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Public Star~目指せ若隠居への道~  作者: 黛紫水
第六章 萌える芽の章
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第百六十六話 目覚め

気が付いたら俺は学園都市の中にある病院の病室の中にいた。

一瞬何処なのかと思ったが部屋を見る限り病室で、何でこんな所にいるのか少し混乱したが、気を失う前の光景を思い出しなんとなく納得させられた。

見渡してみると俺のほかに人はおらず、どうやら個室のようだ。

カーテンを開けるために立ち上がろうとした瞬間、俺は眩暈に襲われる。


「…う」


一瞬だけの眩暈だったので大事無いが、昨日から続く頭の痛さはどうにもならず、吐き気もほんの少し感じる。

立ち上がる時体の節々がギシギシと音を立て少し痛い、体全体の動きがすこぶる悪いし違和感がある。

気合を入れて窓へと近づき、カーテンを開けると、外は暗いままであった。

まだ夜は明けてはおらず、先程まで寝ていた筈なのに何も考えられないほどの眠気に襲われる。

再びベッドの中に潜り込むと足に温かい感触を感じ、かけ布団を捲ってみればそこには公星の姿が見えた。

スピースピーと寝息を立てる公星に少し癒されつつも、俺は再び泥のように眠りに付くのであった。


そこで俺は夢を見た。


「お願いいたします。この子はまだ生まれて1年も経っていないのです」


聞いた事のある声だと思えば、気を失う前に聞いた声だ。

続いてこれまた聞き覚えのある声が聞こえた気がするが、良く聞き取れず何を言っているのかわからなかった。


「約束はお守りいたします。どうか、どうかこの子をお助け下さい」


そこで一度シーンがとんだ。

そしてまた映像が始まる。


「良かった。すっかり元気になった」

「そうね。でも対価が…」

「この子のためにも約束をたがえることはできない」

「ええ…でも父上が何と言うか」

「まだ義父上はお若い。大公の爵位を返上してもらい再度家督を継いでもらうしかない。今回の事は知られてはいけないのだろう?」

「ええ。あのお方におすがりするのがどんな罪深い事か、当主なら誰でも理解できるわ…それでもおすがりするしかなかった…でも、この子を死んだことにするなんて…」

「大丈夫だ。生きていればいつかは会える」

「そうね。でももうここには私達も含めて帰っては来れないかもしれないわ」

「覚悟は出来ている。この子は聖育院に預けよう。あそこなら秘密は守られる。それにあるべき者はあるべき場所へと帰る…あの方がそう仰ったんだろう?ならいつかきっと」

「…そうね。いつかきっと」



再び目を覚ますとカーテンの奥が明るくなっていた。


「モキュ!」

「ああ。おはよう」


目を覚ました俺に、先に目を覚ましていたらしい公星が寄って来る。

どうやら公星にも心配をかけたらしい。

ありがとうの気持ちで公星の頭を撫で回す。

撫で回した後、目の前にある水差しからコップに水を入れ飲み干し、気を失う前の映像と先程の夢を思い返してみた。


気を失う前のアレは恐らく星見だったのであろう。

星の動きを読み予言するという奴だ。

対して先程の夢は夢見か。

夢を見て預言するという。

星見は占いに近く、夢見は透視に近い。

ロイズさんの話によればふたつは元々違う職業を表していたが、いつの間にか同一視されるようになったらしい。

確かに体験してみると同じように思えたが、夢見は妖精を介して教えてもらうので精度が曖昧だ。

何故なら精霊は本当の事を見せてくれる時もあるがそうでない時もある。

俺とゴンドリアが結婚なんていう悪夢が正にそれだ。

だけど先程の夢は前に見た星見と繋がるところが多かった。

アレは本当の出来事だったのだろうか?

星見の映像の男女の声は聞いた事が無かったが、もう一人の声には聞き覚えがある。

あれはあのおっさん、オルブライト司教の声だった。

それを考えるとあの泣いていた子は俺なのか?

ベリアルトゥエルと呼ばれていたあの赤ん坊…

しかも聖下もいっちょかみしているようだな。

でも………ああ!駄目だ!頭がうまく働かない!!

もうこういう時は聞くのが手っ取り早いな。

正直嫌だがあのおっさんのところにカチコミをかけて…


その瞬間、病室の扉をノックされた。


「はい。どうぞ」


声を返すと直ぐにいつものメンバーが入ってきた。


「セボリー!!良かった!起きたのね!!」

「なんだ!元気そうじゃねーか」

「皆さんここは病院ですからお静かに」

「気が付いて良かったよ」

「でもまだ油断は禁物だよ、うん」

「そうだな。何時ぶり返すかわからんからな」


どうやら皆随分と心配してくれたらしい。

一晩気を失ったくらいで大げさだと思ったが、ぶり返すという言葉が気になった。


「ぶり返す?何が?」

「あんたアレから気を失って高熱で寝込んでたのよ!直ぐに病院に連れて行ったんだから!!」

「え?」

「あの時のこと覚えてる?アレからもう1ヶ月経ってるんだよ」

「へ?嘘?」


1ヶ月!?そんなに経ってるのかよ!!

通りで身体の動きが悪いわけだし!!


「嘘じゃない。本当に心配してたんだよ、うん」

「お前いくら卒業試験だからって勉強のしすぎだぞ。知恵熱じゃねーのか?」

「阿呆。知恵熱は赤ん坊が出す熱の事だっつーの。それに慣れない勉強で熱出す可能性が高いのはルピシーのほうだろうが。あ、ごめんね。馬鹿って熱出無いんだっけ?」

「二人ともやめなよ」

「兎に角良かったです。お医者様も危ない状態だと仰っていましたし」

「ああ。一歩間違っていたら命が無かったらしい」

「マジか」


そんなヤバイ状態だったんかい。

ちょっと身震いしてしまった。


「学園と聖育院に連絡は出しておいたわ」

「ロベルト達も心配してたんだぜ」


後で迷惑掛けたロベルトとジジに謝っておかなくては。


「兎に角無事でよかった。今医者を呼んでくる。寝ている時に検査されていたが、改めて検査してもらえ」

「いや、ちょっとやりたい事あるからとりあえず即退院す」

「何言ってるのよ!つべこべ言わないで検査してもらいなさい!」


反論したがそれは直ぐに返されてしまった。

本当は直ぐに退院してあのおっさんにカチコミをかけたいのだが、どうやらそれを許してはくれなそうだ。

まぁ、普通に考えてみれば1ヶ月意識が戻らなかった奴を即退院ですってならねーわ。

ここは大人しく検査を受けるしかなさそうだ。


それから改めて検査された後、明日には退院していいと医者から言われ安心した。

実際寝込んでいた間も原因不明の高熱だけで、後は何も異常が無かったらしい。

体も少し鈍っているだけで他に悪いところは無く、健康そのもののようだ。

後から聞いたんだがロイズさんもお見舞いに来てくれていたらしい。

もしかしたらロイズさん特製の魔法薬ポーションでも使ってくれたのかな?


「しかし1ヶ月か。色々迷惑掛けたようでごめんな」

「本当よ!予定が詰まってるってのにもう!!」

「ああ。あと少しで卒業式だもんな」

「何寝ぼけてるのよ!卒業式の前に一大行事が入ってるでしょうが!!」

「え?何?」

「デビュエタンに決まってるでしょうが!!明後日なのよ!!?」

「………へ?」


俺の頭は完全に真っ白になった。


「えーーーーーーーーーーーーーー!!?」


本来静かにしなければならない病院で、俺の叫び声が響いた。

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