第十三話 足跡
ゴンドリアの衝撃から少し立ち直った俺は、ルームメイトたちと親睦を深めるために会話を始める。
「そういえば、ヤンってどこの国の留学生なんだ?」
「私はチャンドランディア藩王国連邦からの留学生だ」
「チャンドランディア藩王国連邦?どこかで聞いたことあるような………」
「フェスモデウスの東にある国だよ。緯度で言ってもフェスモデウスは亜寒帯から亜熱帯まであるから分かりづらいと思うけど、アディスソロモン辺境伯爵家の領地と同じ位の熱い気候の国だよ。でもそれなりに国土が広いから寒いところもあるけどね」
シエル。お前地理に詳しいな。でもごめん。俺そのアディスソロモン辺境伯爵の領地が何処にあるのか良くわからない。
でもコレは知っている。
フェスモデウス聖帝国の貴族には一代貴族と世襲貴族があることは前に話したが、世襲貴族とは公爵3家・侯爵5家・辺境伯爵7家・伯爵9家の24家であり、皆聖帝国が建国される前から続いている古い貴族の家だ。
フェスモデウス聖帝国は世襲貴族24家領地とアルゲア教領地、聖帝直轄地26個の領地からなる大帝国なのだ。
24家も貴族ではあるが実質的には王に近く、その権威は強大であり他国の王でも24家の当主には上座を譲らなければならないらしい。
俺が良くわからないという顔をしたからだろう。シエルが鞄から本を取り出して地図を見せてきた。
その結果24家アディスソロモン辺境伯爵家とは前世で言うエチオピアと同じくらいの位置にある領地だと言う事がわかった。
本には地図の他にもその領地の産業やら風習などが載っており、アディスソロモン辺境伯爵領地は果物や野菜の栽培と酪農が盛んで、宝石系の鉱石がたくさん取れる所のようだ。
「チャンドランディアは11人の藩王が共同統治している国だ。11家の当主それぞれが国を持っていて王国同士が連携してひとつの国の形をなしているんだよ」
前世で言う昔のインド辺りだな……場所はインドで体制はUAEみたいな所らしい。
「スパイスが有名だよね。確かチャンドランディア藩王国でしか採れないスパイスがあるって薬草大全にのってたよ、うん」
「正確にはフェスモデウス聖帝国と我が国でしか採れないだな。フェスモデウス聖帝国はとっくにそのスパイスを栽培する方法は確立しているらしいが、わが国から輸入したほうが手っ取り早いらしい」
「うん、なるほど。ちょっと待ってメモを出すから」
「ねぇねぇフェディ、植物のことについて詳しいの?」
ここでゴンドリアがフェディに話しかけてきた。
「うん。一通り分かる自信はあるよ」
「じゃあ、草木染とかどういった花からはこんな色が出るとかはわかる?」
「ある程度は分かるよ。流石に専門的なものは分からないけど、その辺りに生えているものだったら全部分かるよ。良く煎じてたから、うん」
「まぁ!今度相談に乗ってほしいわ。一回糸の染色からやってみたかったの!!」
「うん、いいよ」
「ねぇセボリー、悪いけどコーセーに触らせてくれないかい?」
お。シエル君。君はお目が高いな。公星の毛並みは最高なんだぞ。
「俺は良いぞ、公星大丈夫か?」
「モキュ」
シエルの手に公星を乗せてやるとシエルは嬉しそうに公星を撫で出した。
「あー、何この毛並みの良さ。この指ざわりも素晴らしいね。相当良いもの食べてるね、この子」
「分かってくれるか…こいつの胃袋はピケットに有るまじき代物でさ、肉も魚も油物も何でもござれなんだよ…俺も最初は本で調べたピケットの育て方を参考にしてたけど、もう本を投げたわ。色々諦めたし」
「モッキュウ」
「何えばってんだコノヤロォ!」
「でも、結局甘やかすセボリーがいけないだけだと思うぞ」
「そうね。それが一番の問題よ」
「お前ら俺に隠れて公星に餌付けしてたじゃねーか!」
「「気のせいだ(よ)」」
「あんなバレバレな気のせいがあるかぁボケェ!!!」
こんな感じの談笑をしていた時、建物中に響く声が聞こえてきた。
『新入生の皆さん。入学おめでとうございます。昼食の準備が整いました。第三食堂に集合してください。繰り返します。新入生の皆さん昼食の準備が整いました、第三食堂に集合してください』
「お!飯だ!!「モッキュウ!!」」
「公星と同レベルの奴がいる……(ボソ)」
「聞こえてるっつーの!」
「とりあえずお腹空いたから食べに行こ、うん」
「そうねぇ。でも第三食堂ってどこにあるのかしらぁ」
「だな、俺たちは入ったばかりだからわからない」
そう言えば俺達施設の場所の説明とか一切受けてないんだけど、どうゆうことなの?
その第三食堂が何処にあるのか悩んでいたとき、シエルはまた鞄の中に手をツッコンでいた。
なに?その鞄は四次元ポケットみたいに便利なアイテム出てくるの?
「確か…あったあった。『サンティアス学園施設案内~これで迷わない今日からあなたも学園オタク~』という本に書いてあることを信じれば、さっきの大広間の近くだね」
「「「「「何その本」」」」」
「サンティアス学園なんでも同好会出版って所から出てる本なんだけど。一部のマニア層からは熱い支持を受けている出版社なんだよね。社というかある一種の部活らしいんだけど」
「ちなみに他にどんな本が出てるんだ?」
「『サンティアス学園絶景未満百選』とか『学園都市変態出没地域-完全保存版-』とかがあるね。後者は流石に読む勇気が無かったけど、前者は本当に絶景未満な場所で面白かったよ」
「潰してしまえそんな出版社!!」
「ちょっと後者に興味があるわぁ」
「そういえばここに来る前に新しい本買ったんだ。これこれ『サンティアス学園都市○○飲食店網羅~なぜか潰れないまずい店~』だよ。読む?」
「「「「「遠慮しておきます」」」」」
本当に潰してしまえそんな出版社。
というかその一部のマニア層ってお前みたいな奴だろう。普通は買わねーよそんな本。
シエルが持っていた本に従って歩いていったら本当に着きました。
侮りがたしサンティアス学園なんでも同好会出版………
学食に入り席に着くと料理が運ばれてきた。
本当は自分で取りにいく形式らしいのだが、特別な日だけは運んでくれるらしい。
運ばれてくる料理の中のひとつに俺は目を疑い、驚愕した。
「これは稲荷寿司じゃねーか!!」
「ん?これセボリー知ってるの?」
「これフォルクスの耳って言う料理だよ」
フォルクス?某ステーキ店か!?とも思ったがどうやら、この世界にいるフォルクスと言う狐やフェネックのような動物のことらしい。食べてみると味はまんま稲荷寿司だった。
懐かしい…この世界で米は何回も食べてるが、こんなに郷愁に誘われる料理は初めてだ。よく母ちゃんが作ってくれたっけ。やばい…なんだか涙が出てきた………
「モキュー?」
「どうしたの?大丈夫?急に黙り込んじゃって」
「いや、ごめん。凄く口にあったから噛み締めてただけだ」
「これ甘い味付けでおいしいよね」
「うん、ぼくも時々食べたくなるんだこれ」
「院ではこの料理出なかったしな」
「私も初めて食べたが美味いな。私の国の料理は辛いか、甘いものでもほのかな甘さではなく強烈な甘さの料理が多いからここの料理は上品な味付けで気に入った」
「そういえば、さっきの『サンティアス学園都市○○飲食店網羅~なぜか潰れないまずい店~』の中にもこういう料理が出てくるお店がたくさん載っていたよ」
「まずい店じゃなくておいしい店バージョンはないのか?」
「あるよ、サンティアス学園なんでも同好会出版の本ではないけどね。荷物の中に入ってるから後で貸してあげるよ」
「おう、頼むよ」
稲荷寿司……か。
もしかしたら俺以外にも転生者や憑依者がいる、またはいたのかもしれないな。調べてみる価値はありそうだ………
学園都市の図書館はかなり揃いが良いと聞いたことがあるから今度行ってみよう。もしかしたら関連書籍があるかもしれない。先輩たちの軌跡を辿るのも面白そうだし、色々勉強になるだろう。
昼食を食べ終え今日一日はフリータイムらしい、授業や顔合わせなどは明日から始まると学食を食べている時に職員の人たちが言っていた。
ちらほら一緒に入った兄弟の顔も見えるな、ロベルトもこっちに気づいて手を振っている。
「それじゃあ、部屋に戻りますか。荷物の整理もしたいしな」
「だな」
荷物の整理も終わり夕方になり、各部屋で寛いでいるとゴンドリアが質問を口にしてきた。
「ねぇ、ここってトイレは各階についてるけどお風呂はどこなの?」
「お風呂はこの寮に3つあるはずだよ。確か1階と6階とと11階にあったはずだ」
「え!?知らなかったわ。」
「俺も知らなかったわ…」
「俺もだ」
「ぼくもだよ、うん」
「私も知らなかった」
「人数が多いから学年ごとで入るお風呂が違うらしいんだよね、僕たち1年生と2年生は1階だよ。特にいつ入るか自由らしいよ、開閉時間は15時から22時の7時間だけって聞いたよ。」
流石に人数が多いとお風呂の数も多いな。前世の大学の学生寮だとひとつの寮にはひとつの風呂しかなかったからな。
「マジか、じゃあ俺たちは慣れたもんだな。育った所がたくさん人数がいたからそんな感じだった」
「ええ、そうね。そういえばあたしセボリーとは同じ時間にお風呂ははいってなかったわね」
「あ~、俺は何回かゴンドリアと一緒に入ったことあるからこいつの性別分かってたけど、お前は入ってなかったのか。ご愁傷さん」
「うっせぇぇええ!一々俺の古傷をつつくな!!」
「僕は集団でお風呂はいるってしたこと無いんだよね。下の兄弟とはあるけどさ」
「ぼくは兄弟がいなかったから他の人と一緒に入った事はほとんど無いよ、うん」
「私はなんどかあるな」
「セボリー、これからは裸の付き合いをしましょうね」
「しねぇわボケェ!!っていうかお前本当に性嗜好ノーマルなの!?聞いてる分には完全にアブノーマルなんだけど」
「セボリーの反応が面白いからそれっぽく言ってるだけよ。」
「本当だろうな!!?」
「本当よ。もしあたしが完全に体が男で心が女だったら、今頃女子寮にはいってるわ。入学説明の時にそう説明されたもの」
「そういえば、よく院内で許容されてたな、普通にスカートとか女の格好してたのに」
マジで疑問に思えてきたわ!先生たちなんで何も言わなかったんだ!!
「フェスモデウス聖帝国は個性を大切にする文化だからよ。トランスジェンダーでも生粋の変態さんでも何でも個性として認めてくれるから、他国の変態さんたちはこぞってフェスモデウスに来たがるのよ」
「ああ、だから『学園都市変態出没地域-完全保存版-』みたいな本が出版されるんだね」
「知りたくなかった、そんな事実…」
「懐の深い国だな、流石はフェスモデウス聖帝国だ、私の国では考えられんが、ここまででかい国になると一味もふた味も違うな。超大国の文化を感じる」
「うん、考え方は積極的でいいと思うけどちょっと違うと思うよ」
「精霊様と聖帝聖下のご加護に感謝します」
「もうどうにでもしてぇぇええええええ!!!」