第十六話 探索の間
探索の途中に留学生が学園入時に書く誓約書のことについて気になっていたことをヤンに聞いてみることにした。
「ヤン、入学のときの誓約書にはどんなことが書いてあったんだ」
「ああ、一言で言うなら面倒事を起こしたら即退学になるぞってとこだな」
「簡潔に言いすぎだと思うよ、うん」
マジで簡潔すぎだ。もっと内容をくださいな。
「まぁ、あれだ。留学生の殆どは自国では貴族だからな。かなり甘やかされている奴も多いんだよ。聖帝国と違って爵位を持っている貴族の子供は生まれたときから貴族だからな。甘やかされて傲慢ちきな奴が多いんだよ。まぁそんな奴ばかりじゃなくてちゃんと良い奴もいるんだけどな」
ああ、成る程。
聖帝国では一代貴族の子供は貴族ではなく平民だし、世襲貴族の子供も他の兄弟が家督を継ぐか、独り立ちするときに一代爵位を贈られて初めて貴族と認められるから、学生時代は当然貴族の称号を持った奴は少ない。
それに学園では学生は貴族だろうが平民だろうが関係ないからな。
「あー。前に他国の王族が学園に息子を特別扱いしろと怒鳴り込んで、その息子もそれが当たり前だと勘違いしてたから即退学になったって話聞いたことあるよ」
「馬鹿ねぇ。そんな特別扱いして欲しかったら自国の学校に通えば良いのに」
「それでもサンティアス学園を卒業できれば他国では死ぬまで生活できるような待遇の仕事ができるしね、うん」
「そうだ、だから留学生は必死になるんだな。」
あれ?そう言ってるヤン自体そんな必死に感じないんだけど。
「でもヤンは必死に見えないぜ」
「そうだね」
「私の場合自国に帰れば働かなくても生活できるからな」
「うわぁ、感じわるぅ」
ヤンは苦笑しながらさらに言う。
「留学生は大体そんな感じのが多いぞ、私はただ単純に社会勉強と聖帝国の技術を少しでも吸収して自国に還元したいだけだがな」
「その考え方は立派だよね」
「両親からは気楽に送り出されたがな、笑いながら楽しんで来いと言われた」
「良いご両親だね、うん」
でも6歳の息子を他国に送り出すのには軽すぎだろ。
「あとは迷宮についてだな。あれはもし迷宮内で命を落としても聖帝国ないし学園に責任を問わないと誓う内容だった。」
「前に噂では聞いてたけどやっぱりか」
「でも普通初等部の時から迷宮に潜ろうとするか?俺なら絶対しないぞ!」
とルピシーが鼻息荒く言うが、俺はお前みたいなのが一番潜ると思うぞ。
「あらぁ、あたしはルピシーは潜るタイプだと思うわよぉ」
「だな、俺もそう思う」
「聖育院の先生たちから散々脅されたんだよ!自分の力も知らない状態で迷宮に潜るとすぐに犬死にするぞってな!!」
「ルピシーみたいな子には効果的かもね、うん」
「だね。なんとなく分かるよ」
「さもありなん。しかし良い先生だな。ちゃんとお前の性格をわかって言ってるのがわかる」
「そうだな特に『犬』のあたりが」
「そうね『犬』あたりがね」
「うるせーやい!!」
一笑いした後ヤンは真剣な顔をしてまた話し始める。
「留学生は自国では裕福な家庭が多いが、聖帝国は物価が高いからな。しかも留学生は毎年授業料が掛かるんだ。聖帝国籍だとほぼ掛からんが。だから小遣いが極端に少なかったりする。そうゆう奴が小遣い欲しさに潜るんだよ」
「で、毎年初等部学生から死者が出るわけだね、うん」
「世知辛いわね」
小遣い欲しさに潜るのか…確かに育ち盛りだから欲しいものがいっぱいあるだろうが…
「確かに聖帝国の通貨相場は周辺国の何倍もあるからね」
「ああ、その証拠にチャンドランディアの10000R、これは平民6人家族が1ヶ月余裕を持って生活できる金なんだが、聖帝国で両替すると1Zだ」
やっす!!!1Zって日本で言うと100円くらいだぞ!!そりゃ潜りたくなるわ…
「なんだか物価とかそんな問題じゃないような気がしてきた…」
「あたしたちってどれだけ恵まれてるかわかったわ…」
「そんなんじゃ飯も食えないな…」
「じゃあ、ヤンの家はかなり裕福な家だね、うん」
「ああ、そうだなチャンドランディアの中でも裕福な家に入る」
やっぱりどこの世界でも留学生って大変なんだな、前世の大学で留学生がいたが必死でバイトしながら勉強してたしな。
「じゃあヤンは迷宮に潜るつもりは無いんだ」
「潜ってみたいが今は潜らないな。鍛錬を積んで仲間を見つけて挑むつもりだ」
「お!じゃあ俺たちが成人したら一緒に潜ろうぜ!セボリーも潜るつもりらしいしな!」
「ああ、ではそうしよう」
「シエルは迷宮には挑むのか?」
「僕も潜ってみたいな。せっかく学園都市に来たのだからね」
「あたしはパス。か弱いから無理だわ」
「お前のどこがか弱いんだ!!前俺にドロップキックを決めたじゃねーか!!」
「あら?セボリーの夢じゃないの?おかしな事言ってると寝かしつけるわよ。実力で」
「はいやっぱりぼくのゆめでしたごめんなさい」
「ぼくも潜らない、うん」
「フェディは分かるわ。見た目からして完全に理系のデスクワーク系だもんな!」
「うん」
頷くフェディだが、後々コイツが唯のデスクワーク型の人間じゃない事が判明することになる。
あ!それとゴンドリアがか弱いなんて絶対に嘘だから!絶対俺より強いから!
「そうだ、確か正式には迷宮に潜れないけど未成年でも入れる練習のような迷宮はあるんだよ」
「マジか!!早く教えてくれ!!」
「えーとね。普通の迷宮はまだ最下層に届いてないし最下層が何階なのかも分かってないけど、何千年も前にクリアされた迷宮があって、そこはモンスターもかなり弱いらしいんだ。地下100階まであるらしいんだけど未成年は地下50階まで潜ることを許されているらしい。」
「マジか!!やった!!」
「ただし!実技と筆記成績の優秀者だけが先生たちの推薦を得て潜れるらしいんだけどね」
ああ、あれか副院長がいっていた3つ目の方法か、やっぱり狙うのならこれだな。
「そういえば皆はどこの領地出身なんだ?俺たちはアルゲア教領のサンティアスだが」
「僕はエルトウェリオン公爵領のエルドラドだよ」
「へー、シエルはこの大陸で一番古い家の領地出か」
「エルトウェリオンは聖帝国建国以前は今の聖帝国の一部地域の土地を支配していた王家だった家だからね、うん」
「フェディは?」
「僕は聖帝直轄地の聖都シルヴィエンノープルだよ、うん」
「聖帝国の首都か凄そうだな」
「そう、確かに色々凄い所だけど学園も驚くことが沢山だよ、うん」
「しっかし、この授業のシステム結構きついよな。俺説明聞いてたけど何がなんだか分から無かったぞ!!」
え?ルピシーお前本当に説明聞いてたの?俺が見てた時は立ちながら船こいてたんですけど?
「そのための説明本なんじゃないの?うん」
「お前そんなことじゃ成人前に迷宮に潜れないぞ」
「あー…億劫だ」
「まぁ、初等部の間は皆同じ事を学んでいくのだから分かる人についていったら良いんじゃないかな?」
「そうだな。頼むぞ、見るからに成績優秀っぽいシエルとヤン!!」
「いや、一応自主的に勉強しような。でも聖育院で基礎は教えられてるんだから大丈夫だとは思うぞ」
「そうねぇ。あたしも昨日の晩餐会の時に姉さんたちに言われたわよ。聖育院の基礎が分かっていれば3年生までは余裕だって」
「俺基礎もあやふやなんだけど…」
「「「「「がんばってください」」」」」
「見捨てないでくれぇぇぇぇえええええ!!!」
ルピシーの頭が残念なことは分かっていたが、聖育院の基礎ってあれだぞ。基本的な文字と算数だぞ。
そういえば院内にいたときもルピシーや他の勉強余り出来ない子達が補修みたいなことしてたな…
さっきあの先生が手の余っている教員や先輩に聞けと言っていたから、ルピシーにはちゃんと予習と補修を受けるように言っておこう。
探検をしてお昼を食べに戻ろうとしたが戻るのが億劫だった。
見回してみると結構な数の店や屋台があり、その中の屋台で揚げ芋餅のようなものがあって値段も手ごろだったので皆で買い食いをすることにした。
買ったものは丸い形のものが串に刺さっていて、齧ると肉が出てきた。
熱々もちもちの生地にスパイスが効いた肉が何とも合っていて皆で美味しく頬張った。
「ここの料理って本当に美味しいものばかりね」
「そうだな!安くてうまいものばかりで最高だ!!量も多いしな!」
「やっぱり学生街でもあるし迷宮冒険者たちがいるから量が多くないとブーイングが出るんだろうな」
「味も雑多なんだけど凝ったものが多いしね」
「美味しいことは良いことだね、うん」
「ああ。やはり留学してきて正解だな。異文化に触れることは楽しいことだ」
前世では勉強はつらかったがこの世界では出来るだけがんばろう、だって毎日が楽しいからな。