第百三十四話 ダンスのお相手は?(2017.12.27修正)
ウィルさんのお披露目と内輪のパーティが終わり、俺達は無事に学園都市へと帰ってきた。
数ヵ月後に予定されているらしい結婚式にも俺達を呼ぶとの約束を貰い、日常生活へと戻った。
俺は今までサボっていた授業に出たり、迷宮に潜り公星に魔力を分けた戦闘方法などを実験している。
最初は魔力を分けるという感覚がどうしても掴めなかったのだが、幾度と無く試していくうちになんとなく感覚がつかめてきた。
元々公星自体に魔力が備わっており、俺との魂の使い魔契約をしているので魔力が馴染みやすいらしい。
そうそう。授業と言えば、やりましたよ。ダンスの授業。
何あれ?マジで難しいんだけど。
ステップはまだ良い。あれは種類はあるがなんとか覚えられた。
でもペアを組んで踊ると全く踊れない。
相手に合わせて一緒にステップを踏む事がこんなに難しいとは思ってもいなかった。
それにホールド。片方の腕を一定の高さまで上げ固定すると、もう片方の腕が下がってしまう。
意識してやっているつもりなのだが、どうしても上手くいかない。
いや、ステップを踏んでいなければ出来るんだ。
でも同時にやるとどうしても片方がおろそかになってしまい、格好悪くなってしまう。
もし出来たとしても腕と足に気をとられて背筋が曲がってしまい、様にならない。
どうしろっちゅーねん。
それに練習相手にも問題がある。
授業の時は同級生や上級生の女子と組むのだが如何せん。
それ以外の練習の時で俺とペアを組む女子が見つけられなかったのだ。
皆様覚えていらっしゃるだろうか?俺には女友達が極端に少ない。
勿論知り合いの女子はいる。サンティアスの姉妹などがそうだ。
いることはいるのだが、皆既に練習相手が決まっており俺と一緒に踊る時間がないらしい。
聖科の殴って蹴れるグラップラーことリュピーも誘ってみたものの、既に同級生の男子と練習していたらしく断られてしまった。
姉妹から悉く断られた後、サンティアスの姉妹以外の人達を探そうとしたが中々見つからない。
知る限り誘ってみたものの、全滅と言う悲惨な状況に陥ったのだ。
俺と面識のある女子って、ぶっちゃけロゼとノエルちゃんくらいしかいないのもネックであった。
その二人はダンスを完璧に踊れるのだが、ロゼは今必死で推薦を貰うために勉強をしており、ノエルちゃんは初等部の生徒のため余り会うことが無い。
それにノエルちゃんにはシエルと言う小姑が付いており、シエルの目が痛いったらありゃしない。
そんな訳で俺のダンス練習計画は頓挫したかのように思えたのだが、ある地獄の救済が待ち受けていた。
「セボリー。そんな探し回ってるんならあたしがやってあげるわよ」
はい。ゴンドリアです。
ゴンドリアさんがアップに入りました。
「ユーリだとあんたの身長じゃあわないから、あたしが練習の相手してあげるわ」
いや、どっちも体は男じゃん。
俺はちゃんとした女の子とダンスしたいんだよ。
「遠慮しておきます」
「あぁん?なんだってぇ?」
おい!ゴンドリックさん!こんな所で出てくるんじゃねーよ!!
「………いや。だって。ゴンドリアさんも色々お忙しいと思いますしぃ」
「大丈夫よ。繁忙期はとっくに過ぎたんだから」
「……他の授業もあるから色々大変でしょーしぃ」
「授業の単位なら殆ど取っちゃったわよ。後は普通に授業受けてれば取れる単位ばっかよ」
「…変態の集まりで手がいっぱいでしょうしぃ」
「そんな集まりに参加なんかしてるわけ無いじゃない」
「兎に角大丈夫です!間に合ってます!!」
「全然間に合ってない感じがするんだけど?良いから遠慮しないで一緒に踊りましょ」
「………………………はい」
こうして俺は強制的にゴンドリア(男)と踊る事になった。
断れるはず無いじゃないか!!
あいつ喋りながら拳の骨鳴らしてたんだぞ!!
もし断ったら殺されるに決まってる!!
何で男と一緒にダンス踊らなくちゃいけないんだよ!!
俺は可愛い子ちゃんと踊りたいんだ!!
唯でさえダンスってだけでテンションだだ下がりなのに、ゴンドリアと踊ってられるか馬鹿野郎!!
「1・2・3・1.2.3」
「そうそう。その調子よ」
そして今現在、俺は地獄のゴンドリア先生とダンスの練習をしています。
前から分っていたんだが、ゴンドリアは美に対する執着が強い。
なので拘ると完璧を目指してしまう傾向がある。
実際ゴンドリアの女性パートのダンスは完璧で、男性パートも危なげなく踊っている。
自ら練習の相手を買って出ただけあって、実際に教えるのも上手い。
一緒に踊るようになってまだ数日しか経っていないにもかかわらず、俺のダンスレベルは順調に上がっていった。
これは授業で教えてくれているダンスの先生からも、良くなってきているとのお墨付きを貰っている。
だが、これには訳がある。
「ほら!そこ!顔上げる!!後背筋も曲がってきた!!腕のホールドが甘い!さっきから何回も言ってるだろーが!!お前の頭は空っぽの果実か!!何回も言わせるんじゃねーよ!!!」
そう。ゴンドリアは教えるのは上手いのだが、美に対する傾向が強いため自分にも他人にも厳しい。
俺はゴンドリアに手足は出ないが口は出るスパルタ教育を施されているのだ。
よって俺は踊るたびにゴンドリックさんに会う事になる。
「うう……なんで俺だけが……なんで俺だけがこんな目に会わなきゃいけないんだ…」
「口を動かすなら体動かせや!」
「……はい(シクシク)」
畜生。初めから踊れるシエルやヤン、フェディはそんな俺を良い笑顔で見ながら応援していやがる。
その笑顔が何とも憎らしい。
「お疲れ様。反復練習はちゃんとするのよ。はい、これお水」
練習後、床に大の字で寝そべる俺にゴンドリアは水を差し入れてくれた。
一見優しく見えるのだが、反復練習をしていないと分ると直ぐに鬼神に変わるのがゴンドリックさんだ。
そんな飴と鞭いらんわい。
「………そういえば。ルピシーはどうした?あいつもダンスの練習するんじゃなかったのか?」
そう言えばあいつとダンスの授業一緒になったこと無かったんだが、あいつはちゃんと踊れるようになっているのだろうか…
俺だけなんて不公平だからあいつも巻き込まないと…
そうしたらゴンドリックさんのダンス熱のスパルタが少しは削がれるかもしれない。
しかし、そんな俺の希望は儚くも打ち崩される事になった。
「ルピシーならもうダンス踊れるようになったわよ」
「………はい?」
「だから踊れるようになったんだって」
「……なんで?」
「ルピシー運動神経は良いでしょ?」
「うん」
「変な事は記憶力と直結しない?」
「そうだな」
そう言えばあいつは興味のないことはとことん覚えないが、興味のあることは一回できちんと覚えるな。
行った事の無い店でも場所はちゃんと把握しているし、今まで食べた物やお薦めなどは直ぐに出てくる。
本当に都合の良い頭をしていた。
「あいつ初回のダンスの授業で完璧に踊ったのよ」
「……へ?」
「先生がお手本で踊るでしょ?そのダンスを完璧に真似て見せたの。ステップも型も全部よ」
「……なして?」
「だから持ち前の運動神経と変な記憶力が合わさった結果でしょ。実際二回目の授業の時も先生の踊りを見て完璧に踊ってたわよ」
「…………………」
「三回目の授業ではもう教える事が無いって先生に言わしめていたわ。先生が経営してるダンス教室にスカウトされていたほどよ」
「…………………」
「だからルピシーはダンスの授業に出席するだけで単位が貰えるのよ。」
そうなのだ。ダンスの授業は必修なのだが、ダンスを既に踊れる人で先生に認められると授業に少し顔を出せば出席印がもらえるのだ。後は授業に出ても出なくても良い。
ダンスの授業が始まってから、俺達のメンバーの中で先生に認められていたのはシエルとヤン、フェディとユーリそしてゴンドリアだ。
シエルとヤン、フェディは完璧とのお墨付きだったためそれからは殆ど授業には出ていない。
ユーリは男性パートは既に習得していたのだが、女性パートをまだ突き詰めたいと授業に参加している。
ゴンドリアはユーリからダンスを教わり両方のパートを踊れたのだが、まだまだダンスのレヴェルを高めたいと授業に参加していた。
なのでダンスの授業に出なくてはいけない奴はこのメンバーでは俺とルピシーだけだったのだ。
別々に授業を受けていたから知らなかったが、あいつも先生から認められていたらしい。
「ざっけんなぁああぁぁあああぁあ!!!俺がこんなに必死になってオカマ相手に踊ってるのにあいつはもう踊れるってか!!?何が悲しくて変態のオカマと踊らなあかんのじゃぁぁあああ!!俺の青春返せコノヤロー!!!」
「誰がオカマよ」
「お前だお前!!!」
「あたしはオカマじゃなくて唯の女装家よ」
「知るかヴォケェェェエエエエエ!!!どっちも変態にはかわらねーよぉぉおおお!!!
その後、俺はゴンドリックさんに文字通りボコボコにされるのであった。