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Public Star~目指せ若隠居への道~  作者: 黛紫水
第六章 萌える芽の章
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第百六十五話 誰か

あの後皆で卒業確定記念の打ち上げをしようと言う話になり、まだ気絶しているルピシーを放置してその場から立ち去ろうとしたら先生方から「ちゃんと持って帰れ」と言われてしまった。

最初は「燃えるゴミですので大丈夫です」と言おうとしたが、生ゴミどころか産業廃棄物にもならなさそうだったので渋々とルピシーを担いで帰った。

ついでに担いでくれたのはユーリである。

もういっその事リサイクル業者に回して綺麗なルピシーにしてほしいくらいだが、それはそれで逆に駄目な所がパワーアップしそうでちょっとイラついた。

ただ燃えるゴミでも公共の場に放置するのはマナー違反だし犯罪なので、少し反省しなければならいだろう。


それからルピシーを寮の自室へと放り投げ、各自夕方まで自分のやらなくてはいけない事を処理し再度集合した後、合格確定祝いの打ち上げをするために食事処へと向かった。

その頃にはルピシーも復活しており合流はできたのだが、テンションが異常なほど高かったのでとにかくウザかった。


さて。学園都市内は平和であるが、夜に子供だけで歩くのは推奨されてはいない。それはどんな国や前世の日本でも同じだろう。

なので朝や昼は良いのだが、夜に子供だけでは入れる店は少ない。殆ど無いといっても過言ではない。

勿論ヤンのカリー店はヤン自身がオーナーなので俺達は大丈夫なのだが、普通は夜に子供だけの入店は拒否しているらしい。問題を起こされては困るからな。

なので普通なら俺達がこの時間帯に入れる店は限られているのだが、そこは伝手が勝利への鍵である。

そう。俺達のメンバーには情報通なロベルトと、小さい時から夜にさえ平気で食べ歩いていたルピシーがいるのだ。

ルピシーは飲食店関係者の中では何気に有名であり、ルピシーが絶賛した店はお世辞抜きに本当美味しいと言うある一種の信頼が出来ている。

ロベルトとルピシーの本の評判が店に客を呼び、更にはルピシー達への信頼に繋がっていく。

正にお互いがWinWinな関係性であった。

そのような関係があるからか、本来時間的に入店拒否される店にさえルピシーが顔を出せば普通に入れてくれる。

通常入れないような店だってルピシーが要れば大抵は入れたのだ。

俺達は正におこぼれ、言うなれば役得である。


俺達はルピシーお勧めの食事処へと入り、大いに晩餐を楽しんだ。

お勧めと言うだけあって一品一品のレベルが高く、更にリーズナブルでお財布にも優しい親切プライスで、更に卒業確定の打ち上げだと伝えるとオマケまでしてくれた。おっちゃんありがとう。

楽しい時間は過ぎるのが早い。

揚げ物にレモンをかけるかかけないかの論争や、俺が大事に取っておいた揚げ物を公星が掻っ攫っていった事以外は平和な時間を過ごせた。

言っておくがレモンをかけるのは良いが、最初に「かけて良い?」くらいは聞け。聞かないで直接かけたら表に出る案件だぞ。


打ち上げも終わり酒も飲んではいないのに場の雰囲気でほろ酔い気分。

まだ春にもならず冷たい夜風の帰り道の道中、ふと顔を空に向けて星を眺めると、急に俺の頭の中に色んな情報が流れ込んできた。

それは声であったり、映像であったり、はたまた匂いであったりしたが、あまりの情報量の多さに一瞬意識を何処かへ持っていかれ、気を失い倒れてしまった。


「セボリー!?」

「どうした!?」

「しっかりしろ!!」


声は声でも精霊の声とは違う、これは人の声だと直感が告げた。

でも誰だと問われると全くわからない。

何故なら老若男女色々な声が叫んでいたり笑っていたり、囁いていたり慟哭していたりと様々で、中には何と言っているのか聞き取れる物もあったのだが、聞き取れても頭で理解できないような感覚なのだ。

何と言うのだろうか、半分は意識があるがもう半分の意識がここではない何処かを見ているような感覚で、心ここに在らずといったところか。

頭の中に映像も走馬灯のように流れてきたが全体に靄がかかり、更には砂嵐や亀裂などのざらつきが酷く良く見て取れなかった。

匂いも様々で土臭さや鉄錆の匂いのような、甘い花の匂いや水辺の匂いなどのような、どうも俺の知っている匂いにはピタリと当て嵌らず、あくまでも似ているが’何かのような’という表現になってしまう。


「…き、気持ち悪い」


頭がガンガンして眩暈で視界がぐるぐる回る。

まるで前世で酒を飲みすぎてダウンする一歩手前のような状況だ。

改めて言うが俺は無実だ。酒など一滴も飲んでない。

この国では保護者が一緒にいれば12歳から度数の弱い酒は飲めるし、15歳で成人したら自由に飲める。

だが俺達はまだ未成年であり、更には子供だけなのでお店でもお酒を頼んでも出してくれないのだ。


「っ!…ぅう」


頭が割れそうに痛いし、吐き気もする。

自力で立ち上がることも出来ず仲間達に支えられ、やっとのことで休めそうな公園へ歩いてく。

夜の冷たい芝生の上に身体を横にすると、思った以上に芝生の感触が柔らかかった。

皆に心配されながら体調が落ち着くのを待っていると、また頭の中に声が響いた。


『ベリアルトゥエル デュセルバード』


「デュ…セル…バード?」


なんでその名前が…?


「デュセルバード侯爵家がどうしたんだい!?」


俺の呟いたデュセルバードと言う言葉にシエルが反応した。


5侯爵家のうちのひとつ、デュセルバードの名前が何で出てきたんだ。

ベリアルトゥエルとは一体何なんだ?

デュセルバードの首都は確かレライエントの筈だ。

ベリアルトゥエルとは何の事を言っているんだ…


「っう!!」

「セボリー!!?」


声と共に映像が洪水のように押し寄せる。


『良い子にしてるのよべリアル』

『泣くな。直ぐ迎えに来るからな』

『大丈夫よ。お爺様の側にいなさい』


知らない。

分らない。

こんなの知らない。


知らない大人の男女の顔が断片的に視えた。

誰なんだこの人達は!


『本当に行くのか?』


この声!?聞いた事がある!!


『ああ。ベリアルの事を頼んだ』

『ご迷惑を掛けて申し訳ございませんお義父様』

『酷な事をする』

『悪いとは思ってるよ…勿論親父にもな』

『馬鹿息子め。お前はとっくに勘当している。大公には』

『私も勘当されました。爵位もあのお方にお返しいたしました』

『馬鹿な……それがどういう意味か分っているのかね?』

『はい』

『だからここに連れて来たんだ。まさかあんたがいるとは夢にも思っていなかった』

『ふんっ…贔屓はできんぞ』

『ああ。そうしてくれ』


子供の泣き声が聞こえる。

まだまだ赤ん坊の域を出ていないくらいの子供の泣き声だ。


『待っててねベリアル…あのお方との約束を果たしたら…』

『元気でな俺達のベリアルトゥエル』

『その名を呼ぶな。ここにはそんな名前の子はおらん。この子の名は………セボリオン。そう。セボリオン・サンティアスだ』



「ぁっ…うあああああああああああああっ!!!」



ここで俺は限界に達し、完全に意識を失った。

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