第百二十九話 防犯アドバイザー(2017.12.26修正)
皆気を使ったのかそれとも思い出したくは無かったのか、あれからあの変態の話は出ては来なかったし、俺もあえて無視を決め込んだ。
俺もあれ以上掘り下げようとはしたくはないし、あの人が結婚してると言う事実だけでおなかいっぱいなんです。
「あのぉ…今普通にこの城、いや屋敷?の中を歩いてるんですけど……良いんですか?普通案内役と言うか監視役が付きますよね?」
「…さっきのが案内役」
「…………………」
おい。案内役は凍ってる真っ最中ですよ。
それにあの人張ってたって言ってたじゃん。
あれは案内するために張ってたのか?
「ウィルの嫌がらせだろうね」
「嫌がらせ?」
「意趣返しとも言うね。僕が今回の計画に参加したのが気に食わないんじゃないの?それで仕返しとしてあれを放置したんだと思う。ウィルは僕があいつのこと嫌いなの知ってるから」
「うわぁ…」
確かにそれは意趣返しだわ。
でもウィルさん…俺も一緒に同行するって分ってるのに変態寄越す真似すんじゃねーよ。
それに後先考えてたら普通はやらねーよ。
絶対報復が待ってるじゃねーか!!
「でもそれじゃあこの城の中で迷いませんか?と言うか勝手に歩き回ってて良いんですか?」
「良いんじゃない?ウィルだったらきっとこうなる事予想してると思うし。それに僕ここ何回も来たことあるから迷わないし。迷っても攻撃魔法の一つでもかませば人が来るでしょ?」
「かますなし!!!」
「セボリー。ここも僕の家と同じようにでこの建物自体魔道具だから損傷は無いと思うよ」
「だ、そうだ。ルピシー、いくら丈夫な素材でも暴れて壊すなよ」
「何で俺限定なんだよ!!!」
「あ。ここだ、ここ」
「ほへ?」
ロイズさんが急に壁の前で立ち止まり壁に手を伸ばす。
そして違う場所を数箇所触り今度は両手で押すように触ると壁が奥へと押し出て部屋が現れた。
「………隠し部屋?」
「移転陣がある隠し部屋だよ」
後ろでシエルが説明してくれるようだ。
「前僕の家に来た時も言ったけど、防犯上の理由からプライベートエリアに続く階段や移転陣は少ないんだよ。だからあってもこういった隠し部屋から行くしかないんだ」
「ここはこの屋敷の中でも一部の人間しか知られていない移転部屋だよ」
「何でロイズさん知ってるんですか?」
「遊びに来たとき暇だったから探検してたんだけど、違和感感じて調べてたら見つけちゃったんだ。壁の開け方も推理して導き出したら開いた」
「仮にも友達の家で粗捜しみたいな事すんなや!!」
あんたは友達の家に泊まりに行って勝手に冷蔵庫や棚を開ける奴か!!?
少しは行動を慎めや!!!
「良いじゃん。ベルファゴル大公も笑って許してくれたし。それに何か良い防犯対策はないかって聞かれて案を出したら採用されて、結果的に防犯力高まったって言ってたよ」
元泥棒がセキュリティ対策のプロになることがあるって聞いたことあるけど、これが正にそれのようだわ。
「これも織り込み済みでしょ。移転するよ」
移転陣へ乗りどこかへと移転する。
エルドラドの黄金宮やエルトウェリオン家別邸でも思ったことだけど、こんな広い家移転陣が無いと移動だけで疲れ果てるぞ。
サンティアス学園の校舎並みに広いんですけど。
在学して早8年近く居るけど、俺まだ学園の校舎把握し切れてないんだよ?
目算だけどそれと同じ位広い自宅で生活してること自体疲れるっつーの。
やっぱり人間自分にあった適度が一番だわ。
移転すると先程の部屋と同じような部屋に出た。
先程の部屋との違いはちゃんとドアがあるか無いかの違いだけである。
部屋から出ると廊下に出た。
「ウィルの魔力を感じる。こっちだね」
残念ながら俺はウィルさんの魔力を感知する事が出来なかった。
ロイズさんの話では精霊との親和性を上げていけば自ずと分るようになると言っていたが、日常生活では殆ど役に立たなそうな能力なのでどうでも良いです。
ふと後ろを見ればシエル以外のメンバーがキョロキョロと通路や部屋を観察しているが、シエルは他のメンバーとは違い黙々と歩いていた。
そういえばシエルはこの城に来た事があるのだろうか?
「シエルはこの城の中に入ったことあるんだよな?」
「あるけど学園に入る前だから殆ど覚えてないよ。でもこの廊下と言うか、通路は見覚えがあるね。確かこの先はイベントホールだったような気がする」
「正解」
長い廊下を渡り、ひときわ大きな扉が見えてきた。
「あ、勝手に開いた」
俺達が扉にたどり着く前に扉が開く。
そして執事らしき人が出てきてお辞儀をしてきた。
「マインツさんお久しぶり」
「お久しぶりでございます。ロイゼルハイド様もご健勝で何よりでございます。アルカンシエル様もご立派になられて」
「マインツ久しぶりだね」
ウィルさんもシエルの家の使用人さんを知っていたからシエルもと思っていたが、やはりシエルも面識があるようだ。
「ウィルの様子はどうだい?」
「帰ってきても拗ねてらっしゃいますね。クレイリア様に窘められてデレデレしておりますが」
「クレアだったら良い領主婦人になると思うね。これからが楽しみだねマインツさん」
「はい、それは勿論。ああ、それと愚息がご迷惑おかけしまして申し訳ございません」
「あの人のことはもう諦めてますから…」
クレイリアさんってのはあのクレアさんのことらしいな。
でも愚息?マインツさんの息子ってこと?誰だよ。
「皆。この人はマインツ。アライアス公爵家の家令でロロッジの父君」
「マインツ・へルター・エルズ・ド・トッティモでございます」
「「「「「宜しくお願いします」」」」」
あれ?普通だ。あの変態のお父さんとは思えないほど普通だ。
むしろ真面目にさえ思えるぞ?
ああ、そうか。ボロディンが言ってたけど、あれが突然変異種なだけなんだな…
「さぁ、皆様。旦那様と大旦那様がお待ちですよ」
入室を促され部屋へ入ると、そこにはウィルさんやベルファゴル大公が座って待っていた。