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Public Star~目指せ若隠居への道~  作者: 黛紫水
第五章 進化への種の章
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第百二十三話 野次馬と告白(2017.12.25修正)

従魔から出た声に俺は全身に電流が走るような衝撃を感じた。


その声は昔俺が見た夢枕で聞いた声と同じ声。

静かな湖畔の水面に波紋が広がるように響く声。

重みがあり威厳に満ちた声。

まるで魂を掴まれる様な色気のあるバリトンヴォイス。

聴いた瞬間に体全体に鳥肌が立つのがわかった。


俺が固まっている中24家の当主達と宰相や大司教、帝佐さんが臣下の礼を取り、そしてウィルさんの姉兄がそれに続いた。


「面を上げよ。楽にするが良い。ロイゼルハイドが言うには唯の野次馬らしいのでな」


最後の言葉は明らかに笑いが混じっていた。


「何です?聖下。いじけてるんですか?」

「いやはや、野次馬と言う言葉が少し面白かっただけだ」

「でも野次馬ですよね?」

「客観的に見ればそうだな」


何の気兼ねも無しに会話するロイズさんに、他の人達が驚愕の顔をしている。

ただ帝佐さんだけは驚いてはいない。

きっといつもこんな感じなのだろう。


「お前誰に対してもそんな感じだけど、聖下にもそんな感じだったのか…」


顔から汗をかき、明らかに顔色が悪いウィルさん。


「最初は緊張したんだけどねぇ。でも飲んでるうちにどうでも良くなっちゃってさ。聖下もそれで構わないって仰ってくださったから、今ではこんな感じ」

「何が緊張していただ。その割には出す酒に文句を垂れていたではないか」

「お酒じゃなくておつまみに文句言ったんですよ。乾き物しかなかったんですから。せめてサラミとチーズくらいは欲しかったです」

「良いではないか。お前が出しただろう」

「それからおつまみ担当は僕になりましたけどねぇ」

「お前の作るものは美味いからな」

「聖帝家の料理人だって腕は素晴らしいじゃないですか」

「お前とあれとではまた違った美味さがある」


続く世間話に誰も止めに入れない。

ウィルさんなど跪いた状態でずっと待機している。


「あ、そうそう。これがセボリーですよ。なんか僕の弟子になったようです」


いきなりロイズさんが俺を紹介してきた。

ぶっちゃけスルーして欲しかったんですけど…


従魔が俺のほうを見て物凄い嫌な笑顔を見せた。

まるで獲物を見つけたような顔だ。


「ロイゼルハイドの弟子になるとはな。成る程」

「何一人で納得してるんですか?」

「いや、お前の底意地の悪い根性が移らないか心配していただけだ」

「大丈夫ですよ。セボリーも僕と同じ穴の狢ですから」

「使い方が間違っているぞ。ああ、そう言う意味か。まぁ兎に角、余り苛めるなよ」

「酷いですねぇ。あんまり苛めると僕泣いちゃいますよ」

「ふんっ」


あ!思いっきり鼻で笑った!

まぁ、そりゃロイズさんの性格知ってれば今の発言で笑うわな。


「まぁ、良い。セボリオン」

「ひゃい!!?」

「数年後に呼ぶからその時は覚悟して置け」

「何でぇぇえええ!!?俺何かしましたか!?ねぇ!!?」

「その時に話す。良い酒用意しておくのでな、楽しみにして置け」

「NOOOOOO!!!」


おい!絶対ウィルさんみたいに酔い潰すつもりだろう!!

今世の俺って酒飲めるか分らないんですけど!!?アルハラ反対!!

って言うかさ!本当に何なの!!?

俺何かやりました!?何で聖下に狙われてるわけ?

でも逃げられそうにないのは理解している。

今のうちにロイズさんに酔い止めの魔法でも教わっておくか…


「ああ、スマンな。アライアスよ。男の一世一代の場面を邪魔した。気にするな。唯の見物人だ」

「……いえ…あの、凄くやり辛いのですが…」

「良いから早くしろ。私も暇ではないのだ」


いや、暇だろ。

聞いてる分にはすっごい暇っぽいんですけど!?

ロイズさんや周りの話しを聞くには、ただのアル中ニートにしか聞こえなかったんですけどぉ!?


「ほら。聖下もそう仰っているんだから………早くしろ」


最後の一オクターヴ下の音で発せられたロイズさんの声はよく響いた。


「………はぁーー…」


ウィルさんは長い溜息一つつくと決心したのか女性の目を見つめる。

女性もウィルさんを見つめていた。


「クレア。今まで待たせて済まなかった」

「…………」

「俺が不甲斐ないのは分っている。自分でも甲斐性があるとは思えない」


その言葉にうんうん、と頷くウィルさんのお姉さん。


「もし俺と一緒になったら公爵家の当主夫人として苦労する事もあるだろう」

「…………」

「でも。俺はお前が欲しい。お前だけが欲しい」

「…………」

「一生お前だけに愛を誓う。だから」

「…………」

「だから。俺の妻になってくれないか。俺を幸せにしてくれ」


そう締めくくり女性ことクレアさんの返答を待つ。


「私を幸せにしてくれるんじゃないの?」

「する。だけどクレアを幸せにする前に、俺に幸せをくれ」

「……はぁ。結局あなたは自分の事しか考えてないのね」

「………すまん」


あれ?そう言えばさっきのセリフ聞いたことあるような…

俺を幸せにしてくれ………ああ。今朝の夢だ。

今朝の前半の夢でウィルさんが言っていた言葉だ。


「今まで待たされてきた分返してよね」


クレアさんはそう言うとウィルさんの顔を両手で掴みキスをした。


その瞬間議会場に黄色い声が響き、拍手が沸き起こる。

そしてウィルさん達の頭上に色とりどりの花びらが舞い落ちた。

花びらは床に落ちると消え、花びらが落ちた場所から光の粒が浮き上がり、その光の粒は少しの間二人の近くを飛び回り、やがて二人の体へと消えていった。


ふと見れば、先程までいた聖下の従魔の姿が無い。

その姿を探してみたが何処にも見当たらなかった。

聖下は本当にこのプロポーズ劇が見たかっただけらしい。


「聖下行っちゃいましたね」

「そうだね。僕がこの計画を聖下にリークした時かなり乗り気だったからね。本当に野次馬根性出して来たんだと思うよ」


苦笑しながらロイズさんは言うと、その言葉に釣られて俺も苦笑した。


「さて。これからベルファゴルに飛ばないといけないね。ウィルのお披露目だ」

「そうですね。あのぉ。友達呼んでもいいですか?特に俺の友達のエルトウェリオン家の長男はウィルさんの事兄のように慕っているので」

「良いよ。でも一応ウィルに聞いてみなよ」

「はい。そうします」


俺はウィルさんに許可を取ろうと足を進めたが、未だ愛の世界に浸るウィルさん達に話しかけることを躊躇した。

ぶっちゃけこのラブラブな空気を邪魔するのが憚られたのだ。


「ちょっと。いつまでそうしている気?そうしていたい気持ちは分るけど、そろそろベルファゴルに行くわよ」


その空気を壊してくれたのはウィルさんのお姉さんだった。


「姉貴。空気読めよ」

「すみません!」

「………ん?待て。何でいきなりベルファゴルに行くんだ?」

「何でって、領民達に新領主のお披露目よ。一昨日辺りからお触れ出してあったから皆待ってるはずよ。昨日も使用人たちがてんてこ舞いだったんだから」

「そこまで計算づくかよ!!」


騒ぐウィルさんを温かい目で見守るクレアさん。

きっと今までウィルさんと付き合っていられたのは懐が深いからなんだろうな。

ウィルさんが浮気して愛想尽かされない事を祈ろう。


「よ…っと。さて、帰るとするか。アライアスそのうち祝いの品送るからな」

「そうですね。新アライアス、浮気はするんじゃないですよ」

「精々末永く幸せになりやがれ」


24家の当主達は次々と立ち上がり、祝いの言葉を口にすると部屋の外へ続くドアへと歩いていく。

どうやら帰るらしい。


「なんか物凄くさっぱりしてますね。もっとこう…二次会だぁあ!みたいな事ないんですか?」

「彼等も彼等で本当に忙しいんだよ。自分の領地の事とかがあるからね。今回の件もベルファゴル大公が予め日時を政府と相談しておいて、それにウィルのお姉さまが乗っかったようなものだから」

「へぇ」


シエルも言ってたけど、やっぱり世襲貴族の当主となると忙しいんだな。

という事はこれからは頻繁にウィルさんに会えないって事か。

シエルが寂しがるな。

俺も弄る相手が少なくなるから寂しいが…

まぁ。とりあえずはウィルさんの事を皆に伝えよう。


俺はベルファゴルに行く前にロイズさんに学園都市まで送ってもらおうと考えていた時。

ベルファゴル大公と帝佐さんがウィルさんの姉兄に話しかけた。

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