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Public Star~目指せ若隠居への道~  作者: 黛紫水
第五章 進化への種の章
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第百三十三話 祈り(2017.12.27修正)

あれから大変だった。

ウィルさんの演説が終わった後、民衆の歓声は鳴り止まず、クレアさん達が出るに出れない状況に陥った。

ウィルさんも流石にこのままだと埒が明かないと思ったのか、最初は丁寧に沈めようとしていたが全く効果が無く、最後の辺りはほぼ喧嘩口調で怒鳴っていたのだが、その声も民衆の歓声に押し消され俺達の耳以外には届く事はなかった。


「うるせーーーー!!!黙れーー!!!………駄目だ。こいつ等全く聞いてやしねー……」

「や~い。へっぽこ領主~」


肩を落として落ち込むウィルさんをロイズさんは後ろから指を指して笑っている。


「ロイズ!テメーマジで覚えとけよ!!」


そんなロイズさんをウィルさんは青筋を立てて睨んでいた。

しかし全く先程の威厳が無い。

威厳さんはもう既に退場済みだ。

肩を落としているからなのか、それともロイズさんとの力関係の差なのか、どっちかと言うと負け犬のようだ。


「もう良い!クレア来い!」


ウィルさんはそう言ってクレアさんのいるほうへ歩いていき、クレアさんの手を掴んでテラスへと引っ張り出した。

そして拡声器の魔道具マジックアイテムを握りなおし、大声で叫ぶ。


「おい!!テメー等ぁ!!耳をかっぽじって良く聞けぇ!!俺は婚約した!!それでこれが俺の婚約者のクレイリアだ!!節穴な眼ひん剥いて良く見やがれコノヤロー!!!」


その瞬間、一瞬にして歓声が止み、皆同じ対象物を見る。

まるで時間が止まったかのようだ。

そしてその次の瞬間、先程よりも大きな歓声が上がり、大爆音がベルファゴルの街に響き渡る。

その大爆音は勿論俺の耳にも襲い掛かり、耳を塞いでいても音と震動が伝わってきた。


「こ…鼓膜が破れそう……」


これは凶器か!新しい兵器だろ!!?音声兵器かコノヤロー!!!

しかし、こんな勢いで婚約発表とは…

いや。最初から予定はしてたのは知ってたけど、まさかこんなドサクサ紛れの婚約発表とは思わなんだ。


民衆の歓声はまだ鳴り止まない。

先程よりは小さくなってきたように聞こえるが、まだまだ大きい。

うるさいが、祝福されている事は分るのでウィルさんはクレアさんの腰を抱き、民衆に手を振っていた。


おい。何この幸せムード。羨ましいわ!!

チクセウ!こうなったら一か八かお約束をやっておくか……


「キース!!♪キース!!♪キース!!♪」


手を叩いてリズムを取りながら出来る限りの大声でキスを叫んだ。


「「キース!!♪キース!!♪キース!!♪」」


ここでロイズさんもキスコールに加わる。


「「「「「「「キース!!♪キース!!♪キース!!♪」」」」」」」


仲間達も一緒に手を叩きながらキスコールに混ざってきた。


その声に気付いたのか、民衆の中からもチラホラとキスコールの声が聞こえる。


そうだ!その調子だ!!さぁ!者共!!我に続け!!!今こそ接吻の時ぞ!!!


『キース!!♪キース!!♪キース!!♪』


キスコールは何時しか賛美歌のように鳴り響き、街全体を包み込む。

キスコールの大合唱にウィルさんの表情は引きつっている。


「何でここでキスしなきゃいけないんだよ!!!」


それがお前の運命デステニーだからだ!!さぁ!キスを!!


『キース!!♪キース!!♪キース!!♪』


逃げられると思うなよ?

さぁ、キスをするんだ!今こそその時ぞ!!!

さぁ!さぁ!!さぁ!!!

俺に甘酸っぱい青春を見せてくれ!!!


『キース!!♪キース!!♪キース!!♪』


「だぁぁぁぁあああああああ!!!コンチクショーーーーーー!!!」


腰を抱いていた手でクレアさんを自分の体に引き寄せ、もう片方の手でクレアさんの頭を支えると、ウィルさんは熱いキスをクレアさんに送った。


『うっひょーーー!!』

『ヒューヒュー!!』

『お幸せにー!!』

『おめでとうございます!!』

『新領主様万歳!!!』

『チックショー!俺もキスしてぇ!!』

『精霊のご加護を!!』

「イケメンは爆発しろ!!!」


あ、最後のは俺です。


「おい!今背後から不穏な事が聞こえたぞ!!?」


うるせー、爆発しろ。

イケメンなんてこの世からいなくなれば良いんだ。

おい、シエル。何俺の顔を見て笑ってるんだよ。

え?何だって?俺もイケメンの定義は何だって?

イケメンはイケメンだ!それ以上でもそれ以下でもない!!

兎に角爆発しろ!!


そしてそんな爆発予備軍のウィルさんにキスをされたクレアさんはと言うと。

顔を赤く染め上げて、ウィルさんの頬に紅葉を作り上げた。


ザマァ!!


『おっ!結婚する前から夫婦喧嘩か!?』

『犬も食わないんだから見えないところでやってよ!!』

『若さとは素晴らしい!ワシも昔は!!』

『なぁ!そこの可愛い子ちゃん!俺と一緒に祝いながら踊ろうぜ!!』

「そうだ!その調子だ!もっと殴ってやれ!!」


あ、今度の最後も俺です。

いきなり女性にキスする輩なんて顔の原型が分らなくなるまで殴ればよいんだ。

それがイケメンならなおの事殴ってやれ!!


『キース!!♪キース!!♪キース!!♪』

「おいクレア!殴るな!うぉ!ちょっ!」


そして再びのキスコールに何故か答えるウィルさん。

そしてまた殴るクレアさん。

何この無限ループ。


『このまま寝室でやっちまえ!!』

『おめでとうございます!!!』

『キース!!♪キース!!♪キース!!♪』

『やるならとっとと寝室に消えやがれ!!』

『キース!!♪キース!!♪キース!!♪』

『新領主様万歳』

『新たなる門出に乾杯を!!』

『お披露目で殴られた最初の領主様だぜ!歴史的快挙だ!!』

『快挙に乾杯を!!!』


うん。俺が扇動した結果だけど、これは酷い。

見事にカオスですなぁ。

ちょっと反省はしてる。うん、ちょっとだよ。


『おめでとうございます!!!』

『精霊のご加護を!!!』

『祝えや踊れ!!!』

『新たなる歴史の誕生を祝して!!!』


華やかな音楽。軽快に踊る人々。楽しそうに話し合う人々、美味そうに飲み食いする人々。

その光景は、まるで映画でも見ているような気分にさせた。


クレアさんに殴られつつも幸せそうに笑っているウィルさんの姿を眺めると、その姿は笑顔に溢れ幸せでいっぱいのようだ。

これからウィルさんには幸せと一緒に様々な困難が襲ってくると思う。

そんなウィルさんだが、隣にクレアさんがいれば困難を打ち壊す事が出来るだろう。

ロイズさんも助けてくれると思うしな…


そう思いロイズさんのほうを見てみると、ロイズさんは王子様スマイルで笑っている。

しかし、俺はその笑顔の裏がなんとなく読めてしまい溜息を付いた。


絶対に公爵になってもウィルさんはロイズさんにおちょくられるんだろうなぁ…

兎に角、ウィルさん。色々頑張ってください。


「精霊よ、ウィルさんとクレアさんに祝福を。アライアス公爵家新当主ウィルブラインさんことエロブラインさんに幸せの呪いあれ」


幸せそうに笑うウィルさんを眺めた後、暖かい日差しと冷たい空気の中、俺は目を閉じて精霊に祈りを捧げた。

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