第百四十八話 謎の果物(2017.12.30修正)
俺が目を覚ますとテントの中には俺の他には公星しかおらず、ロイズさんの姿は見当たらなかった。
公星は俺の目の前……俺の顔の目の前で俺に尻を向けて眠っている。
おい。物凄いアングルなんですが……
鼾をかきながら寝ている公星に白い布をかぶせてから、俺はゆっくりと起き上がると寝ぼけた頭を覚ますために頭を振った。
あれ?体が軽い。さっきまでの気持ち悪さや頭痛もない?それに息もしやすいぞ?
ロイズさんが結界でも張ったのかな?
てかロイズさんは一体何処に行ったのだろう?
もしかしてこのまま俺達を置いてけぼりにしたという事はないだろうな?
いや、ありえるぞ。
高山病でふらふらな俺とただ寝ているだけの公星。
普通に考えなくてもお荷物だ。
こんな所で見捨てられたら俺達絶体絶命じゃん!
おい!ロイゼルハイド!出て来いやぁああ!!!
「おはようさま」
俺が胸の高さで拳を作りながらワナワナしていると、テントの幕が開きロイズさんが顔を見せてきた。
寒!テント開けると寒い!!
「どうもおはようございます。大分体調が良くなりました。もしかして何かしてくれましたか?」
「うん。まず寝る前に飲ませた白湯に薬を注入して飲ませて、セボリーが完全にキマった後にちょっと色々細工した」
「その説明だとロイズさんが思いっきり犯罪者のように聞こえるんですが。端的に言えば薬を飲ませて結界を張ったみたいな感じでしょうか?」
「うん、そう。但し結界を張ったというか、最初からこのテント自体が結界になってるんだよ」
「はぁ…………まぁ、ともかくありがとうございました」
「どういたしまして。ほい、これあげる。食べな」
そう言ってロイズさんは俺に良くわからない果物を差し出してきた。
一体何なのこれ?物凄い体に悪そうな色してるんだけど?
何この某ペーパー夫妻が着ているような色の果物?
形はでかい桃みたいだけど結構な硬さがあるぞ?
「あの………これなんですか?」
「これ?果物だよ」
「いや、それは見れば解りますが。未だかつて前世でも今世でも見たことの無い果物なんですけど?」
「毒はないから大丈夫だよ………人によったら当たる可能性があるけど………」
「おい。最後の言葉小声で言ったつもりだろうけどしっかり聞こえてるから」
「大丈夫大丈夫。本当に毒はないから。それにこれかなり貴重品なんだよ。このエルファドラ山の固有種で一切市場には出回らないし、教団のお偉いさん方も殆ど食べた事が無いって代物なんだから」
「その最後の説明が逆に不安を掻き立てるんですけど…」
「聖下の家に行けば結構出てくる果物なんだけどね。ついでにこんなのもあるよ。こっちにする?」
そういって俺に見せてきた果物は、白と鮮やかな空色の縞々ツートンカラーな林檎のような果物だった。
「……………こっちで良いです」
「味は一級品だから心配せずに食べな。それにこれ自体が魔法薬と言われるくらい物凄く体に良い果物だから」
「……………いただきます」
俺は恐る恐るだが意を決してペーパーフルーツ(仮)にかぶりついた。
「っ!!!」
何これ!!超美味い!!
食感は少し硬い桃そのもの!噛むたびに果汁があふれ出てくる!
物凄く甘くてほのかな酸味!少しの青臭さがあるがその青臭さが良いアクセントとしてより一層この果物の美味さを深めているぞ!!
「美味い!」
「ね。言ったでしょ」
「モッキューーーー!!!」
目を輝かせながら食っている俺にいきなり公星が飛びついてくる。
「おい!止せ!これは俺のだ!!つか何時起きてきたんだよ!!」
「モギュ!モギュギュ~~!!」
コイツの食い物にかける情熱は衰える事を知らないな!
いつもなら分けてやるがこれはやらん!!これは俺のだ!!
それにロイズさんのことだから絶対にコイツの分も用意してくれているはずだ!!
「ほらほら。そんな争いなさんな。公星君のはこっちにあるから」
「モッキュ~~♪」
そう言ってロイズさんは公星に茄子のような形をした何ともいえない蛍光緑色をした果物を差し出した。
ほらやっぱり。
流石は出来る男ロイズさん。
うん。やっぱり俺はこの果物で正解だったわ。
あの縞々ツートンカラーや、昔流行したスライムのようなサイケデリックな緑色の果物よりまだこちらのほうが幾分かマシだ。
味は良いんだろうけどぶっちゃけあれは無理やわ。
もし食わすんだったら皮をむいてカットしてから出してくださいな。
「モッキュ♪モキュっキュ♪(はぐはぐ)」
凄い勢いで食べる公星を眺めながら俺も渡された果物の攻略に挑んだ。
「見た目と色はやばいけど本当に美味しいですね、これ」
確かにこれは食べる魔法薬って言われるのわかるわ。
食っていくうちに体力が回復していくのが感じられる。
「でしょ。これ採るの結構大変なんだよねぇ。メッチャ高い木に寄生して生える植物の果物だから。しかも木の上のほうにしか実らないから採るのも一苦労なんだよ。まぁ僕は浮いて採るけど」
「ブホォ!」
「汚いなぁ」
「ゴホ!寄生型の果物って初めて聞くんですけど!!?」
「そうなんだ。でも美味しいから良いんじゃないの」
「もしかしてこれ食べたら人体に寄生するとかないですよね!!?」
「え?わかんない」
「おいぃぃぃいいいい!!そんなわけ解らん果物食わすんじゃねーよ!!」
「僕は何回も食べた事あるけど全く異常ないから大丈夫じゃない?」
「その疑問系が怖いんですけど!!?」
「この自然の力が溢れる聖地に生える木の養分を吸ってるんだよ?その時点で美味しいの確定じゃん」
「いや!だから美味しさとかそう言うのじゃなくて!!」
「もう良いじゃん。納得しなよ。ぶっちゃけ面倒くさい」
「出来るかぃ!!もう何なの!?ここ本当に!!聖地って言うか魔境じゃねーか!!!」
「諦めな。この世界の果物はそんなのもあるんですよ~ってさ。それにここはあの聖下が治めてた土地だよ?その時点でなんか納得できない?」
「……………なんでだろう?何故か納得できてしまった自分がいる」
「はい終了」
ちくせう。あの聖下が治めてた土地ってだけでなんとなくしっくりきてしまったじゃねーか。
色々規格外の人だとは思うが領地まで規格外とは……恐るべし……
俺が謎の果物を食べ終えると、先程まで少し残っていた気持ち悪さが抜けて気分爽快に成った。
だが体はすっきりだがこの果物に関してはもやもやがいっぱいだ。
「モキュキュ~……」
「え?もっとほしいの?でももう無いよ」
「モキュ………モキュ!」
「うん、だから本当に無いから。それにもう一個食べたんだから十分でしょ?食べすぎは良くないよ?」
「…………モッキュゥゥゥ」
公星も謎の果物を食べつくし、まだまだ食べたりないのかロイズさんに甘えながら強請っている。
だが流石はロイズさん。無い物は無いとはっきり言うわ。
公星もそんなロイズさんに強請るのを諦めたのか再び丸まって寝始めた。
この物言い、俺も見習わなくては………
「くどいようですが、精霊水がある所まであとどのくらいでしょうか?」
「そうだなぁ……まぁもうちょっとだよ」
「………なんか全くちょっとって気がしないです」
「疑り深いなぁ」
「いえね。元々俺の前世は田舎者なんで、なんとなくなんですが………近所のおっちゃんおばちゃんが言うちょっとって全然ちょっとじゃないんですよ…」
そう。前世の田舎で道を聞くと『この道を真っ直ぐ行くとすぐ着くよ』とか言って置きながら車で20分以上かかるとかザラだった。
ロイズさんの言い方にはそれに被る雰囲気があったのだ。
「ははは」
「いや、笑い事じゃなくてマジでそうなんですか?」
「どうなんだろうねぇ」
朗々と笑うロイズさんの顔を憎らしいと思ったのはこれで何回目だろうか。
俺は本日何回目かもわからない溜息をつくのであった。