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Public Star~目指せ若隠居への道~  作者: 黛紫水
第五章 進化への種の章
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第百五十二話 微睡の再会(2017.12.31修正)

「そんな……なんで……」


その人達の顔を見た瞬間、俺の頭の中は正に真っ白になった。

そして懐かしい思いと同時に感動で無意識に涙が溢れ出てくる。


「親父……お袋……」


振り向いた先に見えたもの、それは前世の両親の姿であった。


「……なんでこんな所に…親父達もこの世界に?…っ!」


驚く俺の肩にまた手が乗せられる感触が伝わり振り向くと…


「兄貴……綾……」


前世の兄と妹が立っていた。

前世の家族は皆俺との再会を喜ぶように俺に抱きついてくる。


「ぁあ……」


懐かしい香り。家族の香りだ。

きつい畑仕事で日に真っ黒に焼け皺の目立つ顔、岩のようにごつごつとした硬い親父の手。

いつも俺達を厳しくそして優しく見守ってくれた優しく温かいお袋の眼差し。

親父にそっくりの真面目で実直な性格をしていた兄貴の涼しい面差し。

末っ子の長女で甘え上手な妹の笑顔。

全部あの日のままだ。俺が死ぬ前、最後の里帰りしたあの日の家族のまま…


「公輔。お前小っちゃくなったな」


聞きなれた、しかし久しぶりに聞く兄の声。

その兄が大きく温かい手で俺の頭を撫でた。


「生まれ変わったから仕方ないよ。兄貴は相変わらず仏頂面だね」

「文句は親父に言え、俺の仏頂面は親父からの遺伝だ」

「ぶっ」


兄貴が相変わらずの仏頂面でそう言うと俺は噴出してしまう。


「何ぃ?俺はもっと男前だぞ!?なぁ?母さん」


文句があるのか兄の言葉に笑いながら噛み付く親父。


「はいはい、そうですね。でも可愛くなって!コレならいっぱい可愛いドレス用意しなきゃ!」

「勘弁してぇ!!」


親父の問いかけに、お袋はそんなことどうでも良いと言う風に自分の手と手を重ねつつ、嬉々とした声色で俺の両頬を温かい手で包んだ。

そんなお袋の言葉に俺は前世のトラウマが呼び起こされ思わず叫んでしまう。


「あ~~、公兄ちゃんだけズル~イ!あたしももっと可愛く生まれたかった!」

「お前はもう十分可愛いだろうが」

「もっと可愛くなりたいの!コレが女心ってものよ!全く公兄ちゃんはわかってないなぁ」

「へぃへぃ」


頬を膨らませながら文句を言う妹の頭を撫でつつ俺は苦笑した。

それと同時に前世の俺よりも15センチ以上身長が低かった妹と今の俺の目線がほぼ同じで、色んな意味で複雑な気分になった。


「どうして皆ここに…?夢 じゃないんだよな?やっぱりこれは夢なのか?」

「何寝惚けてんだ。俺達はちゃんとここにいるじゃないか」

「そ、そうだよな。会えてよかった。でも前世の姿のままだから、もしかして転生じゃなくてトリップしてきたのか?でも皆同時でしかも歳もとってるようには見えないし、という事は……ああ!!もうどうでも良いや」


上手く考えがまとまらない。

嬉しさのあまりであろうか?

それとも魔力の使いすぎで頭の働きが低下しているのだろうか?

端から見ればおかしいと気付くはずなのに…

それでも俺はただただ嬉しかった。

もう二度と会えないと思っていた家族に再会できたことで、先程の冷静さは何処かに行ってしまったらしい。


「だけど………夢でも現実でもあえてよかった…」

「何言ってるんだ。これからもずっと一緒だぞ」

「そうよ。公輔。ずっと一緒にいましょ」

「………うん。そうだな。俺と親父お袋兄貴に綾、それに○○もずっと一緒……あれ?○○?あれ?あいつの名前……いつも俺と一緒だった俺の……俺のなんだっけ……」


俺は公星の名前や公星が俺の使い魔と言う事を思い出せなかった。

思い出すどころかその存在自体を忘れかけていたのだと思う。

それほどまで前世の家族と会った事が嬉しかったのだ。

後から考えてみれば、それこそがこの結界の最大の試練だったのかもしれない。


「公兄ちゃんどうしたの?」

「へ?いや、なんでもない」

「さぁ帰るぞ」

「え?何処に?」

「何処って家に決まってるでしょ?何を言ってるのよ、どうしちゃったの?」

「でもここは地球じゃ」

「何言ってんだ。地球に決まってるだろうが」

「え?え?」


おかしい。コレはおかしい。

俺が今まで過ごしてきた世界はどう見ても地球じゃない。

なのに前世の家族達はここが地球だと言い張っている。


「早く行くぞ。置いていっちまうぞ」


親父がそう言うと踵を返し森の奥へと歩いていこうとする。

お袋や兄貴、綾もそれに続くように踵を返した。


「え!?行くから待って!!」


親父達に置いていかれない様に急いで追いかけようとした瞬間、俺はとあるものを見つけた。


「あれ?コレは……」


文字だ。地面に文字があった。

それもどんどんとまだ書きかけの現代アルゲア語の文字。

そして今現在もその文字は書かれ続けている。

そう、まるで透明人間が書いているように。


「行くな……戻れ……駄目…これは…ま…や…か…し?」


普通に見たらホラーだろう。

だが、俺はその文字の筆跡に見覚えがあった。

薄れ行く記憶の中に残っている筆跡。

一生懸命体を使い綴っていた奴の姿。


「公輔~!本当に置いて行くぞ!!」


兄貴の声が聞こえる。

それと同時にこの文字を書いているであろう奴の顔が朧気にだが浮かんできた。

あれは………動物。

そうだ、小動物だ。

俺が助けて俺と一緒に育ってきた食いしん坊で……おかしな生物…


公星


「公星!!!」


思い出した!ピケットの公星。俺の使い魔で俺の相棒の公星だ!!


俺は慌てて家族に公星がいる事を伝える。


「親父達待ってくれ!!公星も一緒にっ!!」


だがそう言った瞬間、先程森の奥に歩いていった筈の親父が俺の首を絞めていた。

この一瞬のうちに何時ここまで戻ってきたのだと思ったが、それよりも親父の顔は憎悪に染まりいつも見ていた親父の顔ではないことに驚いた。


「お前は俺達よりもあんなものを選ぶんだな!!」

「う゛……ぐる゛じぃ…おや…じ…」


俺は暴れようと体に力を入れようとするがそれが出来ない。

何故なら俺の体をお袋や兄貴がホールドしていたからだ。

2人の顔もまた見たことも無いような酷く憎悪に染まっている。


「あ゛……あ゛…や……」


苦しくもがこうとすれどそれも出来ず、薄れ行く意識の中で妹に助けを求めるが綾の顔は能面のように無表情で止めにはいろうとはしてくれなかった。


なんで……なんで……なんでだよ……ああ…駄目だ………死ぬ………



薄れ行く意識の中で俺は自分の死を悟った。

それと同時に今世の仲間達の顔と、そこはかとない怒りも湧き出てきた。


ああ。絶対に俺のこんな姿を見たらルピシーが指を差して笑うんだろうな……

ゴンドリアはなんて言うのだろう……きっとあんた何やってんの?もっとシャキッとしなさいとかかな………

シエル悪い…商会はお前に任せるよ……

ああ……死ぬ前にあのおっさんを一回で良いからボコボコにしたかったな……

すまん。公星、俺死ぬわ……


もう駄目だと諦めかけたその時、俺はある事を思い出した。

そう。俺が死ねば死ぬ奴がいると言う事に。


ん?待てよ……俺が死んだら公星は………そうだ……公星と俺は魂で繋がっている……だから公星も死ぬ……………

公星が死ぬ?なんだそれ……俺と道連れかよ………ふざけんな!!!

そんなの……………あんまりだ!!!


「生きたい!!俺の命は俺だけの命じゃないんだ!!俺はまだこの世界で生きていたい!!!だから皆ごめん。俺は行くよ」


俺は自分の中に残されたなけなしの魔力を全力で解放させた。

自分の存在自体が消えてしまうかもしれないが、あの時そうしなければいけないと何故かそう思ったんだ。


全力で魔力を解放した俺の周りは暴風域のような風が舞い起こり、それと同時に眩い光が沸き起こる。


「ぎゃぁぁあああああああ!!!」


前世の家族達が苦しみの声を上げたが、俺はそれでも魔力の解放を止めようとは思えなかった。

前世の家族達は俺の体から手を離すと地面にのた打ち回った。

光と風が前世の家族達に襲いかかり、彼等の体は見る見るうちに薄くなり消えていった。

まるで空間に吸収されるように。


「父さん、母さん、兄さん、綾……幻でもあえて嬉しかったよ。親不孝な息子でごめんなさい」


光と風がだんだんと弱くなってくるのを感じる。

それと同時に俺の意識は闇に消えていった。

まるで深海の闇に沈んでいくように。

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