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Public Star~目指せ若隠居への道~  作者: 黛紫水
第五章 進化への種の章
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第百四十一話 パワースポットと聖地(2017.12.29修正)

綺麗だ。

最初頭に浮かんだ言葉がこれだった。

大小色彩様々な精霊が空や俺達の周りに飛び回っている。

しかもいつも俺が見ていた精霊ではなく、どれも圧倒的な存在感を持つ精霊だ。

その光景は幻想的であり、そして神秘的でもあった。


「どうだい?聖地に来た感想は?」


ロイズさんはいつもと変わらない口調でそう言うと腕を胸の高さに伸ばす。

そしてその腕の上に50センチほどの猛禽類に見える鳥の姿をした精霊がとまった。


「……たくさんの精霊が見えます。声もクリアに聞こえるし」

「聖地だからね。それだけ力が強い精霊がたくさん居るんだよ。多くの精霊が生まれ集まる場所だから」


そう言いながらもう片方の手で鳥の精霊の頭を撫でた。

鳥の精霊も嫌がることはなくロイズさんに甘えている。


「精霊が生まれる場所………ですか?精霊は自然の力が集まるところで生まれるんですよね?確かにここは自然がたくさんありますが」

「自然があっても精霊が生まれない事だってあるよ。それとこの場所を正確に言うなら力の強い中位精霊や高位精霊が生まれやすい聖地だね」

「疑問なんですけど低位精霊と中位高位精霊の違いって何なんですか?光やもやもやのようなものが低位精霊でそれなりに形があるのが中位から上の精霊と思ってたんですけど」


俺が今まで見てきた精霊達の中でも人の姿をとっている精霊を見たことがある。

俺はそう言った個体を中位以上の精霊と思っていた。


「その認識は全くの間違いだよ。少し話が長くなりそうだから少し座ろうか。丁度良い岩があるからあそこに座ろう」


俺はロイズさんに促され所々苔が生した岩に腰をかけた。


「確かに低位精霊は光や綿のようなものが多い。でもね、必ずしも姿形で精霊の格が変わるってわけではないんだ。光や綿の姿だけの精霊でも高位の精霊はいる。と言うか好きでそういう姿をとっている精霊もいるって言ったほうが良いね。逆に低位でもちゃんとした形をとっているものもいるんだよ。まぁ極少数だけどね」

「………成る程。今この場所を見て初めて認識しましたけど……俺が今まで見てきた精霊は低位精霊ばっかりだと思います。司教座に集まっていた精霊達もいつも俺が見る精霊よりも存在感がありました。でもこの場所にいる精霊達の存在感は別格です」


動物や人の形、そして中には見たことも無い異形の形をしていたり道具の形をした精霊達は、今まで俺が見てきた精霊達よりも存在感が大きい。

この存在感と同じかそれより上といえるものは精霊道具インテリジェンスウェポンのヴァールカッサやボロディン、ロイズさんの使い魔の動物から精霊になった界座と桜座、そして聖下の従魔だけだ。


「でもセボリーは多分知らず知らずのうちに高位精霊を見たことがあると思うけどね。彼等は良く愛しい子を見るために飛び回っているから」

「そうなんですか?でもこれだけの存在感があれば気付くと思うんですが」

「低位精霊は自分の力を大きくすることは出来ないけど、高位精霊は力や存在感を薄める事だって出来るんだよ。御伽噺で精霊人エルフが出てくるよね?彼等は人と精霊との間に生まれた存在と言われている。その精霊は高位、いや最高位に位置している精霊が人を愛し実体化したんだ。聖下が言うには今現在でそんな力を持っている精霊は本当に少ないんだってよ。まだ存在はしているらしいけどね、つまり格が高くなるほど僕等人間に干渉できるってわけ」


精霊人エルフ。前にエルドラドで聞いた話だ。

例外を除き、彼等の血を受け継いだ者達だけがその体に魔力を宿す事が出来ると………


「じゃあ低位から高位精霊と最高位の精霊って何が違うんですか?もしかして実体化できるか出来ないかの違いでしょうか?」

「半分正解。だけど半分不正解。低位中位の精霊は実体化をする事は出来ない、でも高位の精霊ならできる」

「じゃあ界座は」

「界座は精霊の中では高位に位置する。だけど最高位ではない。それに界座が頻繁に実体化できるのは元々動物でちゃんとした肉体を持っていたからなのと、僕と魂の使い魔契約を交わしているからだ。普通の高位精霊ならあんな頻繁に実体化することは出来ない。自分の力を削ぐからね。ついでに言うと精霊道具インテリジェンスウェポンも高位精霊に位置づけされているよ。彼らも元々依り代があるからいつでも実体化できる」


俺が知る中で一番格が高いと思っていた精霊道具インテリジェンスウェポンが高位ならその上の最高位は一体どんな存在なのだろう。

でもまずは低位を聞いておこう。


「じゃあ低位は?」

「中位高位精霊が寿命を迎えた時に出来た力の残照が集まって生まれるのが低位精霊といわれている。中位以上の精霊が生まれた場所から離れ寿命を迎えた場所に力が集まって生まれるんだ。だからいつもセボリーが見ているような低位の精霊は聖地以外で生まれ出でることが多い。何故なら他の精霊の残照から出来、尚且つ聖地ではないために自然の力が溜めにくく、力を溜める前に具現化してしまうから。極稀に長い年月をかけて力を蓄え中位以上の精霊として生まれてくる個体もいるけど殆どが低位精霊だ」

「成る程、じゃあ一体最高位はどんな精霊なんですか?」

「どんなのだと思う?」


質問に質問をかぶせないで欲しいのだが…

でもさっき精霊人エルフの話が出た時点でなんとなく想像は付く。


「子孫を残せる…つまり人との生殖能力が可能なのが最高位とか?いや、そんな訳ないか」

「当たり。但し大まかに言ってだけどね」

「マジか」

「最高位の精霊は自分の子孫を残せる。それは人とじゃなくてもそう。自身の力を削り新たな精霊を生み出すんだ。でも自身の力を削るからその精霊の力は弱くなる。実はまだ最高位の精霊の条件、いや……他の精霊と明確な差があるんだけど…まぁ、今それは置いておくとしてセボリーは疑問に思ったこと無い?この国には自然がたくさんある。でも他の国にも自然がある所はあるよね?」


明確な差………か。

しかし急に話が飛んだぞ?ロイズさん、お願いだから順を追って話してくださいよ。

俺の脳みそが追いつかない。

だが考えてみればそうだ。自然が豊かな国はこの国以外でもある。

確かに精霊がいることによって豊かになる豊かさの連鎖が無くとも自然が多い国はあるのだ。

でもその自然が多い場所でも精霊が生まれにくい所だってある。何でだ?


「精霊の多くは海や湖の水や火山の火、風の流れ大地の生命力などの自然の力を溜め受け生まれ出でる。自然の力が多く溜まり噴出す場所の事をパワースポットと言う。パワースポットは格の高い精霊が生まれやすく、僕等のような愛し子の力も底上げしてくれる特別な場所だ。そしてそこは聖地と呼ばれることが多い。でも実はパワースポットと聖地の違いには明確な定義があります。では問題です。さて問題です。パワースポットはどうやって出来るでしょうか?」


普通に考えるならその最高位の精霊が新たな精霊を生み出して豊かさの連鎖を起こし、たくさんの精霊が集まることでパワースポットが出来ると思うんだが……

ええい。いいや、そのまま言ってしまえ。


「最高位の多くの精霊が精霊を生み出し、その精霊達が集うことで出来る…でしょうか」

「不正解。だけど考え方は間違っていない。そして限りなく正解に近い」


ん?不正解なのに考え方は間違っていない?

一体どういうことだ?


「自然の力って言うなれば僕等が住んでいるこの星の力なんだ。最高位の精霊はその星の力の結晶体、この星の一部と考えて良い」

「え!?待ってください!それってこの星自体が精霊って意味に聞こえるんですけど」

「だから一部だよ。この星そのものではない。そうだな~。もうはっきり言っちゃうと今僕達は最高位の精霊の上に立っているんだよ」

「………へ?」

「最高位の精霊はパワースポットそのもの。つまりこのエルファドラ山自体が最高位の精霊ってわけ」

「……………え?どういう事?」

「子孫を残そうとする最高位の精霊はその身に溜めた自然の力を効率的に外へと放出するために星の一部に宿って一体化する。そうする事によってパワースポットが出来て精霊が生まれやすい環境を作っていくんだ。パワースポットは精霊が星の力、つまり自然の力を搾り出している所だからより早く格の高い精霊が生まれやすい」

「いや、それはわかったんですけど…この山自体が最高位の精霊ってのは?」


待って。本当に理解が追いつかないんだけど。


「だからここがその最高位の精霊が星の一部に宿って一体化した場所なんだよ」

「………言い方は適切じゃないかもしれませんが、子孫を残すためにメスの体に噛み付いて一体化するアンコウのオスのようなものでしょうか?」

「まぁ、そういう考え方で良いじゃない?それが生物でいう所の交尾と言うことなんだし」


エルファドラ山がアンコウのメスで最高位の精霊がアンコウのオスか。


「じゃあ精霊人エルフの場合は…」

「エルフは最高位の精霊と人との間の子供。土地や大気に宿った最高位の精霊がパワースポットを作らず実体化して人と交わり生み出された存在と言われている。だから精霊人エルフは歩く聖地とも言われていたらしい」

「パワースポットと聖地に違いは?」

「星の一部に宿っている最高位の精霊が眠っているか眠っていないかの違いだね」

「眠っている?」

「この国が精霊に愛されているのは最高位の精霊がたくさん眠っているからだと言われている。子孫を残し終えた精霊は瀕死の状態になるほど力を消耗するらしい。その力を回復させるために長い長い眠りに就くんだ。言うなれば休眠だね。中には永眠する者もいるらしいが……休眠に入った後もパワースポットは枯れる事は無くある程度は星の力を放出し続けその土地に繁栄をもたらす。その休眠状態や永眠した最高位が宿る土地の事を聖地と言うんだ」

「………確かこの国には聖地と呼ばれる場所って結構あったような。という事はこんな場所がこの国にいくつもあるんですか?」

「あるよ。この国が精霊に愛され豊かなのは、多くの最高位の精霊がパワースポットを作ったおかげだからだといえるんだ。このエルファドラ山に眠る精霊もその中の一つだ」

「…………最高位の精霊は日本で言うところの道祖神や山神様………まるで土地神様といったような存在なんですか?」

「その考えで合ってると思うよ」

「なるほど……最高位の精霊は一体どのくらいいるんでしょうね?」

「実は僕もこれ以上詳しい話は知らないんだけど、聖下が言うには余程の事が無い限り最高位の精霊はもう増える事は無いって言っていたよ。この星が出来た時に発生した力の結晶が最高位の精霊なのではないかと僕は推測している」


壮大すぎてもう良くわからない。

つまり話をまとめると、この星の誕生と共に生まれた精霊が自分の子孫を残すために星の一部と一体化し、一体化した場所で力を発散させて新たな精霊が生まれる場所を作った。それがパワースポット。

そのパワースポットから生み出された格の高い精霊がこの国に散らばり国を豊かにし、格の高い精霊が寿命を迎える事で残った力の残照が集まり低位精霊になった。

最高位の精霊が力を使い果たしその土地に眠り続けてもパワースポットは継続していき、そして新たなる精霊が生み出されさらにこの国を栄えさせる。

そして力を使い果たした最高位の精霊が眠る場所が聖地と言われている。

と言うことだろうか。


「まぁ聖地の括りは他にもあるんだけどね。例えばアルグムンがアルティアにプロポーズした場所とか、アルティアが眠っている墓とかね」

「すんません、頭がこんがらがってもう理解できません」

「ははは。ぶっちゃけ僕も良くわかってないから大丈夫だよ。大まかにここが聖地ですここがパワースポットですって覚えておけば良いんじゃない?」

「ねぇ。今までのなっがい説明はなんだったんですか…」

「まぁもし詳しく具体的に学びたいのならオルブライト司教にでも聞いてみたら?あの人なら嬉々として講義すると思うよ。あの人が嫌なら他の人紹介するけど」


ゼッテー嫌だし!

あのおっさんの得意げな顔が目に浮かぶわ!!

それにロイズさんの紹介って時点で碌な人じゃないってわかるんですけど!!?


「結構です!いりません!断固として拒否します。もしこれで大司教を紹介されたら俺の人生は破滅に向かいますから!それに俺は聖職者になりたくないので!」

「やだなぁ、セボリー。君はもう聖職者のリストにちゃんと名前が載ってるじゃないか」

「………今すぐ破棄する方法を教えていただけませんか?」

「そんな方法があるならとうの昔に僕がやってるよ」

「ですよねぇ」


ロイズさんの腕に止まっていた鳥の精霊がひと鳴きした後、羽を広げ飛び立っていった。

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