第百十六話 夢の後遺症(2017.12.23修正)
昨夜の夢…特に後半の夢で俺の目覚めは最悪だった。
起きた瞬間から頭痛と吐き気がして、何故かお尻の穴がキュっとする感じに襲われる。
嗚咽と一緒に自然と涙が出もした。
もしかすると血の涙でも流れているのではないかと疑い拭ってみたが、通常の色の涙で安心したのも束の間涙が止まらなくなってしまった。
「……おはようございます」
「おはよう」
何とか惰性で起き上がり、顔を洗って部屋を出るとロイズさんが朝食の準備をしている。
まだ朝の6時にもなっていないのに早起きだ。
「昨夜煩かったけど、随分と楽しい夢でも見てたのかい?」
「楽しくなんてあるかい!!あれこそ悪夢!正に悪夢だ!!悪夢!!!」
「へぇ。どんな内容だったか聞いて良い?」
「お願いだから聞かないで!!」
あ。悪夢と言えばこの場に悪夢の帝王がおったわ。
ロイズさんの顔見たらまたあの夢の光景を思い出した…
朝っぱらから食欲が失せるぜ…
「ん?そう言えば公星は?あれ?そう言えば部屋の中に居なかったな。何処にいったんだ?」
「公星君なら今朝食食べてるよ」
ロイズさんがそう言ってテーブルの上を指す。
そこには今日も元気いっぱいに食事を頬張る謎の生物の姿が見えた。
「おい…お前何先に食ってるの?」
「昨日セボリーの側が煩かったらしくて、僕が起きて来た時は既にここで食べてたよ。でもまだ食べ足り無そうだったから朝食作ってあげてたんだ」
は?今回は流石に怒らなければいけないな。
いくらロイズさんの首都の別宅だったとしても他人様の家。
ご好意で泊めて貰っているのに勝手に冷蔵庫を漁るような事する奴はいかん。
ここはガツンと言ってやらねば。
「おい!お前何で勝手に食ってるんだよ!!ロイズさんのご好意で泊めて貰ってるんだからな!!」
「モッキューー!」
「ああ、大丈夫だよ。出汁を取るのに使おうと思って角に放置してたくず野菜とかだから。しかもその存在自体忘れてて二週間くらい放置してたから青カビが生えてて捨てようと思ってたんだよねぇ」
「あらそれは安心、エコですこと。っじゃねぇぇええええ!!おい!公星!お前腹大丈夫か!!?」
くず野菜を土に混ぜて堆肥作ってるんじゃねーんだぞ!!?
俺も湿気たクッキーやらちょっと固くなったパンとかを与えてた事もあったけど、そこまでの物は食わせた事ないんですけど!!?
「モッキュ!」
「いやぁ。僕も流石に止め様と思ったんだけど、余りにも一心不乱に食べてたから止めるに止められなかったんだよねぇ。腐ったくず野菜もどう処理しようか迷ってたから丁度良かったし。公星君って良い使い魔だね。飲食店する人には神様みたいな子だと思うよ」
「こんな褒め方されても嬉しくもないわ!」
あれ?もしかして公星って今初めて俺以外の人に褒められた?
え!?あれ!?そういえば可愛いとかそんな事は言われてたのは知ってるが、マジでこいつが褒められてる姿初めてみるかもしれないぞ!
「で、朝食食べる?なんか気分悪そうだからおかゆでも作ろうか?」
「……大丈夫です。お気遣いありがとうございます。とりあえず普通の朝食ください」
「今日は和食じゃないけど我慢してね」
「そんな贅沢言いませんよ」
なんだかんだ言って俺は出された朝食をぺろりと平らげた。
ロイズさんが作る和食も最高の味だったけど、この世界の一般的な朝食のメニューも大変美味しゅうございました。
「そう言えば今日って朝集合って聞きましたけど何時くらいなんですか?」
「7時くらいだね。お昼前にはベルファゴルに飛んで領民にお披露目する予定だから」
ベルファゴル?……ああ。エルトウェリオン公爵領のエルドラドのようにアライアス公爵領の領都か。
それよりも領民にお披露目?早くない?正式に承認されるの今日でしょ?その当日にお披露目会するの?
「随分と急ですね」
「アライアス公爵が昨日の時点で領民にお触れを出していたらしいよ」
「気が早いな、おい。もしウィルさんが選ばれなかったらどうするつもりだったんですかね?」
「さぁ?知らない」
「ですよねぇ」
ロイズさんならそう言うと思ったよ!
でもロイズさんはウィルさんが選ばれるって確信があったんだろうな。
聖下とも懇意だし、色々手回しをしてたらしいからな。
俺が朝食の後片付けを手伝い、皿洗いを終えた頃。
時計の針は6時半を指していた。
実はまだパジャマ姿だった俺は一旦部屋へ戻り無限収納鞄の中から制服を取り出す。
前世でも学生時代は制服があれば冠婚葬祭全部いけたから便利だったが、この世界も学生の礼服は学生服でも良いらしい。
でも学園の制服って結構自由に改造できるからかなり目茶苦茶なデザインのもあるんだけど、それでも良いのか?
普通にノースリーブとか半ズボンとか着てる人いるんだけど。
そんな事を思いつつ、俺はゴンドリアが気合を入れて作った制服の中でもシックで特に作りの良い服に袖を通した。
ゴンドリアは俺達の普段着や制服など全てを繕っている。
勿論商会の経費で落ちるからと言うこともあるが、ゴンドリアは俺が昔書いたデッサンを強奪して以来暇な時間を見つけてちまちま作っていたのだ。
その中には制服に転用できそうなものもあり、こうして数着違うデザインの制服を渡された。
まぁ、ゴンドリアとユーリはシーズン毎か月毎、下手すると週毎に制服を変えているから本当に暇な時間があるのか分らないがな。
「昨日から思ってたけどセボリーが着ている服って作り良いよね」
「商会の仲間が作ってくれてるんですよ。服のコーディネイトに煩い奴で、俺に似合う服をいつも作ってくれるんです。まぁ、俺はぶっちゃけ出されたものを着るほうが良いって性格なんですけどね」
うん。前世では4パターンくらいの着まわししかなかったな。
それもこれも母ちゃんに着せ替え人形をさせられていたトラウマだろう。
今ではゴンドリアの着せ替え人形だけど…
ぎゃあぁあああ!ゴンドリァァアア!!
ヤバイ、あの夢がトラウマになってる…
「じゃあ、そろそろ行こうか」
「はい。旅は道連れ世は情け。赤信号皆で渡れば怖くない」
「今日はそんな驚く事ないと思うけどねぇ」
「え?昨日言ってたじゃないですか。今回の依頼を受けた理由は明日になれば分るって」
「でもその様子だとなんとなく勘づいてるんじゃないの?ヒント、夢」
「夢?あんぎゃぁぁあああ!!ゴンドリアァァア!!!」
うん。完全にトラウマだわ。
つーかロイズさんもしかして俺が見た夢の内容知ってるの!?
はっ!もしかして……もしかしたら……!!!
あんたかぁぁぁあああ!!あのおぞましい夢を見せたのは!!!
悪夢の帝王ならやりかねない!それにこの人は鬼畜だ!絶対に面白がってやったに違いない!!!
チックショー!!俺の純情と純潔を返せ!!奪われてはいないけど。
「良く分らないけど凄く恨まれてるような気がする」
「…心当たりあるんですか?」
「全く無いね」
「嘘つけぇぁああああああああ!!!俺の!俺の!俺の夢が!俺の将来がぁぁああ!!」
「う~ん。あんまり騒ぐとウィルみたいに猿轡するよ」
「申し訳ございませんでした」
糞!この人だったら絶対にやるからこれ以上文句が言えん!!
俺にあんな夢を見せた奴を探し出して復讐せねば!!!
「移転」
「え?だから早い!まだ心のじ…」
ロイズさんは有無も言わせず移転する。
目を開けると昨日と同じく水晶宮の議会場にいた。
「はい、完了。皆様おはようございます」
そしてそこに居たのは帝佐さんとアライアス公爵以外の昨日いたメンバー。
やはり皆正礼服を着ており円卓に座っていた。
「揃ったな」
エルトウェリオン公爵のその声と共に床が光り出し、魔法陣が展開された。