第百二十六話 いざ、ベルファゴルへ(2017.12.26修正)
ロイズさんの力強い手から解放されました。何か背筋が伸びた気がするよ。
何?このぶら下がり健康じゃなくてぶら釣られ健康は。ああ。地面って素晴らしい。
俺はロイズさんへ席を勧めた後、皆にウィルさんの結婚の顛末について話した。
「素敵です!私もそんなプロポーズされてみたいです!!」
ユーリの食いつきが半端無くて少し引いたが良しとしよう。
「それで今からベルファゴルに行くんだけど、お前等来る?まぁ俺が勝手に誘って良いのか分らないけど」
「大丈夫だと思うよ。セボリーが来るなら友達達も来るってのは予想済みだと思うから。いつでも飛べるから準備できたら言ってね」
ロイズさんの言葉に皆頷き、各々仕度を始めた。
俺は最初から着の身着のまま行くつもりだったので、そのままロイズさんと席に座ってお茶をしばいている。
『もう一人の転生者の子誘わないの?仲が良いんでしょ?』
『その子ウィルさんとは面識無いんですよ。それに……あの試しの迷宮の事件でその子の友達が被害者になってしまいまして。何も出来なかった自分が不甲斐なかったらしく、迷宮冒険者試験の推薦資格貰うために頑張ってる最中なんですよ。最初はへこみすぎてどうやって慰めようかと思ったんですけど、結局エルストライエ侯爵が焚き付けて回復したんですけど』
『成る程ねぇ』
まぁ。俺も最初はロゼも誘おうかなと思ったんだが、面識の無い人の結婚式に出ても訳が分らないだろうと思い人選から外したのだ。
『俺としては迷宮冒険者にさせるのは止めたほうが良いと思うんですけどね~』
『その心は?』
『ロゼは冒険者やるには心が優しすぎるんですよ。ルピシーみたいに鈍感になれとは言わないですが。なんか…こう……もっと気質に合った職業を選べばよいんじゃないかなって思ってるんです』
俺もそうだがロゼは前世の記憶を引き摺っているように見える。
正確に言えば前世の常識だ。
無闇に動物を殺してはいけない。や、人を傷つけてはいけないなどの倫理を知らず知らずに引き摺っているのだ。
俺も最初はとても苦労した。
最初モンスターを殺した時は気が昂ぶっていたせいもあり「こんなもんか」だったのだが、狩りを終え地上へと戻り、夕食を食べた後に食べたものを戻してしまい、気を失うように床に付いた事を今でも覚えている。
いくら俺の前世が農家で、食べるために飼っていた鶏を絞めた事があるとは言えきついものはきつい。
血と油の臭いが鼻から離れないのだ。
『ロイズさんは初めて迷宮でモンスターを殺したときどうでしたか?俺は最初は平気だったんですが、迷宮から出た後が罪悪感や気持ち悪さでいっぱいでした』
『僕の場合は平気…とは言わないけれど、普通だったね。いつもと殆ど変わらなかったよ。多分前世の親父の趣味がハンティングで、良く海外に連れられて狩りしてたからだと思うね』
『ブルジョワー』
「セボリー。それ何処の言葉?」
そんな話をしているうちに仲間達が準備を整えて戻ってきた。
「ん?ああ、遠い国の言葉だよ。何故か俺は物心つく前から知ってたんだけど、ロイズさんも話せるらしい」
「へぇ」
シエルとルピシー、ヤンとフェディは俺と同じく制服姿で出席するらしく、それぞれゴンドリアが仕立てた制服の中でもフォーマルな作りの制服を着ている。
一方、ゴンドリアとユーリは…
「こんな時のためにドレス作り溜めてて良かったわね」
「そうですね。でもたくさんありすぎてどれを着ようか迷いましたよ」
「あたしはピンッ!って来た物を選んだわ」
予想通り女物のドレスを着ていくようだ。
ゴンドリアは薄桃色でレースの付いたロココ調ドレスを身に纏い、扇子で口を覆いながら話している。
ハニーブロンドの長い髪の毛もアップできめており、悔しいが似合いまくっていた。
「胸元と背中がこんな開いてるもの着ても大丈夫でしょうか?」
「大丈夫よ。お披露目会でしょ?結婚の祝いの席なら駄目かもしれないけど、お披露目なら問題ないわ」
ユーリはと言うとブラッドオレンジ色のイブニングドレスを着ていた。
その胸元は控えめに、そして背中は大胆に開いており、ユーリの筋肉を余すところ無く見せている。
最初は縮れて短かった髪も今では縮髪矯正をかけ伸ばし、ゴンドリアと同じ色に染め上げ、綺麗に後ろに撫で付けてセットしている。
化粧も全体的にオレンジ色で統一しているらしく、ユーリの黒い肌を惹き立てていた。
「あの二人あんな感じに仕上がってますがロイズさんはどう思います?」
「良いんじゃないの?二人とも一見派手に見えるけどドレスコードは守ってるし。それに生地も一流の物使ってるから何も問題ないよ」
「いや…そこじゃなくて」
「別に良いじゃん。本人達の自由だし」
「………さいですか」
確かに本人達の自由だが、これは酷い。
何が酷いかと言うと、ユーリはまだ良い。
男だと直ぐに分るから。
しかしゴンドリア。お前は完全に女と間違われるように着ているだろ?
その膨らんでいる胸はなんだ?
めっちゃ詰め物とパット入ってるじゃねーか!
「おい。ゴンドリア」
「え?何?胸見てるの?セボリーはスケベねぇ」
「……お前なんで胸作ってるんだよ」
「そのほうがドレスに合うからに決まってるでしょうが」
「嘘つけぇぁぁああああ!!絶対被害者を出すためだ!!そうに決まってる!!!また新たなる惨劇を起こすつもりだな!!?」
「なんで好き好んで惨劇起こさなきゃならないのよ」
「お前の被害者既に三桁越えたんだぞ!!?ベルファゴルでも被害者出すつもりかよ!!」
「美しいって罪よね」
「罪よね。じゃねーよ!!!」
「うっさいわね。どうせならセボリーもドレス着せてやろうか?あんたのサイズで作ったドレスはストックしてあるわよ?」
「申し訳ございませんでした。ご自由にお過ごしください」
糞!どうして正義が負けるんだ!!こんなの絶対に間違ってる!!!
って言うか何で俺のサイズのドレス作ってるんだよ!!
それこそ本当に無駄の権化だろうが!!!
「準備できた?」
「ロイズさんも俺の魂の叫びを無視して話し進めないでいただけます?」
「だって聞いてたら長くなりそうだから無視するのが一番かなぁ、って。あ、どうしてもドレス着たいのなら協力するよ?」
「いらんわ!!!」
今の話し聞いてどうして俺がドレス着たいって思うんだよ!!
俺がドレス着たって似合うはずないだろうが!!?
シエルなら女装しても可愛くなれると思うけどな。
「セボリー。今何か不穏な事考えなかったかい?」
「ナンデモナイデスヨー」
お久しぶりにアルカンシエル様暗黒モードが発動なされましたぁ。
危ない危ない。ロイズさんよりかは闇は薄いが、シエルの腹黒も相当やばいからな。
「じゃあ行こうか」
「おぅ!料理楽しみだ!!」
「楽しみなのは食うことかよ!!お前の思考回路はいつも通りで羨ましいわ」
「飛ぶよぉ。移転」
「だからいきなりはやめてぇぇええええ!!」
「で、移転するから」
「ズコォ」
おい!そんな伝統芸能のようなお約束いらないから!!
思わず反射的にコケてしまったではないか!!
「ナイスコケb」
「b!じゃねーよ!!」
「ロイズさんとセボリー仲良いね。まるでウィル兄さんをおちょくるセボリーみたい」
「ウィルも面白いけどセボリーを弄るのも楽しいからね。それに良い反応してくれるからおちょくり甲斐があるってもんだよ」
「全然嬉しくないわぁ!!」
ああ……やっぱり俺は弄られるよりも弄りたい…
誰か手頃に弄れる奴いないかな?
今回の件でウィルさんとはそう頻繁には会えなくなるし、ルピシーはこの頃弄っても反応悪いし…
全く。人材不足ですな。
「よいしょ~」
「結局いきなりかい!!」
ロイズさんの気の抜けた声がすると床が光りだし、俺達は一瞬で学園都市から姿を消すのであった。