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Public Star~目指せ若隠居への道~  作者: 黛紫水
第六章 萌える芽の章
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第百六十四話 合否

「おーいセボリー」

「おっひさぁ」

「ロベルト。お、ジジも久しぶりだな」


俺達は卒業試験をたった今終わらせ教室の外へ出たところだ。

卒業試験はそれなりの難易度があったが、普通に解けた。

これは落ちる事はないだろう。

新しい学生生活と夢の現実に向かって順風満帆といったところだ。


「ロベルト。この前はありがとうな」

「え?別に良いよぉ。だってあの本のおかげでオイラも随分助かってたしねぇ」

「そぉ言えばそろそろ新しい本がでるんだよね?出たら購入させてもらうよぉ」


相変わらずロベルトとジジのコンビはまったりですな。

まぁジジはある方面では豹変するが。


「ジジもこの何年か大変だったろう」

「え~?何のことかなぁ?ああ、あのゴミね」


ジジの後半の口調がやばい。

一気に温度が下がって、顔が無表情になってる!!


「そう言えばジジはこのまま学園に残るのか?」

「うん。僕は帰るつもりだったんだけどねぇ。父上が高等部までいきなさいって言ってくれたんだぁ」

「おお!良かったな」


ジジの様に留学生は大体初等部卒業か中等部卒業で母国に帰ることが多い。

稀に高等部まで出て聖帝国内で就職先を探し半永住する事はあるが、殆どの留学生は母国へと帰ってしまう。

その一番の理由はお金だ。

いくら自国では裕福な貴族や大商人の家の出でも聖帝国の通貨価値は異常なほど高く、それに伴って物価も高い。

物心つく前からこの国にいる俺の感覚からしたら日本の大都市の物価と同じ感覚なのだが、留学生から見ればそうではないらしい。

随分前だがユーリが俺達の仲間になって間もない頃、1000ゼアス程の画材を買おうかどうか真剣に悩んでいた。

1000ゼアスとは日本で言う1000円と考えてもらって良い。

確かに中学生になりたての子供が1000円の買い物をするのは財布に結構な痛手を食らうが、それでも必要なものなら買うだろう。

だがユーリは結局買わなかった。

買えば良いじゃんといった俺達の言葉にユーリはこう返してきたのだ。

「この金額はガンテミア双王国の通貨に換算すると、中流貴族の家族が余裕で1ヶ月生活していける金額なんです。勿論使用人の雇用費やパーティの開催費なども含めた全てです。貴族ではない中流平民の家なら過剰な贅沢をしなければ2年は余裕で暮らせます」


どうやら俺の1000円はユーリの1000万円近い金額であったようだ。

ヤンも小さい時から聖帝国で育っていて自分で稼いではいるが昔の金銭感覚を覚えており、ユーリの気持ちが良くわかったらしくしきりに頷いていた。

そんな訳で子供を聖帝国に送り出し仕送りをしている留学生の親にとって、学園の学費と子供の生活費を合わせた仕送り額は凄まじい負担と言うわけだ。

なので余程の事が無ければ初等部卒業と同時に自国へと帰って行く。

それにこの国では他国民は死ぬまで他国民であり、学園を卒業していようが就職先が見つからない事が多い。

就職できるとしたらほんの一握りの人間だけ、運良く就職できたとしても使用人などの職で、殆どの留学生は自国では貴族が貴族に準じる人間なので使用人になりたくないとプライドが許さない人間が多く、それならばと自国へと帰ってしまう。

但し本当に優秀な人材か腕利きの職人の場合は一部例外だ。

彼らは聖帝国のためになると判断された場合は半永住権が与えられる。

永住権ではなく半永住権だ。

これは自分で無くとも伴侶や子供、親戚が犯罪を起こした場合は直ぐに剥奪される。

帰化も認められてはおらず、直ぐに切り捨てることができるように半永住権なのだ。

ヤンのように聖帝国内で商売を始めるのにも複雑な審査と承認が必要であり、かなりハードルの高い物になっている。

ヤンの場合は、カリーの味に惚れ込んだ3公爵が保証人の形でバックアップしているので驚くほどすんなり認められたが、普通はこんなに簡単に許可は下りないらしい。

そう思うと持つものは友達アルカンシエルだな。


そしてもうひとつの理由は箔付けが出来たから。

聖帝国人にとって中等部卒業は当たり前の事だが、他国人にとって聖帝国内の学校へ通う事はかなりのステータスであり誉れだ。

日本の感覚で言えばKOの幼稚舎や、イギリスにあるオクスフォードのパブリックスクールに通わせるようなものである。

言葉も覚えられるし、上流社会との交友関係も築けて一石二鳥どころか四鳥も五鳥といったところか。

聖帝国の初等部を卒業すれば自国では鼻高々に自慢できるのだ。


聖帝国内で最も権威の有る学校は俺達の在籍しているサンティアス学園と、首都シルヴィエンノープルにある帝立第一学園、通称エルカイザーが双極だ。

生徒数と規模はサンティアスが圧勝しているし、創立もこちらのほうが早いがエルカイザーもかなりのものだ。

他にも24家領地に有名な学校はあるのだが、どうしてもこの2校には見劣りしてしまう。

ついでにエルカイザーの学生及び卒業生はたまた職員は、サンティアス学園の事を毛虫のように毛嫌いし何かにつけてライバル視しているが、サンティアス学園の人達はエルカイザーの事を何とも思っていない。

アウトオブ眼中、他人の畑は関係ないである。

その関係性は東京と大阪の構図に似ており、何かにつけて「東京者とうきょうもんに負けるな。東京がそんなに偉いんか!」と主張する大阪府民を「なんでそんなに気張ってるんだろう?」と不思議に思う東京都民に近い。

東京都民が「でも大阪も良いところでしょ?凄いじゃないか」と言えば「なんで上から目線やねん!!」と食い気味に突っかかってくるのと一緒だ。

実は更にもう1校権威の有る学校もある。

前述の2校から比べると生徒数も規模もかなりガクッと落ちるが、エルトウェリオン公爵領のアクナシオンにあるアクナシオニス学園で創立は一番古く「でもみやこだったのはうちどすえ。ふたりして汚ならしい喧嘩おすなぁ」と妙にプライドが高く負けず嫌いな京都府民のような学校であり、サンティアスもエルカイザーも「何か分らないけどイラっとする」と口を揃えて言う評判な学校だ。

正にデススパイラル、負の三角形トライアングルな関係性の3校である。

話は逸れたが最も権威があり留学生の受け入れをしている聖帝国の学校はその3校だけで、更に言えば自由な気質で他国民にも寛容なサンティアス学園が一番留学生を受け入れていた。


「それはそうとルピシーは大丈夫かぃ?」


余裕綽々な俺に対しルピシーは現在屍と化していた。


「やばいやばいヤバイヤバイやばいヤばイヤバいやバイ」


このような状態だ。


「毎年見る光景だよねぇ」

「そうだねぇ」

「まぁ今年は本当に卒業できるかやばかったけどな。あ、まだ卒業できるって決まってないか」


「ああ゛あ゛あ゛ーーー!!ヤベーよぉぉおお!!!」


ルピシーが四つんばいになりながら号泣し始めた。


「問題の回答をひとつ飛ばしにして答えてたぁあああ!!」

「あ、それは本当にやばいかもぉ」

「うわぁお」

「…」


いや。それ本当にやばいんですけど。

何故か俺も冷や汗かいてきたし。

ふっ…終わったな。


「おーい。皆どうだった?」

「ちょっとルピシー。そんなところで泣かれたら邪魔なんだけど」


そこに別教室で試験を受けていたシエルとゴンドリア達が合流してきた。

俺が事情を説明すると、他のメンバーは皆目が笑ってない状態で乾いた笑い声を上げた後、無表情でルピシーの肩に手を置く。

無言だったが皆言いたい事は同じだろう。以心伝心だ。


それから結果が出る4日間、ルピシーは珍しく寝込み長い間ゾンビの様な状態であった。

そして卒業試験から5日後の朝、ルピシー以外のメンバーは合否判定を見るために登校していた。


「そろそろ張り出されるわ」

「ドキドキだね」

「皆受かってると良いな」

「でもルピシーが、うん」

「まだベッドの住民ですからね」

「お!きたぞ!」


合否は学園の広場にある掲示板に張り出される。

そのため今俺達の周りには今年卒業予定の学生が大挙していた。

皆合否に怯えている。

そんな中張り出す係りの先生達が到着した。


「では張り出すが皆落ち着いて見るように。毎年怪我人が発生しているからな」


そう言うと指を鳴らし合否判定表を虚空へと投影させた。

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