第十八話 精霊学
一般常識額学初級を受けて寮に戻った後、次に受けると決めていた授業に出るために教室へ移動する。
次の授業は精霊学初級を受ける。このフェスモデウス聖帝国は精霊とは切っても切れない縁があり、精霊についてある程度知っておかなければならないと皆で決めたからだ。
「我が国には精霊は殆どいないからな。一体どんな精霊がいるのか楽しみだ」
「サンティアスの子は周りの先生がアルゲア教団の人だから、かなり親しみがある授業なんじゃない?うん」
「聖帝国の国民は精霊達から恩恵を貰ってるけど、精霊とは何かって言う明確に理解してない人も多いからね」
ああ、そういえば気が付いたときには精霊の種類は理解していたからな疑問に思わなかったが、普通の家庭の認識はそんな感じなのか…
そう言う俺も種類は分かっていても詳しいことは知らない。次の授業が楽しみだな。
先程と同じような教室に入りチャイム(目覚まし音)が鳴り先ほどとは違う先生が来る。
教室に入ってきた先生はどうやらアルゲア教団から出向のような形で来ている先生らしい。
長い茶色の髪に水色の長いローブを着た女の先生だった。
「皆さん精霊についてはどのくらい知っていて、また理解していますか?」
との問いかけに前の座席にいる生徒が答える。
「精霊とは自然の力の源です!実態は無いけど常に僕達を見守ってくれる者です!」
「良い答えですが少し違いますね。確かに自然の力を受けて生まれた精霊はいますが、精霊にも種類が何種類かいるのですよ。精霊とは偶然または故意に発生した力や巨大な歪みによって生まれた者です。必ずしも自然の力の源だけではありません。そうですね、まず皆さんは精霊石をご存知でしょうか?これですね」
先生が懐から出した水色のピンポン玉サイズの精霊石を皆に見せてくる。
恐らく丸く加工されているのだろうが、あのサイズの精霊石を見るのは初めてだったので少し驚いた。
「これが精霊石です。この石は自然界の力によって生み出されたもので、つまり自然界の力の結晶と言って良いものです。この精霊石を使って色々な魔道具が作成され、また動力源として活用されているのです。現在世間で広く知られている仮説ですと精霊が精霊石を作り出していると思われています。ですが現在の学会でもその正確な答えを出すことが出来ない状況です。精霊石が出来、そこから生み出されたのが精霊なのか、精霊が生まれ、その精霊の力が精霊石になったのかまだまだ説はつきません」
ん?どうゆうことだ?つまり卵が先か鶏が先かみたいなことか?
「ただ精霊石が良く採れる土地には精霊が多くいることは確かなのです。私たちが住んでいる聖帝国は精霊石の最大の産地で、そして精霊の数も他国と比べるまでも無いほど溢れています。精霊の数は国の豊かさの印です。そして精霊石の多さもまた然りで、この学園都市では少し探せば何処にでもある石ですが、他国では小さな欠片ほどの大きさでもそれなりの値段がつき価値あるものになっています。まぁ精霊石はある程度の大きさではないと利用価値があまり無いんですけどね。ですが我々にとって精霊石とは掛け替えなのない存在と言う事は言うまでも無いでしょう。皆さんが利用したことのある魔車の動力源も精霊石ですし、移転陣の模様も精霊石をすり潰した粉を加工して描かれているものです」
ほへぇ。やっぱり魔法や魔道具関係になって来ると精霊石が関係してくるんだな。
でもある程度の大きさが無いと利用価値が無いのはわかったが、粉にして使うのならば大きさは関係ないんじゃないのか?
そう思った俺は恐る恐る手を上げた。
「はい。え~っとセボリオンですね。何でしょうか?」
「あの。精霊石を粉にして使うのならば大きさは関係ないんですよね?」
「そうですね」
「じゃあ何で利用価値が無いんでしょうか」
「無いではなくあまり無いです。大きな精霊石はそれ自体が魔道具として使われることがありますが、小さな精霊石にはそれができません。すり潰し粉にした精霊石もそのままでは使うことが出来ません。ある程度の加工をしないと使えないんです。その加工法や工程などの製法は聖帝国が独占しているのです。更に移転陣などの陣を描くのにも技術と知識が必要なのです。たとえ技術と知識を補えたとしても更に陣を描く人間にそれなりの魔力が無いと発動しません」
「ああ、成る程」
そう言う事か。
つまり材料があっても製法が無いとモノが作れず、モノが作れたとしても知識と技術が無いと描けない。
更に知識と技術があっても素質が無いと唯のアートとかし発動しないというわけか。
つまり宝の持ち腐れ状態になる訳だな。
「更に言うなら、他国では精霊石の値段は本当に高価でそうおいそれとは買い集める事はで来ません。聖帝国から精霊石の輸出は大っぴらには行ってはおらず、個人の例外的な輸出でも高い税金がかけられます。もっと言いますと違法な輸出をしようなれば重い罰則が科されます。コレは小石の欠片程度の精霊石でもそうです」
つまり精霊石は国の重要な財産として認められていると言う事か。
「わかりました。ありがとうございます」
俺の質問が終わると先生はまた話し始める。
「さて、先程精霊石が魔道具として使えると言いましたが、魔道具として使える大きさはバッテカほどの大きさが無いと使えません」
バッテカとは前世で言うスイカだ、見た目はかなりでかい伝助スイカにそっくりだが中を割ってみたら赤ではなく薄いピンク色をしていてびっくりした覚えがある。
ただ目茶苦茶甘くて水分も多いので水分補給のジュースとして聖育院で食べさせてもらうことがあった。
「それに精霊石はある程度使うと砕け散ってしまいます。砕け散った精霊石は大地や大気に魔力へと変換され、我々の魔力や体力の回復、精霊達が使う奇跡となって変換されます。仮説ではその変換された魔力が長い年月を経て集まって固まり新たな精霊を生み出すと考えられています」
ふむ。微力なエネルギーは魔力や体力の回復元と言うわけだ。
「精霊には3つの種類があり、ひとつは自然が生み出した元素属性を持つ精霊。コレは皆さんが思っている精霊と思って良いかもしれません。2つ目に野生の動物が長い時間ときを経て力を蓄え肉体を捨て精神世界の住人になり、再び現世に干渉できるまで成長した者。あとこれは迷宮に潜っていて尚且つ使い魔を所持している上級生なら分かると思うのですが、使い魔契約をしている動物の中で稀に進化を遂げるものがいます。進化を続けて力を蓄え何かの偶然が起こり精霊に進化するものです。この何かの偶然とははっきりわかってはいません。使い魔からの精霊進化は残っている記録だけで長い歴史を紐解いても二つの手で数えられる程度ですので」
教室にいる公星を知っている生徒が一斉に俺のほうを向いてくる。
公星は先程の女子達の視線が余程怖かったのか、まだ俺のポケットの中でおやつのオイルシードを齧っている。
いや、こいつはただ小腹が空いたからおやつを食ってるだけか。さっき飯をあげたんだけどな。
「3つ目は道具が精霊になる者です。これは世に言う精霊道具とも言うものですね。ウェポンと言っていますが必ずしも武器ではありません。攻撃力を持たないものもいますのでね。精霊道具は現在確認されている中で54個しかなく24家にひとつずつ、最高裁判所にひとつアルゲア教団に3つ宰相閣下のいる内閣府に3つ。残りは聖下が所有しています。聖帝国の裁判の話になれば出てくるとは思いますが、『真実の宝玉』と言うものが存在します。これは精霊道具のひとつです。人格を持ち特別な力を秘めた道具が精霊道具と呼ばれます」
うわぁ、タイムリーだな。さっき聞いた言葉がまた出てきた。
と言うことは精霊道具は国宝級の魔道具と言うことになるな。『真実の宝玉』は国宝の魔道具とあのあっさり先生が言ってたからな。
つまりあれか?魔道具が進化して精霊道具になるわけか?
と言う事は日本で言う九十九神と考えて良いわけだ。
「この3つが精霊と言われるものです。全て偶然の産物で生まれ出でる者達です。今まで人工的に精霊を作り出そうとした人はいますが、全て失敗に終わっています。勘違いして欲しくないのですが、アルゲア教は自然であれ人工的であれ精霊の誕生は喜ばしいと思っていますので、人工的に精霊を作り出そうとしても止めには入ることはしません。千何百年前の大司教様は信者の方に実験を推奨したと記録に残っているほどですので」
そりゃ人工的に作り出そうとした奴はいるわな。そういえばアルゲア教で禁忌と言われるものはあるのだろうか…確か三等親内結婚と重婚と不倫は駄目だと聞いたことはあるが…
重婚や不倫が駄目だと聞いたときには、「異世界の醍醐味はハーレムだろうが!!わかってねーな!!!」とか心の中で叫んだことは内緒だ。
しかし聞けば独身のうちは別に遊んでいても良いらしく、聖帝国では結婚とは神聖なものであり伴侶になる者を大事にしなければならないと国法に明記されているらしく、ついでに言うと同性婚もOKなのだと。
つまり愛し合って結婚したら一途であれと言うことだ、それが同性でもな。
俺は絶対に異性婚をするがな!!!
「さて…元素属性を持つ精霊は自然の力を好み、また精霊がいる所は肥沃な土地や温泉や鉱物などの地下資源が豊富で、まさに楽園と言ったところです。ただ自然豊かだから好きというわけではないようですがね。聖帝国には世界最大の山エルファドラ山があります。そこはアルゲア教の聖地の一つなのですが、力の強い精霊が数多くその数は世界でも類を見ません。精霊の住む場所は繁栄すると言われています。自然の力は精霊を生み、精霊は自然の力を押し上げます。自然豊かな場所に精霊が住めば良い事が連鎖しますが物好きな精霊もいて、自然が乏しい場所に住んでも土地が豊かにならない場合もあります。これは精霊自身の意思でそうしていると言われています」
じゃあ、物好きな精霊は故意に乏しいままにしているわけだな。世の中には物好きな奴もいるものだ。
俺の周りにも一人いるけどな…ゴンドり(ギロリ)っ!今睨まれた!!すいませんでしたゴンドリックさんはノーマルでございます!!!
どこの世界のノーマルとはいわないけど…
いやぁ、しかし勉強になるな。やっぱり学園に入って正解だわ。
前世では勉強は全然楽しく無かったが、今世では楽しいぞ。出来るだけ頭でっかちにならないように気をつけるがやっぱり学生時代って良いものだ。
あ、ルピシーが瞑想と言う名の睡眠をしている…
こいつ本当に大丈夫か…?マジで不安になってきた。
「ふー!!勉強したぁ!!!」
「「「「「どこがだ!」」」」」
「睡眠学習って話聞いたことあるからそれだ!」
「それじゃ、部屋に戻って覚えてるかどうかルピシーに質問しようよ。僕達の復習にもなるし」
「そうだな、やってみよう。」
「ぼくもやるよ、うん」
「あたしも協力するわ」
「ルピシー南無南無」
「ごめんなさい、降参です!!!」
「ははは、まだ問題も出してないじゃないか」
「遠慮しなくてもいいのよ。がんばりましょうね」
「そうだよ、15歳の一年生は嫌でしょ?うん」
「たすけてくれぇぇぇぇぇぇえええええええ!!!」
「「「「「助けるためだ(よ)」」」」」
ルピシーが俺等5人に引き摺られ寮の部屋に戻る姿は、まるで罪人のようだったと後に仲良くなった同級生に聞いた話だ。