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聖帝国軍の大将(2018.1.8修正)

その頃、聖帝国軍の大将であるアライアス公爵はと言うと。


「ぶぇっくっしょん!!!ふぇっくっしょん!!!はーっくしょん!!!」


盛大なくしゃみを連発していた。


「殿。汚いですよ」

「おう、すまん。あ~~これぜってーロイズ辺りが俺のこと謗ってんなぁ」


家臣に差し出されたちり紙で鼻をかみつつ、幼馴染兼悪友の顔を思い浮かべ寒気を催した。


「あいつ珍しくやる気だして参戦しようと思ってたのに止められてたからな。ぜってー俺に対しての悪口言いまくってんだろうな。あ~~帰りたくねぇ~。帰ったら絶対に愚痴愚痴と嫌味言われるに決まってる」

「殿。ロイゼルハイド様に嫌味を言われるのはいつもの事でしょうが」

「いや。今度のはマジでヤバイんだって。だってあいつのあの目は本気でヤバかった。あいつがあんな目をする時は何か悪い事が起きる証拠だ!うぉ!思い出して鳥肌たってきやがった!嫌だーーー!!」


馬上から頭を抱えてのけぞる姿を傍目から見れば貴族のチャラい道楽息子のように見える。

実際貴族のボンボンには変わりは無いのだが、それでもこの男が正真正銘フェスモデウス聖帝国24家がひとつ、今代アライアス家当主アライアス公爵ウィルブライン・エリック・ガウェイン・ライオニール・フォン・ド・ベルファゴル・アライアスに間違いなかった。

赤銅色のレッドブロンドの髪に濃いグリーンの瞳はまるで少年のようにキラキラと輝き、鍛え上げられた肉体は古代ローマの大理石像の如く凛々しく美しい。

この世界において最上級にあたる貴族で容姿も恵まれているが、そんな彼を良く知っており尚且つ仲の良い者から言わせると、色々吹っ切れて残念になった奴、と思うだけではなく常日頃から面と向かって口に出して言われていた。


そんな高貴で残念臭が漂うウィルブラインに何処とも無く声が聞こえてくる。


「煩いのぉ。少しは静かに出来んのか」

「はぁ?黙ってろよ」

「わしに対して何と言う無礼な!!振り落とされたいのかウィル坊」


声の主はウィルブラインの直ぐ近くで聞こえているようだ。


「マジで黙ってろよ。大体なんでお前が一緒に来てるんだよ。大人しく家の庭で草でも食ってろ」

「何を言う!!アライアスが出張る戦でわしがいないなどありえんわい!!」

「大体にしてお前の存在自体がありえないんだよ!!そろそろ始まるんだから本当に黙りやがれ!!」

「なんだと!!?本当に振り落とされたいのか!!?この小便垂れ!!!」

「誰が小便垂れだ!!この耄碌が!!テメー絶対にシバク!!この鬣引っこ抜いてやろうか!!」


ウィルブラインは自分が乗っている馬に向かって怒鳴り散らした。

そしてその怒鳴り散らされた馬もウィルブラインを罵っている。

そう。先程から聞こえていた声の主はウィルブラインが跨っている馬のボロディンだ。

佐目毛色の毛皮で他の馬よりも立派な体格を持つ馬が、負けず劣らずの大声でウィルブラインに罵っていた。

ボロディンは唯の馬ではなく、建国当初より聖帝から下賜されアライアス公爵家に代々居ついている精霊道具インテリジェンスウェポンと呼ばれる馬であった。


「あ~~こんな駄馬じゃなくて早くクレアに会いて~なぁ」


ボロディンと言争いをしていたウィルブラインは、数ヶ月前に結婚した新妻の顔を思い表情を緩ませた。

ウィルブラインの言い振りではもう数ヶ月会ってないように思えるが、この戦地にはアライアス領地から直接移転陣で移動してきたので、今日の朝にも普通に顔を合わせていた。


「おい!振り落とされたいだけではなく蹴り飛ばされたいらしいな!!あ、わしではなく早く嫁に跨りたいと言う意味か。ほんの少し前まで小便垂れていたウィル坊も色々大きくなったのぉ」

「お前マジでシバクぞ。あ~あ。なんでヴァールカッサやダルメニオンがうちに来なかったんだろ」

「はぁ!!?あんな性悪猫と陰険犬の何処が良いんじゃ!!?それよりも溢れ出る知性が隠し切れないほどに染み出ているわしのほうがずっと良いだろうが!!」


ヴァールカッサとダルメニオンとは、アライアス公爵家と同じく24家世襲貴族の公爵家であるエルトウェリオン公爵家とホーエンハイム公爵家に下賜された精霊道具インテリジェンスウェポンのことであり、ヴァールカッサは純白の毛皮を持つ豹の姿を、ダルメニオンは銀色の毛並みを持つ狼の姿をしていた。


「お前から染み出てんのは愚かさと馬鹿さだろうが!!それに性悪も陰険もお前のことだっつーの!!」

「なんだと!!?」

「おぬし等そこまでにしろよ。そろそろ歌い始めるぞ」


ウィルブラインとボロディンは後ろから聞こえてきた声の方向に顔を向けると、ウィルブラインはあからさまに嫌な顔を作った。


「ゲェ!!おっちゃん!?何でいるんだよ!!」

「ジルから頼まれたからだ。それにウィルの晴れ舞台だからな。お膳立てくらいはしてやらねば」


ジルとはウィルブラインの父親であり、先代アライアス公爵、現ベルファゴル大公ジルガンテインのことである。


「いやいやいや!!いらねーし!!何で30過ぎた息子に監視役なんてつけるわけ!!?阿呆だろあの親父!!!」

「それ程ウィル坊が頼りないと言う事だろう」

「うるせーよ駄馬。お前は黙ってろ」

「お前は昔から無茶が過ぎるからな。心配なんだろ?」

「いやいやいや!!無茶振りは親父やエルドラド大公におっちゃん、それにオルブライト司教の専売特許だろうが!!今でも聖帝国軍に伝説と言う名の迷惑話が残ってんじゃん!!!って言うか最高司令官ともあろう人物がこんなみみっちい現場に出てくんなよ!!それにもう良い年なんだから早く勇退、いや退官しろよ!!!」


ウィルブラインにおっちゃんと呼ばれた男。

この男の名前はアレイオス・ルフトガート・ガディス・フォン・ド・パルミランティ・アゼルシェード准伯爵と言い、先々代アゼルシェード辺境伯の末の弟であり、軍人における最高爵位聖騎士の称号と実質元帥と同じ権力を持つ聖帝国軍最高司令官の肩書きを持つ男である。

アレイオスは正に軍の生きる伝説であり、先程述べた3人と合わせて聖帝国軍四羽烏もとい四馬鹿らすと言われていた男であった。


「何を言う。私はまだまだ現役だぞ。ほれ!見てみろこの筋肉を」


100歳に近い年齢にもかかわらず外見は還暦前に見え、2メートル近い巨体にはそれに見合うほどの筋肉が隆々と盛り上がっていた。


「いや、下が詰まるから早くやめろよ。ぶっちゃけアルゲア教団とかウィンデルノットにベルックスブルクとかもそうじゃん」

「条件を満たさなければ上に上がれない教団と、死ななければ大公位を返上できない世襲貴族を軍部と一緒にするんじゃない。私がまだ現役なのは人材不足と下の者達が不甲斐ないだけだ」

「と、この爺さんは言ってるが、実際のところはどうなの?」


ウィルブラインは後ろを向きアレイオスの部下に当たる聖帝国軍の軍人達に話を振ったが、その部下の軍人達の殆どは何も言わず顔を背けるだけであった。


その光景を見てウィルブラインは軍人達に同情の念を送り、改めて自分の選択は正解だったと感じていた。


「……やっぱり俺軍に入らなくて正解だったわ」

「全く。折角可愛がってやろうと思ったのに、おぬしときたら迷宮冒険者になるとほざきおってからに」

「おっちゃんの可愛がりは地獄の入り口だろうが!!見てみろ!!あんたに可愛がられた結果おっちゃんの部下はあんな無表情で音楽隊の指揮を取ろうとしてるんだぞ!はっきりいって不気味だわ!!!」


ウィルブラインが指差した方向には無表情で淡々と仕事をこなす男の姿があった。


「あいつは昔からああだったぞ。というか私はあいつが笑っている姿など殆ど見たことが無いわい。あるとすればあいつの結婚式の時か娘が生まれたと報告しに来た時くらいだ。それも微笑んでいるのか引き攣っているのだか良く分らん程のな。見ているこっちが気味が悪かったわい。結婚も突然で、それまで女っ気も無かった奴がどうやって恋愛に発展したんだと話題持ちきりだったんだぞ。その前まであいつは男色だやら、歳を取ったらああいう奴が将来頭のどこかが壊れてて周りに迷惑を掛けるんだと表や陰で言われ続けていたからな」


そんな耳を塞ぎたくなるような話をされている部下はと言うと、このやり取りを聞いているにもかかわらず眉一つ動かさず黙々と仕事をし続けていた。


「入軍した当時から今の今まで迷惑掛け捲ってるおっちゃんが言うな。それに今現在も独身のあんたにあいつも言われたくないと思うっつーの」


子供のいないアレイオスはウィルブラインやウィルブラインの姉兄を自分の子供のように可愛がっており、ウィルブラインもアレイオスの大きな姿を見て子供心に憧れていた。

そんな訳で父親と仲が良く幼少の時から良く知る男なので、ウィルブラインが公爵位を継いだ今でもお互い気安い関係である。


「最高司令官。準備が整いました」


先程ボロクソに言われていた佐官が、やはり無表情でアレイオスに敬礼をしながら報告を上げてくる。


「そうか。ご苦労!さて、始めるか」

「うっす。おい駄馬。早く元の姿に戻れ」

「うるさいのぉ!!少しは敬うという気持ちを持たんか!!」

「ちゃんと仕事したら少しは持つ事も吝かじゃねーよ」

「ふん!!早く降りろ小便垂れ!!」

「うっせーよ駄馬」

「良いから早くやれ」


ウィルブラインがボロディンの背中から降りると、ボロディンの体が光りだす。

そしてボロディンの体はどんどんと小さくなり、荘厳な赤銅色の盾の姿になった。


「よし。コレでうるさくなくなったな」


そう。精霊道具インテリジェンスウェポンとは元々武器や防具などの道具だ。

それがある特別な条件を経て命ある存在へ昇華していったのだ。


「そんな事を言っているとまた苛められるぞ」

「もう子供ガキじゃねーんだから返り討ちにしてやるって」


アレイオスの言葉にウィルブラインは苦笑しつつ盾の姿になったボロディンを手に持った。


「で、おっちゃんまずどの歌から始めるんだ?」

「そうだな。まずは『堅厳盾の行進』からだな」

「その心は?」

「歴代アライアス公爵の行進歌だからだ」

「うへぇ」

「いくぞ!!始めぇええ!!!」


男達の荘厳な歌声は枯れ果てた草原に響き、敵軍の陣へと音を届かせた。

歌の効果は見ただけで分り、敵軍の動きが一気に鈍くなる。

そして『堅厳盾の行進』が終わった瞬間、新たな馬に乗り換えたウィルブラインが、メイスのような武器を盾の姿となったボロディンに叩き付けた。

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