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Public Star~目指せ若隠居への道~  作者: 黛紫水
第一章 別れと出会いの章
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第二話 コーセー

眠りから醒め、今日も着替えて兄弟たちと朝のお祈りをささげた後、俺は縫い物をしながら今後のことを考えていた。


サンティアスにいればほぼ自動的に学園に入れるはずだ……そうなればここにはそんなに帰ってこれないな……


サンティアス学園は学園都市として成り立っていて、都市に学園があるのではなく学園の中に都市があるのだ。

学園は6歳から11歳までの初等部、12歳から15歳までの中等部15歳~の高等部の3つで構成されており、初等部は常識的な知識や計算または倫理道徳を学び、中等部は必修科目はあるが他は選択制になっており何を選ぶか自分で決めながら学ぶ。

高等部は完全選択制で専門的なことを深く学ぶという形になっている。


初~中等部は孤児院の者は入学費と授業料、寮費食費は無料だが高等部からは有料になる。

何故ならば15歳から成人と認められ自分の力で生きて行かなければならないからだ。

そして15歳から正式に迷宮に入ることが許され、自分の力で稼げるようになるからでもある。

だが15~20歳までは大人になる仮免許のように位置づけられており、失敗などしてもそれなりには周りの大人たちがフォローしてくれてるそうだ。


初等部は皆同じカリキュラムで集団生活を送っていく。

飛び級制度はあるがその制度はほぼ留学生しか利用しない。

何故なら留学生は入学費や寮費学費が有料だからだ。

聖帝国人なら孤児でなくても全額無料とはならないが、少しの学費で通い続けることが出来る。しかし

他国人は違う。留学生は高額の学費を払う必要がある。

聖帝国と学園はある意味完全なる自国民優遇型と言うわけだ。


中等部は普科・魔科・武科・聖科・芸科の5科に分かれており、普科は浅く広く満遍なく法律などの知識やマナーを身につけ、商人や文官などになるために必要最低限のことを学ぶ。

魔科は魔法に関係することを学ぶが、魔科に入る者は魔力が無ければ入る事を許されない。

武科は剣や槍または徒手空拳などの格闘術を学び、聖科はアルゲア教の聖職者になるための必要最低限を学ぶ。

そして芸科は音楽や絵画の芸術家になるために、鍛冶服飾料理工芸などの職人になるための技術を学ぶ。

普科の一部の授業は全ての生徒が受けなければならないが、他は自由に選択でき卒業に必要な単位を取得していく。またどの科に所属している生徒でも他の科の授業を自主選択で受講する事も出来た。


高等部では中等部で習ったことの応用をもっと深い事まで突き詰めて学んでいくため場所だ。

通常15歳から入ることが許され、15歳以上ならばどんな年齢の者でも入学を許される。他国人でも入ることは許されているが学費の問題か入学する他国人は稀である。

そして高等部は卒業年数ははっきりとは決まっておらず、入学から10年以内に卒業資格単位を得れば卒業と言う形になる、逆にその10年の間に単位を取得できなければ強制退学だ。


サンティアス聖育院からサンティアス学園はそう遠くは無く、はっきり言って目と鼻の先だ。

だが学園都市の広さは一般的な街を超えるより大きい。

初等部の1学年生だけでも1000人は超えている。

さらに学園の3つの部のうち2つ、初等部~中等部は完全寮生活制であり、その生徒数は膨大である。

高等部にも寮はあるが何処に住むかは個人の選択次第であった。

その生徒全てあわせただけでもかなりな人数になっているのに、学園で働く教師や指導員、従業員やその人達の家族が暮らし、そこに商店や工房はたまた役所や病院などといった彼らの生活を成り立たせるために必要な土地の広さが必要になってくる。

それにより学園は創設当初の広さから拡張され続け、その広さは東京都の23区の倍ほどの面積にまで膨れ上がった。まるでひとつの国と言っても過言ではないかもしれない。

そんなに広いと移動が大変だと思うかもしれないが、精霊と魔法の力を借りた移転陣や、自然の力の結晶『精霊石』の動力からなる電車のようなものが学園内に張り巡らされていて、あまり不便には感じない。だが毎日サンティアス聖育院から通うのは少しきつい。

考えても見てくれ。いくら移転陣や電車があったとしても東京の東の端っこから東京の西の端っこまで休日ごとに通うのは億劫極まりない。実際、上の兄姉たちはほとんど帰ってこないしな。



俺はとりあえず中等部まで進んで迷宮に潜りながら金を稼ごうかな。そういえば例外的に15歳以下でも迷宮に潜れる方法があると聞いたことがあるな。


「ねぇ、先生?」


俺は思い立ったらと何人もいる先生の中の一人、昨日俺に礼拝中に話しかけてきた先生に聞いてみることにした。


「なんだね、セボリー」

「成人になる前に迷宮に潜る方法はどうしたら良いのでしょうか?例外があると聞いたことがあります」


先生は目を細くして胡散臭そうに俺を見下ろし俺に聞き返す。


「ほぉ、セボリーは迷宮に潜りたいのか?」

「はい。出来るだけ早く自立したいんです」

「お前はまだ5歳児だしそんな生き急ぐようなことはしないほうが良いと思うがね……まぁ良かろう、方法は何個かあるが……」


先生が語った方法は4つ。

1つ目は聖帝国籍ではないこと。

2つ目は能力試験(迷宮冒険者資格)を受け合格した後、保護者の同意と本人の誓約書(聖帝国と学園の責任は問わないと明記した遺書)を書き潜ること。

3つ目は中等部の成績優秀者で、教師最低5人の推薦と学園長の許可を得て能力試験を受け合格した後、誓約書を書き潜ること。

4つ目は学校を退学し、保護者と縁を切り能力試験に合格した後誓約書を書き潜ることだ。


1つ目は完全に留学生や他国からの出稼ぎの人たち向けで、留学生は入学時に様々な誓約書を書かされる決まりがあるらしく、迷宮に潜った場合の契約もあるらしい。

2~4つ目は聖帝国人向けだが、2は基本的にサンティアスの養い子達は受けることが出来ない。

何故なら保護者たる先生たちが絶対に同意しないからだ。

生活環境が整っているのにわざわざ死ぬかもしれない危険な場所へ送り出そうと思わない。

3つ目は簡単に死なないと実力で証明出来た者向けだ。だがいくら戦闘面に実力があろうとも、学力や品行に難があれば認められないようだ。

4つ目は学園に所属せず、サンティアス学園と保護者の庇護を受けないと決めた者向けだ。迷宮は学園が管理しているものであるが、国の影響力もある。そのため未成年の場合は完全なる自分の意思で潜り、もし迷宮で事件や事故に巻き込まれたとしても自己責任という覚悟を持った者しか潜る事は許されない。


前述した能力試験だが、これは聖帝国籍ではない者は未成年でも受けなくても良い。15歳以上なら聖帝国人でも受けなくても良いとなっている。何故なら未成年の能力試験は唯単に「自分は簡単には死にませんよ」と言う証拠だからだ。だが国やサンティアス学園は自己責任で潜る大人は受ける必要は無いが、受ける事を勧めているようだ。

能力試験には実技と筆記あるらしく、筆記が壊滅的に苦手な場合はそれに代わる相当な能力を持っていなければ合格できない。


俺が思うにまだ方法はあると思うが、これが例外の中でも比較的安全かつ違法性の無い方法なんだろう。多分5つ目は聖帝国籍を捨てることだ。つまり犯罪奴隷になって迷宮冒険者付きの奴隷として身を落とすか、迷宮常駐の戦闘奴隷として迷宮のゴミ掃除と評される、死肉漁りだろう。

先生たちを説得する必要性はあるが狙い目は2か3だな…最終手段は4だ…


手を動かしつつ、考え事をしていると、物凄い勢いで手を動かしている子がいた。

こいつの名前はゴンドリア、聖育院は広く子供がたくさんいるので兄弟たちの中でもあまり接点が無い者もいる。

なので出来るだけ接点が出来るようにと先生達がその日の仕事のメンバーを考えて日々のローテーションを組んでいる。

だが6歳になると皆学園に通うために聖育院から出て行く者が多い。なのであまり成果は出ているとは思えない。

俺は体が小さいが手先が器用なほうなので縫い物などをするグループに入ることが多い。そのために比較的女の子達と接点があり、その中の一人がこのゴンドリアであった。


「すげぇ、縫ってる針が見えないくらい早ぇ」

「うふふ。あたし将来服を作って自分のお店を持ちたいの!学園でいっぱい勉強して聖帝国一の職人になるって決めてるのよ!!」

「おぅ、夢を持つことは良い事だ、じゃあ中等部からは芸科だな」

「うん。セボリーも手先が器用だからあたしの店で雇ってあげるわよ」

「うへぇ、それはありがてぇありがてー」


縫い物が終わった後俺は兄弟達と一緒に外で駆けずり回り遊んでいた。


「ねぇ!!あそこ見て!!」


そこにゴンドリアが俺達に何かを知らせて来る。


「あ!!野犬がいる!危ないぞ、先生達が野犬は病気を持ってることが多いから無闇に近づいたらいけませんって言ってたぜ!」


典型的な腕白小僧系のルピシーことルピセウスが注意を促す。


「あれ?なんか小さい動物が襲われてないか?」

「っえ?…本当だ!かわいそう!!」


俺は野犬の下にもがく小さな動物に気付いた。


あ、あの姿……もしかしたら、もしかするのか?この世界にもいるのか?


いてもたってもいられず俺は周りにいる兄弟達に指示を出す。


「いいか?よく聞け。皆で小石や木の枝を投げて注意を引くぞ」


「駄目よ。逆にこっちが襲われる可能性があるわ。まず先生を呼んで来たほうが良いと思う」


俺がが皆を先導しようとするが、ゴンドリアに止められた。

明らかに野犬は興奮している。このまま野犬の注意を引き続ければ俺達が襲われると思ったとき。


「呼んで来たぞぉお」

「皆危ないから建物の中へ入ってなさい!!」


のんびりしていてマイペースだが俊足のロベルトが野犬を見つけた段階で気を利かせて女の先生を呼んで来てくれたようだ。

先生が剣を持ち野犬を追い払うために魔法の詠唱をしている。


「アクアウィップ」


ギィヤイィーーン!!


先生の剣から水が縄状に出て鞭のように野犬へと振り被り、命中した野犬が尻尾を巻いて逃げ出していった。

俺はこの時初めて魔法らしい魔法を目にした。


「先生すげー!!」

「やったぁあ!」

「これでまずは一安心ですね」


一息ついた後俺達は先生と襲われていた動物の様子を見に行く。

そこには無残な光景があった。


「これはピケットの親子ですね」

「ピケット?」

「ええ?地中に穴を掘って生活する小動物ですよ、親のほうはもう駄目ですね…」

「小さいほうはまだ動いてるよ!!」

「っ!!!!」


ゴンドリアと俺がピケットを覗き込む。

その時俺はピケットなる動物をみて衝撃を受けた。

茶色い体毛に小さい耳そして庇護欲を誘うクリッとした瞳、まだ幼く体毛も生えそろっていないが…


やっぱり!これはまんまハムスターじゃねえか!!


前世では小学生の時から家でハムスターを飼っていた。俺はハムスターが大好きなんだ!!


「このピケットの子供も……もう駄目ですね。まだ授乳期で親がいないと生きていけない…」

「そんな…!どうにかならないの?!」

「どうにもなりません、自然界とはそういうものです諦めなさい」

「俺が育てる!!」

「セボリー、育てると言っても」

「育てる!!」

「駄目です。自然のものは自然に帰すのが一番です。しかも生きる余地が殆ど無いものにはね。土に返した後皆で供養をしましょう」

「回復魔法があるじゃないか!!」

「いくら肉体の傷を魔法で癒したとしても、空腹には抗えませんよ。この子はまだ母親のお乳しか飲むことが出来ないのですから」


正論ばっかり言いやがって、俺が今聞きたいのは正論ではなく希望に溢れた戯言だ!!

無茶苦茶な事を言ってることは理解している。しかし、俺はこのハムハムを救いたい、愛でたい、そして飼いたい!!!俺のハム魂が言っている。こいつは助かる……いや、俺が助ける!!!


先生が呆れながら「好きにしなさい、でも覚えておきなさいどう抗っても救えない命もあると言うことを、そしてもしその子が助かったとしても命を養う事がどれだけ大変なのかを」と言い残し、他の先生達のもとに顛末を報告するために建物の中へ戻っていった。残された俺達は数人の兄弟たちとアクションを起こした。


「ガルディ!スコップ持ってきて!地面を掘れるものだったら何でもいい!!」

「おぅ!!」

「ルピシー!!他にピケットの巣穴が無いか探して!!」

「わ、わかった!!」

「ゴンドリア!タオルとお湯お願い!!」

「分かったわ持ってくる!!」

「おいらは?」

「ロベルトはルピシーと一緒に巣穴探して!」

「がってんだぁ」


母親のお乳が無いのなら、他のピケットの母親のお乳を拝借して飲ませればいい!!母親の匂いがするお乳しか飲まない可能性もあるが、その時はその時だ!!!


「スコップ持ってきたぞ!!」

「こっちにそれっぽい穴があった!!」

「持ってきたわよぉ!!」

「よし掘るぞ!!!」

「「「え?掘ってどうするの?」」」


兄弟達が混乱する中、俺はビーチのドイツ人が如く一心不乱に穴を掘り出した。


「このハムハムは雄じゃぁぁあああ!!俺が探してるのはピッチピチのお母さんハムハムだ!!」

「……ハムハムってなぁに?」

「わからん…」

「セボリーって時々ハッチャけるよね…」


俺がハッスルする中兄弟達はドン引きしていた。しかし俺はそんなことにも目もくれず穴を掘っていく。

いや、目をくれたら負けた気持ちになるからくれられなかった。


「いた!!!」


違う母ピケットを捕獲してお乳が出るか確かめる。


こいつは出るぞ!問題ははたしてこの母親がこのピケットを受け入れてくれるかだ…

拒否してる……噛み殺されないように母ピケットの頭に布を巻いていたが…いっそはずしてみるか…いや、危険だ…


結局母ピケットは授乳してくれなかったし、子ピケットもお乳を飲まなかった…


俺は最終手段として聖育院で飼っているヤギに似た動物のミルクを布に含ませ子ピケットに近づけてみることにした。


「っ!飲んだ!!やったこれでこいつは助かるぞ!!!」

「やったぁああ!」


兄弟達も喜んでいたが一番喜んでいたのは俺だろう。


名前を決めなきゃな…ん?こいつ背中に星のような模様がついてるぞ面白いな…

よし決めた!!


「こいつの名前は公星(こうせい)だ!!!」

「コーセー?」

「こうせいだ!」

「コォセィ↓?」

「こうせい→だ!!」

「コ↑セ↓?」

「コ↓セ→だ!!!お前ら絶対わざとだろ、もういいわコーセーで…」


俺は公星を手の平に載せながら幸せをかみ締めていた。


後日。


「セボリーそのポケットの中から顔を覗かせているピケットは何かな?」

「公星です!!」

「コ→セ↑?」

「コーセーです!!」

「そうか、拾ってきた場所に戻してきなさい」

「だが断る!!!」


これから長い付き合いになる公星との出会いの瞬間だった。

2016.6.29修正

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 移転陣で笑ってしまう そんな無理してオリジナリティ出さなくてもいいのに
[気になる点] 聖育院と学園は目と鼻の先の距離なのに、毎日聖育院から学園に通うのがキツイ事は無いだろ? 通い続けるのがキツイ程の距離があるなら、それは目と鼻の先という表現は当てはまらないだろ。
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