開こうとしたら、精霊に頼まなくてもステータスが浮き上がってきた。
おお、これは便利だな!
後俺に新らしくついたスキルの識別ってなんぞ?
と思い、良く識別を見ると段々と文字が浮き上がってくる。
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識別:者や物を見分けることができる
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え?もうちょっと説明くださいよ。
これじゃ良く分からないって。でにもう少し試してみるか…
良し。俺自身について識別してみよう。
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セボリオン・サンティアス:本名セボリオン・■■■■■■■■・■■■■■■■・サンティアス
父:■■■■■■■■■:母■■■■■■の間に生まれサンティアスに預けられた転生者
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なんだか自分でも知らない情報が出てるんだが……しかも黒塗りなんですけど?
後、俺の本名が長いんですが…
コレってある意味個人情報駄々漏れにできるスキルだよね?メッチャ危険じゃね?
てか俺預けられたの?捨てられたんじゃなくて?
じゃあ俺って外国生まれじゃなくて聖帝国で生まれたって事なのか?と言う事は両親は奴隷なのかも知れんな。それか不義の子供とかか?聞いた話だと婚外子は聖育院に預けられることが多いって言うしな。
まぁそれよりだ!ずっと気になっていたこのハムハムを調べよう!
マジで何なんだよ、このハムハムって。
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ハムハム:セボリオンが世界から与えられた固有スキル
使い魔をピケット種しか契約できなくなる代わりに、契約したピケットは類を見ない程の祝福と強化を与えられる
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……………おい…おい!じゃああれか!?公星があんな不思議系ピケットになったのって俺のせいなの!?
違うよね。こいつは魂の使い魔契約をする前からおかしかったぞ!
それかまさかこの指輪のせいか!?どうなってんだこの指輪は?
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■■■■■■■■■■■■■■■祝福の指輪:■■■■■■■■■■■■■■■の祝福によりステータスの上昇とスキルが与えられることがある
外し方は装備者が指輪の限界値を越えたときに自動で外れる
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祝福とか書いてはいるがすぐ外れないのならやっぱり呪いの指輪と変わらねーじゃねーか!!!
それに限界値とは何だよ!レベルのことか?まぁ良く分からんからこれは置いておこう。後で検証だ。
多分ステータスの上昇と識別のスキルはこの指輪の恩恵なんだろう。
良い拾い物をしたのか分からないが強化はされているらしい。
強化自体は嬉しいが、それはさて置き…奴に聞かなければならないことがたくさんある。
「おい、公星。お前この頃夜に抜け出してたのはこの指輪を見つけるためだったのか?」
「モッキュー」
「あ、こら。どこに行くんだ!」
公星は首を振り否定をした後突然猛スピードで走り出した。
走り出した公星に必死でついていくと大きな木があり、公星はその木の樹洞の中に入っていく。
俺は木の前まで来ると体力の限界か肩を大きく揺らしながら大地に膝を着いた。
「モッキュ」
そんな俺に公星は樹洞の穴から顔を出しひと鳴きするとまた樹洞の何回姿を隠した。
俺は大汗を搔きよろよろと樹洞の中を覗いてみると、そこには大小様々色とりどりの精霊石が入っていた。
「……コレは、お前が集めたのか?」
「モッキュ」
「コレってお前の夜食とか非常食?」
「モキュキュ!」
「え?違う?ん?何?くれるのか?お前が食うんじゃないの?」
「モッキュー」
公星は樹洞の中にあった少し大きめな赤い精霊石を短い両手で掴み俺に渡そうと近づく。
俺はそれを受け取ろうと触った瞬間、驚愕する。
「っうぉ!!」
赤い精霊石を触った瞬間に指輪が光り出し精霊石が崩れ落ちてしまったのだ。
崩れ落ちた精霊石は唯の砂や石になっており、先程の輝きは全くなくなってしまった。
「精霊石が壊れた!?」
「モキュ」
公星はもう一回樹洞の中へと入り今度は青色の精霊石を俺に手渡してきた。
「……また」
青色の精霊石に触れてみるとさっきと同じ結果になった。
今度は緑色の精霊石を差し出され触るとやはり同じ結果だ。
「……なんで」
俺は何回も公星が持ってきた精霊石を唯の石に変えていった。
少しの恐怖はあったが好奇心を抑えきれなかったのだ。
更に数回同じ作業を繰り返すと精霊石を触っても指輪は光りださず、精霊石も無事なままになった。
なぜかと調べるためにステータスを開いてみても特に変わったことは無く、変化があったとするならば先程まで減っていたHPとMPが全回復しているくらい。
「………つまり、精霊石のエネルギーが指輪を通して俺に吸収されたのか?よく分からんが体に害がなければ良いか…とりあえず、眠いから帰って寝るわ」
普通ならもっとつっこんで調べるべきなのだろうが、どうも今の俺にはその気力がなく、無理やりポジティブシンキングでもやもやを押さえ込み俺は部屋へと帰っていく。
そして公星を回収して残った精霊石を樹洞の中へと隠し、そーっと部屋に入ると何故か皆起きて俺を待っていた。
「あれ?皆どうしたの?」
「それはこっちの台詞なんだけどね」
「消灯後に寮を出るのは禁止事項の一つだ、お前がもし見つかれば私達にも罰則があるんだけどな」
「それもそうだけど一番は何があったのか心配してたの、うん」
「あたしはてっきりセボリーが不良になって夜遊びしてるのかと思ったわよ」
「お前まさか俺に内緒でうまいもの食ってたんじゃないんだろうな!」
シエルがこれから俺を探しに行くかどうか検討していたと俺に伝えると、俺はほんの少しだけだが胸が痛くなった。
ようするに俺は皆に心配を掛けたらしい。
ゴンドリアの発言は冗談だと分かるが、ルピシーは冗談なのか分からないけどな。
俺は謝罪と相談したいと言う気持ちを込めて皆に先程の事を説明していった。
「なるほどねぇ。つまりコーセーがこの頃夜に抜け出してたから、後を追っていったら不思議な指輪を掘り当てたと言うわけよね」
「うん?その指輪外れないの」
「呪いの指輪だな!」
「ルピシーさっきから声が大きいぞ、しかし不思議だな。精霊石を吸収する指輪か」
「この前の授業で小さい精霊石は僕達の体の活力になると言っていたよね。つまり精霊石の力を効率的に変換してくれる指輪と言うことなのかな?」
「それが良く分からないんだ、調べてみたらなにかの祝福の指輪とは書いてあったけどさ。装着者のステータスの上昇とスキルが増えることがあるって分かったくらいなんだ」
「「「「え?」」」」
ルピシー以外の4人が一斉にハモった。
しかも園顔には驚愕の色が見えている。
「え?何かおかしい?」
「おかしいも何もどうやって調べたのさ、うん」
「普通はそういった装備品などは調べようがないぞ」
「スキルやステータスは特別な魔道具で調べられるけどね」
「装備品も魔道具を使えばある程度は調べられるよ。後は特別なスキル持っている人だけだね。そう言う人は大抵アルゲア教団か国のお抱えとして一本釣りされる人が多いよ」
「要するにセボリーは特別なスキルを持ってるってことだな、早速俺のを調べてくれ」
「え?皆見れないの?俺精霊の祝福の儀式の後に精霊にお願いしたら見れてたんだけど」
ステータスとか皆見れるよね?
「なんだその儀式は?初耳だ。ともかくその精霊の祝福を受けてない私には無理だな」
あ~。確かにヤンは無理だよね。
「そんな方法初耳よ。今聞いてやってみたけどあたしは出なかったわ」
え?ゴンドリアは出来ないの?
「ぼくも出ない、うん」
フェディも?
「僕もそうだね」
シエルまで!?
「とにかく見てくれ!」
うっさいわ!!
ルピシーがうるさいので見ることにした。
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ルピセウス・アルゴ・サンティアスLV1 性別:男
年齢:6歳4ヶ月 状態:健康
HP: 190/190
MP:1/1
体力:20
筋力:18
耐久:17
速度:12
器用: 9
精神: 2
知力: 1
魔力: 1
スキル:剣術LV3
加護:精霊の祝福
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はい、とっても健康優良的体力馬鹿ですね。
つか知力1ってお察しですわ。
ルピシーが凄い興奮して叫びだそうとしたので、ゴンドリアがすばやく背後に回りこみ鼻と口を押さえ込む。仕事速ぇなゴンドリア。
段々とルピシーの顔色が悪くなっていき…あ、落ちた。
「これで落ち着いて話が出来るわね」
意識の無くなったルピシーの体をそのまま放り投げるゴンドリア。
おい!それちょっと危なくねーか?いくらルピシーでも当たり所悪ければ死ぬぞ。
あ、でもちゃんとベッドの上に着地させる様の投げたのね。
頭からの着地だけどベッドがふわふわだから大丈夫だよね。
「でもこれ便利だけど余り他言しないほうが良いよ、うん」
「そうだな、唯でさえコーセーで注目を受けているのにな」
「それが懸命だね。でもこんなしっかり分かるんだね」
こいつ等付き合い短いのにルピシーの扱いに慣れてきたな。皆結構冷静だし…
「皆は見なくていいの?」
俺が興味本位でしょう言うと皆はやんわりと断ってきた。
「興味はあるけど遠慮しておくよ」
「そうね、あたしもパスだわ」
「ぼくも別に見なくてもいいよ、うん」
「確かにステータスやスキルを見れるのは便利だが、今の私達はそれを知っても活用する所が余りにも少ないからな」
ああ、そうだな。
それにステータスを見られるのだって嫌だろう。
個人情報だもんな。
だがこのスキル、結構貴重なものらしい。
有用性はあるがその分危険性も孕んでいる。
悪用しようと思えばとことんできるからな。
「それよりも今度薬草と毒草の鑑定お願いできるかな、うん」
「あたしも今度フェディと一緒に染色するつもりだから、その時草の鑑定お願いね」
「私も何かあったら鑑定を頼むかもしれない、その時はよろしくな」
「僕もよろしく頼むよ」
俺は仲間に恵まれたらしい、込み上がる涙を抑えつつ「ありがとう」と呟いた。
その日の夜は皆夜更かしをして、次の日の授業に遅刻しそうになった。
皆寝不足という理由もあるが、一番の原因はルピシーがいくら魔法の言葉を唱えても起きなかったからだ。
このままルピシーを放置し朝食は抜いて授業を受けようと皆で決めた瞬間、まるで香港映画のキョンシーが起きるかような動作でルピシーが急に起き上がり、寝巻きのまま食堂へ駆けて行った。
俺達はその光景を見て顔を見合わせ一回頷いた後、ルピシーを放置して授業がある教室へと向かうのであった。