第百十八話 人の振り見て我が振り直せ(2017.12.24修正)
一回復活したかに思えたアライアス親子は再び床にしゃがみ込み、嗚咽交じりに荒い息を吐いている。
「仕方ないなぁ」
嗚咽を吐きながら倒れこむアライアス親子に、ロイズさんは呆れ口調で手を振ると二人の頭上に光が降りそそぐ。
その光が収まり二人を見てみると、先程まで真っ青だった顔色が嘘のように朱を差し、健康的な色を取り戻していた。
どうやらロイズさんが今使った魔法は血中のアルコール分を無くすものなのだろう。
一緒に術にかけられたアライアス公爵も復活しているようだ。
「これじゃあ話にならないからね」
「…ロイズこの術教えてくれ」
泥酔&二日酔い状態から回復した瞬間にロイズさんに話しかけるウィルさん。
その目はキラキラとしており、先程までの濁った魚の目ではない。
「嫌だよ。これ教えたら唯でさえ酒飲みのウィルなのに余計に飲むでしょ?そうなるとまた僕に被害が及ぶんだから」
「俺以上の酒飲みのお前がそれを言うか!お前いつも俺が酔っぱらってる中、俺以上飲んでたお前が全く顔色も変わらなかったのその術のおかげだな!!」
「違うよ。折角の酒精を抜くなんてしないよ、勿体無い。僕は余り酔わないだけ」
「確かにロイゼルハイドは旦那様と酒を飲んでいるときも顔が変わりませんね。」
納得いったという風に頷く帝佐さん。
しかしウィルさんは納得いってないようだ。
「お前だけずるい!お前はいつもずるい!ずるい!ずるい!!」
「うるさいなぁ。子供じゃないんだから現実見なよ」
「うるせー!!現実なんて見てたら酒が不味くなるだろうが!!」
「その時点で間違ってると思うな。確かにお酒は楽しく飲むものだけど量を見極めて飲みな。君ワインボトル10本過ぎた辺りでいつも脱ぐし」
「俺が10本飲んでる間お前は20本以上飲んでるじゃねーか!そんな奴に俺の酒の飲み方とか言われても説得力ねーよ!!」
うん。今の話し聞いてて分った。ロイズさんは酒豪だ。
しかも超が付くほどの。
ウィルさんも大概だがこの人は人外レベルだ。
あ~。だから酒好きな聖下に呼ばれるんだろうな。
「ああ、そうだ。ウィル」
「何だよ」
「叙爵おめでとうございます。新アライアス公爵殿」
「うっせー黙れよ!!お前に敬語使われると気持ち悪いんだよ!!それにお前!聞いたぞ!!聖下に俺のある事ない事話しまくってたんだってな!!俺の恥ずかしいあんな事やこんな事を親父の前で暴露された俺の気持ち、お前にわかるか!!!」
やっぱり話してたんだ。ロイズさんも言ってたもんね。
「分らないし、どうでもいい。って言うか今更じゃない?」
「確かに今更過ぎて何も新鮮味が無かったわい」
ロイズさんの言葉に頷くアライアス公爵。
あ、もうアライアス公爵じゃなくてベルファゴル大公だっけ?
「良いじゃん。聖下はきっと楽しんでくれたと思うよ。ウィルの反応に」
「指差されながら笑われたわい!!」
「良かったね~」
「良くねーよ!」
アルコールが抜けて元気を取り戻したウィルさんはいつものテンションでロイズさんに食って掛かった。
しかしロイズさんも自分のペースを崩さずウィルさんをおちょくっている。
本当に精神強いなこの人。
「それに僕は本当の事を話してただけだよ?ある事ある事だけ」
「本当の事だから余計に性質が悪いんだよ!!」
「わかった。じゃあ今度からは作り話を話すよ。聖下が出すお酒の度数が低すぎて全然美味しくなかったから帰って直ぐに消毒用アルコールを飲み干した、とか」
「あの酒の何処が度数低いんだよ!口から火を吹くところだったぞ!!それにない事話すんじゃねーよ!」
「だってさっきある事話したら注意されたじゃん」
「だ!か!ら!俺は聖下に俺の話をするなっていってんの!!」
あ~。このやり取りいつも俺がやってる気がする。
端から見るとこんなに滑稽なのか。今度から気をつけよう。
「もぉ、我侭だな~。ね~」
「ね~。あ、釣られた」
俺はロイズさんから急に話を振られ、咄嗟に同調してしまった。
「おい!セボリー!お前こっち来い!絶対泣かす!」
ウィルさんが拳を作りながら俺のほうに歩み寄ってくる。
近づいてきたウィルさんを前に気が付いたことがあった。
先程までの酒臭さが消え、爽やかなアロマ石鹸のような香がしたのだ。
先程までウィルさん達の強烈なアルコール臭と、この空間にいる人全員が良い匂いを放っていたから良くわからなかったけど今気付いた。
多分身体からのアルコール臭は香玉の効能で中和されていたんだとは思うが、服に付いた匂いまでは取り切れなかったのであろう。
しかし、ロイズさんが先程の魔法でアルコールを飛ばしたおかげで、匂いをダイレクトに感じられるようになったようだ。
その匂いを嗅ぎ。やっぱりウィルさんは聖下から認められたんだなと感じた。
香玉は食べた人によってその香りが決まる。その香は千差万別で一つとして同じ香りが無い。
ロイズさんのように無臭の香りと言う特殊なものは抜かすが、その身に纏う匂いは正に天上の香り。
高貴なる者の証となると言われている程なのだ。
まぁ。俺もその香玉を貰っているが、得した事と言えば数日風呂に入らなくても自分の体臭が気にならないという事ぐらいだけど…
「何ジロジロ見てんだよ……あっ!!」
ウィルさんは急に何かを思い出したのか手を叩いた後物凄く胡散臭い笑い顔をした。
あれ?何か急に悪寒が……
「セ~ボリ~。聖下からお前の話もちょっと出たぞ~。ケケケ」
「はぁ、そうですか」
不気味な笑い声を上げて告げられた言葉に内心では心を乱されたが、俺は出来るだけ平静を装う。
これで驚いた様子を見せてしまうとウィルさんの餌食になってしまうのが丸分りだったからだ。
「で、聖下からの伝言。『覚えてろよ』だってよ」
「はぁ?何をですか?」
「知らん。俺はそう伝えろって言われただけだ」
マジで意味が分らん。
俺聖下に会ったこと無いんですけど?
それで覚えてろよなんて言われても何言ってるんだって感じなんですけど。
え?それとも俺知らないだけでもう聖下と会ってる訳?マジで?
いや、もしかすると昔の夢枕で聖下の事無視しまくったのが原因か?
でもあれは不可抗力だよね!ねぇ!
それともまさか長く生き過ぎてボケが始まってきたとか?
あ、ヤバイ。今そう思った瞬間に震えが来た。
「さて。積もる話もあるとは思いますが、その話はそこで終わりにしてそろそろ始めて良いでしょうか?」
『是』
このままだと延々と話が終わらないと思ったのか大司教さんがそう言うと、俺とウィルさんとロイズさん以外の全員が口を揃えた。