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Public Star~目指せ若隠居への道~  作者: 黛紫水
第二章 歩みの章
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第十四話 習慣の違い

風呂の話をしたら風呂に入りたくなってきた。さぁ、入りに行こうか。


「じゃあ、そろそろお風呂に行こうか、どんな風呂なのか見てみたいしな」

「だな」

「持って行くものはあるのか?」

「タオルと替えの下着と服だけでいいらしいよ、石鹸とかは学園が負担して備品としてついているらしいから」

「シエルって本当に詳しいわねぇ」

「ああ、読書の賜物だよ」

「僕も本読むの好きだけど、シエルみたいに色々な種類の本は読まないから。すごいね、うん」

「ただ出版社は選んだほうが良いと思うぞ」

「え?だって面白いじゃないか。真面目腐ってるものも良いけど、たまには息抜きが必要だよ」

「その息抜が微妙なものしか扱わないなんでも同好会出版っていうのが…」

「マニア向けといってほしいね」


マニア向けではなく変態向けですね、わかります。


「しかし、石鹸まで無料で使えるのか…わが国では石鹸は高価なものだからおいそれと使わないぞ。貴族でも特別な日にしか使わないしな」

「え?じゃあいつもはどうしてるの?」

「花から精製した香油をお湯を張った盥の中に入れて沐浴するか、香油をといたお湯で体を拭くかだな」

「もしかして、貴族でもそれなの?」

「ああ、そうだ。平民たちは川に入って水浴びか、全く入らないかだ」

「え!?じゃあ匂いは!?臭くないの!?」


やばい、想像したら匂いまで香ってきたような気がする。


「臭いぞ。しかし我が国では香油の生産が盛んでな、香油を酒精の高い酒に溶いて体につけている」

「ああ、香水ね。私も良く作るわ」

「ぼくも薬を調合するときに色んな匂いに慣れてるけど、香水は匂いが混じって気持ち悪そう、うん」


そんな話をしつつ1階に移動して、風呂場の脱衣所で服を脱ぎ扉を開くと15メートル四方の湯船とその周りに洗い場があった。


「でかいな。しかもこんなたくさんの水が…」

「湯船はフェスモデウスでは普通だよね。聖育院も湯船だったし」

「そうだね、フェスモデウスでは普通だと思うよ、うん」

「でけー。ヤバイ泳ぎたいぞ!」

「怒られるわよぉ」

「おい、ゴンドリア。胸までタオルで隠すのはやめろ。誰も見たくないわ!」

「フェスモデウスは水資源が豊富だから水は結構使い放題だよ。殆どの水脈は飲み水に出来るし」

「チャンドランディアは水はあるがほぼ汚れているからな。飲み水が貴重だからこんなことはできん」


フェスモデウスは川も湖もあるし内海も何個もあるから水資源には全く困らないな。

一部の領地ではあまり雨が降らないところもあるらしいけど。


「さぁ、まず体を洗おうか、湯船に浸かるのはその後だ」


体を洗い湯船に体を浸すと自然に声が出てくる。


「ふぃ~~~~」

「セボリー、爺臭いわよ」

「だって気持ちいいんだから仕方ないだろ。」

「少し熱くないか?」

「天然温泉らしいよ、ここ。しかもかけ流し。精霊石を使って熱いお湯を汲み上げてるんだよね」

「贅沢な話だ、精霊石はチャンドランディアでは殆ど取れないのに」

「フェスモデウスは取れるところが多いからね、うん」

「そういえば公星も精霊石を結構見つけてたな」


うん、あのエアライズの事件の後にも何回か精霊石を公星が探し出してきたことがあった。

それだけたくさん精霊石が取れるんだろうな。


「自然の力が多いほど精霊が多く集まって精霊石ができるって聞いたことがあるよ、うん」

「ほへぇ、そうなんだ知らなかった。確かに聖育院の周りは森と川だからな」

「僕が聞いた話だと自然が多いほど精霊石が出来て、精霊石が精霊を呼び寄せるって聞いたけどね」

「どちらにしても精霊様様ってことだろ。先生たちもいつも言ってたぜ、感謝しろってさ」

「フェスモデウスは精霊の賜物か…」

「どっかで聞いたことあるフレーズだな」


風呂も入り終わりのんびりしていた時に、また建物中に声が響く。


『学生の皆さん、中央大食堂へ集まってください。新入生歓迎晩餐会を始めます。繰り返します…』


「さっきも思ったんだけどさ、これ不親切だよな。この建物にいなかった奴には知らせてないんだろ?知らなかったらわからないじゃん」

「でもさっきの昼食のときは見る限り皆いたよ、うん」

「僕の親族が学園出身なんだけどね。これって建物の中じゃなくて一人一人の頭の中に流れるらしいんだよね」

「へ?」

「ほら、通過承認の門。あれに登録された人で門の中にいる人は直接届くようになってるらしいんだ。しかも初等部・中等部・高等部の学生はちゃんと別々の内容が流れるらしい」

「「「「「マジか。」」」」」


ある意味怖いな。


「本当に不思議よねぇ、ここの学園って」

「ところで中央大食堂はどこにあるのか調べてくれ、その微妙な本で」

「微妙な本…」


うるせー変態出没地域の本出してる出版社って時点で微妙な枠はとっくに突き抜けてるのに、これでもオブラートに包んでるんだぞ。


「だからマニア向けって言ってよ。んーとね。初等部の中央棟の4階にあるね」

「中央棟とはあの大きい建物か」

「しかし晩餐会ってパーティみたいなことでもするのかな。俺マジでパーティ苦手なんだけど公星お前が出ろ」

「モキュ!?モキュー!」

「身代わりじゃねーんだからお前が出ろよな」

「そんなことじゃ15歳の時にあるお披露目パーティじゃ大変よ」


は?なにそれ?お披露目パーリィですと?


「え?なにそれ?ルピシー知ってる?」

「俺が知ってると思うか?」

「だよな」

「いわゆるデビュエタンだよ、うん」


自信満々に言い放つルピシーに納得の頷きを返した俺にフェディが補足してくる。


「デビュエタン?」

「そう、成人のお披露目パーティみたいなものだよ」

「それって男も参加しなきゃいけないのか?」

「性別は関係ないよ。出会いの場でもあるからね」


ああ、思い出した。

ヨーロッパの上流階級の子女が参加する社交界お披露目パーティの、あのデビュタントか…

待てよ、あれは確か女しか参加しないはずじゃなかったか?男はそんなの無いはずだよね?

え?マジで?この世界じゃ男も参加しなきゃいけないの?

そういえば今シエルが成人のお披露目って言ってたな…っ!日本で言う成人式のことか!!

俺、成人式も母ちゃんがいつの間にか仕立ててたスーツで出たんだが…


「「マジで勘弁してください…」」

「セボリーがんばってくれ、俺はその時は迷宮に潜って頑張るよ」

「何一人で逃げようとしてるんだ!!お前も道連れにしてやんよ!!」

「ついでにいうと、サンティアスの子はデビュエタンが終わらないと正式に迷宮に入れないよ」

「「終わった…」」


ああ終わりましたよ…こんちくちょう…

ルピシーと一緒に床を叩く俺。


「毎年首都のシルヴィエンノープルじゃ盛大にやるんだけどね。学園都市もたくさんダンス会場があるから盛大らしいよ。実際に僕の住んでる領地でも毎年賑やかだしね」

「「……」」


俺とルピシーはそれを聞いてorzの形で固まっていた。


「しかし、一般人も参加するのだな。チャンドランディアでは王族や貴族でしか行わないぞ。しかも女だけだしな。男は家督を継ぐ準備段階や独り立ちする前に他国に外遊したり、有力者のパーティに出るくらいだ」

「チャンドランディア藩王国連邦を見習え!!!」

「それだけ国が豊かな象徴なんだな。国民全員が参加できるのだから」


豊かなことはいいことだがその弊害を考えて欲しいわ。


「さっき出会いの場所って言ったけど、実質的にお見合いや恋愛の相手探しもかねてるらしいしね。世襲貴族の子息がデビュエタンで平民の女の子を見初めて結婚したって話は昔からあるよ」

「我が国でもパーティで結婚相手を探すな。大体男は10歳以上年上のことが多いがな」

「でも平民の子からしてみたら世襲貴族の子達もいずれは一代貴族になるのだから垂涎ものだろうね、うん」

「そうね、世襲貴族の子供は他の子が家督を継ぐと聖下から一代爵位の准伯爵の称号が与えられるもの。自分の子供には爵位を継がせられなくても貴族になりたい女は皆血眼状態でしょうね。」


前世で血眼になって優良物件を探している婚活女を思い出してしまった。身震いが…


「そうだね、だから一代貴族や平民の親は子供達にうんとお洒落をさすんだ。それがたとえ結婚に結びつかなくても、人脈作りのきっかけにはなるしね。まぁ、一種の思い出作りだよ」

「そういえばゴンドリアもそういうこと詳しかったな」

「あたしが詳しいんじゃなくて、あんた達が知らなすぎるだけよ。聖帝国じゃ物心ついた子供でも知ってることよ」

「「ぼくたちこどもだからわからなぁい」」

「「「「気持ち悪い(よ)(わ)」」」」


大食堂へ到着すると人、人、人で埋め尽くされている。

そこには初等部1~6年までが集まっており椅子は無く皆立って談笑していた。

料理もバイキング方式の立食らしい。これは楽しいかもしれない、知らない料理も多そうだ。


「お、セボリーにルピシー、ゴンドリアもいるな。久しぶりだな元気だったか?」

「「「あ!ティグレオ兄さん(ちゃん)だ!!」」」


声を掛けられると2年前まで聖育院にいて良く遊んでくれたティグレオ兄さんがいた。


「大きくなったなぁ、2年前はまだこんなサイズだったのに」

と親指と人差し指で1センチほどの隙間を作り片目を瞑って笑いながら言う。


「どこの妖精ですかそれ」

「それよりティグ兄、剣の稽古してくれよ!俺も少し使えるようになったんだぜ」

「ラングニール先生から基礎を固めろって言われてないのかな?」

「っぐ…」

「まぁ、打ち合い稽古だったら時間がある時には付き合うよ。そういえばお前ら同じ部屋なのか?何号室だ?」

「はいそうです。505号室です」

「遠いな、俺は1014号室だ。去年まで411号室だったから近かったんだけどな」

「あ、セボリーたちがいたぁ」


ティグレオ兄さんと話をしているとロベルトも俺たちに気づき話しに加わってくる。


「ロベルトひさしぶりだな!お前も大きくなったな」

「あー、ティグ兄だ。ひさしぶりぃ」

「相変わらずテンション低いなお前」

「ぼくは平常心を大切にしてるんだぁ」

「何が平常心だ。お前の場合は無気力なだけだろうが」

「この人たちがセボリーたちのルームメイトォ?」


ロベルト。こいつは昔から自分のペースを崩さない、何が何だろうとマイペースだ。


「ティグレオ兄さん、ロベルトの場合無気力と言うかマイペースなだけだと思いますよ。ああ、そうだロベルト。左からアルカンシエル、ヤンソンス、フェデリコだ」

「よろしくー。おいらはロベルッティ・クォモだよ。ロベルトって呼んで」

「シエルでいいよ」

「ヤンでかまわない」

「フェディって呼んでくれていいよ、うん」

「…ロベルトって名前ロベルトじゃなかったのか」

「セボリー…」


皆の視線が痛いです…

だってしょうがないじゃん!知らなかったんだから!!

大体皆本名隠しすぎ!!


しっかし、美味しいなここの料理。色々な味付けの料理があって面白いし飽きない。

聖育院のご飯はまずくは無いがアルゲア教は基本的に清貧を重んじるし、そんなたくさんの種類の料理は出ないから学園の料理は口にも目にも旨いな。


あれ?そういえばさっきからポケットの中にいた公星がいないぞ、どこに行った!


公星を探すために料理スペースに目星を着け探すと案の定いましたよ…

凄い勢いで食ってるんですが、しかも何気に注目浴びてるし。ぶっちゃけ行きたくねぇ…


「モッキュ!モキューキュモッキュー!!(はぐはぐ)」

「何あの子?超可愛くない?撫でたいんだけど」

「頬袋パンパンなのにまだ食べてる。やばいわ可愛いわ。」

「これは大食いピケット見守り隊を結成するしかないわね」


おい!!なんか不穏な言葉が出てきたぞ!!なんだ見守り隊って!!お前らは漫画に良く出てくるファンクラブを結成する女子か!?勘弁してくれよ。俺は目立つ気はないんだよ、公星の飼い主って知れたら変に注目されそうなんだけど…


「モッキュー!!!」


俺はそっとその場を離れようとしたときに公星が俺に気づきエアライズで俺のほうへ近づいてきた。


「公星、お前流石に食べすぎだぞ。このままじゃピケットなのにモルモットみたいになっちまうぞ」

「モッキュ」

「っていうか明らかにおかしいよね!?今食べた体積とお前の体の体積があわないんだけど!?どうゆうことよ!!」


公星は「モキュ?」と鳴き自分の体を見回してから腹を叩きもう一度「モキュ!」と言ってまた食べはじめた。まるでまだ何も食べてなかったようなスピードで…


「キャー可愛いわ!可愛い過ぎるわ!!」

「あの子があのピケットの飼い主かしら、それにしても可愛いわ」

「今度触らせてくれるように交渉しましょう」

「おい、あのピケットなんだ。マジで可愛くないか?なんか俺違う趣味に目覚めそうだ…」

「大丈夫だよ、僕はもう目覚めちゃったし」

「ハァハァ。ピケット可愛いよ。あのピケット可愛いよ」

「もぐもぐピケット同好会を結成しよう」



おい!なんか増えたぞ!!マジで勘弁してください…

俺はドン引きしながらルームメイトの輪の中へ戻り、さっき見たことを忘れるかの如く料理を皿に盛って食べ続ける。


ルームメイトや兄さんの生温かい視線と、周りから獲物を狙うような視線が痛いよぉ…


そして夜は更けていった。

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