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Public Star~目指せ若隠居への道~  作者: 黛紫水
第六章 萌える芽の章
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第百六十三話 準備

さて、後は卒業試験に向けて追い込みの時期であるが、その前に色々やっておかなくてはならないことがある。

俺は忘れたかったので知らん振りをしていたのだが、どうやらそれをあいつは許してくれなかったようだ。

そうあいつとはゴンドリアのことである。


「さてと。卒業試験なんて殆ど受かったような物だから後は一大行事だけよ!」

「一大行事ぃ?なんだそれ?」

「あんた!何言ってるのよ!!卒業試験が終わったら直ぐにデビュエタンがあるじゃないの!!」

「ゲェ!!!」


デビュエタン。それは前世ヨーロッパで言う社交界のお披露目会デビュタント、前世日本で言う成人式に近い行事である。

前記したふたつの式は色々と内容が違うが、前世の言葉に当て嵌めるとその言葉しか出てこない。

まぁふたつの式を足したような行事と言えるだろう。

前世の日本の成人式のように各自治体ごとに開催する場所も違うし着飾って集まることは同じだが、根本的に成人式と違う事があった。

そう。それはダンスだ。

俺はダンスなんて前世から踊った事なんて無かった。

しいて言えば学校で踊ったフォークダンスかオクラホマミキサ、マイムマイムなどだ。

だがしかし、マイムマイムに関しては語るのもはばかられる。

何故かと言うと数年前の俺の過ちが原因でもう踊りたくないからだ。

しかし何故かマイムマイムの足音が年々俺の元に迫ってくる感じがして恐怖を感じていた。

少し話は逸れたがダンスだ。

デビュエタンで踊られるダンスはボールルームダンス、所謂社交ダンスである。

しかもスタンダードなモダンダンスときている。

そんな物踊れるかと思うだろう。

だが今世の学校ではダンスの授業がある。

え?日本だってあるだって?

でもそれはヒップでホップなダンスだろう。

違うんだ。社交ダンスが普通にダンスの授業であるんだよ。しかも必修ときている。

俺は頑張った。詳しい内容は言いたくないから言わないが、それは血の涙を流すくらい頑張ったんだ。

おかげでダンスの先生から太鼓判を押されるほど踊れるようになったんだが、前世の記憶のある俺はかなりのシャイボーイなためずっとダンスに苦手意識があるのだ。


「このために採寸もしたし!生地の選定も終わった!規定で決められた中でのデザインのアレンジも完璧!パターンを引いてカットして仮縫いも終わった!後は本縫いをして本番に望むだけよ!!」

「ハァ…」


俺のテンションは駄々下がりである。


「おっしゃー!!!デビュエタンでも何でも来い!!卒業まで遊びつくすぜ!!!」


俺とは逆にテンションマックスなのはルピシーである。

つい先日卒業単位を取得した事で重荷から解放されたためかこの通りだ。

ぶっちゃけウザくて仕方が無い。


「あんたはっちゃけるのは良いけどまだ卒業試験が残ってるのよ」

「え?でも単位は全部取ったぞ?」

「単位を全部とっても試験に受からなければ卒業できるわけ無いじゃない!!」

「嘘ぉ!!?」

「嘘じゃないわよ!!!」

「試験ってマークシートだよな!?」

「違うんじゃない?」

「…終わった」


本当にコイツ今まで良く進級してこれたよ。

鉛筆コロコロだけでここまでこれたってのが今でも信じられないくらいだ。

しかしコイツの鉛筆コロコロの的中率は番号問題なら9割と言う奇跡のような確立を引き出す伝家の宝刀。

それ以外の筆記でも予め考えを絞ってその考えに番号を振り鉛筆コロコロをする。

その正解確率も3割近いと来ている。

俺が昔やってたのを見て真似したのが始まりだが、ある意味偉業だわ。

恐るべし馬鹿の救世主ルピシアンペンローリング


「卒業試験まで後10日デビュエタンまであと1ヶ月半。卒業まで後2ヶ月ちょっとか」


俺は順調に魔改造していき強力になっている精霊経典レメゲトンの表紙を、クリーニング用の油をつけて布で磨きつつ将来のことについて思いを馳せる。


高等部に進学するならやっぱり魔科だろうな。

おっさんあたりが聖科にいけって言いそうだが無視するとしよう。

高等部在学中に稼げるだけ稼いで若隠居ってのも良いな。

ヤンみたいに店のオーナーってのも捨てがたい。

前世の料理ならこの世界でも通用できそうな料理がいっぱいあるし、かなり儲かるだろうな。

そしてゆくゆくはロイズさんみたいにでっかい持ちビルを建てて悠々自適に生活していこう。

ああ。楽しみだ。


「さて。そのためにはまずは卒業だ。俺も追い込みかけるかな」


俺の横で眠っていた公星の毛皮を撫でたあと、商会の自室へと戻り教科書を開くのであった。





場所は変わり時を同じくして、とある建物の中。

ふたりの男が酒を酌み交わしながら話をしていた。


「ああ」


男のひとりはブランデーグラスを傾けた後、何かに気付いたらしく目線を窓の外の空へ向けた。


「どうなさいました?」


問いかけた男はロイゼルハイドと言う男で、セボリオンと同じ日本からの転生者である。


「星が動く」


まだ日が強い昼の空には星一つ見当たらないが、男はそこにあるであろう星の位置を読みそう呟いた。


「それは吉兆ですか?」

「さぁて。だがそろそろ待ちに待った時が来る」

「随分と楽しそうですね」

「まぁ動くのはもう暫く先だ」

「あなたの直ぐは10年単位で暫くは100年以上先ですよね?」

「いや。今回は2年も無いだろうな」

「それは星見にして夢見たるあなたの見解でしょうか?」

「ああ。楽しみだ。もう直ぐ会える」

「待ち遠しいですか?」

「この時を随分待ったからな」

「誰にお会いになるのですか?」

「ロイゼルハイド。目星は付いているのだろう?」

「さてね?」

「ふっ…そろそろつまみを食べたい。何か無いのか?」

「はいはい」


ロイゼルハイドは虚空から迷宮で育てたナッツや自家製のチーズやサラミを出し、皿の上においてテーブルに置いた。


「うむ。美味いな」


男はチーズの一欠けらを齧り、ブランデーを煽った。

その姿は大人の男の色気が漂い、一枚の絵画のようである。


「それはどうも」


ロイゼルハイドも硬いナッツの皮をむき無造作に口に放り込む。


「ロイゼルハイド」

「何でしょうか?」

「そろそろ前に話した取引の答えを出せ」

「本当に人材不足なんですね」

「ああ。もう随分と昔…いや、私が生まれる前から人手不足だ。私は多忙で仕方が無い」

「こうやって朝方から飲んだくれているのに?」

「飲み始めたのは昨日の深夜ではないか」

「今日はそろそろお開きにしませんか?」

「まだ飲み足らん」


その言葉にロイゼルハイドは呆れ顔だ。


「あの子も…セボリオンも誘うおつもりですよね?」

「人材不足だからな」

「絶対に断られますよ」

「ははは。どうだかな」

「では僕は答えを出します。答えは否ですよ。僕はまだ僕でいたい」

「そうか。残念だ。世界の記憶アカシックレコードに興味は無いのか?」

「ありますよ。でもね。僕はまだ人間でいたいんです。世界の記憶アカシックレコードを追い求めたら森羅万象の記憶コスモスレコードが出てくるなんて想定していないんですよ。僕には重過ぎる」

「仕方が無い。今日はお開きだ。また誘うとしよう」

「はい。まぁ答えは何度問われても同じでしょうがね」


ロイゼルハイドは立ち上がると窓の外にある見えない星を一瞥し、男に顔を向けた。


「では。ごきげんよう聖下」


別れの挨拶をするとロイゼルハイドの姿は何処かへと消えていった。


ロイゼルハイドの消えた部屋の中、部屋の中には男ひとりだけ。

再びグラスを傾け空を眺めたあと、男は心底楽しそうに笑った。


「ああ。楽しみだ」

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