第百三十九話 エルファドラ山(2017.12.27修正)
現在俺はエルファドラ山の麓、正確に言うとオルフェデルタ山脈最高峰エルファドラ山の麓に来ている。
エルファドラ山。それはこの世界で最高峰の山でフェスモデウス聖帝国にあり、精霊が多く集まる聖なる山。
アルゲア教団にとって聖地の一つであり、修行の場でもある。
その過酷さから毎年少なくない数の聖職者が命を落とす山だ。
勿論聖地なので一般人の立ち入りは許されては居らず、太古の自然が残る秘境の地としても有名である。
その高さはゆうに一万メートルを軽く越え、重力平衡形状仕事しろと言いたいほどでかい山である。
「でけぇ…」
「今日は完全に雲が覆ってるねぇ」
あの後何とか逃げようと思ったが、ロイズさんに抱えられて拉致された。
そう!何の準備も無く拉致られたんだけど!!
登山だろ!?登山なんだから色々な準備が必要じゃん!!なのに着の身着のままだよ!!
移転する前にルピシーが気楽な笑顔で「頑張ってこいよ~」と手を振る姿を見てかなりイラついた事を覚えている。
「なんんかすっごいでかすぎて怖いんですけど…」
でかすぎて山頂が全く見えない。
学園都市でも高いところに登ると遠目にオルフェデルタ山脈とエルファドラ山が見えるが、近くで見るとまた圧巻だ。
エルファドラ山の山頂が雲に覆われていない日は年に数回しかないらしく、実を言うと俺もまだ一回も山頂を見たことが無い。
雲の上にあろうと思しき山頂を見上げるが、当然の如く厚い雲に覆われているため全く見ることが出来なかった。
「ここ麓ですよね?なんか凄い空気薄くないですか?」
「そりゃそうだよ。だって今いる場所の標高は富士山より高いもん」
「やっぱり…雪も積もってるやんけ………寒さは制服があるから我慢できるけど手と顔が寒い、凍傷になりそうなんですけど」
寒さのためか公星はここに来てから直ぐに俺のポケットへと避難している。
改めて思うが、この制服ってやっぱりチートだわ…
ある程度体温を調節してくれるから寒い日でもコートいらずだし。
「つか富士山より標高が高いのに何でここより上のほうに木が生えてるんですか?普通ある程度の高さになると木が育たないって聞いたことありますよ?」
「それがこの世界の不思議だよねぇ。精霊の力じゃない?」
「………前から思ってたけど、この世界なんでも精霊に頼りすぎじゃね?」
「良いんじゃないの?魔法の世界だし。それに突っ込むのならまずこの山の高さを突っ込んだほうが良いと思うよ。最初見た時物理的におかしくない?って思ったし」
「確かに重力平衡形状を無視してますよね…いや、もしかしたらこの世界の重力と星の固さが地球とは違うのかもしれないけど…」
皆様、重力平衡形状と言う言葉を知っているだろうか。
地球ではエベレスト以上の高さは出来ないと言われている。
何故なら山の重さに耐えかねて基礎の台地が沈んでしまうためだ。
地球などのある程度大きな天体は丸い。その丸を作っているのが重力だ。
星が形成される時、星自体が大きいほどその星にかかる重力は強く、星に重くのしかかる。
逆に星自体が小さいと星にかかる重力は弱い。
そして星自体の硬さが重力より弱いと、星は重力の力に負けて押し固められ球状になる。
なので星自体の硬さが重力より勝っている場合、綺麗な丸にはならず歪な形になってしまう。
例えるのならば、丸いおにぎりを作る時に弱く握りすぎると形が崩れて丸にならない現象と考えればよい。
その重力によって球状になる事を重力平衡形状と言う。
重力平衡形状は球体の外側にある突起物を押しつぶして球体にしようとする力がある。
なので一定の高さまで大きく伸びたとしても、星の硬さが重力よりも弱いために突起物が押し付けられ沈んでいってしまうのだ。
少し違うが簡単に例えると、にきびが出来ると潰してしまう衝動に駆られるのと同じである。
あ。このふくらみ邪魔だな、と思うと押しつぶすしてしまうのだ。
「まぁ、それは良いよ。とりあえず一緒に登ろうか」
「………へ?……もしかして登るって…この山を?」
「うん、正解」
「…………無理に決まってんだろうが!!何も用意してない裸状態でエベレスト登れって言ってるようなもんじゃねーか!!」
「ははは。やだなぁ、セボリー。ここはエベレストよりも高いんだからもっと過酷だよ」
「過酷ってわかってるんだったら言うなし!!!」
ぶつくさ言う俺にロイズさんは手袋を差し出す。
「………こんな手袋じゃ気休めにもならない気がしますが…」
「じゃあいらないんだね?」
「誰もいらないとは言ってません!ほしいです!ほすぃ!!」
あ、ヤバイ。叫びまくってたら眩暈がしてきた…
「あまりテンションあげると倒れるよ」
そうだった…ここは富士山よりも高いんだ。
という事は空気が物凄く薄く、高山病になるって事だ。
「ねぇ。セボリー?何で僕が君をここに連れてきたと思う?」
「………先程の罰としてですか?」
「不正解」
「………じゃあ何でですか?
「ここはアルゲア教団にとってどんな山かな?」
「聖地ですね」
「もう一つは?」
「………修行の山です」
「正解。もう解ったでしょ?セボリーの修行のためさ」
おい。こんな所で修行すると、悟りを開く前に冥界の門を開く事になるわい。
それにここってパンピー立ち入り禁止だろうが。勝手に登っちゃいけないんだろ?
ロイズさんは良いかもしれないけど俺はアウトだろ。
「……………あのぉ。そう言えば俺って一般人だから、ここには立ち入り禁止でしたよねぇ?」
「セボリーさぁ。君自分の称号覚えてるかな?」
称号?俺なんか称号貰ってたっけ?
あれ?なんか忘れてるような気がする。
変人って言われてるけどそれは称号ではないしなぁ。
なんだっけ?
「何?忘れてるの?セボリオン助祭」
「……………oh」
そうだった!忘れてた!!呼ばれるのが嫌過ぎて完全に忘れてたよ!!!
俺成人するまで名乗れないけど助祭の称号貰ってたし!!!
強制的に宛がわれた称号で拒否権も無かったけど、やっぱり持ってたら損な称号じゃねーか!!!
今まで一回たりとも役に立った事ねーぞ!!?
逆に窮地に追い込まれるような称号じゃねーか!チクショー!!!
「ここはアルゲア教団の中でも助祭かそれ以上じゃないと無断で立ち入る事は出来ないんだ。セボリーはアルゲア教団の名簿にしっかり助祭☆って記されてるから大丈夫だね」
「だ!……大丈夫じゃないです……それにそのキラッがうざいです…」
大声を上げたりテンションを上げると倒れそうになるので、小声で反論するが全く調子が出ない。
これもそれもこの山のせいだ。
「大丈夫だよ。山頂まで行くとかは無いからさ」
「本当ですよね?と言うか山頂だったら絶対に空気吸えなくて途中で死んでますよ」
「本当に山頂や山頂付近には行かないよ。だって目的の材料があるのはもっと下のほうだもん」
「でもここよりは高いと…」
「うん。ここよりは高いよ。ところでセボリー。ここの場所で何か気付いた事無い?」
「気付いた事?」
「さっき君がチラっと言ってたよ」
急に気付いた事はないかと言われ俺は困惑する。
だが、俺はあることに気付いた。
「そう言えば…この場所より低い場所には木が生えてなくて草だけだけど、ここより上は木が鬱蒼としてる…」
「正解。ここは正確に言えばまだ聖地じゃないんだよ」
そう言われ俺は意識を集中させた。
「…!確かにここには精霊がいない……いや………いるかもしれないけど俺には見えない」
「とてもとても力の弱い精霊しかいない。まぁでも精霊の力は働いている。だからこそこの高さでも草が生えるんだけどね。本当の聖地はここから上、あの木が茂っているところからだよ」
「………………」
「そして今回の薬の材料があるのがあそこ。あそこに見える森の中に湧く水、精霊水だよ」
ロイズさんが指差した森はここから軽く見積もって一キロ以上上にあった。