第百四十五話 オルフェデルタ(2017.12.30修正)
正直驚いた。
俺が見た夢の内容と被る部分が多かったからだ。
月夜に踊る少女に、萌える花草木。
象牙色の杖、見る角度によって色が変わる服。
涙から生まれ出た泉。
俺が見た夢。
その夢はまるで過去視をしたかのように昔の御伽噺とそっくりだった。
その事が少し恐ろしく、温まったはずの体から少し寒気を感じる。
「夢見とはそういうものだよ」
下を向いて深く考え事をしていた俺にロイズさんはそう言った。
顔を上げると話をして喉が渇いたのか白湯を飲む姿が見える。
「夢見はまるで自分がその世界に行ったかのような感覚で夢を見ることが出来る。それは過去でなくても未来でもね。但し自分では内容を選べない。それを決めるのは精霊だから。しかも精霊もおいそれとは星の記憶や未来を見せてはくれない。だが昔の王達はそれに縋った。それだけの力があったから」
出るか当たるか解らないものに縋る。
まるでギャンブルだ。
「だけど今現在でも愛し子はそうそう現れる者じゃない。歴代の王は必死で愛し子を探し回った時期があった。その時に国が利用しようとしたのがアルゲア教だ。自分は愛し子だと騙り、国から金品を騙し取ろうとした事例が多発したからね。その者達は即刻処刑されたけど、そういった者は後を絶たなかった。当事愛し子の殆どは教団に保護されていて、国はその子達を欲しがったんだ。だけど教団も簡単には首を縦に振らない。何故なら愛し子を粗末に扱うと精霊達から恐ろしいしっぺ返しがきてしまう。国もそれを理解していた。だから今まで自分達の土地を持たず流浪の民と言われてきた教団に土地を分け与えたんだ。それが今のアルグムンの場所だよ。国とアルゲア教団が関係を深めていったのは、歴代の王が夢見や星見を見つけ出すためだったんだ」
「え!?」
俺はそこで驚いた。
何故なら教団のほうが古い歴史を持っていると思っていたからだ。
「教団のほうが歴史が古くないんですか?」
「これは捉え方の問題だね。実質的には教団のほうが古い。だけどそれは教団と言うか信仰者の集まりでしかなかったんだ。アルグムンの係わりのあった者達の子孫達や精霊の奇跡に縋った者達が集まった唯の集団だったんだよ」
「つまり一つの組織として形を成したのはエルトウェリオン王国時代だったと…」
「そういうことだね」
「でも待ってください。夢見や星見の力を頼らなくてもこの国の一帯は精霊の力で食うに困らなかったはずでは?なのにどうしてそんなに必死に探していたんですか?」
「良い質問だね。実はエルトウェリオン王国時代は暫く精霊が人から離れた時期だったんだ」
「………ん?人から離れる?」
「そう。セボリーは他の人から頼まれたりせがまれたりしたら行動に移すタイプかい?」
「まぁ。それなりには」
「じゃあ前は仲が良かったけど、他の奴等と争ってばっかりでセボリーの事に関心を持っていない人ばっかりだったら?」
「………人にもよりますけど放置してますね」
「精霊もそう。自分達を必要としてくれるから動くんだ。その証拠にエルトウェリオン王国の豊かさは争いに勝ち領土を広げるに連れて落ちていった。それに反して一貫して精霊を信仰した教団達に与えられた土地は栄えていったんだ」
でもそれじゃあ下手をすると教団は国から領地を没収されたのでは……
国が美味しいところを浚っていくなんて当たり前の事だ。
それも一応自分の国の土地なのだから。
「良く領地を没収されませんでしたね」
「そこで聖下だ」
「!」
「聖下は当事からエルトウェリオン王国でかなりの地位とそれに付随した発言権をお持ちだったと言われている。しかも権力もあり物理的な力もお持ちだった。そうなると王国は下手な事は出来ない」
なるほどな。
つまり聖職者だった聖下が教団を守っていたというわけか。
「実はあの御伽噺、繋がりがありそうな昔話があるんだけど…セボリーってエルドラドに行って花祭りに参加した事あるんだよね?」
「はい。シエルに連れて行ってもらいました」
「じゃあ劇は見た?」
「はい」
「ホーエンハイムに関係する劇も見たかな?」
「シルヴィア姫とハルティスフリードの話でしょうか?」
「その後の話は?」
「後?………ああ。もしかして……たしか…………フレーデルバルドの話ですか?」
そう言うとロイズさんが頷く。
確かあの話って身分違いの恋をした男が、恋人を殺されて傷心で放浪旅をする話だったような…
それで放浪先で運命の女と出会う話だったよな。
最後がウィルさんの家の始祖の話だったから結構強く印象に残っている。
ん~~~と…ああ!そうだ!確か森の中の泉で運命の女性と出会うんだ!!
え………?森の中の泉……?
あれ?そう言えばこの二人の子供って……
「気付いた?」
「っ!!!まさか……」
「このエルファドラ山がある場所はオルフェデルタ山脈と言う」
「それは知って…………オルフェデルタ……オルフェデルタ?」
そう言えば俺もさっきオルフェデルタって言っていた。
ん?オルフェデルタってそれ以外でも何処かで聞いたことがあるぞ?
どこでだ?
!!!
記憶を辿ると直ぐに答えが出た。
そうだ。ウィルさんが昔読んでベルファゴル大公に没収された本の内容。
『世界の理を逸脱した偉大なる王。光と闇に抱かれた精霊の愛し子。その姿漆黒の髪に紫闇の瞳。纏いし力は精霊の恩寵なり。フォン・オーエンハルト・デ・ホーエンハイムから出でたオルフェデルタ・フェスモデウス』
オルフェデルタ!
「ここいら一帯はエルトウェリオン王国の時代オルフェデルタと言う領地だったんだ。フレーデルバルドのご子息が成人した時、当時の王にこの土地を強請った。当時この土地は敵国から大きく離れていたし大きな山脈が連なるだけでその他は何も利用価値が無かったと言われていた。それにまだ精霊水の存在も知られていなかったから当時の王は首を傾げつつもあっさりと下賜したらしい。そしてエルトウェリオン王国の中期の初め頃からこの土地は治外法権…いや、半ば独立国のような存在になっていた。」
確かエルトウェリオン王国が最後を迎える時、王国最後の王太子が治外法権の領地にいる聖下に縋って外敵を滅ぼしたんだった。
という事はここが聖下の領地だったのか!
それにフレーデルバルドが放浪して辿り着いた森の泉と言うのはこの山の精霊水が湧き出る泉なのか。
そしてそこでフレーデルバルドは伴侶のアルティアと出合った。
ではもしその御伽噺が本当の話だったとしたらその伴侶は誰だ?
例の少女か?それとも泉から生まれ出た赤ん坊か?
アルティアの経歴などは今でも一切わかっていないと聞いた。
もしアルティアが泉から生まれた最高位精霊なら子供を成す事は出来る。
そして子供を生んだアルティアは力を回復させるために生まれた土地で眠りに就いた。
その息子であろう聖下は当事の王に母親が眠る山一帯を領地に望んだと言うわけだろうか?
新たに繋がった情報は、蜘蛛の糸のように想像を分岐させ、俺の頭をこんがらせた。